ヒーロー名"神(ゴッド)・エネル "   作:玉箒

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長いこと期間を開けてしまって申し訳ありません
ようやっと引っ越しと大学入学後のドタバタが一旦落ち着いたので、取り敢えず続きを投下します
今後もスッゲェ不定期更新になるだろうけど、可能な限り時間ができたら投稿します
すんません


24話:全知全能

 

 「傲慢な迷える子羊よッ、主の名の下に、裁きを……ッ!!」

 

 試合開始直後、塩崎が即座にツルを伸ばし自身の周囲に防護壁を形成した後に、エネルを狙って無数の凶弾が襲いかかる。たかだか髪の毛、などとはバカにできない強靭なツルがエネルを縛らんとして取り囲むように四方八方から襲いかかる、が。

 

 「ヤハハハハハハッ!!そんなバカ正直な攻撃が当たるわけないだろうが。第一種目で貴様は何をみていたのだ?」

 

 全く手応えを感じず、地面に突き刺さる自身のツルの束。その頂点に余裕そうにあぐらをかいて座すのは、ニヤついた顔でこちらを観察するかのようにジッと見つめる対戦相手。

 

 「ハァッッ!!!」

 「おっと、いかんな油断は」

 

 自分が腰を下ろしているツルが脈動するのを感じて、何かヤバそうだとそこから飛び降りると、エネルが腰を下ろしていた場所から花が咲き誇るようにツルを突き破り新たなツルが放射状に広がる。

 

 「フフ、いかんなぁ。救済だのなんだの言っておきながら、殺意が少々高すぎはしないか?」

 「神罰ですッ!!」

 「ヤハハハッッ!!物は言いようだなッ!!だがそれでいい、俺に傷一つでも付けてみろッッ!!――――一千万ボルト―――――」

 

 「―――――ッッ!!」

 

 初めて攻撃らしいモーションに入り片方の手を青白く発光させるエネルを見つめて、ツルの量を増やして防御の姿勢に入る。どこから撃ってくると予測した瞬間―――――正面後方にいた彼が消える。

 

 「―――――放電(ヴァーリー)ッッ!!―――――」

 

 瞬時に塩崎の背後へと移動したエネルが、空中を浮遊したまま個性を発動。一試合目の上鳴のそれとは比較にならない雷光が辺りを支配する。雷が空気を切り裂く音が鼓膜を刺激して、思わずミッドナイトが両耳を押さえる。普通に考えればこれで決着がついてもおかしくない規模の攻撃、しかし、

 

 「"恭順なる凶弾(ファナティックバレット)ッッ!!!"」

 「ほお!?一千万を耐えるかッ!!貴様の個性ッ!!!」

 

 背後からの奇襲を即座に予測してツルを伸ばし、緊急防壁を形成して難なくエネルの一撃を阻止する塩崎。そのまま、焦げ一つ付いていないツルの束を無数の細い槍へと捻り防壁の正面に立つエネルへ即座に射出するが、特別な技術も用いない単なるコンマ数秒のノロマな一撃に彼が当たるわけが無い。即座に個性を発動して遥か上空から見下ろすエネル。

 

 「(……二百万でダメな時点で何となく察しは付いていたが、おそらく電気に対する完全耐性……いや、確か髪の毛というのは絶縁体だったか……しかし、たかだか千ボルト程度で通電はしたはず、ならば個性により抵抗値が飛躍的に増加したと考えるのが自然、であれば……)」

 

 どういう原理かは分からないが、個性によって体を雷に変えて空中浮遊するエネルから雷が放出され彼の上空へと収束していき、段々と一つの形を形成していく。

 

 「こいつならばどうだッッ!!―――三千万ボルト―――」

 「―――天を穿つ、信仰の刃―――」

 

 ニィッと口元を歪めて、視線の遥か後方、ステージ上に立つ極小の対戦相手を睨みつけながら雷を溜めるエネル。まだ技を放っていないにも関わらず、巨大な電気の塊から漏れたいくつもの雷がバチンバチンと四方八方に突き刺さり辺りを焦がしていた。対する塩崎は、自身の正面にツルでできた壁を何重にも貼り、その隙間からジロリと相手を睨みつける。長方形の壁の背後から無数の鋭利な槍が顔を覗かせて、互いに捻り合い、数十、数百ものツルが一束の破城槌のように絡み合う。

 

 「―――――――― 雷鳥(ヒノ)ッッ!!」

  「―――――――― 裁きの鉄槌(ジャッジメントラム)ッッ!!」

 

 溜め込んでいた力を解放し弾性力によって吹き飛んでいくバネのように、光に照らされた緑白色の断罪の一撃が敵を撃ち貫かんとしてエネルの元へ飛んでいき、その身を一層白く染め上げる。エネルへと伸びてくるツルの束に対して、彼の背後から一匹の大きな怪鳥が、鳴き声をあげたかのように電熱によって空気を膨張させながら甲高い音を上げて飛び立ち、互いの個性がぶつかり合う。瞬間、ツルと雷鳥の動きが止まり、再度雷鳥の鳴き叫ぶような空気の破裂音が鳴り響いた後に、

 

 「―――――ハハッッ!!三千万でもダメかッッ!?いいぞ、素晴らしいッッ!!」

 

 豪槍が、一羽の雷鳥を貫通しそのままエネルに向かって伸びていく。が、やはり当たらない。ここまで、客観的に見れば防戦一方に見えるエネルだがまだまだ余裕がありそうな表情で、今度は塩崎の背面、遥か後方であぐらをかいて座っていた。さっと振り返り、攻撃を仕掛けない対戦相手を睨みつける塩崎。先ほどからエネルの攻撃を尽く打ち破っているというのに、彼女の顔の方が険しい表情をしていた。

 

 「ヤハハハ……どうした?俺はまだ血の一滴すら流れてないぞ?火力だけ上げてもな………迫撃砲で飛ぶ鳥を撃ち落とすバカもおるまい」

 

 薄ら笑いを浮かべて塩崎の手の内を探るように言葉をかけるエネル。観戦席にいるクラスメイト達から見ても、いつにも増して上機嫌な彼の様子が見てとれた。

 

 「(……強い、この方、分かってはいたけど、とてつもなく強い)」

 

 おおよそ一年生、いや、生徒同士の戦いとは思えない規模の対戦に熱気が立ち込め歓声が上がるスタジアム内とは打って変わって、非常に冷静に現在の状況を分析する塩崎。今の所互角の戦いを繰り広げているように見えるが、彼女だけが理解できていた。()()()()()()()

 

 「(………確かに、私の髪は電気に対する強耐性を持つ。自身でも把握しきれないほどの、だから()()())」

 

 ごくりと唾を飲み込み額から一滴の汗を垂らす塩崎。そう、彼女自身自分の髪の毛、もといツルの絶縁性の上限など知っているわけがない。今日一千万、二千万の電圧を受け、それでも電気が流れないと彼女自身初めて知った。だから念のために電流が流れても大事に至らないよう、防御にツルを使う際は地面にツルを突き立てた後に本体、すなわち彼女自身に万が一電流が流れないように、途中でツルを切り離している。

 

 「(……私のツルは、あといったいどれほどなら耐えるのか。もしかすれば、三千万で限界ギリギリかもしれない。彼が私を弄んでいる間に、何か打開策を考えなくては……)ならば……ッ!!」

 「む!?」

 

 今度はなんだと、興味深そうに塩崎を見つめるエネル 。彼女がツルを地面に突き刺し、その数秒後、彼等の立つステージがグラグラと揺れ動く。そして、

 

 「ハァッッ!!!」

 「ヤハハハッッ、悪あがきだな」

 

 地面から、硬いコンクリートを突き破り、突如としてツルが咲き誇る。塩崎を包むツルの揺り籠を中心として同心円状にツルの群れが広がっていき、ステージを緑一色に染め上げんとする。やがて、エネルの座っているステージ内外の境界線まで達するが、

 

 「さて、足場を奪った次はどうする?」

 

 やはり空中へ飛び立つエネル。体を青白く光らせながら、鋭利な槍が一面を貫くステージの、その中心に立つ塩崎に目を向ける。

 

 「……なんか、おかしくね?」

 「ケロ、そうね。なんでエネルちゃん、()()()()()()()()

 

 上鳴と蛙吹がそう呟く。そう、何故か回避しているのだ、先程から。エネルの個性を知っているA組の人間だからこそ、当然のように湧いてくる疑問。先ほども、地面から聳え立つ植物の刃なんて臆せずそのまま棒立ちして、自身の身が貫通されるのを大人しく受け入れればいい。しかし、避け続けている。試合開始前に、少し試したいことがあると言ったのはこのことだろうか。意図は分からないが。

 

 「……私は、かまいません」

 「……?……何がだ?」

 

 エネルが空中に浮かびながら、かまわないと呟く塩崎の言葉の意図を図りかねて尋ねる。

 

 「……一見、無尽蔵にも見えるあなたの雷、しかし個性ならば必ず限界が訪れる。私はこの揺り籠で身を包みながら攻撃し続ければいいだけ。一度ツルを伸ばせばそれを操作するだけ、ツルの体積は変わらない。私の個性の消費はありえない」

 

 「……なるほど、持久戦か。確かに理論上は俺の敗北、か」

 

 少し、考え込むように腕を組んで空中に佇むエネル。無防備にも見えるその姿は、しかし絶対的強者のみに許される尊大な構えである。ゆったりと、空を漂いながら地上を見下ろす神が、痺れを切らしたように口元を歪めて、だが、と口を開く。

 

 「すまんが長ったらしいのは嫌いでな、雷に持久戦は退屈すぎる。従って早急に決着をつけるとしようッ!!!」

 「―――――ッッ!!(分かってはいたけど、三千万程度では止まらない………ッッ!!)」

 

 五千万ボルトと口にした瞬間、彼の背中から天高く一陣の雷光がほとばしる。もはや実況すら忘れて目の前の戦闘に魅入っているプレゼントマイクのサングラスが意味をなさないほどの眩い光がその場にいる全員の視界を奪い、目を閉じた、その一瞬の間に―――――一体の龍が、エネルの身体にまとわりついていた。

 

 「―――――信仰の鎖錠(チェインブロッサム)ッッ!!」

 

 マズイ、不味いまずいマズイッッ!!まだ、攻撃を喰らってはいないが、断言できる。()()()()()()()()()。エネルの周りを唸る巨大な雷が、生きているかのように、しかし現実には存在しない幻想の種を、すなわち、天を翔ける神々しき龍の姿を映し出す。鳴くはずのない雷の模型が、意思を宿したかのように力強く口を開いたかと思えば、雷の走る音がスタジアム全体、いや、スタジアムどころか雄英の外まで響き渡り、世界を白く染め上げる。

 死の予感。それが彼女を駆り立てた。地面から生えていた無数のツルが、ストッパーを外されたようにエネル目掛けて伸びていく。が、ダメだった。数十センチ足りない、とかではなく、ツルがまだ半径数メートルにすら達していない時点で、かの龍が、咆哮を轟かせた。

 

 

 「―――――――雷 龍(ジャムブウル)ッッ!!!」

 

 

 雷に、魂が宿る。空想上の怪物が、質量を持った雷が、存在するはずもない牙と爪を尖らせて、地上目掛けて飛んでいく。刹那、何かが焼ける音がした。それはおそらく、エネルに向かっていた強靭な裁きの一振り。しかし、そのいずれもが儚く、緑色の刃から黒色の炭を経て、灰と化す。ジュッという音が鳴った後、雷龍が声を上げて―――――視界が、白く染まった。

 

 

 

 

 

 『……え、これ……………無事なの…………?』

 

 プレゼントマイクが縁起でもないことを口にする。観客席の人間達の目の前に広がるのは、黒い半球状の巨大なドーム。雷龍が地を穿つその瞬間に塩崎が咄嗟に展開したツルのドームが、なす術なく焼け焦げ所々黒煙と火の粉を上げている。ステージの三分の一は覆うかという大きな防護壁、しかし雷に敗れ黒色の炭と化していた。

 

 「……………やりすぎたか」

 

 ボソッと呟きながら地面に降り立ち、ドームの近くまで歩いていく。ゆっくりゆっくり重たい足音を響かせながら一歩、また一歩と、塩崎を包んでいるであろう半球に近づき、黒塊と化したツルの残骸に手をかけ無理やりこじ開けようと両手で握りしめた――――突然、エネルの動きが止まる。

 

 

 「――――――あ?」

 

 

 

――――――エネルが、間の抜けた声を漏らす。そして、彼自身と、彼の個性を知っているA組のクラスメイトや雄英教師達の、今度は視界ではなく脳内が白く染まる。

 

 

 「――――――なんだ――――赤い――あぁ、血か。血だな、コイツは」

 

 

 突然、黒壁を突き破り飛び出たのは新緑のツル。焦げ一つ無い、青々とした強靭なツルが、炭と化した黒色のドームごとエネルを突き破る。一本、左脇腹にツルを貫通させるエネル。

 

 「……………フン……」

 

 生まれて初めて見る、自身の鮮血。初めて感じる痛み、よりも目がその赤色に奪われて束の間頭がフリーズするが、ハッと我に帰り自身の脇腹を貫通するツルを無造作に引っこ抜く。そのまま塩崎を引っ張り出そうと手前にツルを引くが。

 

 「………腹立たしいな…」

 

 途中でツルから感じていた抵抗力がプツッと途切れるのを感じる。ツルをそのまま引き抜いてみれば、やはり途中で切れていた。あくまでこの檻の中から出てくる様子の無い塩崎にどうしたものかと考え込んでいた矢先に、突然無数の槍がドーム全体から突き出てくる。

 

 

 「―――――傲慢、それこそ救い難い罪―――――」

 「―――ふふ、こいつは痛いな。久方ぶりの感覚だ、実に十数年ぶりか」

 

 今度は、しっかりと個性を用いて即座に後方、上空へと飛びツルを回避する。自身を包む黒い炭をバラバラに引き裂くように、強靭なツルがドームをズタズタに切り裂き、その中心には傷跡一つついていない塩崎の姿。バクバクと心臓を鳴り響かせていたB組のクラスメイト達が、仲間の安否を確認してホッと安堵の息を漏らす。

 

 「―――その傷こそ断罪の証、その痛みを持ってして思い知らねば「感謝する」――――――?」

 

 姿を表し自身に説教を行う塩崎に対し、突然感謝を述べるエネル。その表情は真剣そのもの。茶化すような雰囲気は一切無いのだが、言われた本人である塩崎も素直にエネルが自身の言葉を聞き入れて感謝の念を抱くような人間とも思えなかった。

 

 「……もしやとも考えた。電気に対する強耐性。悪魔の実というシステムがこの世界には無いからな。それを個性と置き換えるなら、ゴロゴロの実(こせい)による俺の肉体を破壊できるのは同じくゴムゴムの実(こせい)で無ければ不可能だ。まぁ絶縁体でも可能なのかもしれんが…そちらは試して無かったな。しかし……雷に対する絶対耐性ではなく強耐性でも俺の身に傷は入るのか。いかんせんそれは貧弱すぎる気もするが、これは個性を伸ばせば何かあるのかもしれんな」

 

 「な、なにを―――」

 「あぁ、あと、こちらは実験的な意味合いでは無く素直に賞賛だ。俺は今日ほど歓喜したことも中々に無い。俺の雷に、ハッタリではなく正面から耐え得る人間がいるという事実。喜ばずにはおられんだろう?まぁ俺の全力を耐え切るにはまだまだだが、それは個性の強化と比例して伸びていくだろう。俺のボルトの最大出力が上がるように、お前の髪の毛の抵抗値もな。どういう原理かは分からんが」

 

 「――――――」

 

 先ほどまでの、こちらをおちょくるような雰囲気は一つとして見て取れない。先ほどから、独り言のように何かをぶつぶつと呟いていた。あくまのみ?この世界?何を言っている、と言葉にするよりも先にエネルが口を開く。

 

 「さて、貴様の個性の限界、俺の肉体への影響、この二つが調べたかったことだが―――――つまり用済みだな、貴様は」

 

 エネルが空から見下ろしながら、右手を突き出し人差し指と中指を立てる。

 

 「…貴様は運がいい。俺の肉体に風穴を開けた、にも関わらず俺の怒りを買うことは無かった。そして、俺を興奮させたにも関わらず、俺の雷光に焼かれることも無かった。実に運がいい。五体満足で試合を終えることができるのだからな」

 

 やることを終えて興味を失ったかのように、彼の瞳に宿っていた感興の光が消える。そして―――――訪れる、沈黙。エネルの言葉が続くと予想していた塩崎は、その後何も語らず空中に浮遊し続ける対戦相手を見つめて、困惑気味に表情を歪ませる。エネルはエネルで、何をしているんだという視線で塩崎を見つめる。何か気まずい雰囲気。観客席から見れば、何か達人の間合いと言った雰囲気だろうか。一種即発にも見える沈黙は、しかし当の本人達からすればただの意識のすれ違いなのだが。ようやくエネルが口を開く。

 

 「……何をしている。早く降参と言わないか」

 「……は?」

 

 思わず、彼女らしく無い間の抜けた声を漏らす。自分が普段出さないような声を出したことを自覚して、しかしそちらに気を移すことはしない。見つめる先はただ一人、雷を纏う絶対的強者。

 

 「この神が許してやると言っているのだ。俺の肉体に傷をつけたことは、俺を楽しませたことと差し引きゼロにして不問としてやろう。さぁ早く降参すると言え」

 

 あまりにも舐めきった態度。そもそも周りから見れば傷を、それも胴体に風穴という大怪我を負っているのはエネルの方だというのに、どんな思考回路をしていたら辞退勧告を行えるのか。しかし、塩崎が直ぐに返答を返さない。額から汗を垂らして、口を半開きにしながら、何と言えばいいのか分からない様子。舌打ちをするエネルが再度言葉をかける。

 

 「……さっさとしろ、消し炭になりたいのか?このようなくだらないやり取りでこの神の時間を奪うんじゃ――「神では無い」――あ?」

 

 

 「断じてあなたは神では無い」

 「―――――ふむ、理由は?」

 

 「――――神とは、信仰により罪の意識や咎からの解放を願い祈りを捧げる、その対象である。なればこそ、救済こそ神の意思。――――断じてあなたのような、傲慢で、実験などと称して他者をいたぶり、戦いに快楽を求めるような存在では無い、そして何より――――信仰あってこその神、神とは名乗りを上げて神となるのではなく、神と認められる信仰心によって神となる………もっとも、あなたがただ単に自身の姓を名乗っているのであれば話は別ですが」

 

 神と名乗る目の前の男の存在の否定。彼女の、それは本心も含まれていたのかもしれないが、狙いは時間稼ぎ。何故神と名乗るのか、それは定かでは無いが異様なまでの神への執着心、エネルのそこをついたわけだが、ドンピシャであった。口を閉ざして少し考え込むように俯くエネル。隙だらけであるが、そんな彼に一切の手出しはしない塩崎。やがてため息をついて、仕方ないか、と呟きエネルが地上に降り立つ。

 

 「……神の原点を教えてやろう」

 「…?か、神の……原点………?」「そうだ」

 

 「神の全知全能たる所以を知れ」

 

 そう言って、両腕を天に伸ばし、不動の体勢を取るエネル。まるで攻撃しろと言わんばかりの無防備な姿勢。しかし、それでも手が出せない。エネル(かれ)塩崎(じしん)に見せようとしているものがある。先ほどの攻撃の規模すら超える一撃かもしれないが、何をするかが分からない。こちらから手を出した方がいいのかもしれないが、もはや勝負は決しているようなもの。自身の行動は単なる遅延行為。ならば見届ける。対戦相手がいったい自分に何を見せようとしているのか、見届けなければならない。

 

 「……ッ、ハアアァァァァァアアアア………ッッッ!!!」

 「……ッッ!!!」

 

 突如、無言を貫いていたエネルが唸り声をあげる。それと同時に手から雷が放出される。そこまでは同じ。先ほども見た光景。単に電気を溜めて撃つだけならば、全く同じ。神の原点なぞわかるはずも無し。ドンドン彼の頭上にたまる雷の球体が大きくなっていくが、未だ動きが見られない。極大の雷球が辺りを白く染め上げる。雷の音がスタジアムに轟く。エネルがこの場の視覚と聴覚を支配する。

 

 「……マクシムも無ければ、俺の実力も足りない。雷迎には程遠い、か」

 

 何かを呟くエネル、しかし塩崎にその言葉は届かない。耳に入ってくるのは雷の炸裂音。バチンバチンと、今にも破裂せんとするイカヅチの轟音が轟く。と、次の瞬間。

 

 「―――――タァッッッ!!!!」

 「―――――ッッ!!?」

 

 直径十数メートルにもなろうかという電気の塊が天に向かってゆったりと、空に隕石が落ちるように飛んでいく。スタジアムの上空から抜けていった光の塊を、スタジアム内だけでなく、異変に気付いたスタジアム外の、否、街中の全ての人間が目を見開いて何事かと見上げる。あるものは急いでスマホの撮影機能を使って撮影をして、あるものは外を見てみろと街中の友達に連絡を送る。全ての人間の視線を集めた雷の塊はその後も空中へと漂っていき、そして―――――四散する。

 

 「―――――え?」

 「…………………」

 

 間抜けな声を上げた塩崎が、ハッと我に返り正面に顔を向けるも、エネルの顔に別段変わりは見られない。特に失敗した、という表情ではない。観戦席に座る観客達も、マスコミも、プロヒーローも生徒達も、あれほどの啖呵を切っておきながら、何も起こらない現状に不思議がっていた。いったい彼は何がしたかったのか―――――ポツンと、音が鳴る。

 

 「―――――?………雨?」

 

 異変に気づく。ふと空を見上げる。先ほどまで快晴であった空に暗雲が立ち込めていた。しかも、初めて見る暗雲。雲自身が作り出す影によって黒く染まっているのではない。雲自身が黒いのだ。巨大な、少なくともスタジアム内から塩崎が見て取れる範囲全ては覆い尽くすだろうかという黒塊が天を漂っていた。最初はポツンポツンという小さな雨音を鳴らす程度の小雨であったが、時間の経過と共にその勢いを増していく。小雨から大雨へ、そして大雨から嵐へと天候が変わり、水滴が風に乗り塩崎、そして雄英敷地内に居る全ての人間の身体に叩きつけられる。もはや雨だか汗だか分からない水滴を額から流す塩崎。いったい何が起こっているのか、というよりも、いったい何をしでかしたのか。天候操作という一個性の能力の域を超えた力。そして次の瞬間、

 

 「―――――う―――そ―――――」

 

―――――ゴロゴロと、天が声を上げる。地上から見上げてもはっきりと目に見える。雲の周りを青白い光がバチバチと走っていた。そして間も無く訪れる必然の未来―――落雷の音が鳴り響く。空気を切り裂く稲光の音。悲鳴を上げて軒下に隠れる人の声。吹き荒れる風に乗って叩きつけられる雨粒の濁音。そして、緊張なのか、動揺なのか、恐怖なのか、いずれとも取ることのできない、謎の感情によって発せられる自身の心臓の鼓動音。あらゆる音が塩崎を襲う。人智を超えた超常現象を目にする塩崎、彼女を襲う音にまた一つ、新たな音が加わる。

 

 「…………人は、古来より……」

 「……ッ!!!」

 

 

 「理解できぬ恐怖を全て"神"と置き換え、恐さから逃げてきた」

 

 二人の間に突如、雷が落ちる。鼓膜をつんざくイカヅチに、思わず耳と目を塞ぐ。光が収まった後にゆっくりとまぶたを開けてみれば小さな炎が燃えていたが、すぐに嵐にかき消されて白煙のみが彼方へと消えていく。ごくんと、息を呑み込む塩崎。嵐を巻き起こした目の前の災害が、再び口を開く。

 

 「もはや勝てぬと全人類が諦めた"天災"そのものが、私なのだ」

 

 

 「もう分かっただろう?―――我は神なり

 

 ドクンドクンと、胸が高鳴る。やっと理解した。自分が何と対戦して―――いや、自分が、何に抗おうとしていたのか。根を張る巨大な大木が、押し寄せる津波にいともたやすく流されるように、一人の人間がどうして災害に勝てるというのか。敗北を悟ったときには―――全てが遅すぎた。

 

 「……警告はした」「―――あ―――」

 

 エネルが手から放電を行うのを見て、塩崎の背筋に悪寒が走る。雨粒で冷える体に、今度は内側から冷気が宿る。お互いの体を、フィールドを、雨が()()()()()()

 

 「―――一千万ボルト―――」

 「―――ァァァアアアぁぁああぁぁあアアあ゛あ゛ああ゛ッ!!!」

 

 理性を失った獣の雄叫びを上げ、無我夢中でエネルにツルを伸ばす。もはや、身を守るためのツルの防護壁が意味をなさないことを理解して、全てのツルを攻撃に回す。主審、ミッドナイトがエネルに静止を呼びかけるが届きはしない。プレゼントマイクの声も同様に、彼の耳には届かない。雄英教員達がゾッとした顔でステージを見つめる中、セメントスがコンクリートで彼を覆い隠そうと―――した瞬間に、光が満ちる。

 

 

 

 「―――放電(ヴァーリー)―――」

 

 

 

 

―――プスプスと、煙が上がる。エネルが人差し指を立てて、その指を向ける先には―――雷光に撃たれ、全身を焦がし身を褐色に染める、無残な一人の生徒の姿。石像のようにピクリとも動かなくなった人間の姿を目にして、目を見開き口をぽっかりと開ける観客達。生徒も教員も例外無く同じ表情をしていた。嵐の轟音が鳴り響いているにも関わらず、あらゆる環境音が消え去り無音が支配する。

 

 「―――し、塩崎いぃぃいいいいいッッ!!!」

 

 我に帰ったB組のクラスメイトがステージ上に立つ仲間の名を叫ぶが、変化は無い。ツルを伸ばそうと攻撃の構えをとったまま固まる塩崎の、痛ましい姿のみが彼らの目に飛び込んでくる。B組だけで無い。A組の人間も、同じクラスメイトに向けるものとは思えない、ゾッとした形相でクラスメイトを睨んでいた。雄英の教員も、やってしまったといった雰囲気で顔面を蒼白にしていた。

 

 『―――そこま―――きゃッ!!?』

 「………余計なことをするな………」

 

 遅かったとも考えながら、ミッドナイトが急いでマイクを手に持ち判定を口にしようとした瞬間、手に持つマイクから火花が舞い散る。足元からエネルが電流を流し、配線をショートさせていた。

 

 「………安心しろ貴様ら、命はある」

 

 誰に言っているのか―――おそらく、この会場の全員―――分からないようなエネルの呟き。未だ降り注ぐ雨音にかき消えて音として何と言っているのかは聞こえないが、何か口元がボソボソと動いていることだけが聞き取れる。彼が喋り終わると同時に塩崎の体が傾き始め―――ると同時に、エネルが彼女の前まで飛び、

 

 「―――この通りな」

 「ガッッ!!?」

 

 地面に倒れ伏そうとした塩崎の首を握りしめて持ち上げる。じたばたと体を捻り、自身の首を握りしめる腕を逆に握り返すが、意にも介さずピクリとも動かない。ピクピクと体が痙攣を始めて意識が朦朧とする中、一つの声が語りかけてくる。

 

 

 「………おい」

 「―――ガッ―――くぁ―――は、か―――ッ―――」

 

 

 

 

 「――――――私は、何に見える?」

 

―――エネルの背後に雷が落ち、逆光で体が黒く染まる。暗転する塩崎の視界に光が満ち、自身の首を握りしめる一人の人間の――――(エネル)の姿を捉える。突如、体力の消耗による体の震えが、別のものへ変化する。死にかけの虫のようなピクピクとした痙攣が、小刻みなガクガクという震えに変わる。歯をガチガチと鳴らしながら、目を開いて目の前に立つ天災をその目に焼き付けると、体に恐怖が刷り込まれる。

 

―――"何に見える"、応える必要の無い質問。しかし、何故か、義務感を感じて、朦朧とする意識の中、頭をフルに回転させると――――一つの言葉が思い出された。

 

 

――――理解できぬ恐怖を神と置き換え――――

 

 

 

――――あぁ、なるほど、と。妙に、ストンと、腑に落ちた。なるほど、当然だ。こんなもの、理解するよりも、置き換えてしまった方が早い。こんがらがっていた頭の中がスッキリした。ゆっくりと口を開き、唇を震えさせながら、言葉を発する。

 

 

 「―――――か―――――み―――――」

 

 

 

 

 「その通りだ―――人は神を恐れるのでは無い―――」

 

 エネルが口を開くと同時に、空が光る。ことの重大さをとっくに理解した教員達が、手遅れであるのだが行動を起こす。セメントスは、やはり無駄だとは分かっておきながら、セメントの操作を行う。スナイプが遠距離からエネルの腕を狙撃する。公衆の面前だろうとお構いなく、オールマイトがマッスルフォームになろうと個性を発動しようとする。しかし、そのいずれもが間に合うはずも無く、

 

 「―――――恐怖こそが、神なのだ」

 

―――――二人は、天から降り注ぐ一柱の雷光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『―――――そこまでぇええッッ!!!勝者、(ゴッド)・エネルぅうッ!!!』

 

 雷が消え、二人の姿があらわになる。彼らのいる地点を中心として、ドーナツ状にステージが焼け焦げ―――否、穴が空き、地面を抉り取っていた。瞬間、鳴り響いたのは、主審ミッドナイトの声では無く、解説席に座るプレゼントマイクの試合終了宣言。ミッドナイトのマイクが壊れたために、急遽ジェスチャーでそれを伝えて、プレゼントマイクに判定を仰いでいた、と言っても、この会場に集まる全ての人間から見て、勝敗など火を見るより明らかだったのだが。試合が終わると共に、空に浮かんでいた黒色の積乱雲が消え去り、先ほどまでの嵐が嘘のように快晴となっていた。

 

 「―――も――――し、わけ――――あ、り――――」

 

 「………あまり私をたぎらせない方が身のためだ、覚えておけ」

 

 首を握り締められながら、神に懺悔を行う塩崎。彼女を睨みつけながら、エネルがミッドナイトに向かって塩崎を投げつけると、少し驚いたように身構えながら負担をかけないようにミッドナイトが塩崎をキャッチしてゆっくりと地面に下ろし、安否を確認する。眠るように返事を返すことのない塩崎の容態を見て、焦ったように担架を呼ぶミッドナイト。

 

 「……私も会場も、これでは興醒めだな…」

 

 勝敗が決したというのに、歓声一つ聞こえてこない会場に耳を傾けてみれば、ざわざわとどよめき声ばかりが聞こえてくる。入場ゲートからB組の生徒達が幾人か降りてきて塩崎に声をかける。それを、遠目から眺めるエネル。興味を失った彼の視線に、偶然顔を上げた拳藤の視線が重なってしまう。彼女には珍しく、顔を怒りで歪ませながら、先の対戦を見ていたにも関わらず、物怖じすることなくエネルにずかずかと歩み寄る。

 

 「あんた……ッッ!!」

 「なんだ?」

 

 心底不思議そうに、どうしてそんな顔をしているんだといった雰囲気の言葉の軽さで返答するエネルの声色が、更に彼女を駆り立てる。

 

 「なんだ?じゃないでしょッ!!真剣勝負っつっても限度があるでしょッ!!惚けないでッ!!!」

 「惚けてなどおらん」

 「何言って……ッ!!!」

 

 

 「――――自惚れるな、真剣になどやっておるものか、暇つぶしだ。……あとはまぁ、実験か、そんなところだ」

 

 

―――拳藤だけで無い、他のB組の人間も、呆然とした表情だった。怒り、動揺、様々な感情でエネルの言葉を受け取ったが、彼らの言葉を代弁するとしたら"こいつは何を言っているんだ?"といったところだろうか。唯一、塩崎を囲う輪の中から外れてエネルに歩み寄っていた拳藤の手が震えているのを見て、急いで鉄哲が駆け寄っていく。

 

 「だったら……ッ!!」

 「だったらなんだ?」

 

 「だったらッッ!!!尚更、情けをかけなさいよッッ!!!!」

 「ば、バカッ!!よせッ!!!試合でも何でも無ぇのに相手殴ってんじゃねぇッ!!!」

 「離して鉄哲ッ!!離しなさいよッッ!!!」

 「気持ちは分かるが、一旦落ち「そうか、ならば情けをかけてやろう」……は?」

 

 「情けをかけてやると言ったのだ。ところで貴様のクラスメイトだが何やら様子がおかしいぞ?」

 

 頭の整理が追いつかない。情けをかけるとは、何を言い出すんだこいつ、と頭の中で言い終わる前に、クラスメイト?と疑問を思い浮かべて後ろを振り返ると、先ほどよりも鬼気迫る表情で塩崎を見つめるB組の生徒達。ミッドナイトが心臓マッサージをしつつ人工呼吸をしていた。表情を一転させて、踵を返しみんなの元へ走っていく鉄哲と拳藤。彼らの視線の先、B組のクラスメイト達が立つ場所に―――なぜか、エネル(あいつ)がいた。

 

 「な、何しにきやがったテメェッ!!?」

 「……なるほど、過度な緊張、ストレスからの解放による急激な心拍数の変化による心停止か。早く蘇生せんと重度な後遺症が残るやもしれんな」

 

 膝を曲げて塩崎を囲っていた彼らの背後に黒い影が落ちるのを感じて後ろを振り返ると、彼女を窮地に陥れた張本人がそこに立っていた。顎をさすりながら冷静に塩崎の状態を分析して――――ミッドナイトに手を伸ばす。

 

 「邪魔だ、どけ」「きゃッ!!」

 

 塩崎の上に重なるミッドナイトを片手で突き飛ばし、指先に電気をほとばしらせながらゆっくりと塩崎に腕を伸ばしていく。一瞬呆気に取られた周りの生徒達が、我に返って急いで引き剥がそうと抵抗しようとした―――瞬間、

 

 「―――カ――――――はッ、はぁッ!!は、はぁッ!!ゴホッ、ゴフッ!!ふ、ふぅッ、ハァッッ」

 

 「し、塩崎ッ!!無事かッ!!?」

 

 エネルの指先から塩崎に微細な電気が飛んだかと思えば、彼女の息がふきかえる。周りの生徒が塩崎を囲って安堵の表情で見下ろすと、いつのまにか地面に倒れ伏しクラスメイト達に囲まれていることに困惑気味に視線をオロオロと泳がせる塩崎。すると突然、生徒達の隙間からある一人の人間―――(エネル)を見つけて、苦しそうに、しかし一生懸命震えながら上体を起こす。周りが静止を呼びかけるも、それすら耳に届かないといった様子で、必死に体をエネルの方へ向けると、

 

 「―――か―――み、よ」

 

 「…なんだ?」

 

 周りの生徒達がギョッとした顔で、塩崎を見つめる。

 

 「む、ほん、の―――かず、か、ず―――お許し―――を―――」

 「ふむ……不届き―――しかし許そう、神の偉大さを一目で理解できんとは、中々ままならぬものだ」

 

 「あり、が、とう―――こざ、い―――ま、す」

 

 またもや、ポカンと呆気にとられるB組の人間。そのままゆっくりと首を垂れる塩崎の肩を、拳藤がガシッと掴み体を起こして、怪我人であることすら忘れて体を揺すって語りかける。

 

 「し、塩崎!?あんたどうしたの!!?アイツに何されたの!!!」

 「かみ、みず、から―――お教え、下さった、のです。我が、身の、不甲斐無さを、理解―――しま、した」

 「い、いやいや!!おかしいぞ塩崎ッ!?お前、アイツにボコボコにされたんだぞ!!覚えてねぇのか!!?」

 「神、の、偉業を―――この、身で―――光栄の、極み―――」

 「し、塩崎いいぃぃいいいいいッ!!?」

 

 先ほどとはまた別の心配をしながら、取り敢えず一命は取り留め担架に乗せられ運ばれていく塩崎を追っかけていくB組の面々。塩崎の無事を把握したプレゼントマイクが、心配する観客達にマイク越しに彼女の安否を伝える。ボロボロになったステージの修復が終わるまで次の試合はお預けだというアナウンスを聞いて、突然ガヤガヤと騒ぎ立てる観客達。マイクのアナウンスを聞くまでは、茶化していいような内容では無かったためにお通夜ムードになっていたが、いざ無事が分かるとやはり騒ぎ立てたくなるのが人間。空いた時間に先ほどの試合がしっかりと撮れていたか確認するカメラマン達や、ちゃっかりスマホで録画して○witterに投稿する者たち。このスタジアム内だけでは無い、様々な場所でちょっとした、いやかなりの騒ぎとなっていた。この会場にいないある者達は生で見れなかったことを悔やみ、ある者達は第二回戦、三回戦だけでも見ようと足を走らせ、ある者達はスレッドを立てて騒ぎ立て、あるプロヒーロー達は、やはり今年だけでもスカウトに来るべきだったと後悔するのであった。

 

 「存外に楽しめた。体育祭か、収穫はあったな」

 「うぉあ!!?ビックリした!!!」

 「いつものことだろうが………どうしたお前達、不躾な視線を送りおって」

 

 個性を用いて自クラスの観戦席に戻り座席に座ると、クラスメイト達が若干引き目にジーッと睨んでくる。数人は、同じクラスメイトに向けるとは思えないほど邪険な雰囲気を漂わせている者もいた。

 

 「いや……まぁ、試合は試合だからな…口出し無用って言われりゃそうなんだけど……」

 「手加減するのも相手に失礼ってのは分かるんだけどさ……いや実際手加減してるんだろうけども」

 「にしても……なぁ………?」

 

 「あのアホの自業自得だろう、私のせいでは無い」

 

 上鳴や瀬呂が苦い顔をしながら非難の言葉を浴びせてくる。どうやら大事には至らなそうだったから良かったものを、見てて心臓が止まるかと思ったのは、おそらく彼らだけでは無いのだろう。

 

 「あ、あのぉ、エネルさん?その……それ、大丈夫なんですの?」

 

 「……?…………あぁ、そう言えばそうだったな……ッ、んん、久方ぶりの感覚だ、痛みにも慣れは必要だな」

 「うわぁ!?何やってるのエネルくん!!?」

 

 八百万が、初めて見るエネルの傷を指差すと、思い出したかのようにエネルが傷跡の方へと手を持っていき、次の瞬間穴の中に指を入れて内側から抉るように肉をさする。周りがドン引きして体を引き、緑谷が声を上げると、ゆっくりと指を傷跡から引き抜くエネル。物珍しそうに自身の指先に付着した血を見つめた後に、個性を発動させて指先を発光させると、一瞬で血液が血漿と化し、パキパキと割れて地面に散りばめられる。

 

 「な、なぁ、なんで、いつもみたく再生しないんだ?」

 「……何となくの予想はついているがわざわざ自身の個性の内情を語るつもりは無い。そもそも、俺も明確には分かっていないからな。あの女が例外というだけだ」

 「あ、そう………」

 

 「ところでエネルちゃん、それ、何とかしてちょうだい。見てるこっちも痛々しいわ。エネルちゃんも医務室行ってきたら?」

 

 上鳴とエネルが会話をしていると、周りの生徒達の言葉を代弁するように蛙吹が声をかける。個性を用いて体を雷と化しても、やはり傷はそのままであった。

 

 「ふん、あんなババアの個性に世話になるつもりは無い。そもそも気色悪いだろうが、あの個性、見てくれ的に」

 「そうは言ってもウチらも気色悪いよ、そんな傷見せられると…」

 

 「そうか。ならば八百万、バーナーを作れ」

 「バーナーですの?少々お待ちを……にしても、何に使うんですの?」

 

 自身の医療知識にバーナーを用いた治癒法は無いが、緊急時の止血法といったサバイバル系統の治療方法なら自身よりも知識はありそうだと、バーナーを作れというエネルの言葉を疑いもせずに個性を発動させつつ、質問を行う。手のひらに金属製の重量のあるバーナーを作り、エネルに手渡すと、うむ、と声を出して受け取り、右手で持ち上げてカチッと火をつけ、一言。

 

 

 

 「―――――焼いて塞ぐ」

 「わあぁぁぁあああッッ!!?やめろバカバカバカッ!!!」

 「やめたまえエネルくんッ!!いくら何でもグロテスクすぎるだろうそれ!!?」

 「ケロ、そこまでやれとは言ってないわ、エネルちゃん」

 

 隣に座る上鳴が油断しているエネルの手から即座にバーナーを取り上げて八百万に返却し、飯田と蛙吹がツッコミを入れる。意地でもリカバリーガールの元へ行かない様子のエネルにガッカリと肩を落とすのであった。そんな周りのクラスメイト達の様子を見て、調子づいたようなエネルが声を上げる。

 

 「まぁ、別にこれはこれで良いハンデでは無いか。……いや、この程度では全くハンデになっておらんか?ヤハハハハハッッ!!!」

 「けッ、ほざいてろカス」

 

 おや?っと周りの生徒が、爆豪の返答に反応する。舐められたことに激昂して怒鳴り返すかと思ったら、冷静に煽り返す爆豪。しかし、それもそうかと直ぐに納得する。別に爆豪はバカなわけでは無い。相手に強く当たり散らすのは自信の表れ。麗日の実力を認めて真剣に戦ったことからも、勝負にかける想いは人一倍大きいことが伺える。そんな彼が、エネルと自分との実力差を理解できないはずがない。だからこそ、"ハンデ"という言葉を強く否定はできなかったのだろう。轟や八百万等、他の本戦出場者は、これといって反応を示さなかった。

 爆豪の言葉の後、少し間を開けて上鳴が質問をする。

 

 「なぁなぁ、唐突に話変わるけど、次お前どうするの?」

 「次……あぁ、あの、洗脳するやつか」

 

 "洗脳するやつ"という言葉を聞いて、ある一人の生徒の顔に影が差す。と言っても最初よりは随分立ち直って、苦虫を噛み潰した程度の表情の曇りではあるのだが。

 

 「話を聞くとか何とか言ってたけど、ちょっとやそっとじゃお前は動じなさそうだよなぁ………誰かとは違って」

 「く……返す言葉もない……それで、エネルくんはどうするんだい?君の個性ならば、どうにもできるだろうけど」

 

 「……一つ、賭けをする」

 

 賭け?と、周りの生徒達が声を揃えて同じ言葉を発する。いつものことだが、彼の言葉の意図が理解できずに、更に問いかけが重なる。

 

 「賭けって何?」

 「確かアイツの個性、"洗脳"だったな?」 

 「らしいな」

 

 「なら、俺には効かない、かもしれない」

 

 はぁ?と、言葉を漏らす上鳴。頭の中で考えを張り巡らせるが、いつまで経っても答えに辿りつかない。戦闘において最強であることは認めるが、流石にマインドコントロールは防ぎようが無いだろうと、疑心の眼差しをエネルに送ると、彼が言葉を綴る。

 

 「確証があるわけでは無い、もしかしたらという程度だ。失敗すればまんまと洗脳されて―――――俺は負けるだろうな」

 

 ぽかーんと、一瞬彼が言った言葉を理解できずに、エネル、洗脳、負ける、の3文字を頭の中に浮かべて思考の海に漂わせる上鳴。波にさらわれバラバラになっていた三つの言葉がカチッと組み合わさるように脳内でエネルの言ったことを復唱すると、やっとこさ意味を理解できたようで思わず声を荒げてしまう。

 

 「はぁッ!!?お前が負けるなんてナイナイナイナイッ!!俺より図太い精神してるくせに言葉で揺さぶられるわけねーじゃん!!飯田にかけた言葉なんかお前に響くわけねーだろッ!!!」

 「随分な言い草では無いか、まるで私が薄情者のようだな」

 「いやそういうわけじゃ無いけども…」

 

 上鳴だけでは無い。他のA組の人間も、奇妙なものを見るかのような視線をエネルに向ける。当の本人が予感している敗北を、他の誰もが認めないという不思議な状態。しかし無理もない。既に彼らの気持ちは上鳴が代弁した。何をどうすれば敗北するというのか。エネルが洗脳を受けている図が思い浮かばず、ありえもしない可能性を提示する飯田。

 

 「………まさかとは思うが、普通に会話したりしないだろう?エネルくん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ、どうだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エネルは「ジャムブウル」とか「ヒノ」とか言うのに、塩崎は「ハァッ!!」ってずっと喋るだけって言うのもアレだから、勝手に原作に無い技を偽造させていただきました
にしても塩崎は技名とか口調が全部厨二だからセリフとか技名考えるのも疲れるんじゃ!おまけに原作での登場シーンがちと少ないからどんなキャラなのかよく分かんねぇ、ぶっちゃけこんなに饒舌じゃない
違和感ありまくりだろうけどごめんなさいね
それではまた次回

どちらにしましょう。

  • 続行。
  • リメイク。

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