サーカス・ア・ライブ   作:鳩胸な鴨

17 / 32
もうタイトルの時点で察してる人。正解。

友人がLINEでparty parrotという鳥の動画を山ほど送って来ます。
下ネタは鴨の大好物ですから問題無いですね。


第十六幕 LES ART MARTIAUX

警報が響く中、病院スタッフ、及び患者やその見舞客たちの動きは素早かった。

 

「シェルターはこっちです!

早く避難してください!」

「患者は患者用シェルターの方へ運びます!

スタッフは、患者の搬送を急いでください!!」

 

数人の『しろがね』混じるスタッフが指示を飛ばし、避難する人間は必要最低限の言葉を交わさない。

避難訓練でも見ているような光景だ。

俺たちも、人混みにもみくちゃにされながら、避難経路を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、シェルター開いてないぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見えたのは、閉じた入り口。

壁のように巨大な入り口は、遠目からでも分かるほどに硬く閉ざされ、ウンともスンとも言わない。

その言葉が孕んだ焦燥、恐怖。

人々にそれが伝染していき、あっという間に集団パニックを起こした。

 

「どういうことよ!?

軍は何してるの!?」

「開けろよ、おい!!死んじまったらどーするんだよ!!」

「開けて、お願い!!お願いだから!!」

「落ち着いて!皆さん、落ち着いて!!」

 

スタッフが宥めようとするも、人々は一向に聞こうとしない。

シェルターの管理は、自治体に設置された陸軍駐屯所が行なっている。

そのことをいち早く思い出した数人が電話をかけるも、すぐに顔を青ざめた。

 

「陸軍に電話繋がらない!!」

「そんな!?」

「じゃあ、シェルターなしで空間震から逃げろって言うの!?」

 

人々の戸惑う声が、更に伝播していく。

と。隣に居たアネサンが、驚愕の表情で声を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー耶倶矢と夕弦を、この病院ごと殺す気なんじゃ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間。

体から魂が抜けていくような、そんな感覚が全身を覆い尽くす。

アネサンの話によると、陸軍の司令はかなりのクズ。

手柄のために市民を殺しても、なんとも思わないようなヤツらしい。

 

 

 

 

 

そんなヤツが、耶倶矢と夕弦が倒れたことを知ったら……?

 

 

 

 

 

「落ち着きなさい。まだ、そうと決まったわけじゃない……」

「おい、窓の外を見ろ!」

 

アネサンが俺を落ち着かせようとしたところ、一人の男性が声を上げる。

その言葉に釣られるように、皆が窓の外を見て、息を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

『絶望』だ。

 

 

 

 

 

 

 

窓の外に映る光景は、それ以外に形容できないものだった。

病院を囲むように、武装した軍隊が並ぶ。

その手には、人など簡単に殺められる銃器。

種類など全く分からないが、分かることがあるとするなら一つ。

 

 

 

 

 

 

このままでは、『全員死ぬ』ということだ。

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

「出てきなさイ、《ベルセルク》」

 

軍隊の中でも、一際目立つ風貌の女性が、慣れない日本語で告げる。

病院内に居る人間たちは、なにがなにやら理解が追いつかず、半ば放心して軍隊を見つめる。

 

「この病院ごと殺すわヨ?」

 

その言葉と同時に、病院の窓が割れる。

そこから現れたのは、病衣を纏う二人の少女。

彼女らは睨むように、懇願するように、軍隊へと歩みを進める。

 

「この病院は、関係ないっ!」

「懇願。撃つなら、私たちだけに……!」

 

二人が言うと、女性は目を丸くした後、口元を三日月のように歪める。

 

「構エ」

 

女性が指示を出すと、軍隊が銃器を構える。

いくら精霊とは言え、弾丸の雨を喰らえば簡単に死ぬ。

明確な『死』を目の前にして、二人の少女の顔は、『人形』のようだった。

 

 

 

 

「……これで、いいのかな?」

「……返答。きっと、良かったと思います」

 

 

 

 

少女二人は、『死ぬつもり』だった。

楽しく過ごそうとしても、辛い過去がそれを邪魔する。

あらゆる意味で『人間』を削がれた自分たちは、『人形』。

ならば。人形らしく、呆気なく壊れてしまえばいい。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー人を殺すことしか出来ない、愚かな『人形』なんか。

 

 

 

 

 

 

 

「撃テ」

 

死刑宣告が為される。

漸く、終われる。彼女らは悔しげに、満足するように。

笑みと共に目を瞑る。

瞬間。火薬が爆ぜる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「LES ART MARTIAUXっ!!『戦いのアート』ぉっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

がきぃん。

 

 

 

 

 

 

金属と金属が擦れ合うような、甲高い音が響く。

少女たちが目を開く。

飛び散るガラス片。キラキラと太陽を反射するソレは、一人の少年を照らす。

人形に跨り、歯を食いしばった少年。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『あるるかァァん』ッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿は、何処までも子供で、逞しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること、彼女らが飛び出た直ぐ後。

少年は彼女らの姿を見て、反射的に飛び出そうとした。

 

「アンタ、人形は病室に置いたままでしょう!?そのまま行くつもり!?」

「取りに行ってる暇はねェ!今、行かねーと……!!」

 

そばにいた女性が必死に止めるも、少年は聞く耳を持たず、人混みをかき分ける。

急がねば。急がねば、間に合わない。

考えてる暇などない。

開閉が不可の窓へと近づいた彼は、拳でソレを叩き割ろうとして、窓の外に居る少女たちを見る。

 

 

 

 

 

「……っ、なんつー顔してやがる……!!」

 

 

 

 

 

 

サーカス芸人が、最もしてはいけない顔。

サーカス芸人が、最もさせてはいけない顔。

少女たちが浮かべていたのは、正にソレだった。

 

「……行くのかい?人形もないのに」

 

拳を振りかぶり、ガラスを破ろうとしたその時。

嗄れた老婆の声が、少年を止めた。

 

「ルシールのバッチャン……」

「行ったら殺されるかも知れないんだよ?

それでも行く理由はなんだい?」

 

老婆がそう尋ねると、少年は迷いなく答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「女二人笑顔に出来ねーで、なにがサーカスだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

脇目も振らず、少年はガラスを殴る。

銃口が彼女らに向く。

まだ、破れない。

引き金に指が添えられる。

ヒビすら入らない。

 

「ほら」

 

その時。老婆が少年のものとは違うケースを、軽々と投げ渡す。

 

「使い方は、分かるね?」

 

中のものが何かを察した少年は、こくりと頷くと、ケースの穴に指を突っ込む。

そして、ケースを鈍器にして窓ガラスを叩き割った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「LES ART MARTIAUXっ!!『戦いのアート』っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

指を引くと共に、ケースの中から黒の巨人が現れる。

道化の姿をしたソレは、放たれた弾丸を軽々と弾き飛ばし、地面へと立った。

 

 

 

 

 

その人形は、最古にして、基本。

道化にして、戦士。

 

 

 

 

 

『しろがね』は、その人形をこう呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『あるるかァァん』ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あるるかん。

そう呼ばれた人形は、腕から刃を展開し、少女たちの前に立つ。

人形の持つブリキの目と、少年の目が軍隊を睨みつける。

 

「九十九……?なんで……?」

「困惑……。九十九……?」

「ワケなら後でたっぷり話してやる。

今は、生きることだけ考えとけ」

 

叫んだことで、声帯が痛んだのだろう。

掠れた声で呟くように、少年が答えた。

 

「……ジャマよ。Fire」

 

女性が淡々と告げ、弾丸が襲う。

以前は捌き切れず、怪我を負った。

今回は、前回のものとは比べ物にならない程の弾丸の数。

穴だらけになる少年を押し退けようと、少女らは動き出す。

 

「『虎乱』!!」

 

が。彼の動きに連動し、人形の上半身が激しく回転する。

その腕は弾丸を一つ残らず弾き飛ばし、やがて止まった。

 

「なっ……!?」

「驚いてる暇はねーぞ。『炎の矢』!!」

人形の放つ連打が、軍隊の武装を的確に貫いていく。

続いて、頭部につけた羽飾りまでもが動き出し、周りの軍人を掴んだ。

 

「『羽の舞踏』!!」

 

掴んだ軍人の武装に、人形の背に乗った少年が口に咥えた工具を差し込んでいく。

少年が足でソレを蹴り飛ばすと、武装はあっという間に『分解』された。

 

「……っ、なにしてるノ!!

早くこのガキを殺しなさイ!!」

 

女性が慌てて指示を出すと、周りの軍人が少年と人形を囲む。

『虎乱』の範囲外で銃を構えてるため、少しでも動けばすぐに射殺できる。

こうなってしまえば、対処のしようがないだろう。

「ふ、フフフ……。

コレなら手も足も出なイでショ?

さっさと死になさ……」

「『聖ジョージの剣』、『虎乱』」

 

瞬間。軍人の持つ武装が、砕け散る。

人形…いや。『道化』は、無表情で舞い踊るだけ。

女性の目に映るのは、道化の腕から伸びる、幾重にも重なった刃。

砕けた武装を踏みにじり、道化と少年が一礼した。

 

「……っ、第二武装、展開!!」

 

女性が叫ぶと、軍隊は何処からか『ミサイルユニット』を展開し、照準を少女二人を含め、病院に向ける。

道化が反応する間も無く、女性が笑うように、叫んだ。

 

「Fireッ!!」

 

ミサイルが放たれると共に、阿鼻叫喚が病院に響く。

このままいけば、病院は少女ごと爆ぜる。

だというのに。少年は一切、慌てるそぶりを見せなかった。

 

 

 

 

 

 

「『あるるかん』!!」

 

「『あるるかん』!!」

 

「『あるるかん』!!」

 

「『あるるかん』!!」

 

「『あるるかん』!!」

 

「『あるるかん!!』」

 

「「「『あるるかん』!!!」」」

 

 

 

 

 

道化の名を呼ぶ声が、幾重にも重なる。

同時に、放たれたミサイルが一つ残らず爆ぜ、舞台を彩った。

少年の背後に立つのは、幾人もの道化。

白銀の髪を風になびかせ、彼女らは舞台へと降り立つ。

 

「安心しな。

ここには、『しろがね』が居る」

「おう!子どもらしく、バッチャンに甘えさせてもらう!!」

 

道化は駆ける。

腕に刃を、顔に無を、背に少年を乗せて、軍隊へと向かっていく。

 

「っ、なんなノ……?

なんなノヨ、このガキは……っ!!

なんで、なんで《ラタトスク》でもないのに、精霊を殺す邪魔を……っ!!!」

 

女性の狼狽は、少女たちも同じだった。

少年が命をかけて…いや。命すら顧みず、ただひたすらに軍隊を相手取る。

本当に、ただの子供のはずの少年が、だ。

 

 

 

 

必死に歯を食いしばるでもなく、泣きそうな顔を堪えるでもなく。

サーカスの芸人が客に送るような、そんな眩しい笑顔で。

少年は道化と共に舞い踊る。

 

 

 

 

「子供はね。大事なものを守るためなら、なりふり構わないんだよ」

 

飛び交うミサイルを弾きながら、老婆が告げる。

 

 

 

 

 

 

「耶倶矢、夕弦!!

テメーらの過去は、消せねェ!!

辛い過去は、抱えて生きていかなくちゃいけねェ!!」

 

 

 

 

 

 

少年は叫ぶ。

軍隊をなぎ倒しながら、がむしゃらに。

 

 

 

 

 

「一度負けてもいい!!その過去を憎め!!

ソイツらに『幸せだ』って、いつか笑い飛ばせるように、憎め!!」

 

 

 

 

 

道化が軍隊の殆どを壊滅させる。

少年は、女性への距離を詰め、更に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「それでも辛いンなら、仲町サーカスの皆がいるってことを思い出せ!!

サーカスは、二人っきりじゃ作れねェ!!

『お前たちのサーカス』を、俺たちが彩ってやる!!俺たちが、手伝ってやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

道化の拳が、女性の腹へと突き刺さる。

少年は更に力を入れ、彼女を勢いのままに吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『幸せ』が足りねーなら、俺たちが、その『幸せ』ってヤツを作る!!」

 

ーーーー生きろォ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女たちの涙と、観客席の歓声が溢れ出す

汗だくの少年は、お世辞にもカッコいいとは言えない。

だが、滲んだ視界には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女たちに、強がった笑顔を見せる少年が、美しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




コレがやりたかった。しろがねの一斉「あるるかん」。
ジキルトハイド。ごめん。病室待機にして。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。