2016年4月6日 午前8時18分 神奈川県横須賀市 横須賀女子海洋学校 ランドリールームにて
つまるところ、明乃がましろに
1つはもえかが推察した通り、ましろとの関係性を作るため。
明乃の目的を達成するためには
明乃は宗谷ましろという人間を知っていた。ましろは中学時代いくつかの大会に出ているから、素性を調べるのは簡単だった。
ブルーマーメイドの名家『宗谷家』の三女。
使える、と思った。
利用できる、と思った。
『宗谷家』の
だから明乃はましろに態とぶつかって、一緒に海に落ちた。プラス方向での切欠を作るのは難しくても、マイナス方向での切欠を作るのは容易だ。何よりマイナスの印象は記憶に残りやすい。そして切欠さえ作れれば後はこっちのものだ。人心掌握は得意なのだ。
「…………行った、かな?」
明乃はランドリールームでそう呟く。乾燥機は回っている。後数分もすれば制服は乾くだろう。
ここまでは予定通り。怖いくらいに順調。
宗谷ましろは想像以上に御しやすい人間だった。ひょっとすれば、
単純な人間は良い。
思考回路が簡単な人間は読みやすく、操りやすく――信頼しやすい。
だから、明乃はましろのことが好きになれそうになかった。孤独は人を強くする。独りであればあるほど、明乃は強くなれる。
大切な友人も、
大切な家族も、
大切な個人も、
いらない。
必要ない。
だから、もし明乃が必要とするのならば、それは故人だけだ。
個人ではなく、故人。
友達は作らない。
『じゃあさ、私と友達になろうよ。明乃!』
友達なんて、もうこれ以上いらない。
「友達を作ると、人間強度が下がるから……」
ポケットの中のネックレスを握りしめる。
スターチスをモチーフにした
9年前、沈没寸前の船の中で託された使命。それだけが理由で明乃は生きている。どうして父は死ななければならなかったのか。どうして母は殺されなければならなかったのか。どうして、どうしてあずみは撃たれなければならなかったのか。
その疑問を晴らすために、明乃は生きている。
怒りも、
憎しみも、
いつの日か感じ無くなっていた。
「だから、あなたの遺志は――私が継ぐんだ。あずみさん」
身に宿るのは星すら滅ぼす絶黒の使命感。
あずみの遺志を継ぐために明乃は横須賀女子海洋学校に入学したのだ。
「――――――行こう」
乾燥機が止まった。
制服を手に取る。
ボタンを閉める。
準備は終わった。
ランドリールームの扉に手をかける。
外に出ればもう二度と此処には帰ってこれない。
平穏、安寧、静寂。
明乃はそれらの尊さを知っている。
今ならまだ戻れる。今ならまだ帰ってこられる。
きっと、誰も望んでいない。あずみですらも、これから明乃がやることを非難するだろう。
だけど、
だから、
それでも、
「それでも、私は――――――」
死者は決して蘇らない。
『
『ごめんね、ちゃんとあなたを助けてあげられなくて。こんな乱暴な方法しか思いつかなくて』
だからきっと、明乃もそうするべきなのだ。そうであるべきなのだ。
『ごめんね、……頑張って』
そんな風に諦めることができれば、どれだけ楽だっただろう。
「今のうちに校長室に侵入して、欲しい情報を手に入れるんだ」
能面のように無感情に、
人形のように無表情に、
死人のように無感動に、
明乃はそう言った。
それこそが、明乃が態と海に落ちた2つ目の理由。
それこそが、明乃の本質だった。
今話のサブタイトル元ネタ解説!
韓国のスパイ映画。原作はインターネットポータルサイト『ダウム』に掲載されたウェブ漫画。
明乃の優しさに裏がないわけがないでしょう!
ましろの大嫌いな猫が偶々港にいる……?そんな偶々あるわけねぇだろうが!
ブルーマーメイドを目指すんですから、このレベルの謀略は張り巡らせられないとねぇ……?
感想、高評価をいただけますと大変やる気が湧いてきます!よろしくお願いいたします!!!
表紙絵の感想は?
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素晴らしい!
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特にない。