主人公がどんな人間なのかを描ければと考えて書きました
少し違和感を覚える方もいるかもしれませんが、とりあえずは本編どうぼ
「………………………」
現在、エネルはこの街全体を見通すことのできる山の上に立つ電波塔にあぐらをかいて座っていた。ガチガチに硬い雄英の学生服を脱ぎ、かと言って素っ裸になるわけにもいかず、一旦帰宅して上と下を脱いだあと、何とは無しに目についた先々月まで着ていた規格外のサイズの中学生時の学ランを羽織り、ズボンを履き、ベルトを閉めたあと、電波塔の上にてくつろいでいた。時刻は13:00。いつもならちょうど昼飯の時間帯、さすがにクックヒーローと名乗るだけはあるランチラッシュの極上の一品に舌を唸らせている時間帯であるが、今日はカロリーメイトで昼を済ませて、一人仙人のように町全体を見下ろしていた。
「(………おれは、何がしたいんだ?)」
そう心の中で自分に問いかけるエネル。いや、前世の彼と言った方が的確かもしれない。
―――――エネルに憧れたのは間違いない。彼に魅せられたのは違いない。―――――だが、エネルになるのは失敗だったのかもしれない。そもそも、人間は自分が為せない偉業を為せる他に惹かれるものだ。
……傲岸不遜ではないから傲岸不遜に惹かれる、力が無いから力に惹かれる、見下されたから見下すものの立ち位置に惹かれる。
俺は肉親を愛して、友に敬意を払い、悪を罰することのできる至って普通の、どちらかと言えば善よりの人間だとは思う。こと中身に関しては。
…こう考えれば、俺はエネルとは対極の位置にある。であればどうして俺がエネルを体現できるんだ?俺は俺自身として、外側だけ借りてイキっているだけでは無いのか?
「………………」
最近、彼が少し考えることがあった。それは、彼がどちらの立場なのか。すなわち―――――ヒーローか、はたまたヴィランか。
彼は知っている、僕のヒーローアカデミアという作品は聞いたことがある程度。だが少なくとも、漫画の世界であることを知っている。であれば、おかしい。彼―――――エネルが、少なくない影響をそのストーリーに現時点で及ぼしている。もはやオプションとか、そう言ったレベルでない規模でその漫画の軸に関わっている。事実、先日の戦闘訓練において、どう考えてもこんな最序盤で死ぬわけがない生徒一人の命を救った、かもしれなかった。
別に、彼は自分の影響で本来のストーリーからかけ離れてしまうことに何の心配もしていない。そもそも、彼にとってもはや漫画とは思えない現実の事象として事件が起こり、母が父が、肉親が、友ができている。思う存分自身の人生を謳歌するつもりである。
選択肢が二つある。一つは、というかおそらく、いかにも主人公っぽい奴らと入学時期が重なったし、オールマイトの勤務開始年度とも一緒だったから、十中八九こちらの路線で進めと言われているようなものだが、このまま(おそらく)主人公達と一緒にヒーローを目指し、時には苦難―――彼に苦難と呼べるほどの事件が起きたらとんでもないことだが―――に立ち向かい、悪の親玉を打ち倒す、ヒーロー路線。
もう一方は言うまでもなく―――ヴィラン路線。
別に、エネルを体現するために悪に染まりたいとか、そういったわけではない。ただ――――――退屈しなさそう。それだけ
「(だが、既に俺はA組の人間にそれなりに影響を与えている。……別に今すぐA組から抜けるというわけでもないし、ヴィランになることは未だに考えてはいないが―――俺があの枠組みから抜けても支障は出ないのか?俺はあの中から抜け出しても問題ない歯車なのか?
―――もし、仮に、ヒーローを目指すことをやめて、ヴィランを目指すとしたら、あまり俺が影響を与えていない最初の頃に雄英を抜けた方がよい…か)」
そんなことを考えながら、遠く一点を見つめるエネル、もとい"
「………………………」
何も語らないまま、顔だけしかめて、スマホを取り出し時間を確かめる。時間はまだたっぷり存在する。いつもならば、A組のアホどもと話し合っていれば瞬であるのだが、と、一人ごちる。
………雄英に来て早三週間が経とうとしていた。なるほど、たしかにここが出発地点。漫画で言うところの第1巻なのだろう。そう思わせるだけの波乱の日々。にしても、ぬるすぎる。俺が望んだ結果だ、文句を言っても俺にしか帰ってこない。俺が望んだ退屈だ。自業自得だ。
「………八百万と、上鳴は、成長したのか?あいつら…」
もっぱら退屈な彼の人生における、現時点での楽しみの一つでもある、彼らの成長。そんなことに気を移すこと自体が、彼がいかに暇であるのかを物語っていた。雄英に来てからの最初の数日間、たしかに見たこともない個性の人間達がドッと増えて、環境も変わり、少し興奮はした。―――そして、知ってしまった。なるほど、俺はこの世界において、強すぎる。数日もすればその環境の変化にも慣れた。そして自覚する。この世界の最高峰とはいかないまでも、それなりの強者のレベルというものを。なんとも低い。雑魚の集まり。
「………裏の舞台には、もっとおるのかもしれんな…」
退屈しのぎにヴィランを求める生徒がいるとは露も知らない雄英の教員達。当の本人はというと、午後の授業が始まる五分前まで、その後も己の中で煩悶し続けるのであった。
―――――てことで、明日は13号と俺、そしてオールマイトの3人体制で訓練施設で体動かすから、今日は君たち早く寝ましょうね。はい、以上でホームルーム終了、解散」
気の抜けたような相澤の言葉とともに本日の授業、そしてホームルーム終了の知らせを告げるチャイムが鳴り響く。すぐに教室から出て家に直行する者もいれば、教室に残って談笑する者、放課後も残って自習を続ける者など様々である。普段であればエネルは上鳴と八百万の訓練に少し付き合ってやるのだが―――少々様子がおかしい。
「…どったの?なんか覇気ないけど」
顔色を窺いながら、エネルに尋ねる上鳴。その言葉に、ぼーっとしている様子であった彼の視線がジロッと動き上鳴を捉える。少しびくついて、な、なんだよっと返事をする。
「………上鳴、その後の進展はどうだ?」
「進展?んー、まぁ、電荷の操作はそれなりに、実戦でも使えるんじゃね?ってレベル。まぁ相手に一回電気を与えなきゃってのは変わんないけど、あと出力もちと上がった……てきな?」
「ふむ………八百万はどうだ?」
二人の様子を少しさがって見守っていた八百万にも質問が飛んでくる。
「私は…分かりませんわ。単純に手数なら揃えている…つもりですけれど、個性の性質上、やはり実戦してみませんと私の対応能力がどの程度向上しているのかは測れませんし…」
「ふむ…それもそうだな」
いったい、唐突になんなのだろうかと、様子のおかしいエネルを眺める二人。その後もエネルが黙って何も言わずにジッと動かず、どうしたものかと、というかどうしたのだろうと困惑する二人。するとやっとこさ彼が口を開く。
「…お前たち、今日は自分たちだけで訓練しろ、俺は少々用事がある」
そう言って、カバンを背負い椅子から勢いよく立ち上がるエネル。ちょっとちょっと、と、声をかける暇もなく、ズカズカと扉の方へと歩いていく。喧しく談笑していた面々も、なんだか雰囲気のおかしい彼に気づくのであるが、それも束の間。何も声をかけられず教室から出て行くエネルであった。
「…上鳴、お前、エネル怒らせるって何したんだ?命知らずかよ」
「お、俺じゃねぇよ!!」
――――――別に、訓練くらいは手を貸してやっても良かったかもしれんな。そんなことを考えながら、廊下を歩いて雄英の玄関口へと向かう。別に普段も校内を歩いているというのに妙な視線を今日は一段と感じる。何がおかしいのだろうか。
「………なんのようだ、蛙吹」
「ケロ、バレちゃったわね、あと梅雨ちゃんと呼んで」
人混みの中に紛れて、さっきからそんなことをする必要もないだろうに、気配を殺すとまではいかないが、そっとエネルのあとを付けるような足音が一つ。周りにはちょうど下校のタイミングで多くの生徒がおり、その雑多な足音の中から後ろを振り返ることもなく、どうやって分かったのか不思議なことではあるが、そんなことよりも聞きたいことが一つ。
「大丈夫かしら?エネルちゃん、様子おかしいわよ」
「…おかしい?……どこがだ?」
「なんだか怖い顔してるし、それに何より、
そう言われて納得するエネル。なるほど、周りの人間たちのこの奇怪なものを見るような視線はそれが原因か。
エネルは普段、下校時になると雷になって廊下を歩かずとっとと家まで飛んでいくか、もしくは上鳴、八百万の訓練に付き合ってやるかのどちらかである。普段は人混みでごった返すこの時間帯には廊下を歩いていない。こんなに目につく人間が歩いているからこそのこの視線。
その視線の意味に気づき俺は見せ物じゃないと言って少しガンを飛ばすと、蜘蛛の子を散らすようにサッと消えていくギャラリーたち。あとに残ったのはエネルと蛙吹だけであった。
「…エネルちゃん、なんだか苦労してそうね」
「もう慣れた、いつものことだ、鬱陶しいことこの上ないがな」
蛙吹の同情するような視線が気に障り、その場をあとにしようとするが蛙吹がそれを許さない。歩を進めようとした矢先にまたもや質問を飛ばしてくる。
「で、なんで歩いて帰ってるのかしら?」
「…気まぐれだ。それとも何か、私が歩いて帰ってはいけないというのか?」
そんなことは言わないけど、っと、少々声を小さくして返答する蛙吹。そんな彼女を一瞥して、ふんと鼻を鳴らし何を返すわけでもなく足早に去っていくエネル。
「………なぜついてくる」
「ケロ、ついて行くも何も、私だって今から帰るもの」
「…そうか」
そう言われると返す言葉がなく、再び止めていた足を進める二人。どうしてついてくるんだと言いながら、無意識的に蛙吹のペースにエネルが自分のデカすぎる歩幅を合わせていることに関して、気づいていながらも特に突っ込むことはしない蛙吹であった。
「エネルちゃんはどうやって学校来てるのかしら?歩き?自転車?バス?それとも親の送迎?はたまた電車とかかしら?」
「…どうでもいいだろうが、そんなこと」
「ケロ、お友達だからどうでもいい話をするのよ、エネルちゃん」
なんともやり辛いやつだとため息を吐きながら、個性だと答えると大きな瞳をパチクリさせる蛙吹。あぁなるほどと納得の言葉を漏らす。
「そりゃあ、帰るときも個性使ってるんだから来るときも使ってるわよね。エネルちゃんの家ってどこらへんなのかしら?」
「……………必要か?その情報」
「必要ないからこそ必要よ、どうでもいい会話には」
先ほどから上手いこと乗せられているように感じて、少し癪に触るが、観念して自分の在住県を言うと、驚いたように瞬きを繰り返す蛙吹。
「………五つも県またいでるのね、エネルちゃん」
「親の仕事の関係でこちらに引っ越すこともできんし、かと言って俺だけこちらに借家するというのも金がかかるしな、なにより実家が一番落ち着く」
「あら?意外と家族思いなのね、神は孤高だとか、そんなこと言うのかと思ったわ」
その言葉に、ピタッと足を止めて、あからさまな反応を示すエネル。蛙吹はというと、少し戸惑ってエネルの顔を見上げてみると、顔は動かさずにこちらを目だけでジロリと見下ろしていた。怒っているようにも見えるエネルの顔を見て、これは、地雷を踏んじゃったのかしらと焦りながらも謝罪をしようとするが、先にエネルが言葉を発する。
「…おれは、そんな人間に見えるか?……そんなことを言いそうな見た目をしているか?」
「あ、あの、エネルちゃん?ごめんなさい、少しさっきからズケズケと突っ込みすぎたわ」
その言葉を聞いているのかどうか、エネルはジッと蛙吹を見下ろしたあと、唐突に歩き出して蛙吹をその場に置いて行く。とっさに蛙吹も追いかけようとするも、背を向けた状態のエネルが立ち止まり小さな声で呟く。
「………まぁ、エネルならそうなのだろうな…」
エネルならそうなのだろう、その言葉の意味が分からず、困惑続きの蛙吹にまたもやエネルが言葉をかける。
「……………蛙吹よ」
「………なに?……それと、どうして今日は梅雨ちゃんと呼んでくれないの?お友達でしょ?」
その言葉には返事を返さず、エネルが、次のように蛙吹に言葉を投げかける。
―――――私に、ヴィランは似合うか?―――――
「――――――――――――――」
息を飲む。恐ろしい。彼が一瞬こちらを振り向いたときの顔を見たが、恐ろしい。別に、こちらを威圧するような目で見てきたわけでもないし、ゴミを見るような目で見てきたと言うわけでもない。顔に意志が現れていた。安っぽい意志が。しかし、本気でもありそうな、軽い感覚でやってみようといった感情が露呈していた。
まるで―――――ちょっとヴィランやってみようかな、みたいな。
もう少し付け加えれば、別にヴィランも悪くないかな、みたいな。
「……ふふ、なにも言わんか。やはり私はこちらの方が似合っているのかもしれんな」
そう言われてハッと意識を切り替える。なぜ先ほどの言葉をすぐに否定してやらなかったのか。
「違うわ、エネルちゃん!似合うわけ「今更取り繕うな、先の無言こそが答えだ」
その言葉に下唇を噛む蛙吹。たしかに、彼に今し方感じてしまった―――――恐怖を。否定しようもない事実。そんなことを考えていると、エネルの体の縁に青白い雷光が漂っていた。個性発動の、もとい、帰宅の合図である。まずい、このまま帰したら、何かまずい気がする。かと言って、かける言葉もなく、最後は結局己の願望を言うだけであった。
「…………エネルちゃん、梅雨ちゃんと、呼んでちょうだい」
「………………………ふん」
梅雨ちゃんと言う言葉の音の代わりに、空中を雷が走る、鼓膜をつんざくような音を残してエネルの姿が消える。あとに残ったのは、呆然と立ち尽くし、少し悲しそうな顔をする蛙吹であった。
「どうしちゃったの?エネルちゃん………」
「あんた………高校生にもなって、なんっっっってガキくさいことやってんのよ………」
「………返す言葉もない」
現在、エネルは自宅にて母親と対面して椅子に座っていた。普段では想像しようもないくらいにばつの悪そうな顔をして、汗たらたらで足と手を揃えて綺麗に椅子に座すエネル。その向かい側には、あきれ返るような顔で、エネルの顔をジッと眺めてため息を流すエネルの母。
ことの始まり、というほど大層なことがあったわけでもない。先ほど蛙吹と半ば一方的に別れて0.1秒にも満たない帰路につき、そして自宅前に到着したわけだが、少し冷静になってさっきまでの自分の行動を省みてみると、なんともみっともないことこの上ない。自分個人の問題で煩悶し、周りの人間に当たり散らし、挙げ句の果てに相手の言葉を遮って突き放し、あまつさえそのまま放置。謝罪の一つもできずに飛んで帰ってきた。クラスメイトに冷たくしたとかではなく、単純に人としてダメな行為をしたことにムシャクシャしていた。
「なんでいつにもなく落ち込んでるのかと思ったら、あほくさい…」
そして、そんな自分に嫌気がさして暗い表情で家に入ったところ、母親に見つかり尋問され、理由を吐いてしまった次第である。さすがに、ヴィランになろうか迷っているとは言っていないが、少なくとも自分のやりたいことが分からずに嫌気がさして、周りに当たり散らしたとは正直に白状した。その後の母親からの言葉の罵詈雑言、もはや言い訳の余地は無かった。
「で?何をそんなに悩んでいたの?言えること?言えないこと?」
「……………前者よりの後者、いや後者よりの後者だな」
「…なんであんたは普通に返事ができないのかねぇ」
どこで育て方ミスったのかとため息をつくエネルの母。違うのだ母よ、育て方は何一つ間違っていない、ひとえにこれは俺のロールプレイが原因なのだと叫ぶも、心の声は届かない。
「先日まで見込みのある奴を見つけたとか、初めて膝をつかされたとか、人生の絶頂期みたいなこと言って喜んでたのに、それがどうやったら1週間でこんなことになんのよ……」
「…それは……まぁ、ゲームって序盤が一番楽しいよね、みたいな…うむ…」
「…いや分かんないよ、うむって言われても…」「………」
そして沈黙が訪れる。時刻は夕方、静寂が支配するリビングの一室にカラスの鳴く声と、キッチンで煮込まれる肉じゃがのぐつぐつという音か鳴り響く。互いに何を言うまでもなく、母は息子を睨みつけ、息子はその視線に耐える、というか逃げるように下を俯いていた。
ここで、エネルが初めて言葉を心の内を明かす。
「………母よ、俺は、やるべきことをやるべきか?」
「いやまぁ、大抵の人がそうでしょ、やるべきことがあるならすべきでしょ、そりゃ」
何言ってんだコイツと言った視線で自身の息子を見つめるエネルの母。すると、さらに踏み込んだ質問を、というか後々になって考えると何故こんな血迷った質問をしたのか分からない問いかけをするエネル。
「…母よ、私は、ヒーローよりも、ヴィランの方が似合うか?」
その言葉に、流石に平静を保てずギョッとするエネルの母。
「………友達に言われたのかい?」
「そうではない、ただ、こんな見た目だ。馬鹿でかい図体に、この喋り口調。他人への態度。これらはもはや矯正できん。個性だってそうだ。殺傷能力が高く、はっきり言って無敵。周囲と中々に馴染めん。俺を忌避する者がいてもおかしくはない」
暇つぶしにヴィランになりたいなどと言えず真実を言うことは避けるが、かと言ってあながち間違いでもない悩みの種を一つ打ち明けてみる。それを聞いて、こめかみに血管を浮かべるエネルの母。そして机から身を乗り出し、
「………ハァ…………このッッ、バカ息子ッッ!!!」
そう言いながら、エネルの頬に平手打ちが飛んでくる、が
――――――――――パシッ
「愛ある母の拳を止めてんじゃないよッ!!!」
なんとも空気が読めないというか、素直に平手打ちを受けずに飛んでくる母の腕を握って直前で止めるエネル。
「…いや、そんなことをしても俺にダメージはない、それに……」
「なんだいッッ!!」
まだ何かダラダラと言い訳まがいの言葉を口から垂れ流すつもりかとエネルの言葉を待つ。
「……母よ、痛いだけだろう、そんなことをしても」
「そう、それ」「?」
いったい何が、"そう、それ"、なのだろうか。エネルが手を離すと椅子にドカッと座って肘をつき、手に顎を乗せながら続きを話す。
「あんた、根本的にヴィラン向いてないよ。生粋のヒーロー育ちだね」
「………?なぜだ?」
「簡単よ、あんた、無意識で人のこと気遣う癖がついちゃってるのよ。さっきもあたしの手、止めたでしょ?」
「…いや、それは、やる意味が無いというだけ「でも止めたのは事実」
言葉につまり、視線をそらすエネル。
「あんた、いろいろ理由つけて結局は他人がいないとダメってだけでしょ。しかも、どこでそんな知識をつけたのかは知んないけどさ、同年代よりも達観した目線。まぁ、なんだろうね、あんたの他人への無意識的な気遣い……親心的なやつかしら?」
「…俺はまだ15だぞ…」
「ま、バカなこと言ってないでさ。あんたにヴィランなんかできっこないから、今の所はヒーロー続けときなさいな」
そう言いながら椅子を引き、外していたエプロンと三角巾を身につけて、リビングと吹き抜けになっているキッチンへと歩いていく彼女。肉親の言葉に特に何か返答するわけでもなく、ジッと思い悩むようにテーブルの一点を見つめるエネル。
「…最良じゃないにしても、悪くはないんでしょ?今の学校生活」
「………まぁ、そうだな…」
「じゃあ続けときなさい、贅沢言わずに。あんたも言ってたじゃない自分で。"いつか俺を倒す勇者の一人でもあらわれるかもしれん!!"、だったっけ?気長に待ちなさいな、旨いものってのは作るまでに時間がかかるもんだからさ、……ほい」
そう言って、今日の晩飯であろう、煮込んでいた肉じゃがを器に入れて持ってくる。鳩が豆鉄砲を食ったように、目を点にして瞬きを繰り返すエネル。
「………晩飯だろう?これ。……先に食うのはいかんだろう…」
「味見よ、味見。飯食ったらさ、気も多少は晴れるだろうから、ほらさっさと胃にしまって、これ」
味見という割には少し多いような気がしないでもない、皿に盛られた肉じゃがを無理矢理エネルに押し付ける。観念したように右手で持って、箸も使わずに熱々の汁ごと一口で口の中に含む。やはり飯を食うときは人間無心になれるようで、我が子の気持ちいいほどの食いっぷりに少し安堵の息を漏らしていた。
「…どう?旨い?」
「…ふぅ………時間をかけたのがよく分かる味だった…」
なんでこう、周りくどい言い方しかできないのかと、少々思うところはあるものの、エネルの表情が和らいだことに取り敢えずは安心しておくとするエネルの母。
「んで?気も落ち着いたし、謝りに行く?」
「…………………………」
「気乗りしないかい?それじゃあ、無理はしなさんな。明日でもいいからさ」
「…………すまん」
「母親に向かって"すまん"、はどうかと思うけども、私に謝ってどうするんだい。謝る相手は友達と―――
―――ヒーロー目指した自分自身にでしょ?」
口元を緩めてエネルを一瞥したあと立ち上がり、エネルの手元から空になった器を持ち上げて、エネルに背を向けキッチンへと歩いて行き調理の続きを始める。
―――――ヒーローを目指した自分、果たして本当にそうなのだろうか。雄英に入ったのも、ただ有名だからという理由と、あとは流れに身を任せただけである。しいてヒーローを志した理由を挙げるならば、現社会においてヒーローがカースト最上位に位置するため取り敢えずそこを目指そうと思っただけであるが、果たして本当に俺にヒーローとしての素質があるのだろうか。そもそも、強い奴と出会いたい、その一心では無かったろうか、最初は。
「………まぁ、あいつらの顔を見なくなるのは少しつまらん、か…」
言い訳にも近い言葉で自分をごまかし、階段を登り自分の部屋へ行くエネル。100キロを超える自身の肉体をベッドに預けてギシリときしませる。天井を眺めながらこんがらがった頭の中を整理しようとするも、やはり己の中で葛藤を繰り返す。
今日はなんだか、寝つきが悪そうだなと考える彼であった。
こんな形で、本編で葛藤を繰り返して、主人公には精神的な面で成長していって貰います。果たしてエネルは理想のエネルになれるのでしょうか。それではまた次回
どちらにしましょう。
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続行。
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リメイク。