RASのマネージャーにされた件【完結】 作:TrueLight
『――♪ ……えー、その。聴いてくれて、ありがとうございます』
画面の中、いつもとは違って一人だけでギターを弾く自分の映像を確認する。
『あー……今日はちょっと、皆さんに話したいことがあって』
我ながらたどたどしい喋り方に恥ずかしくなるが、何のために録画したのかを思い出せば辛うじて我慢できた。
『今弾いた曲……「R・I・O・T」ですね。これは普段、動画で一緒にセッションしてくれてる子たちのバンドの曲です』
ロックほどとはいかないが、俺も出来るだけ一人で表現しきれるよう練習し、なんとか形にした。誰に聞かせても、ギターソロにしては不格好になっていないと自信を持って言えるクオリティだ。
『そのバンド……RASのメンバーと一緒に弾いちゃうと、それがRAS公認みたいになっちゃうんでね、俺一人で演らせてもらいました。……実は彼女らにも内緒なんですけど』
バレたら消せと言われるかも知れんが、多分みんな、投稿動画の確認なんてしていないだろう。自分たちで上げたその日なら兎も角、俺が勝手に上げてるなんて知りもしないし、仮に知ってもいちいちチェックしない筈だ。
『まぁその理由なんですが……実は、近々ガールズバンドの大きなイベントがあるらしいんですね』
そう、これが本題だ。チュチュの話によると、連盟が主導してデカイライブイベントを開催するらしい。予選を勝ち抜き、決勝まで上ればなんと……武道館でのライブが叶うらしいのだ。
これを聞かされた時ほど自分が男であることを呪ったことはないね!
ロックやサポートで入ってくれたたえちゃんには悪いが、もし俺が女なら最初からRASに参加して、このイベントで武道館ライブが叶ったかも知れんのだ……!(血涙)
本気でバンドやってて武道館に魅力を感じない奴なんて極々少数だろう。他に目的があるか、演ってるだけで心底楽しい連中か。
まぁともかく、そのイベントだ。自分が出られないからと腐るつもりは毛頭ない。一ファンとして、そしてマネージャーとして。俺もRASに貢献しようと考えたのだ。
『俺もまだ詳しくは分からないんですが、イベントではお客さんから票を集めて、その多さで順位を決めるって話で』
このイベントの件は、チュチュのメタクソ高いアンテナがなんとか拾った情報だ。まだ関係者から広まっていないし、確定情報でもない。でも、秘密にしないといけない話でもないのだ。実際チュチュには伝わってるしな。
他のバンドが認知すらしていない状況で、真っ先に宣伝できるのは大きなリードに繋がるだろう。チュチュがMVを撮ろうと画策しているのも、どうやらこのイベントの存在が理由っぽかったし。
『今の演奏、どうでしたか? 我ながら良い出来だったと思います。……でも、RASのライブはもっと凄いですよ。俺のは所詮ギターソロです。でも……他の動画で見ていただけた通り、凄腕の五人が揃ってステージで演奏します。良ければ見てやってください。んで、気に入ったら票を入れてやってください。…………でっ、では次の動画で!』
言いたいことは撮り終えたが、締めを考えていなかったので間抜けな終わり方になった。……ハズいなぁ。撮り直そうかなぁ? でも今俺が一人で撮影できてるのって、RASが全員レコーディングブースに居るからなんだよね。いついち段落ついて呼ばれるとも限らん。
……ええい、このまま上げちまえ!!
こうしてひっそりと、ガールズバンドのイベントが始まる前に。RASを応援する野郎一人の弾いてみた動画が、Y〇UTUBEに投稿されたのだった。
・・・
「おねーえちゃん♪ 何見てるのー?」
「っ!? 日菜、ノックを……」
「したよー? あっ、またソーさん?」
「……ええ」
どうやら、よほど夢中になっていたらしい。いつの間にか部屋に入り、私の手元で動画を再生しているスマートフォンをのぞき込む日菜の声に肩を震わせて、ようやく私は我に返った。
『近々ガールズバンドの大きなイベントがあるらしいんですね』
少し前に投稿され、SOUさんの動画に添えられていた言葉。私たちが目指しているフェスとは違う、ガールズバンドのイベント。
……もし、そこでRASを抑えて優勝することが出来たなら。SOUさんは――。
「おねーちゃん?」
「っ。え、ええ。何かしら?」
「だから――」
それからも、日菜の言葉は耳を素通りしていくようだった。私たちには関係のない話。私たちには――Roseliaには、やるべきことがある。まだ告知されてすらいない、ガールズバンドのイベントなんかに……。
頭では、分かっているのに。同じことがぐるぐると脳裏を過る。
RASのマネージャーをしているというSOUさん。RASのギタリスト……ロックさんと言ったか。彼女はおそらく、SOUさんから指導を受けたこともあるのだろう。
そんなロックさんと……彼女が参加するRASと競い、上回ることが出来たなら、私は――。
この日から、私はふとそんなことばかり考えるようになってしまった。もちろん、Roseliaの活動に支障を
これではいけない。こういう雑念は、いざという時に足枷になる。Roseliaのメンバーに迷惑はかけられない。しっかりしないと……。
そうして悶々とした思いを抱きつつも、忙しい日々は瞬く間に過ぎていき。そしてついに、その存在を知ることになる。
『夢を撃ち抜け!BanG Dream! Girls Band Challenge!』
CiRCLEでの打ち合わせ中、偶然耳に入ったそれは、間違いなくSOUさんが仰っていたイベントだった。
『友希那さん友希那さん!』
『興味ないわ』
『えーっ!』
関心を示す宇田川さんに、湊さんはにべもなく言い放った。……内心、気落ちしたのは事実だけれど。同時に安心もした。これで、雑念を……ありもしない期待を抱くこともなく、目標に向かって邁進できる。
その、筈だったのに……。
「バンドリ……ガールズバンドチャレンジに出ようと思うわ」
どういう心変わりなのか、湊さんのそんな言葉に。
驚愕と、動揺。そして……身に覚えのない高揚が、全身を駆け巡った。
間違いなく、湊さんを諫めるべき状況。なのに、私は――。
「……では、そのようにスケジュールを組み直して連絡しますので。各自確認をお願いします――」
追従するように、そんな言葉を吐いてしまった。