ハハ……生きてはいるよ。顔の左半分が焼き肉にされちゃったみたいでよ、目は開かないし目ん玉そのものも熱で潰れてるって話だ。
お前こそ、不死鳥のチャーリー共々落ちたと聞いたときにはさすがにダメかと思ったぞ。ウルフパックの連中とそんな激戦になるだなんて……
……チャーリーに殺されかけた?誰かからの依頼で?
真、ここに来る前に私怨でも買ったか?
真、チャーリーはもしかすると尖兵に過ぎないかもしれないぞ。誰かがずっとお前の命を狙ってるかもしれない。気をつけろ。
夏真っ盛り、読者諸君はなにを思い浮かべるだろう。
ここは501統合戦闘航空団基地。すぐ目の前はかるいビーチだ。強い日差し、白い砂浜、青い海。そして何より……
「坂本さん! なんでこんなの履くんですか!?」
……訓練日和だ。
全員水着を着ているが立派な訓練模様だ。その証明に宮藤とリーネはストライカーを履いている。
シャーリーとルッキーニは完全に楽しんでるように見えるがこれは訓練だ。
坂本が竹刀片手に宮藤に怒鳴る。
「何度も言わすな! 今日は海水浴に来たんじゃない! 万が一、海に落ちた時のための訓練だ!」
「他の人たちもちゃんと訓練したのよ。あとは貴方達だけ。」
ミーナが付け足す。坂本がズンズンと宮藤たちに近づいていく。
「だから……つべこべ言わずに飛び込め!」
悲鳴を上げながら2人は海へと落ちていく。人っ子1人にストライカー分の重量の重なった水しぶきが縦に打ち上がる。
タイマーのスイッチを入れて浮いてくるまでの時間を計る。しかしなかなか浮かび上がってこない。
「……やっぱり飛ぶようにはいかないか。」
「そうね……由也にもやらせた方が良かったのだけれど。」
「仕方ないさ、あいつは今頃……
……っふぇくし! あー、だれか噂してんのかぁ……?」
ズズッと音を立てて鼻をすする由也。彼女は以前に救った街の付近を車で走っている。目的地は手紙にあった住所だ。
やることはもちろんかつての戦友にして上官、サキ・ヴァシュタールを名乗る人物とある意味では仇敵ともいえるジュゼッペ・ファリーナを名乗る人物との会合だ。
地図を片手に車を走らせしばらくするとやっとこさ街の中へと到着する。
長らく車を走らせていたため少し疲れた。時間はまだ余裕があるので休憩しようと彼女は喫茶店の近くに車を停め中に入る。こじんまりとした店だが雰囲気は由也の好みの時代を感じるものだ。
そういえば朝は軽く済ませて出てきてしまったため小腹もすいた。何か食べておこう。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ。」
「コーヒーとベーコンのマフィンを頼む。」
[注釈:ここでのマフィンはイングリッシュマフィンの事をさす]
料金を支払い、料理を受け取るとカウンター席に向かう。
基地を出る際に暇つぶしになればと持ってきていた新聞を広げる。社会誌が基本に世界各地の戦況などが事細かく記されている。501のことが書いてあればワイト島分遣隊の活躍の話、さらには遥か遠くオラーシャの502部隊『ブレイブウィッチーズ』のことも取り扱っている。
そんな紙面に大きく写っているのはアフリカ方面で活躍するウィッチ、「黄色の14」「アフリカの星」などの二つ名を持つハンナ・ユスティーナ・マルセイユだ。
由也も一度はロンドン侵攻につながりかねないネウロイの攻撃を止めたとしてこの地で戦ったことが大きく一面に載ったことがある。だがこのマルセイユというのは格が違うと感じる。人類最強のスーパーエース、まるでそう言わんばかりの扱い。激戦区を長く跳び続けるだけでなく、その中でしかと戦果を上げているのがその要因だろう。
ついでに言えば顔がいい。だからこそこうしてメディア映えするものだ。
そんなことを考えつつ食事を進める。あっという間にマフィンを平らげ、塩気を流すようにコーヒーを流し込んでいく。ミーナの淹れたものに比べると味の質は下に感じるが、今までの缶コーヒーよりかははるかに美味しい。
そうしていると、1人の女性が由也に話しかけてくる。
「あのう……もしかして、ユウヤ・ウエムラさんですか?」
「? はい、そうですが……」
「わぁ、やっぱり! 私、ユウヤさんのファンで、その……サインをいただけませんか!?」
そう言いながらペンと写真を差し出す女性。しかも写真は自分が手を振っていた時のものの上半身のアップのものだ。
どうやって撮ったのかと思いながらサインを書いて渡す。
「ありがとうございます!一生、一生大事にします!」
そう言うと小走りで去っていった。感謝されるどころかファンができてサインを求められるようになるとは思いもしなかった。新聞のマルセイユもこんな気持ちなのだろうかと思った。
が、ひょっとして今の状況はまずいのではないか?と冷静になって考える。
服装はいつもと変わらずダークグリーンの航空服に白いマフラー、強いて言えばハーネスをつけていないことくらいだろうか。ただ目立つものは目立つ。ましてこんな目立つ顔をしていればすぐに人だかりができそうだ。
さっさと出た方がいいと思いコーヒーを素早く飲み干すとさっさと出て行く。
だがすでに遅かった。店の外には由也を一目見ようと人だかりができていた。
このあとしばらく撮影会やサイン会に発展し予定以上に時間を食ったが、話すと長くなるので飛ばすことにしよう。
さて、そんな目に遭いながらもやっとこさ目的地に到着する。
街のはずれの山の頂にあるそれはなんとも豪壮な古城のような建物だった。
石造りでできたこの城の周りは高い同じく石の塀で覆われ、正面1箇所にのみ出入用の門があった。
手紙の手順通りに一時停止しライトを2回点滅させる。すると門が重々しく開く。
中に進んでいくと玄関にサングラスをつけた男が立っていた。
「失礼、ユウヤ・ウエムラさまでお間違いないでしょうか?」
「ああ、俺が由也……扶桑海軍軍曹の植村由也だ。」
「お待ちしておりました、私はファリーナ様の秘書のマスタードと申します。ユウヤさま、ファリーナ様のもとまでご案内します。車は私共の駐車場に停めておきますゆえ、ご安心を……」
そういうと屋敷の中へと通される。人気は少なく感じるが、決していないわけではない。むしろヒシヒシと冷気のような、殺気のようなものを感じる。
ファリーナ家といえばイタリアンマフィアの中ではかなり高名な存在だ。神崎 悟に乗っ取られはしたが、それだけ政治などに対する裏からの発言力は強く、命も狙われやすいのだろう。だからこそ、このピリピリとした雰囲気がこもっているのかと想像する。
やがて大きな扉の前にまで到着する。マスタードが扉に手をかけ、ゆっくりと開いていく。
中に入ると車椅子に座った老齢の男性とサングラスをした黒い長髪の男性、そしてその周りを5人の少女が立っていた。
ジュゼッペ・ファリーナとサキ・ヴァシュタール、その2人はすぐにわかった。ならば残りの5人は?
だが由也はその少女たちが何者か、直感的に理解した。彼女たちとは共に戦った仲の人間だと。
「扶桑海軍軍曹……いえ、元アスラン空軍外人部隊エリア88中尉の植村由也です。」
「私がジュゼッペ・ファリーナだ。はじめまして、由也くん。」
「名前だけなら伺ってます、ミスター・ファリーナ。」
パッと挨拶をするとサキの方を見る。サキはサングラスを外し、由也に向かい合う。
「久しぶりだな、由也……今まで通りで結構だ。」
「ならそうするよ。……久しぶり、サキ。」
サキに手を差し出し、握手を交わす。
すると周りにいたやつらも一斉に近寄ってくる。
「なんだよ、由也!俺たちは無視か!?」
「うるせー散れ散れ! だれが誰かなんとなくわかるが自己紹介くらいしやがれ!!」
「なんだとぉ?顔は可愛いくなったのにかわいくねーヤロウだ!」
「おまえさんのそういうところは変わってねえな。」
「俺を忘れたとは言わせねえぞ、由也!」
「そうだぞこのやろ! おい、マック!そこで突っ立ってねえで来いよ!」
「待て、ミッキー、俺は初対面で……こら、ひっぱるな!」
「だぁーっ!一気に話すな押しかけるなタバコは消せ胸を揉むな!」
「クックッ……そこまでにしておけ。それに由也の言う通りだ、名前くらい名乗れ。」
一気にもみくちゃにされる由也。ファリーナは腹を抱えて笑い転げている。サキが笑いながら静止してやると仕方なさそうに離れる。
501の中ではもっとも高身長の由也よりも高身長な金の短髪の女性がまず立つ。
「じゃあ俺からだな。ミッキー・サイモン、リベリオン海軍の大尉をしてる。また会えて嬉しいぜ、由也!」
次にルッキーニほどに低身長のボーイッシュな少女が前に出る。
「俺はグレッグ・ゲイツ、スオムス空軍で大尉だ。改めてよろしく、由也!」
ショートボブのブロンズの髪の女性がついで名乗る。
「俺ぁチャーリー・ダビットソン。
顔に傷のついた女性がタバコを灰皿に押しつけ由也の方を向く。
「グエン・ヴァン・チョム、チュノム空軍……前のでいうベトナムで中尉をしてる。久しぶりだな、由也。」
最後に肩ほどまで黒髪を伸ばしたスタイルのいい女性が由也に挨拶する。
「私ははじめましてだな。ゲイリー・マックバーン、リベリオン海軍大尉だ。気軽にマックと呼んでくれ。よろしく、由也。」
「改めて私も自己紹介くらいはしておこう。サキ・ヴァシュタール、ガリア空軍中佐だ。改めてよろしく頼む。」
「ああ……みんな、よろしく。」
かつての仲間との久しぶりの再開だ。思わず顔がほころぶ。他のメンバーも皆笑い、時を忘れてお互いの事を話し合った。
どうやら大概は自分とは境遇がまったく違うらしい。死んだ後に赤子として転生したそうだ。だが記憶も名前もそのままなため違和感だらけながらも変えていないのだと言う。
サキはアスランにあたる国の王室出身なのは間違いないが、生まれてすぐにネウロイの攻撃から逃れるためにガリアに避難、そのままガリア空軍に入隊したという。パ・ド・カレーの撤退戦の時の指揮などを行なっていて、その際にチャーリーと合流したそうだ。ちなみにサキは一族が魔法力をもつため、男性ながらストライカーを動かせるほどの魔法力を持っているという。
マックとミッキーも似たようなものでマックは孤児として、ミッキーはサイモン家の後継として生まれる。なおミッキーの実家である大企業のサイモン・インダストリーは父親が引退してしまっているため、ほぼ実質ミッキーが運営している状態だそうだ。それを利用して全員のジェットストライカーのパーツをファリーナとともに生産しているそうだ。
グレッグはスオムスの出身になり、そのまま現地の空軍に入った。前世同様に対地戦闘の天才、しかし年齢は20越えなため魔法力が減衰し始めてるという。
出生的にもっとも悲惨なのは間違いなくグエンだ。前世と同じように死んだ母親の腹から生まれ、血と火薬の中で生きてきたと自ら豪語する。そして20をとっくに超えた今でも「トンキン湾の人喰い虎」の二つ名と共に空を飛んでいる。
他にも旧エリア88メンバーがちょくちょくいるらしく、ミッキーはセイレーン・バルナック……セラと仲睦まじく同棲しているらしく、ロマーニャではマリオ・バンディーニが青い
ひとしきり喋りあったところで由也がファリーナに問いかける。
「さて、ミスター・ファリーナ。まさか昔話のために呼んだわけではないだろう? そろそろ本題に入ろう。」
「フフ……さすが、勘が鋭い。では、全員をここに呼び寄せた理由をそろそろお話ししよう。」
ファリーナがサキの方を一瞥する。サキはそれを察して全員に向かい話し始める。
「皆に来てもらったのはとあることを話すためだ。これはこの世界の未来に関わる重要な話であり……あの戦争の記憶を持つ我々だからこそ知っておかなければならないことだ。」
全員の表情がかわる。場の空気も戦場のそれのように張り付く。
「端的に言おう……プロジェクト4がこの世界で発足し動き出した!」
「なっ……!?」
マックが悲鳴のような声を上げる。元プロジェクト4側の人間だった彼女としては最悪の記憶ともいえるものだ。それがこのまったく別の世界で再び日の目を見ようと動き出したというのだ。
それについていけないのはただ1人、チャーリーだけだ。
「ちょっと待ってくれ、俺がいなくなった後の話をされたってわかんねえよ。少しは詳しく話してくれや。」
「そうだな……プロジェクト4について詳しいことは私が説明しよう。」
ファリーナがサキにかわりプロジェクト4の説明を始める。
「前の世界で私とバンビーン氏が立案した地球上のあらゆる場所、人種を問わず戦争に巻き込む計画、まさに悪魔の滅亡の手引書……私はプロジェクト4と名付けた。適当に戦争をさせ、適当に終わらせ、そういった計画を組んで予算を組み戦争をさせる。人の生死、人生までを掌握する。そうすることで我々武器商人が儲けるという計画。それがプロジェクト4だ。」
「ケッ、改めて聞きゃあ最悪な話だ。」
グレッグが悪態をつく。同じように顔をしかめた由也がファリーナに問いかける。
「ミスター・ファリーナ、その立案者の1人たるあなたがなぜプロジェクト4と対立する方を選んだ?」
もとを言えばファリーナは地上空母をもってエリア88と対立した人間だ。チャーリーもまたファリーナに雇われた人間ではあったが、あくまでもエリア88側の人間として戦った。だがそんな彼とは話が違う。
本来ならば儲け話を考えてプロジェクト4側についていてもおかしく無いはずだ。
「ふむ……たしかに今までであれば私もプロジェクト4に協力していたかもしれん。だがこの世界は前の世界とは違う。ネウロイに侵略され、人類が一丸となって戦わなければならない。それなのに人間同士で争うなど儲け以前の問題だ!だから私はここにいるサキ氏と顔を合わせ、奴らを潰すために力を貸そうというのだ。」
「へへ……あんたのそういうところは嫌いじゃないぜ、ファリーナの爺さんよ。だが、いったいだれがこんなことを言い出したんだ!?」
「そこが問題なのだと、ミッキーくん。事は数年前、始まりは1人の東洋人が言い出したことなのだよ。」
「へぇ……ヨーロッパのマフィアの集会に東洋人が出るとはね。」
グエンが新しいタバコを咥えながらファリーナの話を聞く。
「名前はなんといったか忘れてしまったが……すでに彼の計画に多くの組織が手を出しつつあるのだ。そして問題はここからだ。彼は独自に我々と同じくジェットストライカーを生産しておる。」
「なんだって!?」
ミッキーが思わず声を上げる。ミッキーだけじゃない、この場にいるほぼ全員が驚き、困惑する。
「しかも我々の知らない機体が多く作られつつある……これがその写真だ!」
そう言って指を鳴らす。後ろに控えていたマスタードが資料を全員に渡す。皆一様に首を傾げ、どういう機体なのか考える。だが由也だけはその機体に見覚えがあり、思わず叫ぶ。
「これは……
「なにか知ってるのか、由也?」
口に出てしまった事を後悔しあっと口を塞ぐ。後の祭りであるが。
前世の記憶があることは前の世界でもサキとラウンデルにしか話していない。ミッキーたちは由也の前世を知らないのだ。
「由也、いい加減あの事を話したらどうだ。もう時効だろう……」
「……そう……だな……」
由也は前世について、エリア88という作品について、話す。そしてその記憶を頼りに未来を変えようとしたことも。
「つまり由也はよ、俺が死ぬ事を最初から知ってたってことか。」
「そうだ……ミッキーもグレッグも、グエンにチャーリー、フーバー、ジェンセン……みんなが死ぬのをなんとかしたかった。だが結果はご覧の有り様だ。」
「由也……」
ミッキーが由也の隣に座り話始める。
「俺は死んでなかったら、向こうで幸せになってたと思うか?」
「それは……ミッキーが決めることだ。俺が決めつけることじゃない。」
「だったらそれでいいじゃねえか。たしかにあそこで俺は死んだ。だがこの世界でまた生きてる。後悔はしてるが不幸だとは思っちゃいないよ。なぁ、みんな?」
「ミッキーの言う通りだ。」
「それに由也のせいというわけでもないだろうよ。」
全員がそーだそーだと声を上げる。由也は茫然とした顔をするが、すぐに笑顔になる。
「そっか……そうかな?」
「なんども言わせんなよ!な?」
「おっ、なんだ由也?おまえさん泣いてるのか?」
「うるせ、チャーリー。泣いてねえやい。」
「大丈夫か?ほら、ハンカチを使え。」
「マック、だからな……!」
やんややんやとまた騒ぎ始める。そんな光景にサキはエリア88を幻視していた。
「またあいつらと飛ぶことになるな……」
「しかし、サキ。由也の言っていることが本当なら少々厄介ではないかな?」
「由也と同じ転生者が敵になる、か……たしかに事この上なく厄介だ。だがこの戦い、勝たねばならない。これからの世界のためにもな……!」
門限前に501基地に戻った由也。そこでシャーリーに捕まって音速を超えた話に長々と付き合わされることとなった。
どうも、読んでいただきありがとうございます。
アンギラスです。
とうとうエリア88メンバーとの再会。なのでキャラ紹介の欄が更新されます。お楽しみに。
何人か性転換してるじゃねえか!というお話から。
これが1番自分でも迷ったところです。やはりエリア88側の人間も出したい、だけどそれは人を選ぶ……結果として性転換しながらも出すことにしました。
だが出すとして誰を出すかでまた迷う。
考えに考え抜いた結果、上記メンバーがメインに入ることになりました。もしかしたらまた増えるかもしれない……その時は自分の好きなキャラが
ちなみに不死鳥チャーリーの姓については完全オリジナルです。自分の好きなバイクメーカー「ハーレー・ダビットソン」からとりました。
さて、キャラ紹介などの更新を行いつつとなるのでやや遅れるかと思いますがきながに待っていただければと思います。お気に入り20件越え記念とかやりたいしね!
ということで次回またお会いしましょう。
炎のユニコーンのエンブレムは出すか否か
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出す!
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出さないであげて……