国際テロリスト『晴風』   作:魔庭鳳凰

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そして、終わる。
全てが、始まる。


プロローグ-顛- 国際テロリスト『晴風』誕生~正義の為に殺せるか?~
霧の境界線(Fog Bound)


 2016年4月7日 午前1時5分 横須賀港より南南西620キロメートル付近 航洋直接教育艦『晴風』艦橋にて

 

 横須賀港から出港して約12時間、『晴風』は極めて順調な航海をしていた。

 

「ココちゃん、一緒に夜間当直をやってもらってごめんね?眠くないかな?」

「いえいえ、全然ですよ艦長!」

 

 そもそも、何か非常事態でも起きない限り船員というのは基本的に暇である。もちろん見張員であったり給養員であったり機関員であったり、平時でもそれなりに忙しい立場(ポジション)は存在するが、そんな彼女たちであったとしても疲弊するほど忙しいわけではない。

 無論、広い海原を航海するにあたって油断や慢心、ルールを破るのは厳禁だ。そういう意味では、船員は常に緊張感をもって各業務に取り組まなければならないだろう。

 そしてもちろん、それは夜間当直についている二人も承知している。

 

「それに、艦長にはいろいろと聞きたいこともありましたし、実は二人きりになれてラッキーだって思ってたり!」

「そう言ってくれるとありがたいかな。結局、当直の順番も私の独断で決めちゃったしね。……実は、ココちゃんの夜間当直を勝手に決めちゃって怒ってないかなぁ、とか思ってたんだ」

「怒ってるだなんて、そんな!むしろ、艦長がパッパパッ!、と色々なことを決めてくれたおかげで助かっちゃいました!この調子なら、時間までに西之島新島に着けそうですし!」

「まぁ、その代わり機関には相当無茶させちゃってるんだけどね……。後でマロンちゃんたちには謝りにいかないと」

「でも、艦長だって無茶、してますよね?」

 

 含むような、探るような、そして手を伸ばすような、言い方。

 幸子だって、薄々感づいている。意識的ではなく無意識レベルで感じている。いや、艦橋メンバーの誰もが感じている。

 雰囲気。

 プレッシャー。

 感じ。

 言い方は様々で、感想は個々で違うだろう。だが、確かに皆こう思っている。

 

 ()()()()()()、と。

 

「……この左腕のこと、だよね?」

 

 それを悟らせてしまったことは明乃のミスだ。

 明乃の最大のミスだ。

 『ズレ』を悟られれば、『普通』とは見られなくなる。

 『普通』と見られなくなれば、『特別』になる。

 『特別』になれば、注目され注視され気づかれる。

 

 敵に。

 

「恥ずかしいから本当はあんまり言いたくないんだけどね、これ、私の不注意が原因だし」

「不注意、ですか?」

「そう、……海にね、落ちちゃったんだ……。大海に……ね…………」

 

 言外にそれ以上言いたくないという態度を取って、明乃は幸子から視線を逸らし、海を見る。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「――――――――――――」

 

 迷っているような、戸惑っているような、抑えているような、そんな態度(感じ)

 

(これは、どっちかな……?)

 

 もし、幸子が『革命派』の一員であるのだとしたら、明乃の言動が嘘だと分かるはずだ。

 なぜか?それはもえかが『革命派』の一員だからだ。

 もえかは知っている。明乃の左腕が、もえかとの戦闘時は無傷だったという事実を。つまり、明乃が左腕に傷を負った時間は明乃がもえかと戦闘した後になる。時間的に言えば10時40分から13時10分の2時間半の間に明乃は傷を負ったことになる。

 そしてその事実をもえかが『上』に報告していないことは考えづらく、同時にその事実が『上』から周知されていないことも考えづらい。

 だとすれば、気づくはずだ。少し考察すれば分かる。校医に質問するだけでバレる。明乃の左腕の怪我が大嘘であることなど。

 つまり、『革命派』の人間は全員知っているはずだ。

 だから幸子が『革命派』の人間ならば分かるはずだ。明乃が嘘を吐いているという事実に。

 そしてだとすれば、その『気づき』は態度に出るだろう?

 幸子がスパイであるのならば、不自然さが生じて然るべきだろう?

 だから、

 なのに、

 

「あっ!」

 

 何かに気づいた幸子が()()()()()()()()()()()()()()

 

「霧が出てきましたね、艦長!霧中信号を出した方がよろしいでしょうか?」

 

 それは果たして、誤魔化しか善意か。

 それは果たして、偽装なのか本心か。

 幸子は果たして、敵なのか味方なのか。

 

(同じ船に乗った一蓮托生の仲間を相手に、初手で疑うことしかできないなんて。……ほんと、終わってるよね。……私は)

 

 思考が最終的な運命を作るのだとしたら、明乃の生き方(10年)が正しかったのか否かはこの後分かるのだろう。

 この『晴風』での航海を通して、後悔の有無が決まるのだろう。

 

「うん、そうだね。……霧が出て、…………霧?」

 

 答え、そして答え終わる前に気づく。

 

(霧……?この海域で……?)

 

 わずかに目を細めて、明乃は思案する。

 想定される最悪の事態を考える。

 

(霧……、霧の発生条件、……確か、ブルーマーメイドが……数か月前の記事で見たような。……でも、いや、……まさか、……だけど、もしそれがあり得るんだとしたら。……可能性。そう、……あくまで可能性の話をすると、……この霧は…………)

 

 それはもしかしたら行き過ぎた妄想で、誰もが一笑するような妄言で、逃げ水のような幻想で、

 もちろん、その可能性の方が高いことは明乃だって分かっていた。

 だけど、いや、だからこそ万が一を考えておかなければならない。

 だって、明乃の推測が正しければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「一応、備えておいた方がいいかな……」

「……?何か言いましたか、艦長?」

「いや、うん……。ちょっと、考え事をね」

 

 あり得ないことはあり得ない。

 絶対になんてことは絶対に存在しない。

 だとすれば、やはり今回もそれを前提に動くべきだ。

 備えすぎておいて無駄なことは何一つとしてないのだから。

 今の明乃はみんなの命を預かる艦長なのだから。

 

「サトちゃん、探照灯照らして!ココちゃん、霧中信号お願い!私は伝声管を使って皆に状況を知らせるから」

『了解ぞな』

「分かりました、艦長!」

「あっ、後ココちゃんにもう1つお願いしたいことがあるんだ」

 

 霧中信号を鳴らそうとする幸子を呼び止めて、明乃はもう1つ指示を出す。

 ある意味では、こちらの方が重要で、

 そして場合によっては、霧中信号は鳴らさない方がいいのかもしれなかった。

 

「気象庁と学校のネットワークを使って天気図とこの海域の水温を調べておいてくれる?」

「……、何のためにですか?はっ、まさか!?この霧は謎の組織の陰謀!?霧に紛れてこの『晴風』を襲おうとしてるってことですね!」

「あはは、そうだね」

 

 声のトーンを1つ落とし、なるべく真剣さを出して言う。

 

()()()()()()()()()()()()()()

「えっ、と」

 

 思わず、幸子は言い澱んでしまった。

 まさか明乃がそんな返答をするとは、幸子の言ったことを全肯定するかのような返答をするとは欠片も予想していなかった。

 だから、ちょっと躊躇いがちに言う。

 

「今言ったことは冗談なんですが……」

「――――――ココちゃん、とにかく今言った二つのことをお願いするね。これ、学校側からの抜き打ちテストの可能性もあるし」

 

 嘘も方便である。

 可能性をちらつかせるだけで、案外人は信じるものだ。なにせ、多くの人が求めているのは筋の通った説明ではなく納得できるだけの理由なのだから。

 

「っ!分かりました、艦長!すぐに!」

 

 忙しなくタブレットを操作し始める幸子を尻目に、明乃は大海を見ながら思う。

 一つの可能性を考える。

 

(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




今話のサブタイトル元ネタ解説!

霧の境界線(Fog Bound)
 映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』サウンドトラックより。



さぁ、誰が信用できる?誰が味方だ!?誰が敵だっ!?

スパイは誰だ???

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