その一つに   作:アストラッド

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 おいおい……またバカな事を

 


この拳は貴方への忠誠 (前編)

 「お父さん……ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 父の背中を見ながら、涙を流し地面に顔を伏してい

た在りし日の私。 

 父は私を一瞥すると、申し訳なさそうな顔をしなが

ら出ていった……私はすぐに分かった、父はもう戻らな

いと……限界を超えたのだと。

 

 その日、私はずっと部屋に閉じ籠った。

 耐えきれなくなりそうだったのだ……自分のせいで家

族が傷つき、悲しみ、壊れていく。

 親友は最後まで気遣ってくれたが、その両親はそう

はいかなかった……そして、離れていった。

 

 「分かってる……分かってるよ……」

 

 悪いのは私だ、私がライブに行ったから……私があの

場にいたから……いや私が……

 

 ピンポーン

 

 呼び出し鈴が鳴る、どうせ何時もの嫌がらせなのだ

ろう……昼間に暇な奴もいたものだ。

 だが、足音が聞こえる……あり得ないが、客人だった

ら失礼にあたるからだろう、母が駆け寄っていく音だ

ろう。

 

 ーー!?ーー

 

 ーーー

 

 下が騒がしい、そう感じた私だったが……宗教の勧誘

か何かだろう、人の心を利用して何がしたいんだろう

か?私には分からなかった。

 

 コンコン

 

 ノック……私の部屋をノックしたのだろうか?何故?

友人などいなくなった、教師も私を腫れ物扱いする。

 

 「立花……響君だね?」

 

 「……はい」

 

 聞いた事の無い声だった、やはり宗教か何かだろう

か……だが信じる神なんていないし、いたとして何にな

るのだろうか。

 

 「君は、あのライブの生還者らしいね」

 

 「……はい」

 

 「学校でいじめを受けているらしいね」

 

 「……」

 

 学校に居場所もなければ、町にも居場所はない。何

処にも居場所なんて……それどころか、そんな資格すら

無いのだ。

 

 「君は……思わないのか?」

 

 「えっ……?」

 

 「ん?聞こえなかったかい?だから……」

 

 居場所うんぬんを考えていたからか、脳の処理が追

い付かなかったからなのか……それとも理解したくなか

ったからなのか。

 

 「殺したいと思わないのか?」

 

 その言葉を理解した瞬間、その言葉だけが……その文

字だけが頭の中を揺すぶり、かき乱してくる。

 

 「はぁ……はぁ……どう、して」

 

 「思わないかい?君が死ねば良かった、何故あの子

  が死なねばならなかったのか……それを、死にそう

  になりながら必死に生き延びようともがいた君に

  、心無い者達が言葉の刃を切りつけ、投げつけ、

  傷付けていく……」

 

 「それは……」

 

 「誰にも殺す権利は無い……だが、()()()()()()

  また無いのだよ」

 

 言葉の1つ1つが、心を満たしていく。と同時に、

恐怖も沸き上がっていく……私の中に、今の言葉を肯定

する部分がある事に。

 

 「わた……わたし、は」

 

 「君は?何がしたい……立花ぁ、響ぃ」

 

 この男の言葉は、何故ここまで私の心を揺さぶる?

何故、扉1枚越しに聞こえる男の言葉が、初対面でた

った2分も喋ってない男にここまで……。

 

 「……と……たい」

 

 「……ほう」

 

 「家族と……笑顔で、暮らしたい……」

 

 「笑顔で?」

 

 虫の良い話だ、さっきまで死にたいと思っていただ

ろうに。

 だが、この男の話を聞いていて思ったのだ……他人を

憎むのなら、殺そうとするのなら、そんな奴等とは関

係ない生き方をしたい。

 唯一望みが叶うのなら、家族全員で笑って怒って、

仲直りして……そんな生活が……。

 

 「そんな……私には……勿体ない位の……"幸せ"がほし

  い……」

 

 「……はははっ!そんな事か?本当にそれで良いんだ

  な?立花響ぃ!」

 

 扉越しだから見えていないだろうが、私は首を縦に

ふった……涙を流し、鼻水は垂れたままに何度も何度も

頷いた。

 

 「……今夜、君にサプライズプレゼントを送ろう。

  今日から、君は私の庇護下に入る……それが、神の

  恵みだぁ」

 

 その1時間後、父は帰ってきた……そして私を見るな

り抱き締め謝り続けた。

 

 「ごめんな……ごめんな響、1番辛かったのは響だっ

  たのに」

 

 「……お父さん……お父ざん……」

 

 父につられてか、私も泣いてしまった……これがプレ

ゼントなのだろうか?……私には、十分過ぎる。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「仕事がーー」

 

 「良かったじゃーー」

 

 「晩御飯はーーー」

 

 ライブ後の生活で、ここまで笑顔になれた晩御飯が

あっただろうか……少なくとも私の記憶にはなかった。

今でも覚えている、チーズの入ったハンバーグとご飯

、そして味噌汁とサラダだ。あの頃を考えると、久し

ぶりの豪華な食事だった……その理由も、その少し後に

見た番組を見て分かった事なのだが。

 

 

 「……ん」

 

 私はその日、珍しい事なのだが眠れなかった。

いや、他の家族が早く寝てしまったのだ。

 

 「……面白いの無いなぁ」

 

 夜の10時、大人が寝るには少し早く、私の様な

子供は寝る時間だろう。

 チャンネル表を吟味し、そんな時だ……視界に入っ

てしまったのだ。

 

 「『悲劇のライブ、その真相』……か」

 

 それを目にした私は、不思議と不快な気分にはな

れども怒りは湧いて来なかった。

 どうやら生放送らしく、番組情報もゲストや取り

扱うニュースの大雑把な情報しか書いていない。

 

 「……」

 

 普段の私なら見ることは無かっただろう……でも、

その時の私は見ることにした、()()から逃げたく無か

ったのだろう。

 私に憎悪を抱く人間という、真実から。

 

 『ーーですから、逃げ遅れた人間の殆どはこうい

  った他者を省みない人間のせいで亡くなったの

  です!』

 

 『彼等は人殺しです、何ら変わらないのです!』

 

 『家族が帰らなかった人達の苦しみを!』

 

 分からなくは無い……ノイズと言う災害で亡くなっ

た家族は、その怒りを何処へ向ければ良いか分から

ないのだから。

 

 「だから……」

 

 それを私……いや、()()に向けるのだろう。

 楽だろう、気が晴れるだろう、考えなくて良いだろ

う……そこに私達の事は関係ないのだから。

 

 『では、檀くんはこれについてどう思いますか?』

 

 「そうですね……私はやっぱり」

 

 司会者から質問された少年は、少しの笑みを浮かべ

ながら応じようとしている。

 何故だろう、その少年の声はテレビ越しだと言うの

にとても鮮明に聞こえた、目の前で話しているかの様

に感じる程だった。

 そんな私を他所に、少年は言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こんなに醜い行動を正義だ何だと言いながら、

  他者を追い詰める殺人集団だと思ってます」

 

 少年はあろう事か、専門家や芸能人が多くそろうス

タジオで自分の意見をオブラートに包まず、浴びせか

けたのだ。

 

 『どうゆう意味だね?』

 

 勿論そうなれば、彼とは反対の意見を言っていた専

門家は批判するために、真意を聞くだろう。

 

 「当たり前でしょう?生き延びた人々を罪悪感など

  抱かずにこう言うでしょう。

  『あいつが死んで何でお前が生きているだ』だの

  『代わりにお前が死ねばよかったんだ』だの……

  脳ミソにどら焼きでもつまっているのですか?」

 

 『それは生き残る為に下敷きにした人間が』

 

 「それは結果論に過ぎません、それに8割がそれで

  亡くなったのは事実ですが、他2割はノイズによ

  って亡くなりました……そして、事の発端もノイズ

  ……ノイズよりも先に殺人でもおきましたか?

  それなら貴方達の言い分も当てはまる」

 

 少年は余裕で、かつ感情的にならず言葉を紡ぐ。

 この少年の戦い方は、まるで騎士の様だ。

 

 『君には、遺族の悲しみが分からないのか?理不尽

  に家族を奪われた痛みが分からないのか!!』

 

 「……話にならない」

 

 『なに!?』

 

 あぁ、少年が上の、一方的な論争になるのだな……

と私には分かっ。

 何故なら少年は余裕の表情だ、負けるなんて考えて

ない……だが、絶対に正しいと言う表情でもない。

 とても柔らかい表情だ。

 

 「理不尽に迫害された人達は?その家族は?その後

  に遺族になった人は?……その痛みが貴方達に分か

  りますか?分かりませんよね、先に失った人は、

  恐怖を植え付けられた人達に何でもして良いと思

  っているのですから」

 

 『だが!』

 

 私は引っ掛かった……()()()()遺族になってしまった

と言う言葉が。

 それもすぐに答え合わせがなされた。

 

 『家族を亡くした人間に、家族が助かった人間の何

  がわかるんですか!!それを知らないで』

 

 「貴女はあのライブで息子さんを亡くしたそうです

  ね……と、言うことは貴女は生き残った人物達は皆

  死んでしまえばいい、自分と同じ痛みや苦しみを

  味わえばいいと……そう仰る?」

 

 『そんな事!言ってないでしょう!!』

 

 「なら貴女は生き残った人間の気持ちを知っていま

  すか?私は生還者へ話を聞く機会がありました、

  彼は震えながら話してくれましたよ。

  『目の前で友人が灰になった、怖くて怖くて仕方

  無かった……あいつの事が頭から離れないんだ、手

  の伸ばしながら、泣いて消えてくあいつの顔が……

  いつまでも消えないんだ』……その数日後、彼は自

  殺未遂で搬送されましたよ」

 

 『それは……』

 

 「彼の家には罵詈雑言の落書きや生ゴミ、挙げ句包

  丁なんかも散乱していました……これならノイズの

  方がまだマシですね」

 

 『何だと!いくら子供だからって言っていい事と悪

  い事があるだろう!!どんな教育を受けたんだ!

  君は!!』

 

 その瞬間、少年の顔色が少しだけ変わる……見えるか

見えないか、こめかみの血管が少しだけ隆起しており

、ほんの少しだけ周りの肌が赤くなっている。

 私は、少年は起こっているのだと思った。

 

 「ではお教えしましょう。

  私は三年前、両親を亡くしました。

  どうやら紛争地域での活動中、社長の座を狙う馬

  鹿の依頼によってテロに見せ掛けて殺害したよう

  ですよ?」

 

 『なっ!?』

 

 流石の専門家も、予想外だったのだろう。

 だが、少年は止まらない。

 

 「そんな馬鹿を警察にお引き渡し、様々な手続きを

  完了した私は今日まで社長として奮闘しました。

  そんな時、ライブ事件が起きましたよ」

 

 深呼吸をし、そこからまたゆっくりと話す。

そんな様子が、私にはとても輝いて見えた。

 

 「私の部下の家族にも被害がありましてね……正直

  不安でしたよ。

  とある部署の部長の娘は、全治2ヶ月だが生きて

  帰ってきた。それを部署の皆で喜んだそうだ……

  だが、皆知らなかったそうだ。

  その部長と一番仲が良かった部下の妹がライブで

  亡くなっていたんですよ……灰になってたならまだ

  救いはあったでしょうが、死因はそれこそ下敷き

  にされ踏みつけられた首が折れた事による窒息死

  でした」

 

 『それなら!』

 

 「だが!彼は部長を恨みもしなければその娘さんを

  殺そうともしませんでしたよ……『悪いのは部長で

  も娘さんでもない、ノイズなんだ』と」

 

 その言葉に、心が軽くなった……許された気がしたの

だろう。

 私に向けられた言葉ではないが、そう思えた。

 

 「誰がこうさせた?何故こうなった?……貴方達メデ

  ィアが煽ったからでしょう、そうでしょう?」

 

 『え、いや……』

 

 「メディアからの情報でそれを信じた人はこう思う

  でしょうね。

  『こいつらは悪だ、死んで当然だ』

  そして、人を殺す……だが、メディアは違う。

  人を"殺させる"のが情報だ、それを自覚していない

  のが問題なんだよ……だから」

 

 私は……生きたいと望んだ、幸せになりたいと。

でも、そうなって良いか分からなかった……でも、救わ

れたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私が保証しよう、君達は幸せになる権利がある」

 

 

 

 

    この誰よりも優しい神様に。

 

 

 

 

 

 

 




 な な な な
 に に に に
 こ こ こ こ
 れ れ れ れ
 ぇ ぇ ぇ ぇ

 わたしにも分からん

 気が向いたら後編書くよん(書くか決まってない)

 
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