2016年4月6日 午後2時20分 横須賀港より南西50キロメートル付近 航洋直接教育艦『晴風』教室にて
芽依は明乃を天才だとは思わない。
確かに、明乃は優れている。異常なほどに逸脱していて、異質なほどに破損している。ゲームで言えば
ブルーマーメイドに関する知識は盤石で、実技面も申し分なく、艦長に相応しいだけのカリスマも持っている。
策士としても超一流で、高い直接的戦闘能力を保有し、誰とでもすぐに仲良くなれる社交能力がある。
全能でこそないものの限りなく万能に近く、全知でこそないものの限りない英知を持っている。それが明乃という人間だ。
だから、皆が勘違いしても当然なのだ。
何でもできると、何でも知っていると、明乃に任せておけば間違いないと、そう思って当然なのだ。
なにせ、明乃本人が皆がそう思うように誘導しているのだから。
(でも、本当は違う)
そう、本当は違う。
明乃は皆が思っているほど強くはないし、
明乃は皆が思っているほど天才ではない。
芽依は、芽依だけはそれを知っている。
だって、芽依は明乃の
『……負けてなんて、やるもんか』
あの日、
あの時、
あの場所で、
芽依は、本当に偶然、明乃の弱さを知った。知ってしまった。
それはきっと、明乃が見せたほんの少しの弱み。誰にも知られてはならないはずの弱さ。それを知って、知ることができたのは幸運だったのか、否か。
『――――――岬さん』
強い、
強い人だって思っていた。
あの時の芽依は、別に明乃と深く関わっていたわけではない。けれど、ほんのわずかな関りしかなくても芽依は明乃を強い人だと思ってしまった。そう思い込まされてしまった。
だから、本当に衝撃的だったのだ。
路地裏で必死に耐えて、それでも耐えきれなかったかのように涙を流す明乃を見た時は。
『っ!……西崎、さん』
その時に思ったのだ。
助けてあげたい、と。
あの時の芽依は明乃が何を背負っているか知らなかったし、明乃がどうして泣いているのかも分からなかったけれども。明乃が路地裏でしか泣くことができないほどに追い詰められていることは分かったから。
だから、
だから芽依は、せめて自分くらいは明乃のことを全力で支えてあげようと、そう思ったのだ。
『じゃあさ、私と友達になろうよ。明乃!』
だから、芽依は明乃にそう言ったのだ。そして紆余曲折あって、本当に様々な
明乃の唯一の親友が芽依。明乃が利害関係の一切を排除して、本当に純粋な意味での友情を感じているのは芽依だけだ。
だから、こういう場が用意された。
教室の扉が開かれる。
「遅かったですね、ミケちゃん」
幸子の口調と声色を真似て、芽依はそう言った。
扉を開いたのは明乃だった。
「まぁね、ココちゃん」
今話のサブタイトル元ネタ解説!
日本及びアメリカのことわざ。
さてさて、誰が盗聴器を仕掛けたのかな?
感想、高評価、ここ好きをいただけますと大変やる気が湧いてきます!よろしくお願いいたします!!!
表紙絵の感想は?
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素晴らしい!
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特にない。