なお、今話の会話は全て英語で行われています。イギリスの話なので。
2016年4月6日 午後3時25分(日本標準時) イギリス イングランド南西部ダートマス ダートマス女子海洋学校 校長室にて
世界三大女子海洋学校の1つ、イギリスのダートマス女子海洋学校の校長室で1人の女性と2人の少女が秘密裏の会談を行っていた。今後の世界の様相を決める、陰謀に満ちた会談を。
「――――――ふうん。なら、万事順調に進んでいる、ということで子細無いのかな?ブリジット嬢?」
イギリス
それだけ聞けば、ともすれば聞き流していると思われかねないほどに投げやりな言葉だったが、この場にいる2人はもちろんそんなことがないことを分かっている。これはジェイミーなりの信頼の表れだ。ジェイミーはブリジットたちを信頼している。だからこそ、一見投げやりにも思える言葉で答えるのだ。
「はい、ジェイミー元帥閣下。閣下の考案して下さった『
「まぁ、ならばよし、だな。こちらも全ての準備は完了している。忌々しき『和平派』の重鎮共の
「
「世事はよせ、ブリジット嬢。私こそ、君には大きく感謝しているところだ。所詮私の権力などお飾りにすぎんからな。議会の『和平派』共が
「お飾りなんて、謙虚も過ぎれば傲慢となりますわ、閣下。私の資金援助なんて些細な物です。『開戦派』筆頭であらせられる閣下の
「ふふっ、そうであればいいんだろうけどね」
和やかに、
とても和やかに、ジェイミーとブリジット・シンクレアは穏やかではない話をする。
5年だ。
5年の歳月をかけて、彼女たちは議会と世論を自分色に染め上げた。
「とはいえ、私が君に大きく感謝しているのは本当だ。何せ、『
ジェイミー・リンクス・ビーティー。
現イギリスブルーマーメイドの
ジェイミーは年甲斐もなくワクワクしていた。これから世界は大きく変わることになる。『
そして、今度こそイギリスが覇権国家となる。
欧州動乱で先祖が味わった屈辱を返す。特に、無制限潜水艦作戦によってルシタニア号事件を起こしたドイツは絶対に許さない。
これは正当な報復だ。そのための『
「私も閣下には大きく感謝していますわ。私のような小娘の戯言を聞き届け、そればかりか『
ブリジット・シンクレア
第15代シンクレア伯爵にして、世界三大女子海洋学校の1つ、ダートマス女子海洋学校が誇る『本物の天才』。ダートマス女子海洋学校教頭であるサシャ・エバンスをして『最高の指揮官』と言わしめた才能の持ち主。総合事業会社『Sinclair Estate』の経営者にしてイギリス社交界の華。天が二物どころか無数の才能を与えたイギリス歴史上最高最上の英傑。シンクレア伯爵家の潤沢な――約9000億の資産を以て『開戦派』を支援し、『
彼女の才を知る多くの軍人に『ブリジットがいれば欧州動乱はイギリスの勝利で終わっていた』とすら言わせたほどの俊豪。
通称、『
「
「夢物語では終わらせませんわ。そのための5年ですもの」
「……初めてあった時、君はまだ10歳だったかな。まさか、たかが10歳の子供が本気でこの国を憂いているだなんて、誰が思ったことか」
「閣下ならば私の言葉を真剣に受け止めて下さると思っておりましたわ。最前線で本物の戦争を体験したことのある数少ない人間であらせられる、閣下であれば」
「分かっているとも、そのための『
「それを回避するための『
「分かっているとも、だからこその『
そう、2人とも分かっていた。このままではイギリスの国力は低下していくだけであると。今はまだいい。今はまだ、イギリスは世界に無視されていない。けれど、いつ致命的な事態が起きるかは分からない。そして致命的な事態が起きてからでは遅い。
確かに、世界的に見れば海洋国家たる日英米三ヵ国の発言力は高いのだろう。だが、イギリス政治に関わっている誰もが知っている。実体が違うことを。
イギリスは所詮欧州の一国に過ぎないのだ。欧州動乱という汚点からはどうやっても逃れられないし、いつか、それを理由に兵器開発を制限されるかもしれない。それは漠然とした不安ではなく、当たり前の事実としていつもそこにあった。
だから、行動を起こす必要があると思った。強硬手段を取ってでも、本当の意味でイギリスの発言力を強化する必要があった。
そのための『
そのための、
そのための、
「
「
そう、
「キャビアちゃん、資料を」
「はい、ブリジット様」
ブリジットのすぐ後ろにたって控えていたキャリーがすぐさま数枚の紙資料を差し出す。キャリーは代々シンクレア家に仕える従者の一族だ。ブリジットとキャリーの呼吸はまさに阿吽で、2人が仲たがいすることなど絶対にあり得ないだろう。
キャリーはブリジットを本物の意味で理解している。
ブリジットの狂気を、キャリーだけが理解している。
だから、ブリジットもキャリーを信頼しているのだ。本当の意味で。
資料を見ながらジェイミーとブリジットは話を続ける。
「確か、やられ役として日本に派遣されたのはフッドだったかな?」
「はい、閣下。日本には遠洋実習を理由にグレニア・リオンを艦長とした超大型巡洋直接教育艦『フッド』を派遣しています。『フッド』が沈めば、開戦の理由としては十分ですから」
「ふむ……、しかし、確かグレニア嬢は……」
少し言い澱むジェイミー。
グレニアは確かブリジットを敵視していたはずだ。無論、ダートマス女子海洋学校に入学できている以上グレニアの思想面に問題はないのだろう。しかしブリジットを敵視しているということは予想外の行動を取る可能性があるということで、当然それをブリジットが理解していないはずもなく。
「はい。
「ふふっ、君もつくづく、人が悪い」
「いえいえ、閣下には劣りますわ」
邪悪な談笑は続く。
明乃の知らない場所で、世界大戦へのカウントダウンは確実に起こっていた。
イギリスの『開戦派』による『
日本の秘密組織『ワダツミ』革命派強硬組による『オケアノス計画』。
そして、もう1つの組織による最後の『計画』。
この3つが交わった時、本物の戦争が起こるのだ。
世界を巻き込んだ、最悪の
ただ、一方でブリジットは期待していた。
(さて、と)
長い年月をかけ丁寧に整えた盤面が、それでも打ち崩されることを、
(
密かに期待していた。
今話のサブタイトル元ネタ解説!
フランスの政治家、ジョルジュ・クレマンソーの言葉の1つ。
ブリジット・シンクレアははいふり世界観で作者が一番好きなキャラだったりします。
自分より立場が上の人間との会話なので、ローレライの乙女たちのブリジットの口調とは少し違います。
感想、高評価をいただけますと大変やる気が湧いてきます!よろしくお願いいたします!!!
表紙絵の感想は?
-
素晴らしい!
-
特にない。