それは、正義の対義語であるが故に。
状況は逆転した。たった1つの奇手によって、『晴風』は追い詰められることになった。
例えば、マチコがもう少しだけ冷酷であれば人質など無視してベテルギウスに一撃を叩きこみ、『晴風』を救うことができただろう。
例えば、美波がもう少しだけ誰かを信じることができていれば『
例えば、例えば明乃がもう少しだけ、後ほんの少しだけ強ければ、本当にちょっとだけ強ければ、それだけでこんな木っ端の海賊なんかにここまで追いつめられることはなかっただろう。
だが、現実はそうはならなかった。
数が多くても烏合。全員が全員少しずつ『何か』が足りなくて、だから今『晴風』は
「い、ひっ!流石は
「く、っ!」
マチコは躊躇った。人に向かって武器を振るうことを、ではない。民間人かもしれない少女を巻き込んでしまうかもしれないことを。
民間人。そう、民間人だ。海賊が拘束しているその少女は幼く、怯えていて、マチコは見覚えがなかった。だから民間人に見えた。
だが、だとすれば、
「ち、がうっ、野間さんソイツは民間人なんかじゃない!!!この場で、この船に、私たちと『海賊』以外が乗ってるわけないでしょ!?」
「っ、ですがっ」
「やって、早く!!!」
そう、だから明乃は当たり前のように否定する。
海賊が人質に取った少女が実は海賊の仲間である可能性。
明乃にはその確信があった。
だって、コイツは誰だ?言うまでもなく『晴風』の仲間ではない。今この『晴風』にいるのは明乃たち『晴風』の船員か侵入してきた海賊だけのはずだ。少女が前者でない以上、少女の素性は後者しかあり得ない。
まさか、本当に紛れ込んでしまった一般人だなんてそんなことはないはずだ。
「面倒ですね」
だが、
なのに、
その答えが否定される。
よりにもよって、海賊であるベテルギウスによって。
「が」
ダンッ!、と。
轟音が艦内を反響し、
「あっ、ああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!?????」
絶叫が木霊する。
大量の血が床を汚す。
霧は、まだ此処には満ちてはいない。まだ、この空間の霧は薄い。視界はまだ、十分に晴れている。
「なッ!?」
「やめッ!!!」
「動くなあッッッ!!!!!」
咄嗟に前に出ようとしたマチコをベテルギウスが大声で、銃口を下げて牽制する。
撃った?
馬鹿な?
仲間のはずだろう?
それなのに?
これも演出?
偽装?
(でも、だったらなんで足を)
足を撃ってしまえば歩けない。足を撃たれればまともに戦えない。この男と少女が仲間ならばよりにもよって足なんかを撃つか?
でも、だったら、だとしたら、まさかこの少女は本当に、
本当に?
「違う、そんなはずない!模擬弾と血糊を組み合わせて偽装してるだけに決まって」
「
「ッ、ぐ」
つまり、これがベテルギウスたちの策。
子供というのはそれだけで庇護対象だ。どうしたって見方は歪む。
もう思いもしないだろう。ベテルギウスとノーザが本当は仲間だなんて。
「ストック、ですよ。僕たちは海賊です。そして僕たちが敵対するのは
「っ」
「それに、こうすれば彼女たちの面目も潰れない。『民間人の安全を優先したから海賊を逃がしてしまった』なんて方便もたちますしね」
「ぃ、ぁ、いぁあぁああぁあ、い……ッ!いいい゛い゛い゛」
「五月蠅いですよ、人質風情が」
一切の躊躇は無かった。仮にも仲間であるというのに。
なぜかといえば、これは作戦の一つだから。
これも作戦の一つだから。
『また、『あれ』をやるの?私『あれ』、嫌いなんだけどな』
『ですが有効ですよ。特にブルーマーメイド青人魚には』
十数分前に艦橋で話した『あれ』とはこのことだ。
ノーザの『民間人に見えるくらいの平凡さ』を存分に活かした策。
それは、見事に明乃たちに嵌った。
「さて、」
悠々と、いっそ清々しいほどに見下して、
「これでチェックメイトです」
ベテルギウスは勝利宣言をした。
「あなたたちが素直に死ぬのならば、この人質くらいは逃がしてあげてもいいですよ?」
そんなことを、嘯いて。
今話のサブタイトル元ネタ解説!
俺が
ガガガ文庫出版、赤月カケヤ氏著のライトノベル作品。
勝者となるために為すべきことは何か?
決まっている。
『総て』だ。
感想、高評価、ここ好きをいただけますと大変やる気が湧いてきます!よろしくお願いいたします!!!
すっごく久しぶりの更新になってしまってごめんなさい。
忘れてたわけじゃないんです。後回しにしていただけなんです……。
ごめんなさい。
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裏設定とか雑談とかをたまに流してるので。よかったらフォローください。やる気が出ます。
表紙絵の感想は?
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素晴らしい!
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特にない。