ヒーロー名"神(ゴッド)・エネル "   作:玉箒

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改訂版:5話:新たな舞台

 「出久!ティッシュ持った!?」

 

 「うん」

 

 「ハンカチも!?ハンカチは!?ケチーフ!」

 

 「うん」

 

 「…出久!」

 

 「なあにぃ!?」

 

 「……超カッコイイよ!」

 

 「…………!!…行ってきます!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春、それは高校生活の始まり

 

 「1-A、1-Aっと…」

 

 毎年300を超える倍率の正体。

 一般入試定員36名、18人ずつでなんと2クラスしかない。

 

 「あった…ドアでかッ(バリアフリーかな……?)」

 

 扉越しに、生徒達の話し声が少し聞こえる。すなわち、彼の同級生となる人間だ。初対面、その印象を大切にしようと扉に手をかけるも、中々に開く勇気が起きない。どんなふうに話しかけるべきか、どんなふうに答えるべきか。中学校時代は無個性ということで半ばいじめにも近い所業を受けていた緑谷。やはり友情のスタートダッシュは上手く切りたいようで、扉の前で思い悩んでいた所、

 

 「……入らんのか?」

 

 「あ、ハイ!そうで、す………ね……(こっちもデカッッ!!)」

 

 咄嗟に背後から声をかけられ、反射的に敬語で返事をしてしまう緑谷。声の主の方は顔を向けてみると身長2m50cmはあろうかという大男が目の前に立っていた。学生服を着てここにいるところを見るとおそらく彼も1-Aの生徒なのだろうが、頭がパニックになってそれどころではない緑谷。初対面の人間とのコミュニケーションはどうするべきなんだと頭の中を混乱させる、

 

 「おい」「あ、ハイ!ごめんなさい!」

 

 「……なぜ謝る?それよりも、お前も1-Aの生徒か?」

 

 「はい!……あ、ってことは、えーっと、君、も……?」

 

 少しおずおずとしながら顔を上げてまだ、顔が見えない。まだ、顔が見えない。ジリジリと、ほぼ垂直に首を曲げてやっとこさ彼の顔が見える。身長高すぎだろとぼやいて目の前の長身の男の様子を伺う。

 

 「うむ、私もここの人間だ。すなわち、クラスメイトになるわけだが……名は?それとも、名乗るときは自分から名乗れと言うタイプの人間か?お前は」

 

 「緑谷です!!緑谷出久です!!!はい!!!」

 

 「そうか、私は(ゴッド)・エネルだ。気軽に神とでも呼べばいい。廊下で長話もなんだ、早く扉を開けろ」

 

 半ば命令にも近い、というか命令口調で初対面のクラスメイトに指示をされる緑谷。背中から圧を感じて怯えながら、しかし彼の苗字に疑問を抱きつつ、そっと扉を開けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

 

 「思わねーよ!!!てめーどこ中だよ端役が!!」

 

 「ボ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

 

 「聡明〜〜〜〜!?クソエリートじゃねえか、ブッ殺し甲斐がありそうだなぁ!?」

 

 「ブッ殺し甲斐!?君ひどいな!?本当にヒーロー志望か!?」

 

 扉を開けた瞬間にげんなりとした顔を見せる緑谷。まさか、かっちゃんと同じクラスになるなんて、運が良いのか悪いのか。扉の開閉音に気づいた、目の前で口論をしていた二人も含めた複数名が扉の方へと顔を向けて少し驚いたような表情を見せる。一人、眼鏡をかけた彼が、同じく目を見開き少し衝撃を受けた様子を見せるも、臆することなく二人の元へとズカズカと歩いていく。

 

 「やあ!君もこのクラスの一員かい?僕は私立聡明中学出身、飯田天哉だ、よろしく頼む」

 

 「あ、う、うん!っと、僕は緑谷、よろしくね、飯田くん」

 

 「あぁ!よろしく頼む!そして、後ろの君も、そうかな?にしても、デカイな……」

 

 飯田が首を曲げて、見上げるようにエネルと視線を合わせる。半開きの彼の目が相手を見下しているようにも見えるが、仏頂面の彼の顔にはそれがどうにも自然体で似合っているような感じがした。

 

 「神・エネルだ。気軽に神と呼べばいい。貴様は……飯田とか言ったか」

 

 「あぁ、飯田天哉だ、よろしく。ところで!君!クラスメイトに"貴様"などと使うのは慎みたまえ!相手に失礼だろうッ!!」

 

 「……貴様とは、元々室町時代には相手の敬意を表した二人称であった、それが年代を隔てるうちに庶民へと伝わり誤用となっただけだ。俺は敬意を持って貴様と言ったのだが?」

 

 「なん……………だと…………………ッ!?」

 

 エネルの言葉を受けて膝から崩れ落ち、俺もまだまだだと呟いて悔しさを顔に滲ませる飯田。周りの人間から、真面目すぎやしないかと呆れ顔で見つめられる。言った本人であるエネルも少し困惑気味に自分の目の前に両膝両手を地面について項垂れるクラスメイトを眺めるも、特に声をかけることもなく放っておいて自分の席を探して椅子に座ろうとするが、

 

 「おい」

 

 「……なんだ」

 

 「…てめぇか、首席」

 

 「だったらどうした」

 

 一人のクラスメイトがエネルに喧嘩腰で声をかける。いったい、爆豪が長身の彼に何を感じ取ったのかは分からないが、先日届いた合格通知により発覚したことがある。自分が一番でない。合格よりも、そちらの方が衝撃であった。彼の人生において一度も敗北という言葉など存在せず、常に頂点であった自分の上に誰かが立っているという初めての感覚。許せなかった。認めたく無かった。試験の時でさえ、自分が一番だという自負はあった。だからこそ、理解できない。俺の点を超えられるはずがない。そう思っていた。しかし、これが現実。彼の目の前に、確かに存在する彼以上。言われてみれば、なるほど、風格はある。

 

 「……ッッ!!そうか、テメェか、耳長……ッッ!!!」

 

 「………なるほど、初対面であだ名とは、中々フレンドリーな人間だな、貴様は。それとも、ただの煽りか?くだらん余興に付き合ってやる気は無いぞ」

 

 「誰がテメェと仲良しこよしするかッ!!ボケェッ!!!」

 

 「そうか、だったら黙って座ってろ。ガキが」

 

 「あ゛あ゛ッッ!!?誰がガキだッ、誰がッッ!!!」

 

 偏差値79の超優等生の集いにて、底辺高校のチンピラ以下のやり取りを繰り広げる二人。周りで興味なさそうにそっぽを向いている者もいるが、大半が気が気じゃ無いようで大人しくしててくれと願っている。飯田は間を割って仲裁を行い、緑谷は自分がやったわけでも無いのに、幼馴染が早くも問題行動を起こしていることに何故か申し訳なく感じていた。

 

 「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 唐突に、気怠そうな男の声が教室に鳴り響く。先ほどまで暴言を吐いていた爆豪と二人を宥めていた飯田も口を閉じて音のする方向へと顔を向ける。クラスメイト達の視線の先に、寝袋に身を包んだ芋虫が一匹いた。

 

 

 

 

 「ここは……(ッス)」

 

 

 

 

 

 

 「ヒーロー科だぞ(チュー)」

 

 

 

 

 「「「「(な、なんかいるーーーッッ!!?!?)」」」」

 

 心の中でだが、クラスメイト達が総ツッコミを行う。横になったまま寝袋のファスナーを開き、ゴソゴソと体を唸って口元にゼリー飲料を持ってきて一気に飲み干すくたびれた男。ぺちゃんこになった容器をポケットにしまい、よっこらせと言いながら寝袋を脇に抱えて立ち上がり、生徒達を一瞥する。

 

 「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね」

 

 少々、失望の入った視線を生徒達に向ける謎の男性。彼の言葉が耳に入っているのか入っていないのか、クラスメイト達がなんだコイツと言った目で教壇に立つ人物を眺める。誰もが疑心を持って見つめていると、彼が自身の正体を明かす。

 

 「担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 担任!?これが!!?という生徒達の驚愕の眼差しを受けても特に反応するわけでもなく、淡々と自身のペースで話を進める。特にヒーローオタクである緑谷は、雄英在籍ということはプロヒーローに違いはないが、どれだけ記憶を掘り返しても見覚えが無いために、人一倍困惑していた。そんな生徒達はよそに、早速だが、と言いながら担任、相澤消太が寝袋に手を突っ込んで何かを探している。あったあったと言って彼が取り出す右腕には、青色の上下一着が握られていた。

 

 「お前達、体操服(これ)着てグラウンド出ろ。時間は有限、お前らに入学式やガイダンスなんてものは必要無い。とりあえず…

 

 

 

――――個性把握テストを受けてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どちらにしましょう。

  • 続行。
  • リメイク。

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