妹がいつの間にか人気Vtuberになってて、挙句に俺のお嫁探しを始めた   作:はしびろこう

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十四話『死んにゃ』

「……スゥ──ー……ふぅ……」

 

 これは……慎重な質問にならざるをえない。

 恐らく、お姉さんには大ダメージだし、俺もかなりダメージを負っている。

 さっき、携帯から動揺のあまり、声にならない声が聞こえた。魂の叫びだった。

 

「……お姉さん……やってるんですね?」

 

 取り敢えず、何を? とは聞かない。俺にも心の準備というものがいる。

 それをしなくては死んでしまうのだ。多分、両方。

 

「…………」

 

 重たく沈黙が続く。お姉さんと話していて、ここまで沈黙が続いたのは初めてだ。今思い返すと、妹のことで相談したり、家の事とかの話しかお姉さんとはしていない。だからこういう話題になった時どうすればいいのか分からない。

 

 まずはお姉さんのスペックをおさらいしてみよう。

 

 俺たちの保護者になってくれた人で、この家は元々お姉さんの物だった家だ。それを俺たちに無料で貸してくれている。

 お姉さんと母さんは不動産屋の娘であったが、祖母と祖父は既に他界。この家のみお姉さんの手元に残ったらしい。

 

 そして、なんといっても男勝りな性格。

 姉御肌なお姉さんはサバサバとしているが、必要以上に俺たちに干渉はしてこず、しかしちゃんと気にかけてくれた人。

 周りが信用できない大人の中、唯一信用していた大人だ。

 

 職業は画家。

 芸術が好きらしく、絵を描いてなんとか生計を立てているみたいだ。

 基本は風景画しか描かない人だったのだが……。

 後は絵画教室の非常勤講師をやっている。

 

 そして、伯母さんと言うと激怒する。

 40前半なんだからもうちょっと融通を利かせて欲しい。

 

「……」

 

 まだ、重たい空気が流れる。

 クソっ! 早くゲロって楽になってくれ! 頼む! 俺まで死んでしまいそうだ! 

 もう状況証拠はバッチリなんだ……! 後は犯人の自白があれば! 俺も! お姉さんも! お互い致命傷を負うが生きていける! 

 頼む……! 早く! 喋ってしまえ! 

 

「く、黒鞠コロン……ってなんのことだ……?」

 

 !?!?!? 

 バカなっ!? ここでシラを切るつもりか!? ここまできて往生際の悪い! 

 声が震えてんの分かってんだぞ! 

 

「……お姉さん……もうダメです……全部……! 全部分かってしまいました……!」

「……ふ、ふひひ……そ、そんな訳……」

「配信……見てました」

「」

 

 あ、死んだわ。

 電話の向こうで魂の抜けた音が聞こえたわ。

 

「…………取り敢えず……話してくれますね?」

「……わ、私だって……」

 

 電話の向こうでボソボソと声が聞こえる。

 何を言っているのだ? 声が遠くてよく分からん。あまりの放心状態に携帯を耳から離しているんじゃないだろうな? いや、どうもそうらしい。

 

「私だって…………!」

 

 その瞬間、俺の鼓膜が大きく揺さぶられるほどの大きな声が耳から突き抜けていった。

 

「私だって! アイドルになりたかったんだよおおおおおおおおおおおお!!!」

「あああああぁぁあぁ!」

 

 めちゃくちゃ耳が痛い! なんだ!? アイドルになりたかっただと!? 

 ……その結果がアレ? 

 語尾ににゃんをつけているアレ!? 

 

 ウッソだろおい! 

 

「……昔からアイドルになりたくて……若い頃は色々やってたけど……今じゃもう無理な事がわかって……クソっ……!」

 

 おいおいおい、嘘だろ……今度は机叩き出して泣き始めた。泣きたいのは俺だよ。

 あーあ、何やってんだろう俺、好きでこんな事になってる訳じゃないのにさ。

 まさかの大事故だよ。全治5ヶ月だよ。

 こんな事になるなら見て見ぬふりをすればよかった……。なんて考えても後の祭り。

 

 取り敢えず、電話の向こうで暴走するお姉さんを慰めに入ったのであった。

 

 ────

 

「落ちつきました?」

「……わりかし」

 

 電話越しにライターの音が聞こえ、息を吐く音が聞こえた。どうやらタバコを吸い始めたみたいだ。

 タバコを吸うまでの落ち着きを取り戻した事に俺はホッとする。

 

「取り敢えず、後の事なんですけど……」

「なあ……萌香は知ってんのかな。あの配信で私の名前を出したって聞いたけど」

「……分かりません、でも一ファンみたいな事は言ってましたよ」

「……そっかぁー……はあ、まあ萌香にバレてないんだったらそれで良いわ」

 

 なにかと諦めたような声を出すお姉さん。

 恐らく今は椅子にもたれて死んだ目をしているのだろう。

 

 それからお姉さんはポツリと話し始めた。

 どうやらお姉さんと母さんは地下アイドルをやっていたみたいで、姉妹ユニットとして頑張っていたみたいだった。

 しかし、売れない中、母さんが父さんと結婚して、俺たちが生まれた。

 

 お姉さん一人でアイドルは続けていたらしいが、30を超えたあたりで引退を余儀なくされ、後は俺たちを引き取るなどして生活していた。

 そんな中、配信というものに出会い。お姉さんも最初は風景画を描く配信をやっていたみたいだ。

 

 その後にキャラ絵を描いてみたり、自分で描いたキャラを画面に出しながら喋っていたらいつのまにかVの仲間入りを果たしていたらしい。

 そしてあの黒鞠コロンが生まれた……と。

 

「……まあ、それなりに楽しいよ。今は人来すぎだけど」

「でも、凄いじゃないですか。あれだけの人を笑顔に出来るなんて」

「はは、そういうもんかね。まあ、あの人たちに褒められて悪い気はしないね」

「……俺にバレたからって辞めないでくださいよ。辞められたら妹が悲しむんで」

「はっ! 辞めねーよ! ……で気になってたんだけど……お前ら兄妹ってどんな関係なの? 側から見て恋人にしか見えねーんだけど」

 

「んな訳ねーだろ、伯母さん」

 

「お姉さんにゃ! ぶちとばすぞわれ! …………あ」

 

 最後にお決まりの言葉を吐いて、お姉さんは通話を切る。というか俺から切った。

「にゃ」は……流石に……キツイ。

 

 




中王区かっこよかった。

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