妹がいつの間にか人気Vtuberになってて、挙句に俺のお嫁探しを始めた   作:はしびろこう

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十九話『旭』5

 私は涙目になりながら、お兄さんの顔を見る。

 するとお兄さんは心配そうな顔から、真剣な表情に変わり、私に手を差し伸べてくれた。

 私は、震えながらもお兄さんの手を取り立ち上がる。

 

「何があったのかは見当が付かないけど、取り敢えず家に来なさい」

 

 お兄さんは私の手を取って歩き出す。

 その背中はとても頼もしく見えた。

 

 ────

 

 私はお兄さんの家に入り暖かく迎えられた。

 そこには幽香ちゃんもいて、私の心配をしてくれている。

 

「大丈夫? 旭ちゃん」

「う、うん」

 

 私は少し震えながら、手を組む。

 幽香ちゃんが私の事を抱き寄せてくれた。

 この兄妹は本当に優しい。さっきまでの怖い思いが嘘みたいだ。

 

「どうぞ」

 

 お兄さんが私に温かいココアを差し出す。

 本当に温かい。…………もう一回涙が出てきた。

 

「……何があったのかは……聞かない方がいいかな?」

「……」

「そっか……うん、今日は泊まっていきなさい」

「え!? そんな、悪いです……」

「……喧嘩か何かしちゃったんでしょ?」

「!」

「首元。掴まれた跡があるよ」

 

 お兄さんは自分の首元に指を刺す。

 私はリビングの近くにあった姿鏡を見た。確かに赤くなっている。あの時に……。

 私はまたその事を思い出して、怖くなってしまった。

 

 幽香ちゃんの抱擁が力を増す。

 すごく、力が抜けてしまい。ここが安全だと分かった瞬間。私はまた大泣きをしてしまった。

 

 ─────

 

 私は気がついて体を起こす。

 どうやら私は眠ってしまっていたようだった。

 ソファの上に寝ていた。私は近くにあった壁時計を見て、今は深夜の2時だという事を確認する。

 

「ん? 起きた?」

 

 お兄さんが私のすぐ近くで椅子に座っており、眼鏡をかけて本を読んでいた。

 どうやらつきっきりで見守っていてくれたようだ。

 

「す、すみません」

 

 私は寝てしまっていたこと、そしてお兄さんに守られている事を実感して、急に恥ずかしくなる。私は起きたと同時に謎の謝罪をしてしまった。

 

「いいよ、ちょっとは気が休まったかな?」

「は、はい……」

「うん、それは良かった。ちょっと待っててね、ココア淹れてくるから」

 

 そう言ってお兄さんは台所の方へ行き、お湯を沸かし始めた。

 慣れた様子で、ココアを淹れていく。

 私はその動作に見惚れてしまい、お兄さんの方をじっと見てしまっていた。

 

 お兄さんは私の視線に気が付いたのか、私の方を見て、ニコっと微笑む。

 それと同時に私の顔が熱くなっているのを実感した。

 

「どうかしたのかな?」

「い、いえ……なんでも」

 

 私はお兄さんから手渡されたココアを一口飲み落ち着く。

 そういえば、配信すっぽかしちゃったな……リスナーのみんな怒ってないかな? 

 

「配信とかは、妹が代わりにSNSで投稿したから問題ないと思うよ、大岩さんに確認も取れたし」

 

 私はその一言を聞き、またホッとする。

 

「何があったのかは知らないけど、必要なら俺を頼ってくれて良いから。こう見えて大人だしね」

「…………は、はい……」

「何か食べたいものとかある? ご飯食べてないでしょ?」

「い、いえ! そこまでしなくても!」

「いいから甘えなさい、この家にいる間は君も東雲家の一員だ」

「…………じゃ、じゃあ……オムライスが……」

「いいよ、ちょっと待っててね」

 

 お兄さんは壁にかけてあったエプロンを手に持ち、また台所の方へ向かっていった。

 お兄さんの苗字……東雲って言うんだ……。

 お兄さんを一個知れた。私はそれだけで嬉しくなって、手をギュッと握る。

 

 甘える、それは私にとっては慣れていない経験だ。

 いつも一人でおり、家族は風邪をひいた私を置いて仕事に行ったりと、仕事人みたいな人だ。

 だから、あの家では兄貴と私しかいなくて、それでも兄貴は私の事を見てはくれなかった。

 だから母性というものに憧れたし、甘えさせてくれるまのちゃんは、本当に女神だ。

 

 しかし、男の人が苦手な私にとって初めて、こんなにもドキドキさせてくれて甘えさせてくれる人。こんな経験は初めてだった。

 ……お兄さんの顔が見えるたび、私は顔が熱くなっている。

 もしかして……もしかして……。

 

 私はお兄さんに───。

 

「あれ? 卵切らしてるな、ちょっとごめん! 走ってコンビニ行ってくるよ、待っててね」

「え? は、はい」

 

 そう言ってお兄さんは財布を持って、外に出かけていった。

 …………ふふ、すごく優しい人だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 そして、お兄さんが出かけていった数分後、家のインターホンが鳴らされる。

 お兄さんが帰って来たのかと思い、私は玄関の方まで行き鍵を開ける。

 

「おかえりなさ…………」

「朱里…………」

 

 そこに立っていたのは、お兄さんではなく。

 

 私の兄貴だった。




そういう事やな

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