RASのマネージャーにされた件【完結】   作:TrueLight

5 / 57
5.アイアムアガール

「そういや、レイヤが言ってたサポートギターの子。来るの今日だよな?」

That's right(そ う)! 聞く限り腕は問題ないようだし、テストでデモを弾かせれば……フフフフ……」

 

 悪い顔してるなぁ。何か企んでらっしゃるわ。

 

 場所は音楽スタジオ。いつものように椅子でふんぞり返るチュチュと俺、パレオちゃんが集まっている。ガラスの向こうではマスキングが調子よくドラムを叩いている最中だ。あまり表情に出さないタイプだけど、彼女も今日を楽しみにしていたんだろう。

 

 来るのはレイヤの幼馴染らしい。高校の友達とバンドをやってるらしく、扱いとしてはサポートだ。ちょっと前のレイヤとマスキングみたいな感じだな。二人はサポート専門みたいなとこあったし、生業としてるかどうかの違いはあるだろうけど。

 

 ……チュチュのことだ、多分腕が良いと見りゃあ引き抜きにかかるだろうな……。俺ももうちょっと、本格的にギター担当を探すべきかも知れん。ヘッドハントなんてこういう業界じゃ珍しくない話だが、多感な高校生、しかも友達同士で組んだバンドだ。引き抜かれる側は最悪再起不能になるだろう。これは決して大袈裟な想定じゃあない。

 

「あら? いらっしゃったようですね☆」

 

 言ったパレオちゃんの視線の先には、カメラの映像を表示しているモニターに一人の女の子が映っている。ギター背負ってるし、間違いないだろう。

 

「パレオ、ここまで誘導して」

「かしこまりましたー♪」

 

 エレベーターやら各階の扉付近に設置されているインターホン的な装置で逐一音声案内し、パレオちゃんがサポートの子を誘導する。めっちゃ便利ぃ。便利だけど迎えに行くべきじゃね?

 

 まぁ優秀なパレオちゃんのおかげでそんな進言をする暇もなく、その子はスタジオに入ってきた。

 

「失礼します」

 

 入室と同時、激しくリズムを奏でているマスキングを目にして絶句していた。自分のことじゃないけど、ちょっと嬉しいね。

 

「すごい……」

「いらっしゃいませ~☆ レイヤさんご紹介の方ですか?」

 

 驚く女の子に対し、パレオちゃんがスカートをつまんで会釈しつつ問いかけた。う~んカワイイ。

 

「花園た」

「あなたが。タエ・ハナゾノね?」

 

 女の子が名乗ろうとした矢先、遮るようにチュチュが口を開いた。お客様に失礼だぞコラァ! ……と思わんでもないが、これも印象操作の作戦のうちだろう。この見た目だ、チュチュは自分がナメられやすい自覚はあるはずだ。故に、常に先手を打つように行動する。

 

「はぁ……」

「私がプロデューサーのチュチュよ。そっちがパレオ」

「えへへへへ☆」

 

「あっちはマスキング。んでこっちがソース」

「こんにちは、花園さん」

 

 女の子……花園さんの意識が状況に追いついていないことを理解しつつも、チュチュは畳みかけるように俺たちを紹介した。この時点でどう見ても(ヘッド)はチュチュだ。これで侮ってくる輩はその時点で見込みがない。

 

「レイは……」

「"レイヤ"。……は仕事よ。前の現場の契約だから仕方ないけど。明後日からはNo problem(問題ないわ)!」

 

 ガチャっ。

 

 チュチュが言い終えると同時に、マスキングがガラスの向こうからこちらに移ってきた。

 

「……タエ・ハナゾノ……?」

 

 なんで君もチュチュと同じ言い方するの? 流行ってるの? ……と思ったがそうか、チュチュの言葉がマイクを通して向こうに行ってたのか。いつの間にか身内ノリに乗り遅れたかと思って焦ったわ。

 

「そうよ。デモは?」

「聞きました!」

 

 マスキングに応えつつチュチュが花園さんに問いかけると、彼女はハキハキと敬語で答えてくれる。……うん、チュチュの作戦は成功しているようだ。意図してやってるのか素なのかは知らないけど。

 

「じゃっ、やれるわね……っと!」

 

 危ねぇ! 後ろに飛んで椅子に乗ろうとしたチュチュだったが、どう見ても距離があったので押し出してやった。これでコケてたら折角のカッコつけが台無しだ。

 

「……誰でも良い訳じゃないの」

 

 少し間を置きつつ、見た目には強者感を漂わせてチュチュは言う。お前絶対ヒュンってしただろ? オイ。

 

「私の聞きたい音を出せなきゃ帰ってもらうわ。Ready(準備はいい)?」

「……の。ノーレディ(淑女じゃないです)アイアムアガール(女の子です)!」

 

「んふっ! くっくっくっく……」

「んなっ! ……やるわね……」

 

 英語(ぢから)に難アリっぽい花園さんに、俺は思わず吹き出し。チュチュは一本取られたとばかりに表情を歪ませた。

 

 

 ・・・

 

 

「及第点ってとこね!」

 花園さんのテストが終わり、最後まで残っていたパレオちゃんを見送って。スタジオにはいつものように、俺とチュチュの二人になっていた。

 

「あれで及第点かよ。デモ聞いただけにしちゃあかなりのレベルだったぜ?」

「それは……そうね。サポートとしては十二分だわ。But(でも)……アンタとのセッションと無意識に比べちゃってるのね……」

 

 お、おう。何だ急に照れくさい。褒めても何も出ないぜ。

 

「ねぇソース」

「うん?」

 

「あなたがハナゾノの腕を上げなさい」

「はぁ!? ……あー、そうか。そうなるのか……」

 

 こういう時の為に俺を雇ったんだろうからな。俺からすりゃあ家事手伝いが本業になるが、チュチュからすればバンドの方が大事だろう。じゃなきゃ俺がギタリストである必要が無い。初めから予想はしていたことだ。

 

 チュチュからの仕事が無いときは、大概部屋で何かしら弾いてるしな。その時間が花園さんへの指導になっただけだ。問題はねぇ。

 

「オーケーチュチュ。出来る限りのことはするさ」

Of course(当然よ)! これでパーツは揃った。本格的に始動するわよ……!」

 

 拳を握り、笑みを浮かべ。挑戦的な色を瞳に宿すチュチュ。それを見て俺も、無意識に頬を緩めていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。