妹がいつの間にか人気Vtuberになってて、挙句に俺のお嫁探しを始めた 作:はしびろこう
「朱里……」
兄貴が、お兄さんの家の前で立っている。
私はその事実に体が震えた。何故? 何故、兄貴はここに居るのだろうか……いや……もしかしたらあの時から……?
「なんで俺から逃げるんだよ」
「……なんでここに居るの……?」
「…………俺の質問は無視かよ……」
兄貴が私の襟を掴み、グイッと引き寄せる。
すると兄貴は私の襟の下から小さな機械を取り出した。……もしやそれは……!
「そうだよ、発信機だ」
兄貴はニヤァと笑いながら、私を押し飛ばした。
私はその場に尻餅を付き、痛みに顔を歪める。
そんな……発信機だなんて……。
「本当はGPSでも良かったんだけどなぁ……お前がスマホを置いて出ていくから、一応と思ってなぁ!」
兄貴は私の髪を掴み、顔を近づける。
「昔っからお前が憎かったんだよ、昔から要領良くて、頭もいいし愛想も良い。親はそんなお前を見てアイツなら一人でやっていけるだろうだなんて、放っておくしよ……。それに比べて俺は要領が悪いし、勉強も頑張らなきゃ出来ねぇし、親には口うるさく言われた挙句には引っ叩いてくるわで散々だったよ! テメェのせいでなぁ!」
それは私が長年抱えて来たコンプレックスとは真逆の言葉だった。
私は愕然とする。まさか兄貴がこんな思いを抱えていたなんて知らなかった。顔を下に向け、唇を噛む。
「おい、どうしたそんな悔しそうな顔して」
「知らなかった……」
「あ?」
「なんで……言ってくれなかったの……」
「テメェ……俺を憐れんでやがるのかよ!」
兄貴は私を思いっきり突き飛ばす。
私は壁に肩を強く打ち付けて、思わず声が出る。
しかし、確かにそうだ。私は何かにつけては兄を無視して来た。それは兄貴が親に愛されているからという私の思い込み。
しかし、兄貴は私が親に愛されていると思っていたのだ。まるで真逆。
まさか、親達がそんな事を言っていたなんて思ってもなかったし、兄に厳しくしていたのを私は知らなかった。
兄貴は私より出来るから……そうやって私は強く思い込んでいた。
でも、兄貴は……。
「なんとか言えよテメェ!」
「……」
何も言えない。
私は何も言えなかった。
兄貴を歪ませてしまったのは……私だ。
「ぐっ…………いつもその目だ……俺はその目が嫌で……ふざけんなぁ!」
兄貴が手に拳を作り、私に振り落とそうとして来た。
私は目を瞑り、来るであろう痛みに備える。
しかし、その痛みは一向にやってこなかった。
「っ! 離せ!」
「離せるわけないだろ。誰だあんた」
そこには、兄貴の拳を止めているお兄さんの姿があった。