とある魔術の野比のび太 作:霧雨
◇8月26日 夜 アルークシティ南部
のび太がツェスカの要請を承諾した後、まず行ったのはツェスカを追跡してきたイギリス清教の二人の魔術師の始末だった。
これは案外、簡単に行えた。
でくわした時に、銃弾を2発放つだけで解決したのだから。
勿論、通常ならたったの銃弾2つでイギリス清教に所属するクラスの魔術師が簡単にやられるなどということはないのだが、聖杯戦争開始から既に4日経ち、常に戦闘のし続けで精神が研ぎ澄まされているのび太に対して、魔術師二人は今日到着したばかりであり、更に不幸なことに戦闘経験も浅かった。
それでも女の子一人を追いかけるならば、十分すぎる戦力であったのだが、流石に戦闘経験豊富な
当然、そうなって人間が生きているわけもなく、二人はそのまま絶命する。
そして、その後、のび太はツェスカの案内を元に彼女の母親であるアリアの元に駆け付け、彼女に今正に攻撃を浴びせようとしていた魔術師に向かって銃弾を放ち、先程の魔術師二人と同じように脳天を貫いて絶命させた。
「な、なんだ!」
「どうした!!」
残ったのは、魔術師二人。
だが、その命も風前の灯だった。
何故なら、命懸けの異能力バトルにおいて、状況を判断できないというのは致命的なミス行為だったのだから。
そして、彼らが最期に見たのは、自分達の目前に迫る風速92メートルの風を収束させた2つの竜巻だった。
◇
「・・・あ・・・あぁ」
少女は尻餅を着きながら、その惨劇を見守っていた。
無理もない。
先程の拳銃でならまだ分かる。
自分も戦車道で機銃や大砲などを扱ったことがあるので、ある程度耐性はあったのだから。
しかし、最後の二人の魔術師が死んだ竜巻については違った。
竜巻は風速92メートルという速度でスクリューのように回転しながら魔術師へと向かった為、風の刃によってスクリューに巻き込まれた人間のように、魔術師達の体はバラバラに切り裂かれてしまったのだ。
高校生になったばかりの少女には、少し酷な状況と言えた。
「・・・」
そんなツェスカを見ながら、のび太は無理もないと若干目を閉じた。
なんせ、時々やっている自分でさえ気持ち悪くなる光景なのだ。
女の子が見るに耐えないであろう光景だということは容易に理解できた。
しかし、これは必要なことだった。
形に拘って、万が一、自分が死んでしまえば元も子も無かったのだから。
「では、僕はこれで。後は自分達で何とかしてください」
長居は無用。
なんせ、ツェスカの方はこれで自分に対して恐怖を抱いてしまったであろうし、そうでなくとも母親の方から攻撃される危険もある。
助けるという当初の目的を達成した以上、ここは立ち去るのが一番だろう。
のび太はそのようなことを考えながら、暗闇に紛れるように二人の女性の前から姿を消した。
◇8月27日 早朝 アルークシティ西部
あれから一晩明けた早朝。
魔術によって怪我から回復したアリアは、ツェスカと共にこの街を去ろうとしていた。
それを見届けながら、のび太はこう思った。
(羨ましいなあ)
それはアリアとツェスカの関係についてだ。
アリアは今も母親として彼女を守ろうと、彼女に張り付いて護衛している。
こんな狂気な空間の中ではそれこそが当たり前の行動なのかもしれないが、果たして自分がツェスカの立場に立って、のび太の母親がアリアの立場へと立たされた時、果たしてアリアと同様な事が出来るかどうかはかなり疑問だった。
のび太の母親は決してのび太に愛情を注いでいないという訳ではなかった。
少なくとも人並みには注いでいたとのび太は思う。
だが、それだけだ。
おそらく、今の自分を迎え入れてくれるような器は持ってはいない。
勿論、それは親としては普通ではあったのだが、のび太はもう普通ではなくなっている以上、普通の親程度では困ってしまうのだ。
(・・・なんだか、冷めた思考だな)
のび太はここ1ヶ月程の戦闘経験で身に付けた思考から、両親に対しての考え方が非常に冷たくなっている事を実感していた。
おそらく、両親が死んだとしても、何も感じることは出来ない気がする。
それは危ない思考ではあるのだろう。
のび太にもそれは分かる。
しかし、だからと言ってその思考に心が痛むかどうかは微妙だ。
少なくとも、今ののび太には守るものがあったし、自分のした選択を後悔するわけにもいかないからだ。
いや、そもそも学園都市に来る前から、その兆候はあった。
(あの時はドラえもんの道具に頼りっぱなしだったし、危険な状況だったから気づかなかったけど・・・)
大冒険。
それはのび太達5人(これはあくまで基本的な人数であり、冒険によってはドラえもんとのび太だけが別世界に行って戦ったり、5人の他にも人員が追加されたりする。と言うより、後者についてはそれが大半)の冒険であり、のび太も何度も危ない目に遭いながらもそれを切り抜けている。
特にコーヤコーヤの時は顕著だった。
あの時は本当に帰れなくなるかもしれないという覚悟を決めたのだが、よくよく考えれば、急いでいたとは言え、あまりにも迷わなすぎた気がする。
勿論、コーヤコーヤがの状況急を要したことや、ドラえもんが何とかしてくれるかもしれないという淡い期待もあったのだろう。
しかし、本当にそれだけだろうか?
(もしかして・・・僕はあの時から、両親が居なくなったとしてもあまり気にしないような冷たいやつだったのかな?)
のび太はそう思うが、答えは出ない。
と言うより、答えが出たとしても、あまり意味はないことだろう。
どのみち、聖杯戦争を生き残ったとしても、両親と会うことはこれから滅多に、いや、もしかしたら一生無いのかもしれないのだから。
(・・・)
だが、それでもあの母娘の存在がのび太に両親について考えさせられたのは確かだった。
そして、この心の問いは、後に大いに役に立つことになる。
◇同日 夕方 アルークシティ東部
「もうすぐ聖杯戦争が激化する時間帯ね」
エマは沈み行く夕日を見ながらそう思った。
現在は聖杯戦争の五日目。
二日目から参加している彼女にとって、これは四日目となる戦いだ。
自分でも、かなり戦闘に慣れてきた方だと思う。
そして、自分の力が徐々に増していることも確かに実感していた。
(でも、足りない)
しかし、それでも彼女は物足りなさを実感していた。
彼女が考えていたのは、前述したように西住まほ、もっと言えば西住流そのものへの復讐だ。
それだけをバネに生き残ってきた。
だからこそ、西住まほや西住流の脅威が自分の中で無意識に大きくなってしまい、今ではヒーローの物語風に言えば、国家も滅ぼせる悪の組織という規模にまで昇華されていた。
もっとも、実際にはそうではない。
現実としては、ほんの1ヶ月前まで文科省にすら自分の意見を押し通すのに手一杯な有り様だ。
それは大洗VS大学選抜戦で当初、8対30、それも殲滅戦というふざけた試合を強要しようとした事実で分かる。
学園都市のように強力な権限を持ち、表向きは文科省の傘下に有りながらも、実際はその上の日本政府に直接意見できるような立場とは訳が違うのだ。
だが、彼女は西住まほや西住流への劣等感や、魔術という力に半ば呑まれてしまっている為か、その事を頭の隅にも入れていなかった。
まあ、そうでなくとも、ドイツ人の彼女に日本の事を理解しろというのは少しばかり無理な話だったが。
そして、やがて日が沈んで夜となり、彼女の戦いは再び始まった。
今気づいたんですけど、劇場版って5人の編成が変わらないだけで、その劇場版ごとに他にも冒険に加わる人員が追加されていたりするんですよね。例・・・ピー助、美夜子、キー坊、ロップル、ソフィア、ピッポ、クルト以下略。