RASのマネージャーにされた件【完結】   作:TrueLight

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4.そんなにお兄ちゃんに甘えたいか?

「む……」

 

 いかん、Y〇UTUBE動画のギターアレンジ真似てたらなかなか良い時間になってたぜ。相棒をスタンドに預けて立ち上がる。関節がパキパキ言ってるのが夢中になってた証拠だな。

 

「おぜう様の様子でも見に行くかぁ」

 

 それなりに同じ時間を過ごしてきたが、チュチュについて分かったことはそう多くない。それでも確信を以て言えるのは、あのガキんちょがその辺のなんちゃってプロデューサーなんて及びもつかないほどの天才だってことだ。

 

 作曲、作詞、編曲、ライブを想定した舞台演出。バンドメンバーごとのパートやフレーズ分け、その他もろもろなんだって一人でこなす。マジで俺はお飾りマネージャー(笑)でしかない。一応見せとくとばかりに仕上がったものを見せられ、はえーすごーいと返すだけの立場だ。

 

 ただ、アイツだって人間だ。飯も睡眠も当然必要。あと一個の方は知らん。かーちゃんの方からも生活リズムが乱れ過ぎないよう仰せつかっているし、ちょくちょく監視せにゃならん。もう手遅れだと思いますがね!

 

「チュチュ様ー? どこですか~(裏声)」

 

 気持ちパレオちゃんの声色を真似つつ、たどり着いたのは音楽スタジオ。機器が整いすぎててリハーサルスタジオでもありレコーディングスタジオでもある。チュチュは大まかな作業はここで、煮詰まったら秘密基地みたいな謎の隙間部屋で作業するのだ。よう分からん生態である。

 

「チュチュ様~?」

 

 あれいねぇ。トイレか? チュチュがいつもふんぞり返ってる椅子が空だ。……ぶっちゃけ気になってたんだよね、超座り心地良さそう。俺に用意してもらった部屋のもなかなかだったが、ここまで大仰じゃなかったからなぁ。どれどれ……。

 

「……ひっく」

 

 座り心地は良いんだが、チュチュ用に高さが調整されてるせいでめっちゃ足伸ばすか開脚しないと座れん。

 

 ガチャッ。

 

 そんなこんなしてたら扉の開閉音。視線をやるとチュチュが目元を擦って近づいてきた。

 

「よう、とっくにてっぺん超えてるぜ? そろそろ寝ないと……お?」

「んぅ~」

 

 よほど寝ぼけてるらしいな。俺が座ったままの椅子に上からケツを下ろしやがった。恥ずかしいやつめ。

 

「そうかそうか、そんなにお兄ちゃんに甘えたいか?」

「ん~……すー。すー……」

 

 お……おぉ? からかってやろうと思いきや、ガチで限界らしい。いつもとは違う座り心地に収まりの悪さを感じたようで、もぞもぞ動くと俺の胸に頭を預けて寝息を立て始めたではないか。

 

「……チュチュ様~?(まだ裏声)」

 

 ダメもとで呼びかけるも、返事は無かった。しゃあない、刺激しないよう運んで……。無理やん、どうしたって起きるわ。どうにか立ち上がろうにも、こっちの右腕を抱き枕にしてるせいで外せん。

 

「……憎まれ口叩いてなきゃ、可愛いのになぁ」

 

 妹がいたらこんな感じだろうかね? いや猫感のが強いかも。……どっちにせよ、無理に起こすのはしのびない。起きたら怒髪天だろうが甘んじて受け入れよう。

 

 ギリ自由の利く左手で独特な形のヘッドフォンを外し、仰々しいデスクに置いてやる。掛け布団とか……ある訳ねぇか。空調も整ってるし、風邪ひいたりはせんやろ。

 

 

 

 

 ……まぁ。

 

 

 

 

What are you doing(何してるのよ)!? 信じらんないっ!!」

 

 数時間経って早朝。そんな怒声に寝ぼけ(まなこ)だった俺は、次の瞬間頬に食らった衝撃で完璧に目を覚ました。しばらく俺の顔には綺麗な紅葉が描かれていた。ちっちぇのにパワーあんな……。

 

 あと朝のフルパワーロケットには気づかれずに済んだらしい。ジーンズじゃなかったら死んでいた。

 

「悪かったって。でも普通気づくだろ、椅子の座り心地とかよ。それ以前の問題だけど。もしかして視力終わってる?」

Be quiet(うるさい)! 疲れてたんだからしょうがないでしょ!!」

 

「しょうがなくないっつーの。疲れてる自覚あんじゃねーか。……お前の情熱は知ってる。根詰めるのも分かる。でもよ、それで出来上がったものってクオリティ高いか?」

 

「……何が言いたいワケ?」

 

「お前が夜更かしした翌日とかにさ、出来上がったモン見て破り捨ててるとこなんて何度も見てんだよ。深夜テンションで作ったもの、全部が全部使えてる訳じゃないんだろ?」

 

「…………」

 

 俺の言葉にチュチュは、苦虫を嚙み潰したような渋面を浮かべた。おーおー安心した。ここでまでキレられてたら俺から言えることなんざないし。図星を突かれて黙るってのは、悪い傾向じゃあないはずだ。自分で認めてるようなもんだからな。

 

「せめて寝る時間は決めとけよ。リミットがあるから必死こいて、集中して出来る。そう言うこともあるだろ? 俺なんかより何百倍も、その辺のことは分かってるはずだぜ、チュチュ」

 

 ぶっちゃけメンバーのコンディションとか、それによるパフォーマンスの落差については俺の方が一家言あると思うけどね。チュチュはワンマンが過ぎるところがある。かと言ってこの年齢のガキんちょに説教かましたって意固地になるだけだ。まずは認めてやること。俺がそうしてもらってきたように。

 

「………………I got it(わかった). 寝る時間は決めておく。お飾りでもマネージャーの言うことだしね」

「おう、そうしてくれよ。たまには仕事させてもらわねぇとな」

 

 ニヤリと笑って見せると、チュチュも袖で口元を隠しつつ、くすくす笑ってくれた。いつもこうならなぁ。ま、これも味ってやつか。

 

「とりあえず飯作っちまうか。どうせ間食にジャーキーだろ? 軽めにしとくぞ」

 

「ええ。…………Thanks(ありがと).」

「ヨゥウェルカーン」

 


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