Xenoblade2 The Ancient Remnant   作:蛮鬼

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*注意
 今話は前回までと比べて著しく雰囲気とキャラ崩壊が激しいです。
 お読みになる方は、それをご了承の上で本文にお進みください。

 それでは、覚悟が出来た方だけどうぞ。


15.“アレ”

 広場を抜け、なるべく遠くへ向かおうと進み続けたレックス一行。

 彼らの姿は今、オーベラ通りと呼ばれる街路にあり、横幅の大きい木造橋の下を通り過ぎた辺りで、彼らは1度そこで立ち止まった。

「それにしても、コアクリスタルに触れるとブレイドが生まれるだなんて、やっぱスゴいよなぁ」

 

「そうだな、レックス。……まあ、私のアレはちょっと特殊だったが、ある意味貴重なものを見させて貰ったな」

 

 

 互いの感想を述べるレックスとスタクティに、ホムラが先程見た光景を捕捉するように説明し始める。

 

 

「私たちブレイドの本体は、『コアクリスタル』と呼ばれる宝石に似た素子なんです。

 触れた者に適性があった場合のみ、自身の体細胞を増殖させて分離体を生み出す――それが『ブレイド』」

 

「つまり、ドライバーとコアクリスタルが運命的に巡り会ってこそ、ブレイドが誕生するということじゃな」

 

「成程……中々にロマンチックだな」

 

「でも不思議だなぁ……何でそんなことが起こるんだ?」

 

「さあ、それは誰にも分からんよ。古からそういうものなんじゃ」

 

「生まれ出るブレイドの容姿は千差万別。人に近いものから、私のようなものもおります」

 

 

 容姿はそれぞれ。虎型の容姿を持つビャッコが言うと、妙に説得力があり、それに捕捉を加える形でニアが説明を引き継いだ。

 

 

「ドライバーの個性や精神が反映されてるって説もあるね」

 

「ほう……?」

 

 

 つまりビャッコの姿は、ニアの深層意識――それが虎か、あるいは猫に近いものだったからそういう形になったのかもしれない。

 そんな仮説を立てていると、再びホムラに説明の役が戻り、締めくくるように彼女はレックスとスタクティへ言った。

 

 

「ドライバーとブレイドとの出会いは、とっても神秘的なんですよ?」

 

「へぇ……」

 

 

 何気ない口調で呟くも、レックスは彼女の言葉、そしてニアたちの説明を経て、ある考えてに至った。

 あの日――シンに殺され、記憶の世界でホムラと会った時、彼女は独りで泣いていた。

 ブレイドの容姿が最初のドライバーとの同調で決定するというのなら、ホムラにもかつて、レックスと同調する以前のドライバーがいたことになる。

 そのドライバーとはどんな人物だったのか――そして。

 

 

(“天の聖杯”って、一体……)

 

「――ん? ……これは――!」

 

 

 レックスがそんな思考に耽ている間、スタクティはあるものを橋の下付近で見つけた。

 草むらの中で輝くソレを見つけ出すと、ソレの正体を知り、スタクティは愕然とした。

 

 

(これは――“メッセージ”か……!?)

 

 

 『橙の助言ろう石』によってのみ描かれる、不死人たちの残す助言。

 ある時は旅の一助、またある時は騙し合いの道具として用いられるソレは、書き手によって善にも悪にも染まる。

 だが今日までそれらしいものを見掛けて来なかったスタクティとしては、大いに意味のあるもので、少なくとも彼以外に、この『アルスト』を旅する不死人が他世界にいることの証明となっていた。

 

 

(何が書かれている……?)

 

 

 取り敢えず中身がどういったものなのかを確認すべく身を屈め、刻まれた古代文字を読み解いていき、兜の内でそれを口にしていった。

 

 

「『この先 敵が多い だから――が有効』――は?」

 

「どうした、スタクティ? 何かあっ――」

 

「――一同、抵抗するな!」

 

 

 橋下で何故か体を屈めているスタクティを見つけ、不思議そうにニアが問い掛けた直後、彼らの来た道から硬い足音と共に、そんな一声が響き渡った。

 現れたのは、先程の広場にもいた黒い軍服の上に簡素な鎧を帯びた軍人たち。

 違いをあげるとすれば、その内の1人の被り物が妙に長く、こちらに対して良くない感情を抱いていることだった。

 

 そして反対側からも同じ装束の軍人が4人現れて、レックスたちを取り囲む形で並び立った。

 

 

「むむ……こやつら、帝国軍じゃな」

 

「しまった――!」

 

「っ……何なんだ、お前たち?」

 

「その者、帝国に仇なす反逆者『イーラ』の者であろう」

 

「『イーラ』? ち――ニアは違う!」

 

「そうか?」

 

 

 レックスの言葉に対し、隊長らしき長帽子の男が問う。

 

 

「白き獣のブレイド連れた、グーラ人のドライバー――手配書の()()()()にそっくりではないか」

 

「人相書き……?」

 

「あ――まさか……!」

 

「そう――これだ!」

 

 

 その言葉を待っていたとばかりに、隊長は手に携えていた丸めた紙を広げ、そこに描かれている奇面獣(キメラ)――もといニアの顔を突きつけた。

 

 

「あ――似てる……」

 

「ぶほっ」

 

「何だってぇッ!? っていうかスタクティ、アンタも笑うんじゃないよ!!」

 

 

 ふしゃー! と猫のように爪を剥き出し、威嚇するニアをレックスは「似てない、全然似てなかったやっぱり!」と懸命に否定しているが、傍から見ればどう見ても喜劇(コント)にしか見えなかった。

 

 

「――って! こんなことしてる場合じゃなかった……で、そっくりだからってどうだってんだ?」

 

「ふん――ところでお前、見たところお前もドライバーの様だが、登録ナンバーは?」

 

「え? と、登録――?」

 

「すべからくドライバーとなった者は、アーケディアへ届け出なくてはならない。

 ……登録ナンバーがないということは、さてはお前……“モグリ”のドライバーだな?」

 

「ち――違う! オレは……!」

 

「お前たちを連行する! 申し開きは、領事閣下の前でするがいい!」

 

 

 相手の意見を一切聞かない、権力に任せた強制連行。

 これ以上は何を言っても無意味と判断した皆は1度密集し、互いに背を預けて作戦を話し合う。

 

 

「レックス、今からアタシとビャッコで仕掛ける。その隙にアンタたちは逃げな」

 

「そうはいかないよ」

 

「これはアタシとビャッコの問題だよ……!」

 

「あいつは今、『お前たち』って言った。なら無関係じゃいられない」

 

「……ったく、相当頑固だね。アンタ」

 

「じっちゃんにもよく言われる」

 

 

 ニアの返しにレックスがそう答えると、ニアは苦笑しながらも、レックスの言葉に頼もしさを覚える。

 だがそんな2人のやり取りの傍らで、スタクティは別のことを考えていた。

 それは先程見つけた“メッセージ”の内容。別世界にいるであろう同胞たちが書き残した、この状況を打破する術があそこに記されていたのだ。

 

 この先 敵が多い だから――

 

 

(――手段は選んで居られん……!)

 

「あ、あの……スタクティさん? 何だか、兜がプルプル震えてるんですけど……」

 

 

 後ろでホムラが指摘して来るが、スタクティは()()()()()()()()を考え、言葉にしがたい葛藤を覚えながらも、再び現状を再確認する。

 敵はおよそ7人。()()()使()()()で無力化できるギリギリの人数だ。

 

 女性陣、つまりホムラとニアは論外。嗅覚が鋭そうなビャッコも当然。物が持てなさそうな程小さくなってしまったセイリュウも除外。

 ……となれば――

 

 

(私とレックスの2人で()()しかないかぁ……!)

 

「――レックス。私に1つ考えがある」

 

「本当!?」

 

「ああ。耳を貸しなさい……それとセイリュウ翁は置いてきなさい」

 

 

 そう言ってスタクティは皆から少し距離を取り、そこにセイリュウをホムラたちに預けたレックスも連れて、彼にこれより行うことを詳細を話すと……

 

 

 

 

「ふん、ふんふん――えっ

 

『――!?』

 

 

 その時、レックスの口から今までに聞いたこともないような声が漏れ出た。

 何を話しているのかと耳を澄まそうにも、肝心の部分は既に話し終わっているらしく、今はただ、スタクティの提案した作戦に対して、レックスが物凄い抵抗感を抱いていることしか伺えなかった。

 

 

「いや、確かに武器を使って戦わずに済むんならそれでいいけど……流石に()()は」

 

「だがこれしかない。現状、この状況を最低限の労力で、かつ今後『危険性戦力保持者』として狙われずに済むやり方はこれしかないのだ」

 

「いや、でも……アレだろ?」

 

「少し前にゴルトムントの半端者共相手にもやっただろう。あれをちょっと過激にした感じでいいんだ」

 

「う――う~~~~ん……っ」

 

 

 物凄く嫌そうな、葛藤に苛まれているような顔付きにホムラたちは当然、敵であるスぺルビア兵士たちさえも不安に思い始め、やがて決心を固めたらしいレックスがホムラたちの下に戻ると、真剣な……けれどどこか嫌そうな顔で彼女たちに伝えた。

 

 

「皆、今からオレとスタクティさんで兵士たちを何とかする。

 その間皆は目と鼻を塞いで、体を屈めて待っていて欲しい。

 ……あ、ビャッコは特に鼻を塞げだって」

 

「えっ? ……皆で、戦うんじゃないですか?」

 

「何か……別の解決策があるみたいで、そっちを実行するって」

 

「いや、何となくって言うか、アンタのその顔を見て内容がどういうものか察せられるんだけど……大丈夫なの」

 

「大丈夫……だと、思う……多分」

 

「いや、全然安心できないんだけど……」

 

「とにかく、皆目と鼻を塞いで体を屈めてて。

 絶対に――絶っっっ対に目と鼻を開けちゃダメだからね!」

 

 

 そう言ってスタクティの下へ戻るレックスの姿を見送ると、取り敢えず言われた通りホムラたちは目を強く瞑り、鼻の穴も指を添える形で塞ぐと、そのまま体を屈めてその場で固まった。

 そして少しして、何やら地面にごろごろと大量の“何か”が現れ、積まれていく音を聞き取ると、自分たちを囲んでいた軍人たちから悲鳴が上がり、隊長らしき軍人が震えた声でレックスたちに問い掛けた。

 

 

「お――おい、お前たちッ! それを掴んで何を――!」

 

「――そぉおおおおおおいィッ!!

 

 

 ()()()()ッ!!

 

 粘着質な、それでいて瑞々しい“何か”が炸裂する音が響くと、くぐもった声を上げて兵士の1人が倒れる音がした。

 程なくして反対側からも同じ音が響き、今度は複数の悲鳴と共に兵士たちがどたどたとそこらを逃げ惑う足音も鳴り始める。

 

 

「き、貴様らぁッ! 正気か、正気なのか!? 誉れあるドライバーが()()()()()を真昼間から堂々とぶん投げて良いのかごべぁッ!?

 

「「「パクス警備長ぉおおおおおおおおおッ!?」」」

 

「ごめん、ごめん、ごめんなさぁいッ! でも、スタクティさんがこれが一番良いって――うぷっ」

 

「いかん! レックス、すぐに()()()()ッ! 毒が回って来ているぞ!」

 

「――苔……毒が回る……まさかッ!?」

 

「セ、セイリュウさん……?」

 

 

 ホムラの胸の谷間に乗っていたセイリュウが顔を上げ、パタパタと羽ばたいて2人を見ると、その円らな瞳を驚愕に染めて、幼体化して2度目の甲高い叫声を張り上げた。

 

 

「こりゃぁッ! レックスゥ! スタクティ! お主ら一体なにやっとるんじゃあッ!?」

 

「じ、じっちゃん!? 目を塞いで屈んでてって言ったのに!」

 

「苔だの毒が回るだのと聞こえりゃ、そりゃ諸々解いて見回すわい!」

 

「ご、ごめん! でも、おかげで無力化できただろう……? やり方はアレだけど……結果オーライってやつだよね……ね?」

 

「この惨状を見て結果オーライもクソもあるかぁッ! ……いや、クソはあるんじゃが」

 

「う、う~~~……! スタクティさぁんッ! 何とか言ってよぉ!」

 

「セ、セイリュウ翁……これには深ぁい理由があってだな! そこの草むらに――」

 

「草むらも何もあるかぁ! とっととお主のそのみょうちくりんな業で水を取り出して、この周りを綺麗に掃除せぇいッ!!」

 

「メッセージに“これ”が有効だって書いてあったんですよぉッ!!」

 

 

 今まで一番情けない声を上げて、スタクティはセイリュウに対して言い訳を口にするも、返ってくるのはさらなる怒号だけだった。

 それから暫く、音からして水を辺りに撒く音と、それを何かと共に洗い流し、捨てる音が聞こえて来た。

 やがて音は少なくなり、完全にそれらが無くなった後、セイリュウが「もう良いぞ」と声を掛け、そこでようやくホムラとニア、ビャッコが目と鼻を開き、屈んでいた体を立ち上がらせると、そこには山のような形で積み重なれたスぺルビア兵士たちの姿と、何故か先程以上に綺麗になったオーベラ通りの光景があった。

 

 

「すごい……2人でやっつけちゃったんですか?」

 

「えっ!? あ、いや……まあ、ね?」

 

「すごいじゃんレックス! スタクティも、どんな作戦を考えたんだ? 完全にこいつら伸びてんじゃん!」

 

「――!? あ、いや……その……何というか……」

 

「……聞いてくれるな、ホムラ、ニアよ。こんなものは褒められるべきものじゃない。汚れた勝利じゃ」

 

「汚れた……? それはどういう意味で――」

 

「わぁー! わぁー! 何でもない、何でもないからッ!」

 

「そうだとも! さあ、さっさとこの兵士たちをどこかに放り捨てて、とっとと行こうじゃないか!」

 

「「……?」」

 

 

 妙に高いテンションの2人に、ホムラとニアは互いの顔を合わせ、怪訝そうに首を傾げる。

 そんな4人と1匹の光景を見ながら、ビャッコは1人(1匹)、解放された嗅覚で辺りを嗅ぐと、先程とは明らかに違う臭いを嗅ぎ取り、その顔を僅かに顰めた。

 

 

「……何でしょう。この瑞々しくも鼻をつくいやぁな臭いは……」

 

 

 呟くビャッコの少し離れ、草むらの中に記された“メッセージ”の下には、それとはまた異なる1つの“メッセージ”が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――なお 嘘である』

 

 

 

 

 

 




 もはや何も言うまい……。

 次回はいよいよ蒼炎のブレイドが登場です。
 皆さんの感想お待ちしております。

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