2016年4月6日 午後4時30分(日本標準時) 西之島新島より南南西200キロメートル付近 クイーン・エリザベス級広域殲滅艦『ウォースパイト』艦長室にて
スーザン・レジェスは自分の人生を不幸だとは思わない――と断言できてしまうほどスーザンの心は強くはない。
強くはないが、しかし一方でスーザンは自分の人生が最低最悪のモノだとは思っていなかった。自分はまだ恵まれていると、そう思っていた。
スーザンよりも
「――――――
ブリジットは言っていた。人類は2017年を迎えることなく終末に至り、世界は本物の大戦の果てに終滅を迎える、と。
そしてその終焉の果てに、本物の平和が訪れると。
下らないと思った。
終末だとか、平和だとか、本当に下らない。
心底どうでもよかった。
スーザンはそんなの、本当にどうでもよかった。
「勝手にやってればいいんだよ、そんなの。スーには関係ないんだから」
未来を考える余裕なんてスーザンにはない。スーザンの毎日はいつだって、いつだって死と隣り合わせだ。
思い出す。
思い出すのだ。
あの時の、1年前のブリジットの言葉を。そう、今でも正確に覚えている。一字一句思い出せるほどに、鮮烈に。
1年前の7月27日、スーザンたちはアゾレス諸島サンミゲル島北西2000キロメートル付近で一隻の戦艦に出会った。
超大型直接教育艦『キング・ジョージ5世』。
世界三大女子海洋学校の1つ、ダートマス女子海洋学校が運用しているはずの艦艇に。
誰もが、思った。
鴨が葱と肉と鍋を背負ってやってきた、と。
『ボス、相手は所詮イギリス海洋学校の
『ニックの言う通りでさあ!ボス!こっちは5隻、あっちはたった1隻だ!ぶちかまして売り飛ばしてやりましょうぜ!イギリス海洋学校の
『アイザック、テメェ焦り過ぎだ!いくら相手が
『ジョンテメェこの野郎!!!
『アイザック、命あっての物種だろう?テメェの抱えてる黄金だって、テメェが死んだら売り飛ばされるだけだ』
『はっ!命あっての物種?命あっての物種だって!?ええおい、ジョン?そんなに命が大事なら塀の中にでも入ったらどうだ?ジャック・シェパードもお気に入りだったらしいぜ?』
『アイザック、俺は
そんな喧騒を酷く懐かしく思う。
あの時の
どうしようもない屑どもだった。生きる価値が一変たりとも存在しない、最低最悪の塵共だった。いなくなった方が世界のためになる、消えてしまっても誰もが悲しまない、いやそれどころか多くの人が諸手を挙げて喝采するほどの塵屑ども。
けれど、それでも、彼らは、彼女たちは、スーザンの
この広い、とてつもなく広い7つの海の上で命を預けられる
海の仲間で、家族だった。
なのに、喪った。
喪ったモノは、二度と戻らない。
『しゃあっ、流石ボスだぜ!おい
『
『サギック!いつでも魚雷撃てるように準備しとけっつんだ!』
『ボス。どうやら
結局、スーザンは『キング・ジョージ5世』を襲撃することにした。
ジョン・アーサー・クレマンシーの意見も一理あるが、しかしリスクを負わなければとてもとても海賊などやっていけない。目の前にあるのは
『――――――
だから、あの時のスーザンは攻撃許可を出すことに何の躊躇いもなかった。
だいたい、負けるわけがないのだ。
いくらスーザンたちの乗ってる艦艇が裏ルートで流れてきた退役艦と言っても、まだまだ現役で活躍できるだけの能力はある。限界を迎えているような部分は取り換えてるし、そもそもが5隻対1隻だ。さらに言えばスーザンたちはプロの海賊で、相手は
負けるわけがない。
負ける方がおかしい。
『っ、ボス!魚雷全弾回避されたっ!』
『なんっ!?奴ら空中で砲弾撃ち落としやがった!!!』
誰だって、
誰だって、スーザンたちの方が勝つと言うはずだ。
何せ、5隻対1隻。
スーザンたち海賊団『リヴァイアサン』の総合戦力が『キング・ジョージ5世』単艦の戦力を上回っていることなど当たり前の事実。
なのに、
そのはずなのに、
『嘘だろ?5隻の艦隊による一斉攻撃だぞ?何で1発も当たんねぇんだ!?』
『クソッ、ボス!逃げるべきだ!こんなの想定外にもほどがあるっ!』
繰り返す、誰であろうと、例えブルーマーメイド本部統括であろうとスーザンたちが勝つと言うはずだ。
言い訳のしようがないほどに大敗北した。
『初めまして、
そして彼女たちは、スーザンの艦艇に乗り込んできた。
1人は笑顔を浮かべて、1人は無表情で。
5隻の艦隊は僅か2時間で1隻になった。
『キング・ジョージ5世』が撃った砲弾はわずかに12発。その12発はスーザンが乗っていた艦艇以外に3発ずつ直撃し、スーザンが乗っていた船以外は全て沈んだ。
海の藻屑に成り果てた。
『はっ、随分と態度がでけぇ嬢ちゃんじゃね』
軽い、
軽い発砲音が艦橋に響いた。
そしてゆっくりとアイザック・スワプマンの身体が倒れた。
それだけだった。
それだけのことを、ブリジットの隣に立っている少女――キャリー・ピアレットはやってみせた。
無表情に、無感情に、普段と何の変りもないように。
それが、日常であるかのように。
『アイザック!?っ、この餓鬼』
『っ、やめろジョ』
更に2発、凶弾が放たれた。
そして死体が2つ増えた。
『もう1度言いますわ。
逆らえるはずなどなかったのだ。
そしてその日から、スーザンたち『リヴァイアサン』はブリジットの奴隷になった。
足を舐めろと言われれば舐めるしかない、奴隷に。
今話のサブタイトル元ネタ解説!
榎宮祐のライトノベル、『
今章の最後に例によって登場人物の
英国史史上最高最強の万能天才は伊達ではないのです。
スーザンの性格が原作と大きく異なっているのは、歩んできた道のりが全く違うからです。
とはいえ、根本は……。
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素晴らしい!
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特にない。