RASのマネージャーにされた件【完結】 作:TrueLight
チュチュにバイト(兼RASのマネ)に誘われる
チュチュと兄妹のような関係になる
パレオに演奏動画に誘われる
チュチュがソースに惚れてるのではと考えていたパレオがカウンターを喰らう
夏祭りデートでパレオとソースがくっつく←今ココ
人生で初の恋人ができた。
それ自体はとても良いことだ、うん。相手が中学生であることはまぁ、あまり周りに声を大きくしては言いづらいけど、そこは俺が自制すれば良い話だし、さらに言えばそれこそ周りに協力を仰げば良い話だ。
前者の周りってのはつまり外野の他人で、後者はRASの仲間とか、そういうことね。外野が騒ぐようなら仲間にプラトニックな関係だと証言してもらおう、みたいな。そのへんはあまりうまく行ってるとは言えないけど。
まずはチュチュ。俺とパレオちゃんがカッポォになった報告をしたまでは良かったんだが、同い年としてどういうとこにデートに行くと良いかーとか。逆にどんなことされたら引くかなーとかそれとなく聞いていた結果、溜まっていたらしい
『
とのこった。チッ、これだから独り身のガキンチョは……これが理由か、あるいはパレオちゃんへの気遣いなのか。以前のように俺を椅子にしたりすることも無くなっちまったしな。……さ、寂しくなんかないんだからねっ!
他のメンバーはといえば、バンド仲間の恋愛というものに興味はありつつも表立って関係の進展を聞くのは恥ずかしいのか、積極的に突っ込んできたりはしない。唯一マスキングだけはパレオちゃんにその手のからかいをするけど。野次馬根性というより、赤くなって恥ずかしそうにしてるパレオちゃんが可愛くてやってるっぽい。厄介なやっちゃ。
ということで、言っちゃなんだがRASのみんなは頼れない! なのであまり外目につかないよう、自力でパレオちゃんとの仲を深めるしかないのだ。コソコソし過ぎても怪しいから不審がられないよう敢えて外でデートしたりもする予定だが、そのへんはしっかり計画を立ててから。なもんで大体は屋内……というか俺の部屋で会うことになる。
いつもと変わんなくね? とも思うけどこういうのは気分の問題だ。チュチュもそれこそ気を遣って部屋に近づかないようにしてくれてるっぽいし。
「……そ、ソースさん。いらっしゃいますか~……?」
などと夏祭りの日以降を回想していると、コンコン、と控えめにノックが。部屋に招くのは初めてじゃないんだけど、パレオちゃんいわく"こういう関係の相手"の部屋を訪れるというのは何度やろうが緊張するらしい。
女の子視点だといつ襲われんとも限らんしな……じゃねぇや。
「待ってたよ。どうぞ」
立ち上がって部屋の入り口へ。ドアを開いて室内に入るよう促した。ちなみに付き合うようになってから、以前は置いてなかった小さなテーブルと座布団を備えている。座るとこがベッドしかねぇとこっちも意識しちゃうかね! やんなっちゃうね!!
「お、おっ邪魔します~……☆」
やはり緊張した様子で、しかしそれを見せまいとしてか健気に普段どおりを装って。パレオちゃんはベッドの縁に背中を預けて座布団に腰を下ろした。
「あれ、制服に戻したんだ?」
改めてパレオちゃんに目をやると、鴨川からここに連れてきた時に着ていた制服に替え直していた。さっきまでバンドの練習をしていたはずで、その時には白のシャツに黒いワンピース姿だったんだが。
「あ……はい。家を出るときは制服なのに、帰る時にRASで活動する格好だと、少し恥ずかしくて……。親に見られると、なんだか……視線が生暖かいんです。い、イヤではないんですけどね?」
ああ……なるほど。まぁなんだ、一応以前、バンドのことは話したほうが良いってことでパレオちゃんの家にお邪魔して、親御さんから了解は得ている訳だが。それを俺がパレオちゃんに言った手前、付き合っていることは隠しておく、なんてのは筋が通らんわけで。親御さんに頭を下げ、なんとか受け入れてもらえている。以前のこともあって誠実な人間だと思ってもらえているようで安心した。
しかし、だ。親御さんからすると、パレオちゃんがバンド活動に行った=彼氏とドライブデートしてきた、とも取れるわけで。なんせ車での往復だけでそこそこの時間になるしな。パレオちゃんがバンド活動の際に着るのは、いわゆる原宿系のカワイイ服だ。彼氏に送られて帰ってきた娘がそんなオシャレしてたら、親としては生暖かい視線も送っちまうだろう。家や学校では優等生で通ってるパレオちゃんならさもありなん。
制服で帰るってのは、それに対するパレオちゃんのささやかな抵抗ってこっちゃ。多感なお年頃だし、複雑よね……。(オッサン)
「……あの、着替えないほうが良かったですか?」
すると俺の質問をそういう意図だと予想したのか、不安気に問いかけてくるパレオちゃん。いかんな、俺も彼女も根っこは似たもの同士だから、こうして相手の表情からネガティブな想像しがちなのよね。
「いや、そんなことないよ。送迎するときは時間に余裕もないからあんまりまじまじ見たこと無かったけど。……うん、可愛いよ。俺には勿体ないくらいにさ」
RASのセッションでは外しているメガネから座布団に下ろしている腰にかけて視線を往復させて言った。向こうがネガティブに捉えがちだからこそ、好意的な本心は思ったらすぐに言う。本心が伝わる瞬間ってのは、その場ですぐにそれを口にした時だろうから。少なくとも、俺達みたいな
「あ……ありがとう、ございます……」
視線を合わせて言った俺に、パレオちゃんはかぁっと顔を赤らめて目を逸らした。
「パレオじゃない
しかし俺の言葉を本心と受け取りつつも、やっぱりパレオちゃんの中では、制服の……鳰原 令王那としての自分は可愛くない、という認識らしい。部屋に入った直後はさっきまでのRASとしての名残があったが、制服姿で腰を落ち着けたことで、彼女の中では切り替わりつつあるようだ。恋人である俺にはその違いで呼び方を変えてもらうのも申し訳ないから"パレオちゃん"で統一してくれて良い、という話はしたんだが。
そこでふと、俺は最近よく聞いている楽曲のことを思い出した。
「ね、パレオちゃん。前に二人で投稿した曲にさ、『らしさ』ってあったじゃん?」
「え? はい、良い曲ですよね」
演奏動画を投稿する時に、パレオちゃんが一緒に弾きたいって言ってくれた曲の一つだ。アニメの主題歌だってことで、俺も気になってそのアニメを見たり。同じバンドの他の曲を聞いてみたりなんかしたんだが……。
「パレオちゃんさ、この曲歌ってるバンドの、『秘密』って曲知ってる?」
「いえ……バンド自体は知ってるんですが、アニメから知ったので……」
そりゃそうか。アニメ追ってて好きな曲が主題歌にあったとして、そのバンドの曲全部聞けるかっつったら難しいだろうしな。チュチュとかは全部聞いてたって不思議じゃないけど。
「どんな曲なんですか?」
「おっ、気になる? ――それじゃあ、聞いてください」
そこで待ってましたと言わんばかりに俺がギターを手にとって椅子に座ると、パレオちゃんは一瞬キョトンとしたあと、くすりと笑って目を閉じてくれた。
んじゃまぁ、聞いてもらおう。……俺はこの曲に出会って、少し感じるものがあった。パレオちゃんも何か響くものがあったなら……嬉しいなぁと。心から思うんだ。
「――好きなこと 好きな人
大切にしてるこだわり
胸を張って口にする人は
とても楽しそうだよな」
イントロを短くまとめて曲に入ると、ちらりと視線をパレオちゃんへ。瞳を閉じたまま薄く笑いつつ、彼女は小さく体を揺らしてリズムに乗ってくれている。
「好きなこと 好きな人
大切にしたいこだわり
誤魔化してしまうのは何でだろう
何故嘘までついちゃうの」
――笑みが消えた。その心中はわからない。気に入った歌詞があって集中したのか、逆に不快だったのか。あるいは――何かが、心を揺らしたのか。
「秘密にしている理由が
確信のない不安ならば
僕らが望む未来は
それでも自分を信じられたその先で――」
そこで俺も瞳を閉じる。パレオちゃんに伝えたい『何か』はあっても、それは俺が本心で届けないと伝わらない。だから俺も、好きな曲を好きに弾くために集中してサビに入った。
「――歓びに声を上げ叫ぶのは
幸せに手を叩き笑うのは
好きなこと 好きな人のことを
諦めなかったそんな
きっとそうだと思う。確信がないのは俺もその道のりにあって、その先で笑って手を叩けると。そう願って歩いている最中からだ。
「歓びを分かち合うために
幸せを分かち合うそのために
ああ――自分自身のこと 誤魔化しちゃいけないんだ
好きなこと 好きな人 大切にしたいこだわり
胸を張って口にすることで 未来を照らすんだろうなあ」
そこまで歌って、再びパレオちゃんに視線を向けた。未だ目は閉じられていて、けれど引き結んだ唇は、長いまつ毛は少し震えているように見えた。
しかし、曲はまだ続く。ギターソロで間奏をもたせるのは厳しいので短く区切り、『秘密』の終盤に入った。
「――秘密にしている理由が
確信のない不安でもさ
あなたが望む未来があるのは
自分を信じられたその先で」
想いを曲に乗せて。わずかでもメロディを通して俺の心が彼女に届くと、そう願って。彼女がきっかけで出会えたこの曲をこうして奏でていることが、望む未来に繋がると、そう信じて続ける。
「歓びに声を上げ叫ぶのは
幸せに手を叩き笑うのは
自分のこと 自分の好きなこと
諦めなかったそんな
歓びを分かち合うために 幸せを分かち合うそのために
ああ――
「――――っ」
わずかに、室内に今までと違う気配が混ざった、そんな気がした。けれど今は気にしない。いや――だからこそ、止まらず音を奏でよう。
「歓びに声を上げ叫ぶのが
幸せに手を叩き笑うのが
好きなこと 好きな人のことを
諦めなかったそんな瞬間なら
歓びを分かち合うために
幸せを分かち合うそのために
ああ――自分自身のこと 誤魔化しちゃいけないんだ」
誰にだって言えないことはある。話せない明確な理由もあれば、言うことで嫌な思いをさせてしまうかも。あるいは口にしたことが原因で、嫌な視線を向けられるかも知れない。そういう漠然とした不安。
それでもやっぱり――それは、大切な自分の想いで。不安があるのは、受け入れてもらえないかも知れないから。逆に言えば、受け入れてもらいたいという気持ちがあるから。
「好きなこと 好きな人
大切にしたいこだわり
胸を張って口にすることで
未来を照らすんだよなあ
教えてよ――
――あなたの秘密が ちゃんと叶うようにさ――」
この曲から受け取って、この曲で伝えたい俺の想い。簡単なはなし。
令王那ちゃんに、パレオちゃんのことを。パレオちゃんに、令王那ちゃんのことを。
誰でもない、自分自身のことを、愛してほしいんだ。
そのことを諦めず、俺自身のその想いを。パレオちゃんの秘密を。その願いを。彼女の秘密が秘密でなくなった時、俺たちは胸を張って、手を叩き合えるのだと、そう思うのだ。
「――って曲。良くない?」
でも、それを口に出したりはしない。俺のパレオちゃんへの想いはあれど、彼女の在り方を否定する気はないんだ。ただ……俺は絶対に、パレオちゃんっていう女の子を諦めないんだって、そういう意思表示だ。
辛いこと、悩むこと、挫折することだってあるかも知れない。でも必ず俺は隣りにいて。
嬉しいこと、楽しいこと。パレオちゃんが幸せだと、そう感じる時。絶対に俺も手を叩いて。なんなら抱きしめて喜びを共有するのだと。
今は多分、受け入れるのが難しいだろう。だから、これは俺の『秘密』だ。胸を張って口にできたなら、その時にはきっと――パレオちゃんが、自分のことを愛していると、そう実感できるはずだ。
「――はい。とても、良い曲だと思います。……とても」
何かを堪えるように眉を寄せていたパレオちゃんは、曲が終わったのだと気づくと目を開けて。少し儚げに微笑んでみせた。
そこに部屋に来たばかりの頃のような緊張は見えないけど……その姿がどうにも不安で、俺は心のままにパレオちゃんに近づいた。座布団を移動することもなく、許可も取らずパレオちゃんの横に腰を下ろす。
すると……ちっとも拒否反応は見せなくて、逆に寄り添うように肩を近づけて……俺の腕に、二つに髪を結った頭を預けてくる。
「何か感じた? いまの曲聞いてみて」
「……そう、ですね。色々と、考えさせられる歌詞でしたし……ひとつ、やりたいことが出来ました」
「へぇ? 教えてもらっても良い?」
今の曲を聞いて思いついたことなら、それを叶える手伝いをするために、教えてくれるのかなと。そう思って質問すると――。
パレオちゃんに向けていた俺の顔に唇を近づけて。いきなりちゅーされました! ほっぺだけど!
「……恥ずかしいので、秘密、です♪」
そうして誤魔化すようににこっと笑う彼女。頬を赤らめて、でも眉は、目元は幸せそうに八の字を描いていて。その笑みは……
「――今の曲聞いて、そりゃないよな」
「えへへ、ごめんなさい」
してやられた、と思ったが。まぁ秘密と言うなら問いただしはすまい。でも――。
「でもいつか、教えてね」
やられっぱなしは悔しいもんな。言うと同時にパレオちゃんの後頭部に右手を。左手を背中に回すと、俺も同じように顔を近づけた。
同じ部分が重なり合うと、数秒強張っていたパレオちゃんの肩は徐々に力が抜けて、おずおずとではあるが背中に腕を回してくれた。
それはきっと、彼女の秘密次第なんだろう。