演劇奇譚act-age 『黄金の泉』実績解除RTA   作:とり弁

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11巻が発売したので実質初投稿です。


死島編
Scene8『デスルーラまで何マイル?』


「今更なんですけど、24人スターズで埋めれませんか?」

「うーん、無理だと分かってるのに聞く辺り黒山君の影響を感じるね」

「いくらかオリ設定突っ込んで……っていうのも原作勢には受け入れ辛いですかね。そういう脚本の見せ所は違うか。でも、結局のところスターズのスタイルとこの企画噛み合ってないんですよ、無理にでも24人押さえてやる方が良かったなんて言われかねませんね」

 

 僕は穂積くんにメールを出した次の日、正式な契約を結ぶためにスターズの会議室を借り一対一で彼と話す事にした。

 彼が飲んでくれるかどうかは、彼の実績を考えれば美味しい話であるから断られることは無いと思っていたし、実際に返事も一発でOKを出してくれたが……そうして助監督としての地位を得た彼が最初に言ったのがこれであるのだから苦笑しかないや。

 助監督、言葉だけだと監督の補助役として半人前のような役割だと日本では思われがちだけど、実際は監督やメインスタッフと同等の権限を持つ役割だ。実際、監督よりも助監督の方がギャラが高かったりする時だってあるくらいだから。

 

 だけど、今回においては少し違う。

 

「その辺を埋めるための助監督というわけさ。でもはっきり言って、撮影の全般に穂積君が口を出せる部分はあまりないと思う」

「実績なし助監督だから何言ってもプロデューサーが頷きませんって事ですか」

「その辺も話が早くて助かるよ」

 

 そう、このデスアイランドはスターズ主催。こういった僕が使える人事は美術監督なども含めたメインスタッフに限定されているし、それに予算を考えるプロデューサーは映画の出来よりもスターズの利益を考える。

 プロデューサーというのは、現場のトップが監督であるのに対してスポンサーの意図を汲んだり汲まなかったりする役職と言っていいだろう。そして、プロデューサーというのは現場のトップよりも単純に偉い。

 それを思えば、穂積君が何を言ったとしても撮影の細々な所以外のもので受け入れられるものは無い。プロデューサーにとってこの映画は、百城千世子のための映画でしかなく穂積君の初めての助監督映画などではないのだからね。

 ま、一つだけ彼だけがとれる裏技もあるんだけど……

 

「それでも僕が呼ばれた理由は……まぁ、分かんなくもないですけど中々あくどいというか」

「おや、分かるのかい?」

「そりゃ分かりますよ、要は()()()()()()()()()()()()()になれってことなんでしょう。助監督と同時にオーディション組と同じく非スターズの役者という枠もそのために作ってある。それも含めて助監督の仕事というわけで」

 

 企画書に脚本を矯めつ眇めつしながら話す彼の言葉には迷いというのはない。助監督という立場でいることを契約した瞬間から、彼の中にあるのは一つの映画を作り上げるために自分が何をすべきなのか、だけであるのだろう。

 

「そういうこと。そして脚本上、百城千世子やスターズ俳優に喰われがちなオーディション組の不満、愚痴を君に聞いてもらうことになる」

「はは、何かしら働きかけて変える事が出来なかった場合恨まれる立場じゃないですか」

「それも含めて、だよ」

「……流石にそこまで持たされると、こっちも色々言いたくなりますけど」

 

 うん、そうだろうね。元々助監督にスターズ以外から持ってくる話は出ていたけれど、明らかにスターズ寄りの現場スタッフや、今作のプロデューサーはずぼらでないスポンサーに寄り添うタイプだと知られているから、中々見つからなかった。

 そこを、スターズ俳優の何人かに話題に出してもらい、百城千世子の後押しを受けて彼を引っ張り出してきた。

 これこそ彼だけが使える一つの裏技。百城千世子の素顔を撮ったというスターズのスタッフだけが持つ彼への憧憬とも羨望ともつかない感情に、スターズ俳優からの子役時代に培われた信頼。

 そして百城千世子との縁。彼と彼女を使うことで僕は、今の仮面の先を見ると決めている。

 そうした僕の執念も含めて、彼だけに使えるお飾りの助監督から一度だけ逸脱できる裏技だ。

 彼が助監督になれたように、お飾りをさせる見返りとして彼は一つだけ僕らに対して通せる要求がある。

 それがなんであるのか、ここが僕の賭けの正念場になるだろう。彼からは見えない足の上に置いた手をしっかりと握りしめた。

 

「そうだろうね! だから、一つくらいなら監督として要望を通せるようにするよ。実績なんて昔の子役時代を知ってるスタッフにとってはあるようなものだから、それなのにお飾りと胃痛枠を任せることに苦い気持ちがないわけじゃないんだ」

「役者増やせとかは無理だけど、まぁ現場でなんとかなることなら聞くよ」

 

「では……――――ことを許してほしいですね」

 

 

 その言葉を聞いて、意外に思いつつも……僕は確かに賭けに勝った。

 

 

 

 

 

「おら穂積、その権限使って役者一人くらい通すくらいはできるだろうがよ……!」

「黒山監督だって分かるでしょうが、明らかに私が据えられてるのはお飾りの無権限だっていうのが……! テレビのADと変わりませんよ……!」

「うるせえなんとかしろや!」

「理不尽すぎるわヒゲ!」

 

 事務所という名の元就くんの家に夜凪ちゃんを連れて帰ってきたら、玄関で黒山さんVS元就くんの総合格闘技が繰り広げられていた。

 いや、何やっとるんや……っていうのも今更やな、この二人は元就くんが役者続けることにした事とか、夜凪ちゃんの扱いとか、冷蔵庫に入れてたジュースが無くなったとかそんなことでよくケンカしてるからな。

 ちなみに今はがっぷりよつから互いに腕を取りに行くようにしてるみたいやな、何かもう私もプロレスのアナウンサー出来そうなくらいに戦局が見えるようになってしもうたわ。

 

「ていっ」

「ぐほっ! てめえ夜凪ノータイムで俺を蹴ってるんじゃねえ!」

「大体黒山さんと先輩がまともに組み合ってる時は黒山さんの方が悪いのよ」

 

 おー、綺麗に脇腹蹴ったなぁ。夜凪ちゃんはすらっとしてるから足技が凄く絵になる。元就くんが良く言ってた受け売りやけど、体格がシャープであることはその動作によって動く部分が鮮明になるから映える……やったかな? 逆に、体の一部が大きい人が同じようにやる場合、動作以外のその身体で目立つ部分に目線が散乱するからキレが同じでも違う様に見えるやったはず。

 まー私の記憶が正しいかはあとで元就くんに聞き直すとして、とりあえず喧嘩から離れた元就くんに飲みかけやけどペットボトルの麦茶を渡してあげた。今更間接キスとか気にする間柄でもないしな、なんなら子役時代は役の関係で一緒の布団で寝たことだってあるし。

 それにしても、今度は何で取っ組みあいしてたんやろ?

 

「聞け夜凪、こいつは一人だけ百城千世子に会いに行く算段をつけやがった裏切り者なんだ。しかもそれを使ってお前を手助けするつもりもないときてる」

「えっ……先輩?」

「人聞き悪すぎませんかね……! ただ単に、デスアイランドの助監督の仕事が入り込んできただけですよ、それも権限的にはお飾りです」

「おー……助監督ってことはADやな、確かに使い走りや」

「あぁ、違うの茜ちゃん。映画で助監督はテレビのADとは違って時には監督に勝るような権限を持つことだってあるんだよ」

 

 柊さんが私のテレビ業界に長く浸かっているために欠けていた常識を補ってくれた。それを聞くと、大分元就くん出世したなぁって思うけれど、その元就くんがお飾りって言ってるくらいやから多分ほんとにやれることがないんやろな。

 そして実際に元就くんがどういう立場になるのかを説明してくれた時には、皆その立場に同情してしまうような空気になってしもた。それでも監督目指すんなら百城千世子が出てる作品の助監督はキャリアやろ、って言ってあげたいけれどそういう空気でもないなぁ。

 

「つーことは、実質オーディション組のお守でしかないのか」

「そう言ってるでしょうに」

「使えねえな」

「はっきり言えとは言ってないんですよね」

 

「ええと、その、先輩。でも諦めなきゃきっと先輩の意見も通せると思うの」

「あぁ、それはそうかもしれないけどね夜凪後輩」

「だから、私を推してくれるのを諦めないで」

「自己利益十割からの慰めだったかぁ」

 

 はは、色々言われとるなぁ元就くん。元就くんが辞めてから、高校生の元就くんと私と二人だけで居た時よりも、夜凪ちゃんを拾ってきたときよりも、どんどんと元就くんは話す言葉が増えていった。

 やけど、それが寂しいとかそういうのとは違うと私は分かってる。単純に、話さないといけないことが増えたから彼は話す言葉が増えただけなんだと。

 だから、これから先に言われることも、まだまだ慣れてない夜凪ちゃんたちと違って私はいつもと同じように先回りしよう。

 

「それで元就くん、私も応募したほうがええかな?」

「他に仕事は入れてないなら、身内がいてくれた方がシンプルにありがたいからね」

「はいはい、流石に夜凪ちゃんクラスが10人もいるってことはないやろ」

「いると楽しいなぁ」「なるまで待っててやー」

 

「あの、茜ちゃん……?」

「ん? 私もデスアイランドのオーディション受けるって事やで」

「! 茜ちゃん!」

 

 んふふ、夜凪ちゃんは仲間が出来たって感じでかわいいなぁ。実際はオーディションっていうのは仲間同士でも蹴落としあいするやつなんやけど、それよりも夜凪ちゃんは仲間が出来るってことの方が大きいんやろな。

 それに、元就くんの言うホンモノである夜凪ちゃんなら、これからは自分がオーディションで落ちるってことはないはずや。スターズの方はなんか星アリサと夜凪ちゃんの演技が似てるとかで、印象が良くないのが大きいって元就くん言うとったしな。

 やから、私がこのオーディションに受かれば万々歳。私が、全国のオーディションに負けてしもうたとしても、その時は夜凪ちゃんに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものも教える事が出来る。

 夜凪ちゃんの演技は自分が今まで感じたこと、経験したことの集大成やって聞いたから、そういった感情の動きすらも夜凪ちゃんは演技に使える。

 なんやそれ、生きる事全部が役になれるとか反則やん!

 そんな風に思わなかったことがないなんて口が裂けても言えんけどな。

 でも、私は元就くんが嘘は言わないって信じてるから。

 

「それじゃあ、茜ちゃんに夜凪後輩。私の初助監督作品、合格するようにね」

「まかせときやー」

「分かったわ!」

 

 彼が嘘をついたことは無い。だから、今が無理だったとしても。

 諦めない私は、いつかきっと、ホンモノになれるから。

 

 

 

 ホモ君が過労死への道を走り始めたRTA、はぁじまーるよー。

 はい、というわけで今回からクソ映画編改めデスアイランド編に突入していきますが、普通のプレイだと大抵はスターズ側かスタジオ大黒天側の役者としてオーディションに応募するところから始まります。

 ですが、このホモ君は助監督として雇われる事になったので、始まりがスターズの会議室で怪しいサングラスのおじさんと二人きりからスタートです。名前に偽りなしだな!

 それはともかく、デスアイランド編から役者ではなくスタッフ側というのはオリチャーもオリチャーですが、走者がやった事が無いチャートというわけではありません。

 と、いうのもこの時点で監督スキルに全振りしている場合役者スキルが悲惨なことになっている可能性が高いわけですので、下手に全国オーディションに一縷の望みをかけるよりもスタッフで交ざる方が、千世子ちゃんや夜凪ちゃん、他の役者と繋ぎを持ちたいというだけなら楽だったりもします。純粋監督ルートだとこっち狙うのも手ですね。

 しかしこちらのホモ君は役者としての経験も欲しいのでそれはまず味だったのですが、助監督であり、なおかつオーディション組と同じ端役とはいえデスアイランドの役者に潜り込めたのでこのチャートこそ最良のチャートだと信じて走り抜けましょう、タイム短縮できればオリチャーでありガバじゃないんだ!(必死)

 と、いうわけでさっそく助監督の契約を結びまして……

 なんだぁ、これわぁ……?

 助監督ですが、ほとんど映画に関してホモ君が口を挟める権利がないような契約になってますねぇ。これやれる事って助監督という名の雑用係じゃないでしょうか。

 いや、良く見るとオーディション組の取りまとめが仕事内容の中に入ってますね。なるほど、つまりスターズだらけの中でオーディション組が疎外感等を味わう事が無い様に肩書は助監督なんてホモ君をつけておこうってわけですか。

 うーん、汚い大人の契約みたいな感じですね。これは普通の脚本家では喰いついてこないでしょう。

 

 でもホモ君は喰いつきます(一転攻勢)

 

 オーディション組の取りまとめはそのまま将来使える役者との面識が増えて、映画自体が千世子ちゃんと夜凪ちゃんのおかげで成功することが決まり切っている以上、この先でもオーディション組にとって代表作といえばデスアイランドになる可能性は大です。

 そしてその映画で戦友(予定)だった監督の話であれば、と聞いてくれる可能性も同じく大! 普通はまず味でもうま味でしかないんだなぁ。

 助監督として口出しも、基本千世子ちゃんがNG出さないし夜凪ちゃんもなんとかしてくれるのでホモ君がやる事はなにもありません。

 つまり、雑用するだけで日本が誇る名女優夜凪景の初出演映画の助監督という立場が手に入るわけです。 やったぜ(天下無双)

 なので、全然ホモ君は平気なんですが普通は受けてもらえないような内容ですからね。手塚監督がなにか一つのお願いなら、現場のトップの権限の内で聞いてくれるとの事です。なんだサングラスお前聖人かよ……

 しかし、一つお願いを通すとしても中々悩みどころさんですね……千世子ちゃんと知り合えてなければ撮影前に話す時間貰ったりも出来そうですが、今は必要ないですし。

 夜凪ちゃんと茜ちゃんを合格させろというのもありますが、ステータス上がってるみたいなので普通に合格してくれるでしょうしね、スカみたいなお願いは弾いて、と。

 狙うのは、なるだけ役者スキルか監督スキルが稼げそうなお願いなんですが……あ、これなんかいいんじゃないでしょうか! これなら撮影以外でもスキルを稼げる時間が発生しますし、常に仕事しているようなものですから雑用を言いつけられたりも回避できそうです、これにしましょう!

 

>あなたは、「デスアイランドの舞台裏映像を自分が撮ることを許してほしい」と手塚監督に言った。

 

「舞台裏映像かい? あぁ、DVD特典のようなものの撮影かな……うん、それならプロデューサーも特典を作れて納得するだろう、いいよ!」

 

>あなたのお願いは了承された。

 

 

 よし、これでデスアイランド編の間ホモ君はずっとカメラを回していることが可能になりました! これで一気に撮影スキルの荒稼ぎをしていくことにしましょうね~。

 なお、ここで体力スキルが一定以上ない場合はそのまま過労死です(無慈悲)

 それでは、あとはそのまま流れで手塚監督とお昼に行って帰ることにしましょう。ちなみにタッパーを持ってきているとルイレイのおかずに出来たりもするんですが、流石にホモ君は富豪系生まれなので、そういうことが出来なくなってます。

 茜ちゃんや夜凪ちゃん、実質JDと真JKの作るご飯の方が希少価値が高い、はっきりわかんだね。

 本日はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 




夜凪父のせいで、この先どんなにエゴイストなキャラ出しても「あいつよりマシ」になりそうなのズルいですよね。
太宰かなにかかお前……

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