妹がいつの間にか人気Vtuberになってて、挙句に俺のお嫁探しを始めた 作:はしびろこう
私は涙目になりながら、お兄さんの顔を見る。
するとお兄さんは心配そうな顔から、真剣な表情に変わり、私に手を差し伸べてくれた。
私は、震えながらもお兄さんの手を取り立ち上がる。
「何があったのかは見当が付かないけど、取り敢えず家に来なさい」
お兄さんは私の手を取って歩き出す。
その背中はとても頼もしく見えた。
────
私はお兄さんの家に入り暖かく迎えられた。
そこには幽香ちゃんもいて、私の心配をしてくれている。
「大丈夫? 旭ちゃん」
「う、うん」
私は少し震えながら、手を組む。
幽香ちゃんが私の事を抱き寄せてくれた。
この兄妹は本当に優しい。さっきまでの怖い思いが嘘みたいだ。
「どうぞ」
お兄さんが私に温かいココアを差し出す。
本当に温かい。…………もう一回涙が出てきた。
「……何があったのかは……聞かない方がいいかな?」
「……」
「そっか……うん、今日は泊まっていきなさい」
「え!? そんな、悪いです……」
「……喧嘩か何かしちゃったんでしょ?」
「!」
「首元。掴まれた跡があるよ」
お兄さんは自分の首元に指を刺す。
私はリビングの近くにあった姿鏡を見た。確かに赤くなっている。あの時に……。
私はまたその事を思い出して、怖くなってしまった。
幽香ちゃんの抱擁が力を増す。
すごく、力が抜けてしまい。ここが安全だと分かった瞬間。私はまた大泣きをしてしまった。
─────
私は気がついて体を起こす。
どうやら私は眠ってしまっていたようだった。
ソファの上に寝ていた。私は近くにあった壁時計を見て、今は深夜の2時だという事を確認する。
「ん? 起きた?」
お兄さんが私のすぐ近くで椅子に座っており、眼鏡をかけて本を読んでいた。
どうやらつきっきりで見守っていてくれたようだ。
「す、すみません」
私は寝てしまっていたこと、そしてお兄さんに守られている事を実感して、急に恥ずかしくなる。私は起きたと同時に謎の謝罪をしてしまった。
「いいよ、ちょっとは気が休まったかな?」
「は、はい……」
「うん、それは良かった。ちょっと待っててね、ココア淹れてくるから」
そう言ってお兄さんは台所の方へ行き、お湯を沸かし始めた。
慣れた様子で、ココアを淹れていく。
私はその動作に見惚れてしまい、お兄さんの方をじっと見てしまっていた。
お兄さんは私の視線に気が付いたのか、私の方を見て、ニコっと微笑む。
それと同時に私の顔が熱くなっているのを実感した。
「どうかしたのかな?」
「い、いえ……なんでも」
私はお兄さんから手渡されたココアを一口飲み落ち着く。
そういえば、配信すっぽかしちゃったな……リスナーのみんな怒ってないかな?
「配信とかは、妹が代わりにSNSで投稿したから問題ないと思うよ、大岩さんに確認も取れたし」
私はその一言を聞き、またホッとする。
「何があったのかは知らないけど、必要なら俺を頼ってくれて良いから。こう見えて大人だしね」
「…………は、はい……」
「何か食べたいものとかある? ご飯食べてないでしょ?」
「い、いえ! そこまでしなくても!」
「いいから甘えなさい、この家にいる間は君も東雲家の一員だ」
「…………じゃ、じゃあ……オムライスが……」
「いいよ、ちょっと待っててね」
お兄さんは壁にかけてあったエプロンを手に持ち、また台所の方へ向かっていった。
お兄さんの苗字……東雲って言うんだ……。
お兄さんを一個知れた。私はそれだけで嬉しくなって、手をギュッと握る。
甘える、それは私にとっては慣れていない経験だ。
いつも一人でおり、家族は風邪をひいた私を置いて仕事に行ったりと、仕事人みたいな人だ。
だから、あの家では兄貴と私しかいなくて、それでも兄貴は私の事を見てはくれなかった。
だから母性というものに憧れたし、甘えさせてくれるまのちゃんは、本当に女神だ。
しかし、男の人が苦手な私にとって初めて、こんなにもドキドキさせてくれて甘えさせてくれる人。こんな経験は初めてだった。
……お兄さんの顔が見えるたび、私は顔が熱くなっている。
もしかして……もしかして……。
私はお兄さんに───。
「あれ? 卵切らしてるな、ちょっとごめん! 走ってコンビニ行ってくるよ、待っててね」
「え? は、はい」
そう言ってお兄さんは財布を持って、外に出かけていった。
…………ふふ、すごく優しい人だなぁ。
そして、お兄さんが出かけていった数分後、家のインターホンが鳴らされる。
お兄さんが帰って来たのかと思い、私は玄関の方まで行き鍵を開ける。
「おかえりなさ…………」
「朱里…………」
そこに立っていたのは、お兄さんではなく。
私の兄貴だった。