Xenoblade2 The Ancient Remnant 作:蛮鬼
あと、名前は出しませんがとある方から設定過多を指摘され、相応の評価を頂きましたが、このやり方を変えるつもりはありません。
もし同じように設定過多で読み辛い、あるいは不快に思う方は当作を読まず、検索除外やブロックユーザー化することをお勧めします。
そこまで気にならない方がいらっしゃるのなら、今後とも当作にお付き合い頂けると嬉しいです。
今回は以前出した活動報告の募集から、オリジナル不死人を1人選び、登場して頂きました。
それでは本編をどうぞ。
『俺が――俺が、世界を救うんだ……!』
――力はある。覚悟もある。だが求めている想いはそれではないんだよ。
『な、何でだ……何で俺の技が効かねぇんだよッ!?』
――過信に気付けぬまま死地へ赴いたか。……愚者を越えて道化だな。
『お前さえ討てば、この僕が世界の頂点だ……!』
――話にならん。
『万象掃滅』を成して幾星霜。
真なる闇が世界を覆い、深淵より新たな
神王――哀れなるグウィンによってもたらされた歪みは正され、世界は在るべき姿を取り戻しかけていた。
即ち、人の時代――我が師カアスが口にしていた『闇の時代』。
不穏さを孕む呼び名とは裏腹に、築き上げられた人の世界は混沌ながらも、かつての如き凄惨さは見られなかった。
ああ――そうだ。これこそが正しき姿。在るべき形。無謬の世界。
捻じ曲げられた理を壊し、新理を以て真理と成す、人理の地平。
紛うことなき正当であるからこそ――その正しさを歪める要因は排除せねばならぬ。
押し付けられた使命のままに狂い踊る勇者擬き。
己が力の過信に気付けず、無様に散り果てる強者気取りの弱者。
己が求道に殉じ、我欲のままに突き進む求道者という名の戦狂い。
どれも明確な危険要素であり、だが
いや――寧ろその時世への叛逆心を持つ者こそが、次代を担うに相応しいのかもしれん。
神王によって歪められたあの世界におけるかつての俺がそうであったように、俺という君臨者が頂に立ち、統べるこの当世に不満を抱き、剣を執って牙を剥く者こそが、次なる時代の覇者、その資格者だ。
ならば後は簡単だ。俺自身の目で見極め、選定すればいい。
富みや名声を求める俗物などは論外として、ただ力のある強者でも駄目だ。
確たる覚悟と意志。不退転の決意を宿し、何よりも強く歪みを――『悪』を憎み、廃さんと願う者こそが望ましい。
(もっとも、そのような輩が都合よく生じる筈もないがな)
深い嘆息と共に、腰掛けた石の玉座に身体を深く沈める。
歪みは正され、理も一新されたことにより『火の時代』より端を発したあらゆる事象、能力、概念は失われた。
それは不死人の持つ呪われた不死性も例外ではなく、そして不死性の喪失と共に、止まっていた老化も再動を始めた。
極限にまで鍛え上げた肉体は衰え、筋骨の弱化は当然のこと、臓腑の大半も今や病に侵され、機能を著しく低下させている。
只人に戻りかけているゆえか、かつて失った筈の飢餓や睡眠といった衝動が生じ、衰えた我が身に追い打ちをかけるが如く苛んでいるのだが……別にこれを不快に思ったことはない。
煩わしく感じたことはあれど、この苦痛こそは我が大業の証明。
歪みが正され、真なる人界が到来し、不死という呪いが完全に消失した証左である。
それを思えばこそ、この苦痛も不快には思わんのだ。
……だが、俺が求めたものは回帰ではなく根絶だ。
『火の時代』という最大の
だからこそ、只人への回帰は単なる弱体化でしかなく、この数千年の間、老いた身体を気力で補い、支える羽目となった。
認めたくはないのだが、あの不死の肉体は生存と戦闘においては最良の道具だった。
滅ぼすべき塵屑共、あるいは俺を討つに足る真の英傑を相手取るには、この老体でも特に不足はないのだが、万が一に
そんな思考の巡らせが縁となったのか。あるいは単なる偶然か。
懐かしくも忌まわしい、遥か彼方に忘却した筈の感覚と共に――
「……」
現れたのは異国の騎士――
俺に迫る長躯、その左右の腰にはそれぞれ二振りの得物を差し、静かながらも剣呑な雰囲気を醸し出しながら、兜奥でじっとこちらを見つめて来ている。
俺は
何せ昔――『闇の王』として君臨し、『火の時代』の全てを滅尽せんと邁進していた頃。
その時でさえ
「……驚いたな。この世界線においては、『火の時代』の名残りは俺を除いて全て消し去った筈なのだが……」
「そのようだ……この世界へ再び至るのに、私も随分時をかけた……」
抑揚の感じられない静かな声音で、二刀の不死者は告げてくる。
顔は兜で見えず、差した二刀も共に鞘に納められているにも関わらず、まるで首筋に刃を当てられているかの如き鋭利な殺気――否、剣気。
叩き付けられる剣気は凄まじく、だがその巨大さこそ、この男が
同時にそれは、俺を呆れさせるに十分過ぎる理由となり得た。
奴が放ってきた剣気。その凄絶さは、即ち重ねた死闘の数に比例している。
10や20の世界を渡り、そこに陣取る強者共と死合い、討ち果たした
百、あるいは千――否、この剣狂いならばそれ以上の数を重ねていたとしてもおかしくはない。
そしてその上で、奴は――
「随分と遠回りで来たみたいだな……俺も自分をしつこい性質だと自覚しているが、貴様も相当なものだな」
「かけた年月は忘れたが……お前のいる世界へ至るのに、それなりの時間は要した」
「ご苦労なことだ……が、その行為自体は称賛しよう。
例え無駄に時間を掛けたとしても、それ自体は紛れもなく『前進』であり、事を進めている証拠だ。
……だがだからと言って、報い代わりにこの命、くれてやるわけにはいかんのだよ」
「……意外だな。そして饒舌になったな」
「そうか? ……もしそうなら、この現状ゆえだろう。
俺の大願も、大半は叶ったようなものだからな。昔と違って急く必要もなく、舌を回せるだけの余裕ができたのだろうよ」
「かもしれん。……そして己の命を惜しむような言動も……かつてのお前ならば、あり得なかった」
「――くっ」
奴の指摘に思わず苦笑が漏れ出る。
苦笑とはいえ、笑みという行為を行ったのは果たしていつ以来か。
……確かに、言葉だけならば東国の剣士の言うように、己の命を惜しんでいるように思われるだろう。
だが俺自身、何も死が恐ろしくて今のような発言をしたわけではない。
今さら命を惜しむ気などは毛頭ないが、かと言ってむざむざと殺されてやるような真似はしたくないのでな。
何より俺には、まだ為すべき
それを以て俺の大業は仕上がり、我が悲願は完全なものとして成就する。
そのための我が命であり、いずれ訪れるその瞬間を望み、今日まで永らえさせてきた。
だから俺が奴に飛ばす言葉は1つ――
「今さら命は惜しまん――ただ、貴様如きにくれてやる命がないだけだ」
「――!」
瞬間、剣士が兜の内で双眸を見開き、天高くへと跳躍した。
筋肉をバネに変え、大地が砕き割れるほどの脚力で以て行われた大跳躍。
もはや飛翔も変わらぬ勢いで跳んだ剣士の真下では、極大の負念を纏う
「――相も変わらず、恐ろしい“凶剣”だ」
己の脳内で
直後、刃より放たれた斬撃が
それを手にした一振り――
「身体は老いさらばえようとも、その桁外れの意志力は健在か……加えて――『深淵』も未だ保持していると見える。……厄介な」
剣士はそう言ってきたが、それはこちらの台詞でもあった。
老いたとはいえ、俺の
「――
そもそも、何故『火の時代』の残滓が俺の前にいる。
例えそれが平らに連なる世界線――『並行世界』のものとはいえ、『火の時代』の欠片が未だしぶとく生存していることが我慢ならん。
腸が煮えくり返るような憤怒。脳を侵し、埋め尽くさんばかりの憎悪が湧き出し、溢れ出る。
己を除くこの世界の全ての『火の時代』の残滓を根絶し、それ故に久しく感じなかった憤憎の炎が、別世界からの
死ね――死ね、死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
何故生きている? 何故存在している? 貴様ら汚濁がどうして俺の視界に映り込み、当然の如くそこに居る?
ふざけるなよ、死ねよ屑共。貴様らが存在するだけで、この世が再び歪み、捻じくれていくのが分からんのか。
歪みは正さなければならない。汚濁は消し去り、拭わなければならない。
天地全てが穢れているのなら、その穢れの根を一切断とう。
万物一切が歪みを孕んでいるのなら、その全てを絶滅させよう。
全ては、いずれ至る『純白の地平』を築くために。
そのために――俺という
「だから死ね。歪みはもう要らぬ。
尽きて消えゆく
「断る――私はまだ……我が夢想に、届いていない……!」
秘剣――抜刀。
凶剣――解放。
遥か最果てにまで至る無極の剣閃と、万物の絶滅を成さんとする憤憎の奔流。
白と黒――剣鬼と魔王。
共に道を外れ、在るべき枠組みを超えてしまった『逸脱者』たちの衝突は、戦場を――かつて『最初の火の炉』と呼ばれた領域を震撼させた。
夢想と理想。互いが目指す願いの果てを掴み取るために――
今回登場して頂いたのはリーバーさんの不死人『“剣鬼”ヴァジュラ』です。
リーバーさん、募集に応じて頂きありがとうございました。
こういった幕間話、あるいは過去編のような話はたまに投稿していく予定です。
もしかしたらそちらの方に今回募集したオリ不死人たちを登場させる可能性が高いかもしれません。
次回もよろしくお願いします。