ヒーロー名"神(ゴッド)・エネル "   作:玉箒

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少し待たせてしまってすみません
とりあえずトーナメントの対戦カード組みました
これで正解……かは分かんないけど、取り敢えずこれで
それでは本編どうぞ


22話:圧倒

 

 「なんだこの体たらくは、バカもの」

 

 「……………うるせえええええッ!!!これでもこっちは全力なんだよッ!!!!」

 

 先ほど、最後の一人がスタジアム内に到着して第一種目終了を告げるアナウンスが鳴り響き、エネルもグラウンドに降り立ち上鳴の元へ歩いて行ったところであった。何となく、彼も何を言われるのかは察していたが、16位とそれなりに貢献はしたつもりであったため、エネルの暴言に珍しく反論したところである。

 

 「緑谷を見習え、個性無しで己のフィジカルだけで2位という大健闘、いや、フィジカルを持ってしても届かない爆豪や轟との差を頭の機転で補った、流石だな。それに対して貴様は何だ?強個性を持っておきながらやったことと言えばロボの破壊と地雷の探知ぐらいか。3、4位どころかトップ10にすら入れない始末。選手宣誓でアレほど持ち上げた俺の気も少しは理解して欲しいものだがな。はあぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁ………」

 

 「………………………」

 

 上鳴だけで無く、周りにも聞こえるほどのクソでかため息をつくエネル。言い返す言葉もなく、ズーンという擬音の文字を幻視してしまいそうなほどの落ち込み様。少し、見ていて悲惨ではあるのだが間に入って止める者も特にいるわけでも無し。生徒達が各々ゴール後に時間を潰していると、ミッドナイトの号令がかかり一次種目突破者、上位42名が彼女の前に集められる。

 

 『あんた達!見事第一種目を突破したからって気ぃ抜いてはいられないわよ!第二種目は……予選通過者42名による、騎馬戦ッ!!!』

 

 今度は無双するわけにもいかなそうだと、騎馬戦というチームプレイ競技に関して考えを巡らせる。まぁ、ただの騎馬戦のはずが無い。とりあえずは大人しくミッドナイトの説明を聞くエネル。

 

 『早速だけどルール説明!のまえに、これが、貴方達の今の持ち点!すなわち、騎馬戦で奪い合う貴方達の生命線!!順位に応じた点数が割り振られるわ!』

 

 そう言って、手に持つ鞭を振るうと2位から42位までの点数がミッドナイトの背後の巨大なモニターに表示される。2位の緑谷から42位の青山までその点数の差は歴然、天と地の差。上位に立ったからこその狙われる立場に慄く緑谷であったが、その後のミッドナイトの言葉に戦慄する。

 

 『そして!上を行く者には更なる受難を!!予選通過一位、(ゴッド)・エネルッ!!!持ち点脅威の―――――

 

 

―――――()()()()()()()ッッ!!!」

 

 彼の周りに立っている者達の視線が一挙に彼へと集中する。選手宣誓の際の挑発も合わさり、相乗効果で視線の鋭さが増していた。それに対してエネルはというと、太々しく笑うでも無い、その視線に応えて睨み返すわけでも無い。あいも変わらず無愛想な顔で視線の先はミッドナイトへ向けたまま。さっさと続きを話せと眼光で威圧する。

 

 『今から貴方達には制限時間15分内に騎馬を作るための騎手と馬役を決めてもらうわ!そして、騎手役には騎馬を形成する全員の合計点が書かれた鉢巻が与えられる!それを試合の制限時間内に取り合う、言わばバトルロイヤル!鉢巻は必ず首より上に巻くこと!制限時間終了時点の保持ポイントを競う競技よ!!』

 

 ふむ、と呟いて顎をさすり少し下を向いて考え込むエネル。少々困ったように頭を回転させる。持ち点一千万、この時点で自分と組もうという人間がいるのかすら怪しい。騎馬を作るためには最低でも自分と、もう一人騎馬か騎手がいる。実際には身長の関係上、自分が背負われるわけにはいかないため、騎手を探す必要がある。一人くらいは見つかるだろう……多分、と心の中で呟くも、本当にいるのかと不安になってくる。

 

 『そして最も重要なのが、例え鉢巻を取られても、騎馬が崩れても、アウトにはならないってところッ!!』

 

 ミッドナイトの言葉を聞いて生徒達が互いに言葉を交わして作戦を立てる。騎馬を形成する人数にもよるが、42名から成るおおよそ10〜12組の騎馬が途中脱落など無しで死に物狂いで襲いかかってくる。中々に熾烈な戦いになりそうな予感に、各々が心を奮い立たせる。

 

 『騎馬戦中は個性発動有りの残虐ファイト!でも、あくまで騎馬戦!悪質な崩し目的での攻撃はレッドカード、一発退場としますッ!!

 

―――――それではこれより十五分!チーム決めのスタートよ!!』

 

 何の前触れもなく、いきなりチーム決めのタイマーがスタートする。騎馬を作るために、またメンバーを他の騎馬に取られないために目当てのクラスメイトに駆け寄り話を持ちかける。エネルもこればかりは悠長にしている訳にもいかず、ダメ元で誘うために足を進めるのだが、

 

 「エネルー、俺と組もうぜーーーーー」

 

 「……先ほどアレだけ罵倒されたのに、よく頼み込めるな。まぁ私も組んでくれるというなら助かるが」

 

 先ほどの落ち込み様からは一転、いつもの調子に戻ってエネルに声をかける上鳴。特に策は考えておらず、単にやりやすい相手を選んだといった感じだろう。

 

 「んじゃオッケーてことね。他に誰誘うよ?八百万は轟と組んでたぞ」

 

 「いや、お前がいるなら他はいらん。俺が騎馬でお前が騎手だ。最悪騎馬の形さえできていればルール上問題ない」

 

 「いやそりゃそうだけどよ、大丈夫か?どうせ一千万のお前がいる時点で、メンバー誘えば誘うほどポイントを奪われる可能性も高いっていうデメリットなんか無いようなもんだし」

 

 「問題ない。正直、無理だろうがお前がいれば最善だと考えていた。その場合は幾人か誘う必要が出てきていたが、お前がいるなら二人で大丈夫だ」

 

 第一種目終了後の罵詈雑言とは打って変わって、何か、今までに無いくらいに上鳴を持ち上げる。別に本人は無意識に思ったことを言ったまでであるし、上鳴を誘おうと思った理由を本人に話せばガッカリするのだろうが、そんなことは知らない上鳴はというと少し戸惑い気味に、けれども浮かれ気分でお、おう!とだけ返答するのであった。

 

 「その前に、一つ聞いておくことがある、上鳴」

 

 「んあ?…………何?」

 

 少し真剣な顔つきで上鳴を見つめるエネル。浮かれ気分でニヤニヤ顔であったのを止めて、こちらも真剣な顔つきで見つめ返す。

 

 「……俺は、まずおそらく敗北は無いだろうという策を一つ思いついた。これは、最低二人は必要である騎馬戦にて、お前と俺だからこそ使える策であり、おそらく最適解ではある。しかし……卑怯だ。私はそう思わんが、やはり、周りから見て卑怯に見える」

 

 「…………」

 

 「お前がヒーロー然として戦いたいなら今すぐに俺の元から去り他の騎馬の元へ向かうといい。お前の個性は私ほどで無いにしろ強個性であるのはそれなりにA組の人間には知れ渡っている。まだメンバーを決められていない騎馬も多数。お前なら何処かしらは入れるだろう」

 

 自分を気遣ってのエネルの言葉。彼の策がいったい何なのかは分からないが、そもそも分かるわけがない。理解できたことなど無い。今まで、一度も。予想を覆すのがこの男。何でもできてしまいそうなのが、この男。自分でも想像に及ばない、何か非道な策を思いついたのかもしれない。もしかすると、彼と組めばヒーローとは思えない、といった目で見られてしまうかもしれない。けれど、

 

 「…お前らしくねえな。いいじゃねぇか?別に。第一種目のときだって同じことだぜ?着いてこられないやつが悪い。今更何しようが、悔いることはねえよ。そもそも、お前と組んだらどうなるかは予測がつかないと分かっていながら、俺は声をかけたんだ。俺の心配する必要ねぇよ」

 

 「……そうか、上鳴――――――言質は取ったぞ?」

 

 「―――おう!」

 

 不敵に笑い、声を発するエネル。彼の調子が戻る様子に安堵して、上鳴も威勢の良い返事を返す。モニターの表示が00:00になると同時に、ミッドナイトが制限時間終了の合図を発する。

 

 「では耳を貸せ、上鳴」「はいよ」

 

 大きすぎる身長差のために、エネルが膝を折り畳んでヤンキー座りをしてやっとこさ二人の顔の高さが揃う。ゴニョゴニョとエネルが耳打ちをし、うんうんと相槌を打つ上鳴であったが、段々と顔色が悪くなっていく。一通り話し終えた後に、エネルが立ち上がり目の前のクラスメイトを見下ろすと、思ってたのと違うと言った視線で見上げてきたのだが、そんなことは、もはやお構い無し。第二種目が、今、正に始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ◎

 

 

 

 

 

 

 

 「……………引き受けたのは、俺だけどさ」

 

 「そうだな」

 

 「ひッッッッッッでぇな、これ」「最初に言ったろうが」

 

 白黄色に包まれる眩い光の中から、会話が聞こえてくる。言わずもがな個性、帯電と雷を持つ二人であるが、その合計ポイントは脅威の一千万百四十ポイント。本来ならば他の生徒達が寄ってたかって鉢巻の奪い合いが発生してもおかしく無いのだが、

 

 「ずりぃぞエネルッ!!漢らしくねええぇぇええ!!!」

 

 「はッ!!勝手にほざいてろ、雑魚めッ!!!」

 

 誰も近づくことができていなかった。それもそのはず、騎馬を崩すための意図的な攻撃は禁止、ならば直接その手で騎手の鉢巻を奪うしか無いのだが―――

 

 

 

 

 

 

―――――俺がバッテリーになる、お前は俺から供給される電気で全方位に放電し続けろ――――

 

 

 

 

 

 「(………これ、プロヒーロー達はどういう目で見てんだろ)」

 

 エネルに肩車でおぶられたまま、自身に流れる大電流を自身を中心として半径数メートルの範囲に分散し続ける。流石に電流の大きさを抑えてはいるが、その領域の中に入ろうものなら、少なくとも騎馬戦終了まで動けなくなるのは必然。そして何よりの問題、身長が高すぎる。エネルの266cmに、肩車で背負われる上鳴の腰から上、座高が合わさり優に地上から3メートル以上はあろうかという高さ。爆豪のように個性を用いた空中浮遊や、瀬呂のような遠距離攻撃ができない限り、そもそも間合いが届かない。

 

 「敵が近寄らなくなったからと言って放電を止めるなよ」「へいへい」

 

 バチバチと光の明滅が止まらない。そのせいで常闇が思わぬ被害を受けて二次災害が発生し、緑谷達が窮地に陥っているのだがそんなことは関係無し。結局、第二種目終了までに鉢巻を奪うことはおろか、二人に触れることができる者は一人もいなかった。第一種目のときと、その圧倒的な強さを見せつけていることには違いないのだが、いまいち見栄えが無く、マスコミ達も期待のヒーロー科A組、そのトップに立つ長身の彼をゲンナリとした目で眺めていた。

 

 

 

 ◎

 

 

 

 『タイムああぁァァァアアアッッッップ!!!そこまでッ!!それじゃあ早速、上位5チーム、いってみようッ!!!』

 

 ふっと、上鳴が個性の発動を止める。自分ならとっくにショートしてしまっている放電量。しかし、今、自分を乱雑に肩から下ろして順位の表示されたモニターを眺める目の前の男は、特に疲れた様子を見せるわけでも無し。帯電の個性を持つ彼だからこそ、改めて化け物じみていると実感するのであった。

 

 『一位ッ、上鳴チームッ!!二位、轟チームッ!!三位、爆豪チームッ!!四位、鉄て……て、アレェッ!?心操チームぅ!!?お前いつのまに逆転してたんだよッ!!?』

 

 「(……ほお?あいつ、残ったのか、第二種目)」

 

 心操と聞いて誰だと呟くエネル。B組の人間とも考えたが、全員の視線の集まる先を追って見れば、先日"宣戦布告"に来た普通科の生徒であった。口にするだけのことはあると、少し興味深げに彼を見つめていると、こちらの視線に気づいたのか、紫色の髪の彼が応えるように視線を返す。睨みつけるような鋭い目つき。しかし、何か言うわけでもなく数秒後には後ろを振り向き視線を外す。それに対して、エネルは少し、未知の個性に興味が湧き、不敵に笑うのであった。

 

 『そしてぇッ!!五位、緑谷チーム!!以上ッッ、五チームがァッッ!!最終種目へッ、進ッッ!!出ッッ!!ダアアァァァァアアアアッッッッ!!!!!』

 

 「うーん、なんか、勝ち抜いたって実感ねぇなぁ」

 

 「まぁ戦ってないからな」「まぁそうなんだけど」

 

 「もしタイマンのトーナメント形式ならトーナメント表どーなるんだろうな、初戦からお前とか嫌だぞオレ」

 

 「運も実力のうちだ、その時は諦めろ」

 

 慈悲が無ぇ、と上鳴が肩を落としながらため息を吐く。

 

 『それじゃあ!!1時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜッ!!!じゃあなッ!!!』

 

 第一、第二種目の実況解説を終えて、プレゼントマイクが昼休憩の合図を告げる。最終種目に残った生徒達も、そうでない生徒達も混じり混じりに感想を述べ合いながらスタジアム内から退出していくのであった。

 

 

 

 ◎

 

 

 

 「ういーす、お疲れー」

 

 体育祭ということで特別に解放されているスタジアム周りの休憩スペースにて昼飯にありつく生徒達の群れに、また一人上鳴が加わる。その言葉に反応してみなが後ろを振り向きお疲れーっと言葉を返す。

 

 「お疲れさん、お前に言われるのは何か癪だけど」

 

 先ほど爆豪の騎馬をしていた瀬呂が、終始エネルに背負われていた上鳴の揚げ足を取るように言葉を返す。痛いところを疲れたように苦い顔をしてまぁまぁと話を逸らす上鳴。瀬呂の他には同じく爆豪の騎馬役であった芦戸、切島、そして、訳も分からないうちに鉢巻を取られて敗北を喫した障子、峰田、蛙吹の姿があった。

 

 「漢として恥ずかしく無いのか、アレ…」

 

 「そんなこと言うなよ、そんなこと言ったら峰田も中々にせこいことしてただろうが」

 

 「そうなのよ、上鳴ちゃん。いつのまに取られたのかしらね、鉢巻」

 

 「せっかくオイラの天才的な頭脳で思いついた秘策なのによぉぉ…あんまりだぜ、ほんと」

 

 背後からドス黒いオーラを発しながら昼食に食らいつく峰田。イライラを隠そうともせずに、わざとかは分からないが音を立てて次々と口の中に食べ物を放り込む。ガチャガチャという音を立てる余りにも行儀が悪いその様を見かねて注意をしながら瀬呂がチョップをかますが、もぎもぎが手にくっついて面倒くさいことになっていた。

 

 「上鳴ー、エネルと一緒だったんじゃないのー??」

 

 「あいつなら、行き先も告げずにどっか飛んでったぞ」

 

 「ふーん、家帰ったのかな?一時休憩?」「さぁ?知らね」

 

 一時帰宅する。彼の個性を知っているからこそ出てくる選択肢。冷静になって会話の内容を復唱してみると、アホな事を言っているとも思うが、それこそ彼の個性が逸脱している何よりの証拠。その後は、午後の部に関して各々が意見を出し合って真面目に談義をしたり、第二種目までの内容を振り返ったり、体育祭とは無縁の何でもない話題に花を咲かせたりしていたのだが、

 

 「…お!エネルじゃん!おー………い…………」

 

 見間違えるはずもない。人混みから物理的に頭ひとつ飛び抜けている彼が、角から出てきて姿を見せ、声をかけようとしたのだが、彼に追従するようにもう一つ影が現れる。

 

 「「(え、エネルが………女連れとる…………ッ!!!)」」

 

 「いや普通に親御さんだろ、バカ………にしても、遺伝ってすげぇな」

 

 上鳴と峰田の分かりやすい表情を見て瀬呂がツッコミを入れる。エネルの隣に並ぶのは、彼ほどとはいかないまでも、やはり自分達では届きそうも無いほどの高身長である一人の女性。言わずもがな彼の母親であるのだが、親子というのが分かりやすいほどの長身の二人に、少し吹き出してしまう芦戸。こちらに気づかず歩いている二人を眺めながら、瀬呂と峰田が呟く。

 

 「いや、にしてもデケェな……」

 

 「あぁ……オイラもあのサイズは中々見たことがねえ」

 

 「マジか、俺女の人であんなにデケェの初めて見たぞ」

 

 「たまに見かけるぞ、オイラ………うん、20はあると見た」

 

 「…は?いや、いやいや、20どころか、190はあるだろ?何言ってんだお前??」

 

 「は?190とかあるわけねぇだろ、人間じゃねえじゃん。トップとアンダーの差は20が最適だってそれ一番言われてるからな」

 

 「………お前はブレねぇな、ほんとう……ある意味尊敬するよ…」

 

 相手が例えクラスメイトの母親であったとしても彼の行動原理は変わらず、(よこしま)な視線を飛ばし続ける。エネルに気づかれたら即天罰が下っていたが、そのまま気付かれることなく二人の姿が消える。なんとか首の皮一枚繋がったが、代わりに蛙吹に舌で殴打を受けて吹っ飛んでいく峰田であった。

 

 

 

 ◎

 

 

 

 『……何やってんだアイツら』

 

 昼休憩も終わりプレゼントマイクが午後の部開催、の前のレクリエーションの説明に入る。予選落ちした者もそうで無い者も全員グラウンドに集まってきたのだが、一組だけ見るからにおかしい装いのクラスが存在し、よりにもよってそれが自分の担当するクラスの生徒であることに頭痛を覚えて思わずマイク越しに言葉を漏らしてしまう相澤。彼の、というよりも会場全体の視線が釘付けになっているその先にはチアガールの服装を着こなした一年A組の女子達が、騙されたといった顔で恥ずかしそうに棒立ちしていた。

 

 「騙しましたわねッ!!峰田さん!!上鳴さんッッ!!!」

 

 「「いえーい」」

 

 自分達に浴びせられる怒号の数々には耳も貸さず、自分たちの思惑が見事成功したことにハイタッチをする上鳴と峰田。USJでちょっとでも見直した自分がバカだったとこめかみに筋を浮かべて怒りをあらわにする耳郎。

 

 「あぁ……どうしてこう私は峰田さんの策略にハマりやすいのでしょう……衣装まで創造で作ったのに……」

 

 慰めるように麗日が笑顔で背中をさする。そもそも、チア衣装が支給されずに自給自足の時点で怪しい、というか十中八九嘘だと気づけてもおかしく無いものではあるのだが、廊下でチア衣装の女性を見かけたのが運の尽きであった。何も疑うことなく二人の言葉を信じてコスチュームを作成して全員に配る八百万。唐突にチア衣装を渡された他のA組の女子達は、相澤先生からの伝達だと聞けばそもそも疑うことすらせずに衣装に着替えて、そして現在に至る。

 

 「………何をやっとるんだ、お前たち」

 

 「……騙されましたわ……」

 

 「………そうか」

 

 少し遅れて、ゲートから入場するエネルがチアガールと化したクラスメイトの言葉を聞いた後に、視界の端でハイタッチをする上鳴と峰田を見つけて、大方の事情を把握する。どうでもいいクラスメイトの新たな人間性を垣間見て、まんまと策に引っかかった女子達に少し同情心を覚える。それと同時に、その頭をもっと別の場所で活かさんかと心の中で呟くエネル。しかし当の二人は有頂天、中々に見れるものじゃ無い露出の多い服装に身を包むクラスメイトの姿に鼻の下を伸ばしていた。

 

 『そんじゃま、気を取り直して解説再開、いくぜぇッ!!?この後のレクリエーションが終わったら、いよいよ本戦開幕ッ!!総勢17名によるトーナメント!!そして、トーナメント表は………こいつダァッ!!!!』

 

 プレゼントマイクが声を上げると、暗転していたモニターに電源がつき、タイマン形式を表すトーナメント表が表示される。一対一のガチンコ勝負を意味するそれに、心を昂らせて武者振るいをする切島。プレゼントマイクが一通りの解説を終えると今度はミッドナイトへと司会進行が切り替わり、生徒達にプレゼントマイクが言ったことの要約と説明の続きを行う。

 

 「本戦はレクリエーションが終われば直ぐに始まります、最終種目進出の17名に関してはレクリエーションに出場するのは自由!体力を温存したい人も、策を練りたい人もいるだろうしね!それじゃあ早速みんなにはトーナメントの組み合わせのためにくじ引きを「待ってください!」

 

 ミッドナイトが抽選を行うためにくじ引き用の箱を取り出した矢先、待ったの声がかかる。エネルを含む全員の視線が集まる先に立つのは、騎馬戦を勝ち抜いた心操チームの一人、尾白であった。何やら、複雑そうな表情で右手を上げている。

 

 「あの…おれ、辞退します……」

 

 周囲の生徒達が驚愕の声を上げる。エネルも、言葉を漏らしたわけでは無いが、流石に無視を決め込むわけにはいかず、しかし声をかけるわけでも無い。とりあえずは傍観に徹するが、

 

 「尾白くんッ!?なんで!!」

 

 「せっかくプロに見てもらえる場なのに………」

 

 緑谷と飯田が疑問を口にすると、その理由を吐露する。曰く、訳もわからないまま本戦に進みたく無い、曰く、勝利したという実感がない、曰く、自己のプライドの話だ、曰く、あとなんで君たちチアガールなんだ、と。同様の理由によりB組からも一人、辞退を申し出る。体育祭始まって以来、かはわからないが異例の辞退宣言に少し悩む素振りを見せるミッドナイト。この場合は主審の判断に全てが委ねられるが、

 

 「んんんんんん……そういう青臭いのは……好みッ!!!両名の辞退を認めますッ!!!!」

 

 好みで認めるのか、と、心の中で呟く周りの生徒達。本戦欠場が決まった尾白、しかしその顔は安心感というか、どこか清々しい顔をしていた。その後、欠場分の穴埋めのためにB組から鉄哲、塩崎が出場し、いよいよくじ引きが始まる、と思った矢先にまたしても誰かが言葉をあげる。

 

 「……何も言わないんだね、何か言うかと思ったけど」

 

 「…何か言って欲しいのか?俺の性格は知っているだろう」

 

 「いんや、ただ、言いたそうな顔をしていると思っただけ」

 

 尾白がエネルに話しかける。特に言葉を発することなく目だけを向けて一部始終を眺めていた彼の、何かむず痒い顔が気になり言葉をかけたのだが、やはり予想は的中。ため息をついて間を開けたあとに閉ざしていた口を開く。

 

 「……まず、聞きたいんだが、騎馬戦中、頭がぼんやりしていた。それは、あの心操とかいうやつの個性ということで問題無いな?おそらく、マインドコントロールといった類の」

 

 「……多分」「そうか」

 

 周りの視線が一人の生徒に集まる。自分に多くの目が向けられるも特に臆する様子は無い。自分に向けられる視線の数々を一瞥したあとに、フンッと顔を背ける。

 

 「なら、何も問題はないのでは無いか?最終種目に出ることに」

 

 「…うーん、話が繋がらないんだけど」

 

 「……騎馬戦の前、障害物競走の際。B組の人間の一部もそうだったが、心操、やつの動きを少しでも見たか?」

 

 障害物競走?と尾白ではなく、ギャラリーの一人として話を聞いている芦戸が言葉を返す。彼の言いたいことが、物間との騎馬戦時の会話にて理解できていた爆豪は、ケッと口にして彼の話に耳を傾けていた。

 

 「常にトップを目指すわけではなく、あくまで第一種目を勝ち抜くことを目的とした順位のキープ。そして何より、他人の個性の観察」

 

 「………!!」

 

 「当然だな、お前の話を聞く限り、本当にマインドコントロールであるならば他人の個性を知っているのといないのとでは、大きく差が出る」

 

 「だから調べた、だから観察した。じっくりと、自分の手駒を増やすために、自分の手札を揃えるために。より強力な、より有用な個性をな。おそらく強個性が集まっているヒーロー科を中心に、舐め回すように傍観した」

 

 何も言わずに、心操がジッとエネルを、他の生徒とは少し離れた後方から見つめる。その視線に気付いていながらも、そちらには顔を向けない。目の前の尾白を眺めたまま言葉を紡ぎ続ける。

 

 「そして、一通り観察を終えたあとに奴が騎馬戦で声をかけたのが、爆豪でも轟でも緑谷でも、ましてや俺でも無い。……分かるか?アイツの目ではあるが、アイツから見て騎馬戦を勝ち抜くために必要な個性が私の雷ではなく、お前の尻尾だと判断されたんだぞ?」

 

 「…ものは言いようだ」

 

 「その通りだ、だから俺は上鳴を利用した。上鳴視点で言えば、ろくな努力もせずに勝った、となるのかもしれんが、俺からすれば奴がいなければ苦戦を強いられていた、かもしれん。…お前に勝利の実感が無いのは事実なのだろうが、司令塔の心操の下に、尾白、貴様が立ったからこそアイツも騎馬戦を勝ち残れたんだろうな。そう考えれば、お前が最終種目まで残るのは何もズルをしたわけではない、実力ではないか」

 

 しかし、それでも折れない。やはり、ここは尾白のプライドが勝る。その様子を見て、まぁこういうときもあるかと、トドメを指すわけではないが一言、彼の本心を口にする。

 

 「……まぁ、少しがっかりだ。別にお前を激励するためにここまで饒舌に語ったわけでは無い。少なくとも私は―――――お前ともう一度やり合うのも悪くない、そう思っていたのだがな」

 

 「…ッ!、そ、それって…」

 

 「名は知らんが、B組の貴様もだ。普通科心操、最終種目まで勝ち残った猛者、奴の観察眼が認めた男と、そして何より未知の個性とやり合ってみたかったのだが、仕方ない。お前達の穴を埋める人間が決まってしまった以上、お前達の意思を尊重するとかではなく、お前達が辞退するのは既に確定事項、か………残念だ、最初にも言ったように、俺の喉元に喰らいつく勇者が、よもや貴様かもしれんかったというのに」

 

 少し、彼を見る周りの目が変わる。選手宣誓でしか彼のことを知らない生徒達が、ただの傲慢ちきという考えを改める。

 

 「おうおうおうおうッッ!!!オメェよぉッ!!なんだかいけすかねぇ野郎だと思ってたけどよぅッ!!中々良いこと言うじゃねぇかよぅッッ!!!」

 

 生意気なA組の人間の鼻を明かしてやる。そう意気込み打倒A組を掲げていた鉄哲だが、そう考えていた相手が、まさかB組の人間を侮ることなく認めていたことに、少し自分の心に恥が生まれる。そして、そんな男が持つ個性は、今のところ自他共に認める他の追随を許さない強個性。それだけに、尚更感心していた。

 

 「すまんなミッドナイト、進行を止めてしまって。続きを頼む。レクリエーションの時間も迫っているのだろう」

 

 「いい!!ぜんッッッッッぜん、良いわッ!!!大丈夫大丈夫ッ!!!私、そういう青っ臭いの、大好きだからッ!!!いやもう全然許すッ!!!許可しますッ!!!」

 

 「………そうか」

 

 エネル(おれ)に青臭さを感じ取れるこの女も大概だな、と、冷めた目で見つめるエネル。変な声を出して鼻から出る赤い線をぬぐうミッドナイトが、気を取り直して全員にくじを引かせる。しかしくじを引く順番はどうやら下位のチームからでないといけないらしい。どのチームから引いても変わらないような気もするが、取り敢えず指示通りに引いていく。

 

 「はいじゃあ、次は上鳴くん!」

 

 「ういっす………あら?……なんか、これしかないんすけど」

 

 そう言って、自分の後ろにエネルが控えているのに、手を突っ込んだくじの中には一つしか抽選用のボールが残っておらず、とりあえずそれを引っ張り出してミッドナイトに手渡す。それを受け取ったミッドナイトは満足そうに、これで全員が引き終わったと宣言するも、戸惑う生徒達。まだ一番目立つ彼が引き終わっていない、が、その彼が直接生徒達に釘を刺す

 

 「一先ずは口を閉ざしてミッドナイトの言葉を待て、大方予想がつく」

 

 はてなマークを頭に浮かべながら、エネルの言葉通りにミッドナイトの前に整列し直す生徒達。ミッドナイトが一人一人の番号を再確認して、裏方の人間に指示を飛ばす。一通り準備を終えると、さぁ!という言葉と共に生徒達の注目がミッドナイトに集まる。

 

 『というわけで、抽選の結果はこうなりましたッ!!』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ミッドナイトがマイクで声を上げると同時に、モニターに各組み合わせが表示される。自分の対戦相手を見て頭の中で対策を練る者、スタジアムにいる対戦相手を目で追い探す者など様々だが、

 

 「………さて、ミッドナイトよ、私はどこかな?」

 

 そう、彼の名が無い。存在を忘れられるわけもない彼が、どの対戦カードにも組み込まれていない。というか、そもそもくじを引いていない。その言葉を待ってましたと言わんばかりに、ミッドナイトがニヤリと口角を上げると、手の鞭をピシッと上に上げて、再度トーナメント表に注目を集める。

 

 『そしてッ!!ここに更に、抽選の結果を加えたトーナメント表の完成形が―――――コレッッ!!!』

 

 ミッドナイトの合図と共に、トーナメント表の一部が変化する。そこに表示されたのは、

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「え」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「え」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「えぇぇぇぇぇえええええ゛え゛え゛ッッッ!!!?!?!?」

 

 不幸にも、上鳴の危惧していた通りの結果になってしまう。2回戦、エネルとの対決。事実上の敗退が決定し、膝から崩れ落ちる。それを眺める上鳴の一回戦の相手、B組塩崎は、エネルも上鳴も騎馬戦を見たところ、互いに電気系統の個性なのだからそんなに差がつくものなのかとも思いながら、もう負けが確定したといった様子の上鳴を眺めていた。

 

 『各々、互いの対戦カードは確認したかしら?それじゃあレクリエーションを挟むため、一旦解散!!最終種目出場者は休憩するも参加するもよし!しっかり本戦に備えてね!!』

 

 

 

 ◎

 

 

 

 「……あぁぁぁぁぁ………あんまりダァぁぁぁぁ……」

 

 「だから言ったろうが、その時は諦めろとな」

 

 「本当に当たると思わねぇだろ!もぉぉおおおおお!!!!」

 

 「いいではないか、俺とやりあう前に一回戦はあるのだから、俺がシード枠でよかったな」

 

 多くの生徒達がレクリエーションに出ているために、ガラガラになった控え室でエネル、上鳴、緑谷、飯田、そして、心操について話すために尾白が残っていた。

 

 「―――――てなかんじで、言葉を交わしたら最後。記憶は残ってるし、気を失ってるわけでもないんだけど、頭にモヤがかかったみたいに身体が言うことを聞いてくれなくなるんだ」

 

 「なるほど……つまり、返答さえしなければ何も問題は無いということか」

 

 「あぁ、身体能力は高く無いと思うから、飯田なら個性で急接近して押し出せば勝てるよ。煽るような言葉を言ってくるだろうけど、間違ってもまんまと乗せられて怒りのままに返事なんてしたらだめだよ?」

 

 俺もそこまで愚かでは無い、とは言うものの、彼の性格を考えると案外逆上しやすいタイプでは無いかと心配になる。

 

 「あと一応エネルも。別に飯田が負けるって言いたいんじゃ無いけど、一回戦の結果によっちゃあ分からないからね」

 

 言われずとも分かっていると返事を返し、腕を組んだ状態で目を開いたまま少し斜め下を向き考え込むエネル。どったの?と上鳴が声をかけると、いやっと呟いてその悩んだような表情のわけを説明する。

 

 「まぁ、俺は本戦ではそれなりに手加減をしたあと、個性をあらかた把握して飽きたらさっさとトドメを刺そうと考えているのだが…」

 

 「さ、さらっとえげつないこと言うね、エネルくん…」

 

 「ならば心操はどうすべきかと考えてな。アイツの話に耳を傾けてやり、見事俺の言葉を引き出せたら、そのときはアイツの勝ちなのか。それとも情け容赦なくさっさと突き飛ばしてやるべきか、とな……」

 

 こちとら一戦一戦が真剣勝負なのに、こいつにとっては暇つぶし感覚なんだから困るよなぁと上鳴が少しうんざりしながらエネルの言葉を聞き流す。ところで、と、エネルが言葉を発すると緑谷の方へ顔を向ける。

 

 「そのゴツゴツとしたガントレットのような装備はなんだ?あと背中の……なんだそれは?噴射口……ジェットホバーか?」

 

 「あ、うん。対戦相手の発目さんが、なんか対等に戦いたいとかなんとか言って渡してきたんだけど……ミッドナイトにも先に事情話して申請はとったんだけど、なんか嫌な予感しかしない」

 

 「何故だ?素晴らしいスポーツマンシップじゃないか!サポート科でありながら、あくまでヒーロー科と同じ条件下での勝負を望むとは……尊敬に値するではないか!!」

 

 一人感銘を受けている飯田を除いて胡散臭さを感じる四人。特に緑谷は引き受けたものの、同じチームであっただけに、彼女が本心でそんなことを言うような人間とは思えなかった。

 

 「緑谷、今からでも断ってきたら?てか、なんで受けたのよ?」

 

 「それは…熱気に押されて……それで、一度引き受けちゃったのに断るのもどうかなって……」

 

 「……自信が無いのは貴様の短所だな」「うッ!!」

 

 オールマイトにも散々言われたことをクラスメイトにも突っ込まれて落ち込む緑谷。唐突に、控え室の扉が開き切島が入ってくる。

 

 「上鳴ー、レクリエーション終わったから第一試合、もうそろ始まるぞ、準備しとけよ」

 

 「おいっす、了解」

 

 傾けていた椅子を戻して立ち上がり、背筋を伸ばしながら控え室出入り口へ向かう。緑谷や飯田から頑張れと激励を貰い上鳴が部屋から出て行ったあと、残った生徒達はA組の観戦席に向かい、第一試合を見物するのであった。

 

 「上鳴の対戦相手って誰だ?」

 

 階段を登りながら切島が飯田に尋ねる。対戦相手はたしかヒーロー科B組の人間。飯田が把握しているか怪しいものだったが、流石にそこはクラス委員長、であることは関係無いのだが、しっかりと自分の対戦相手以外のことも確認していた。

 

 「たしか……塩崎くん、と言ったか。騎馬戦においては後半ギリギリまで3、4位に食らい付いていたな。見た限り個性による強靭な髪を伸ばしての遠距離攻撃が主体だ」

 

 「へぇ、中々に手強そうだな」

 

 「あぁ、障害物競走でも六位であった、実力は折り紙付きだ。ただ上鳴くんの個性は戦闘でこそ輝く。それこそ接近戦しか脳の無い僕なんかは手も足も出ないだろうな、少なくとも今の段階では。勝負は分からないさ」

 

 その言葉に同意を示す周りの生徒達。事実エネルもその意見に同意していた。個人的な指導により戦闘スタイルに加えて単純な火力、すなわち放電の出力も上昇している。よっぽどのことがない限りは大抵の生徒には勝てるだろうと見越していた。

 

 

 

 

 ◎

 

 

 

 

 『待たせたなぁ、オーディエンスどもぉッ!!!オメェらコレが見たかったんだろぉぉおおおッ!!?!?最終種目ッ!!一対一のガチンコ勝負の始まりだァァァアアアッ!!!!!』

 

 プレゼントマイクの実況がスタジアム全体に響き渡る。会場の興奮は最高潮。観察に徹していたプロヒーロー達も、やはり心は熱くなるようで、笑みを浮かべる者もいた。交代制で雄英内の見回りを行うプロヒーロー達も、その一部が休憩室にて試合を観戦していた。これを待ってたと言わんばかりにカメラもスタジアム中央、戦闘用のステージに立つ二人へとレンズを向ける。

 

 『それじゃあ早速第一試合ッ!!騎馬戦では一位にも関わらず、会場の目がやけに冷てぇのはなんでだぁ!!?本戦ではしっかり実力見せてくれよぉッ!!!ヒーロー科ッ!!上鳴電気ィッ!!!!』

 

 「ひっでぇ言い草…んまぁ仕方ねぇか」

 

 体をほぐしながら正面を見据える。視線の先には名前の通り、茨のように鋭い視線でこちらを見つめる対戦相手。某A組クラスメイトにも似た仏頂面でこちらを見つめている。

 

 『VERSUSッ!!!B組からの刺客ッ、綺麗なアレには棘があるぅッ!!?同じくヒーロー科ッ!!塩崎茨ァッ!!!!』

 

 両者が同じステージ上に立ち、ワッと歓声が上がる。互いの思惑は計り知れないが、ジッと相手を見つめて視線は動かさない。今か今かと開始を待ち続ける観客達。そして今、プレゼントマイクが開始の合図を告げるのだが、

 

 『サァサァッ!!!今回もド派手なバトルをぉ―――「あのぉ、申し立て失礼致します」―――あ、あら?』

 

 観客達の言葉を代弁するかのように、マヌケな声をプレゼンマイクが上げる。上鳴の対戦相手である塩崎が彼に背を向け、実況解説のプレゼントマイクの方へ顔を向けており、彼女の背中を眺める上鳴はというと、どうしたんだろ、う◯こでも行きたくなったのかと品性のカケラもないようなことを考えていた。

 

 「刺客とは、どういうことでしょう?私はただ、勝利を目指してここへ来ただけであり、試合相手を殺めるために来たわけではありません…」

 

 『ご、ごめぇんッ!!!』

 

 思わず反射的に謝ってしまうプレゼントマイク。どちらかと言うと会場のノリで選手紹介をして、彼も本気で言っているわけではないのだから、そこは塩崎が空気を読めばいいだけの話なのだが、止まることなく喋り続ける。

 

 「そもそも、私が雄英高の進学を希望したのは、決して(よこしま)な考えではなく、多くの人を救済したいと思ったからであり―――」

 

 『だからごめんてばぁッ!!?俺が悪かったからぁッ!!!』

 

 「ふふ!分かっていただけたなら幸いです……!」

 

 こいつはたまらんと、試合を早く始めてほしいプレゼントマイクが必死に許しを請い、その言葉に満足したかのように塩崎が微笑み返す。上鳴は、B組にもこんな奴はいるのね…と、自分のクラスのイロモノ達とはまたベクトルの変わった生徒へ、奇怪なものを見るような視線を送っていた。

 

 「(…雰囲気は変わってるけど、実力は本物っぽいな……まぁうちのクラスにもそんな奴らゴロゴロいるか、ていうか筆頭いたわ。イロモノクソ強マンの)」

 

 プレゼントマイクの方へ向けていた体を反転させて、再度元の立ち位置へ戻っていく塩崎を眺めながら、もう間も無く始まる戦闘について頭の中で策を巡らせる。と言っても、やることは単純明快。やられる前にやる、それだけ。そんなことを考えている内に、塩崎が上鳴の正面に立つ。準備は整った。

 

 『と、とにかく、試合スタートッ!!!』

 

 プレゼントマイクの声が響き渡る。しかし、両者ともにまずは、動かない、相手の様子を伺っているのだろうか。とも考えたが、直ぐに変化が訪れる。

 

 「これ終わったら飯とかどうよ?俺で良かったら慰めるよ?」

 

 「え………?」

 

 ここで、上鳴の悪癖が働いてしまう。たしかに顔は整っており、清廉潔白とした態度。正しく上鳴のドストライクであった。だから油断したというわけではないのだが、唐突に口説き始める上鳴の様子にA組の複数名が、あのバカとため息を吐く。

 

 「多分だけどこの勝負……一瞬で終わっからぁッ!!!」

 

 上鳴の声が荒ぶるのと同時に全身から電気が放出される。日光が降り注いでいるにも関わらず、あたりに影を作ってしまうほどの雷光が発生して、バチバチと雷鳴が轟く。

 

 「無差別放電ッ!!!二百万ッ、ボルトォォオオオッッ!!!!」

 

―――――何をする気だ。A組の座席に座るエネルが塩崎を見つめる。自身に迫る大電流―――彼からすればゴミのような規模だが―――を見ても、眉ひとつ動かない。諦め、絶望とは違った表情。何か策が、と考えるのも束の間。突然身体を反転させて個性を発動、髪の毛をツルのように伸ばして地面に突き刺し、防壁を形成する。それが何の役に―――

 

 「―――――なんだと?」「うぇ!?」

 

 流石に、目の前の状況に驚かずにはいられず身を乗り出すエネル。彼女の正面に構える上鳴も、ただでさえ放電してショートしかけの脳に理解不能な状況、完全に頭の中が真っ白になってしまった。すなわち―――――電流が弾かれている。何重にも形成した分厚い壁で防ぐのではない。壁にぶつけたゴムボールのように、ツルの束にぶつかった電流があらぬ方向へ飛んでいくのだ。しかも、彼女の形成したツルによる防壁、表面に焦げ跡一つ付いていない。

 

 「(なんだ?電気に対する絶対耐性か?それとも上鳴の電圧では低すぎただけか?しかし……二百万ボルトで一切のダメージなしであるところを見ると、前者と考える方が妥当か……いや、分からんか。しかし前者であれば騎馬戦にて私のポイントを狙わなかったのは、電気の耐性があることを最終種目までバレないように持ち越すためか………頭がキレるな、やつは)」

 

 「うぇ、うぇぇぇぇえええええッ!!!!?!?」

 

 結局、そのままアホ面を晒してツルに捕まり、地上高くに縛り上げられる上鳴。試合終了ッ!勝者、塩崎茨ッ!!と、主審ミッドナイトが判定を告げると会場全体が歓声に包まれる。

 

 『瞬殺ッッ!!!敢えてもう一度言おうッ、しゅんさぁぁああつッ!!!!』

 

 プレゼントマイクが大声で試合結果をアナウンスする。ツルから解放された上鳴は未だに状況がよくわかよく分かっていない、というか頭が回復していない様子でショートしていた。

 

 「まったく、あのバカが……ふんッ!!」

 

 「うえぇぇぇ………う゛ぇ゛ッ!!……あ、お、俺……負けたのか……」

 

 観戦席にいるエネルが右腕を上げて人差し指を立てて、指先から電流を上鳴に飛ばすと、一時的にショートしていた上鳴の脳が回復する。少し過激な粗治療に苦笑いする他の面々であるが、受けた本人が大丈夫そうだからよしとするか、とため息をついていた。

 

 「あーー、ちょっと、塩崎、とか言ったっけ?」

 

 地面に降ろされてヘタレ込んでいた上鳴が、会場から出て行こうとする塩崎を見て咄嗟に声をかける。

 

 「……なんでしょうか?食事なら申し訳ありませんがお断りさせていただきたく……」

 

 「あーいや、そっちじゃなくてさ、あんたさ、殺めるつもりで来たわけではないとか言ってたじゃん」

 

 「……?はい。その通りですが……申し訳ありません、少々痛かったでしょうか………?」

 

 「いや、そうじゃなくて、次の試合―――――殺すつもりでやったほうがいいぞ」

 

 え、と塩崎が言葉を漏らす。いったい何を言っているのだろうか。自分に今勝利した相手にかける言葉とは思えない、相手を侮った一言。困惑しつつも尋ね返す塩崎。

 

 「……どういうことでしょうか?」

 

 「いや、あんた、アイツを焚き付けちまったからさ」

 

 アイツ?と言って上鳴が指さす先には塩崎茨の次の対戦相手であるヒーロー科A組の生徒、すなわち、(ゴッド)・エネルが興味深そうに彼女を見つめていた。口元に笑みを浮かべて獲物を見つけたかのように睨みつける彼の表情はさながらヴィランと言ったところか。

 

 「……お気遣い感謝いたします。しかし、私は救済を求めて雄英(ここ)に来ました。やはり人を殺めることを念頭に置いて行動できるはずもございません。それに何より、私もヒーロー科としての矜恃もございます。………しかし、あなたの慈悲の心は素晴らしかったですよ、それでは失礼します」

 

 あくまで淑女然とした態度で、しおらしく上鳴に頭を下げて踵を返す。仕方無く、ダメ押しに一言上鳴が言葉をかける。

 

 「それが無理ならよ、せめて"戦う"、ではなくて、"命第一に"って考えて行動してくれ。別にアイツに加虐趣味があるわけじゃねえんだが、戦闘において興奮したらアイツは何をするか分からねぇから。悪いやつじゃないんだけどよ」

 

 「………肝に銘じておきます」

 

 それだけ残して帰っていく塩崎。チラッとエネルを見据えると、やはり先ほどと同じ表情で塩崎を見つめていた。互いの視線が交差し、一瞬の膠着状態が生まれる。

 

 

―――――途端に、彼女の瞳の先、エネルの口がゆっくりと開く。言葉が音として聞こえないが、口の動きだけで、たしかに、彼がこう言っていることが、ハッキリと見てとれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――楽しみだ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




騎馬戦楽しみにしていた人には申し訳ない、正直さっさと最終種目に行きたくて……あと上鳴も、原作と同様に瞬殺です。こちらも上鳴の成長を期待していた人は申し訳ない、
あと、エネルが加わったために少し他の生徒の対戦相手が変わってるところがあるけど、そこはピックアップして書き出すかは分かりません
それではまた次回

どちらにしましょう。

  • 続行。
  • リメイク。

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