RASのマネージャーにされた件【完結】 作:TrueLight
「さーてどうしたもんか……」
ちゆの誕生日をRASの面々と祝い、パレオちゃんを家に送り届けてしばらく。もう時刻は日を跨ぐ寸前だ。俺が何をしてるかと言えば、自分の部屋で机に向かって唸っていた。向かうというか、椅子に座ってくるくる回ってるんだが。
お祝いの席はそりゃー楽しい時間だった。美味い飯とマスキングのケーキを飽きるほど食べて。トランプやらスマホのアプリでできるパーティゲームに興じた。今日ほどちゆが笑ってるのは見たことが無かったから、きっと満足してくれただろう。
……だからこそ、今日はもういんじゃね? って思っちゃうんだよね……。机の上にある、小ぢんまりとした包みに視線を向ける。これ渡すの、明日でいんじゃね? 頑張って考えたつもりだけど、滑ったら台無しじゃね? まぁつまるところ、個人的に用意したブツを渡すのにヘタレている訳だ。
ちらりと時計に目をやれば、日付が変わるまで5分を切っている。うん、いつもならちゆももう寝てる時間だ。よし、起こすのも悪いから明日にすっぺ!
ガチャリ。
「
「ひぃいっ!?」
びくりと椅子の上で飛び上がると、床に接しているキャスターがガチャガチャ鳴った。その音でドアを開いたちゆもビクッとしている。
「お、驚かすなよ……」
「そ、Sorry……な、何してたの?」
「いや、何ってこともないけど……どした?」
「あぇ、えっと……。き、今日くらい、良いでしょ……?」
ラフな部屋着でもじもじ言っているのは、つまり……一緒に寝たい、ってことだろう。俺はちゆと温泉から帰って以来、今までのように同じベッドで寝たりってことは極力断ってきた。理由は分かり切ってるね、俺だって男の子だからである! 何とか自制してるが、そもそも俺くらいの年齢の野郎なんざ猿だぞ猿。ちゆにも正直に打ち明けており、その時は顔を赤くしつつもコクコク頷いてくれた。
でも、今日みたいなめでたい日は、ってことか……。俺的には例の16歳に近づいた訳だから当然意識するし、むしろ断りたいんですけど……それこそ、俺が断ったことでケチつけたくないし。頷くっきゃないよな。
「……あぁ、そうだな。こんな日くらいはな」
「! え、えぇ! えへへ……ゃたっ」
ぐ……小声で喜ぶなよっ。聞こえてんだよ! クソ、可愛いなこやつ……。
俺が受け入れると
「ぁ……そ、
「ん? ……あ」
何かに気付いたらしいちゆが指さした方を見ると、椅子に座った俺の後ろ……机の上に置かれたままの包みが。そら気付くわ、なんで隠し損ねた俺……! 急に来られてビックリしたからってことにしておこう……。
まぁ、これで覚悟を決めざるを得なくなったとも言えるし! 結果オーライ! 滑ったら枕濡らそう! 本人が寝てる横でな!!
「……あぁ、誕生日プレゼントだよ。遅くなったけどな」
何気ない風を装って、俺は手のひらサイズのプレゼントを手渡した。店員のねーちゃんが丁寧に包装してくれた桃色の正方形。ちゆも同様に頬を染めて笑んでいる。うん……もう滑ってもいいや、これが見れたんだから。
「あっ、開けても良いっ?」
「どうぞ、もうお前のモンだ」
弾む声に年相応の無邪気さを感じ、思わず俺も笑みをこぼして答えた。気持ちが先走ってかワタワタと包みを解いてから、ちゆは手の中のケースをまじまじと見つめている。ちらりと視線でもう一度『開けていい?』と問いかけてきたので、右手を差し出して『どうぞ』とする。
ちゆが箱を両手で開くと、パカっと小気味良い音がして中に収められていたモノが室内灯の光を反射した。
「……指輪。奏っ、指輪が入ってるわっ!!」
「そりゃ俺が用意したんだから知ってるよ」
興奮したようにちゆは箱を差し出し、何度も俺の顔と指輪に視線を行き来させている。……よかった、贈り物としてはズレて無かったようだ。こういう経験ないからマジで不安だったんだよ……。
「と、取り出すわよ……?」
「だから好きにしなさいって」
まるで宝石でも扱うようにおそるおそる取り出すちゆに、もう安心で気が抜けていた俺は苦笑しつつ言った。喜んでもらえるのは嬉しいけど、ちょっとオーバーじゃないか? 親御さんからもっといいモンいくらでも貰えるだろうに。
「……きれい…………」
ちゆはそのリングを天井の光にかざし、ほぅっとため息をついた。装飾はほとんどなくて、一か所だけロゴが彫られているのみだ。言うまでもないね、猫耳のついたヘッドフォンである。
それを嬉しそうに指でなぞったちゆは、何かに気づいたようにリングを瞳に近づけた。やっぱ女の子ってそういうとこ敏感なのね……。指輪の内側には、とある文字が彫ってある。
「I'm here……?」
意外な言葉だったのか、ちゆは不思議そうに俺へ目を向けてくる。……意味自体は伝わってるんだろうから、なんでこの文字を? ってことなんだろうけど。……説明するのハズイな。
俺は右手で鼻の頭をポリポリ掻きつつ、なんとなしに時計へ視線を向けてネタを明かした。
「
それと、もう一つ。
「あとはオマケだけどな。"俺がそこにいる"、って意味だ。どうしても俺が隣に居られないとき、そのリングが俺の代わりに、少しでもお前の背中を押せるようなお守りになれば良いな、ってな」
「嬉しいっ!!」
「どぁあっ!?」
勢いあまって飛びついてくるちゆを、俺はなんとか椅子の上で受け止めた。おい、温泉の時みたいなとんでもない格好になってるんだが!? っつーか椅子ごとコケたらどうすんだ! あぶねぇだろ!!
「あぁ、嬉しい、大好きよ奏っ。 愛してる!! こんなに嬉しい
「……喜んでもらえたんなら何よりだ。改めて、誕生日おめでとうな」
……怒り損ねたな。腕を首に回して両足で胴体にしがみつき、俺の肩にぐりぐりおでこを擦り付けるちゆは、まるで我が世の春と言わんばかりのはしゃぎ様である。こんなにプレゼントで喜ばれたらそりゃー叱れねぇよ、俺も嬉しいもん!
その後、俺とちゆは一度だけ唇を交わし(それ以上は俺が我慢ならんので)。二人して同じベッドに横になった。ちゆは寝付くまで左手の薬指に嵌めたリングを幸せそうに胸に抱きながら。俺の胸元にすり寄っては『スキ』と連呼していた。
俺? 素数かぞえてたよ察しろ!!