シンオウ最強のジムリーダーに勝つまで   作:正親町

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第六話

 

 

「よっしゃあ兄ちゃん!次は俺が相手だ!」

 

「ああくそっ!かかってこい!」

 

作業着の上だけを脱いだタンクトップの中年男性が、ようやく出番が回ってきたかと(はや)る心を抑えきれない様子で、イシツブテを繰り出す。それに対しシリウスは、若干ヤケクソ気味に返し、グレイシアを行かせた。

 

観戦している他の炭鉱夫たちは完全に仕事そっちのけで、行ったれ行ったれ!と対峙する二人に声援を送っており、その中にはヒカリの姿もあった。

 

 

 

あのあとの流れを説明しよう。

イワークを倒したシリウスは炭鉱夫たちに讃えられ、そして囲まれた。兄ちゃんやるなぁ!ありがとよ!と背中をバシバシ叩かれて苦笑いするシリウスと、仕事によって汚れた手で触られて、正直不愉快そうなミミロップ。

 

感謝されるのは嬉しいが無駄に長居するつもりはないので、シリウスは彼らに、自分がここへ来た目的を話した。誰でもいいから腕試しをさせてくれ、と。

 

 

その瞬間、沈黙の空気を挟んだあと、男たちの目が輝いた。

 

 

「そうだったのか!なら喜んで相手するぜ!」

 

じゃあ俺が最初に!いや俺だ俺だ!と男たちは我先(われさき)にと、シリウスとのバトルを申し出てきた。

ちょっと待て、とシリウスの顔が引きつる。今ここに集まっている炭鉱夫たちは、どう見ても十五人は超えている。それに対しこちらは一人。しかも手持ちはたったの二匹しかいない。全員を相手にするのは、申し訳ないが無理だ。

 

彼らのやる気を削ぐ前にシリウスは、こっちから頼んでおいて悪いけど、人数を限らせてくれと訴えた。少し残念そうにそれに応じた彼らは、軽く話し合いをし、その結果選ばれた八人がシリウスの前に並んだ。

 

「は、八人…?」

 

だいぶ絞ったほうなのかもしれないが、それでも一人で相手するにはまだ多い気がする。

 

「さあ兄ちゃん!勝負しようか!」

 

「………」

 

できればあともう三人、減らしてほしい。

そう言いたかったが、いい歳した大人の男たちが、まるで遊園地の乗り物を前にした子どものような目で、こちらを見ている。

 

 

ああ、これも、あのデンジを倒すための試練なのか。

 

 

シリウスは、ミミロップを見た。グレイシアが入ったボールを見た。

 

「わかった。よろしく頼む」

 

こうして、シリウスの勝ち抜き戦は始まったのである。

 

 

 

+ + +

 

 

 

「イシツブテ、“ストーンエッジ”!」

 

自分の周りに岩のトゲを無数に生み出し、グレイシアへ向けて勢いよく放つイシツブテ。グレイシアは“こおりのつぶて”で迎え撃ち、二つの技は相殺した。

 

ぶつかり合った衝撃により、爆風が発生する。互いの姿が隠れたため、迂闊に動けないでいるイシツブテの目の前に、煙の中をかいくぐったグレイシアが襲いかかった。

 

「“こおりのキバ”!」

 

つららのように冷たく鋭い牙が、イシツブテを貫いた。痛みを感じたと同時に叫び、ゴドンと重い音を立てて地面に転がる。

 

イシツブテ、戦闘不能。

七人目の男を倒した。次で最後。ようやくだ。

 

しかし、今の戦闘でかなりグレイシアの体力は消耗した。控えているミミロップも、一戦休んだとはいえ疲れはとれていない。そして疲弊しているのは、シリウスも同じだった。

 

 

技の指示。タイミング。相手の動きの観察。予測。そして数ある攻撃手段の中から『今使うべき技』の選出。

 

 

一秒の油断が勝負を決める隙となるのが、ポケモンバトルだ。七人抜きを終えたシリウスの脳は、もう勘弁してくれと泣き言をこぼしているが、心はあと一人だからと踏みとどまっている。

 

「………じゃあ、次で最後だな」

 

まだバトルは終わっていないのだから、不甲斐ない姿は見せたくない。特に敵には、絶対に。

 

 

【嘘でも笑え】

 

 

シリウスが胸に刻んでいる言葉の一つである。遠い昔に教えてもらった、己を支える言葉。

だから、笑った。俺はまだやれる、俺たちは戦える。そう、顔に表す。

そしてそれはグレイシアやミミロップにも伝染し、おぼつかない足を奮い立たせ身体を支える。

 

 

さあ来い。シリウスは声を張った。

 

 

 

 

 

「僕が、最後の一人だよ」

 

 

群がる炭鉱夫たちの背後から、若い男の声が聞こえた。雰囲気が少し変わる。彼らをかき分けて、声の主は姿を現した。

赤いヘルメットに黒ぶちメガネ。灰色の作業着を身にまとった、顔の整った青年。

 

「はじめまして。僕が八人目を務める、ヒョウタだ」

 

「……ヒョウタ…?」

 

実はもうほとんど回っていない頭を無理やり回し、過去の記憶から検索する。そして、ヒットした。

 

「じ、ジムリーダー?」

 

「そう!よかった!まだ就任したばかりだから、あまり知れ渡ってないと思ってた」

 

人懐っこい笑顔を浮かべる、ヒョウタという青年。シリウスも表情を崩さないように気を張っているが、内心動揺し始めており、マジかよ…と静かに喉仏を上下させる。

ヒョウタは、腰に手を当てて言った。

 

「君のような強いトレーナーと戦えるなんて、光栄だよ。だからこそ、勝負は持ち越すべきだ」

 

「…えっ?」

 

「君のコンディションを整えるべきだってこと」

 

さすがに今日はもう無理でしょ?とシリウスとポケモンたちを見ながら優しく言った。

 

「ポケモンセンターでゆっくり休ませてあげなよ。もちろん、君自身もね。僕はジムで待っているから、君たちが万全の状態のときにおいで」

 

「………」

 

ここは素直に頷くべきだと判断する。

悪いな、そうさせてもらう。と肩の力を一気に抜かせたシリウスに、謝ることなんてないよ。と逆に肩をすくめたヒョウタは、

 

「君も、大変な目に遭ったね」

 

ずっと事の成り行きを見守っていたヒカリにも目を向ける。あ、いえ…と急に話しかけられて戸惑うヒカリに、申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「僕がここへ来たのは、既にイワークが倒されたあとだったよ。そこの彼が僕の仲間たちとバトルを開始している間に、事情は聞いた」

 

ヒョウタはジムリーダーであり、クロガネ炭鉱の責任者でもある。

(ゆえ)に、迷惑をかけてしまったシリウスとヒカリが旅のトレーナーであると知ると、お詫びに二人分のポケモンセンターの宿泊代を全て出すと言ってくれた。しかも、一番良い部屋を用意してくれるとのこと。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「……。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

こうして全員鉱山を出て、それぞれ帰路についた。久しぶりに全神経と体力を使った気がすると、シリウスとポケモンたちは一番良い部屋とやらの広さや質の良さを味わう暇もなく、倒れるように沈んで寝た。

 

 

 


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