妹がいつの間にか人気Vtuberになってて、挙句に俺のお嫁探しを始めた   作:はしびろこう

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三話『事務所に御招待されまして』

 あの問題の配信から数日後。俺は何故か萌香が所属している事務所、トライアングルの本社へ足を運んでいた。

 

 なぜこうなったかと言うと、秋風幽香を担当しているマネージャーさんに是非ご挨拶を、とご招待を頂いたのだ。

 この前の配信がかなりの反響を呼び、秋風幽香というキャラの知名度が更に上がったらしい。それに伴い、他の所属Vtuberの面白さという物も視聴者のみんなに伝わったらしく、トライアングル全体の登録者の伸びがかなり上がっているとのこと。

 秋風幽香も、つい最近までは7万人の登録者であったのが、12万人に増えていると萌香から聞いた。

 

「お兄ちゃん!! 10万人突破しちゃった!!」

 

 大慌てでリビングに駆け込んできた妹を見て、俺も驚いた。

 ていうかあの配信を少なくとも12万人以上は見ているって事だよな……。やばい吐き気がしてきた。

 話が逸れた。

 

 という訳で、俺は保護者として、挨拶がてら赴こうと思った訳だ。

 それと、妹が所属する上で本当に任せられるかどうかを見極めるためでもある。

 

 後からお姉さんに聞いた話によると、所属する上でもタレント契約など、書類上は不備がなかったとの事、写しなども用意されていて、キチンとした芸能事務所だとお姉さんは言っていた。

 

 それに本日は萌香自身の収録もあるらしく、隣で緊張した顔をしながら歩いていた。

 

「おい、大丈夫か?」

「だ、だだだ大丈夫だよ、お兄ちゃん……でも無理そうな時は助けてね……」

「おいおい……」

 

 小さな体がプルプルと震えているのを見る限り大分緊張しているらしい。

 それに、今日が他のメンバーとの初顔合わせだと言っていた。どうやら、一人で外出するのは少し無理があったらしく、最初から俺と来ようとしていたらしい。

 一期生よ……それで大丈夫なのか……。先輩ではないのか……。

 

 しばらく歩いていると、指定されていた住所へたどり着いた。

 立派なビルを構えており、玄関などはかなり綺麗な印象を持った。

 流石は大手の事務所……。ああ、そういや他の事業にも手を出していると言っていたな。

 

 そして玄関の前でスーツを着た一人の女性が立っていた。

 

「あっ、大岩さん」

「お持ちしてましたよ、幽香さん」

 

 少し茶髪に染めている髪を後ろで束ねている、見るからに大人の雰囲気を醸し出している女性が萌香を見て微笑んで迎えてくれた。

 

「初めまして、私は秋風幽香のマネージャーの大岩加奈子(おおいわかなこ)と申します。お兄様でいらっしゃいますね? 以後お見知り置きを」

「御丁寧にありがとうございます。東雲純です。いつも妹がお世話になっております」

 

 ペコリと二人して深く頭を下げる。

 妹がお世話になっているのは本当の事だし、大岩さんが優しそうな女性で良かった。これでマネージャーが男だったら警戒していたかもしれない。

 

「あれ? 配信を見ていて思ったのですが、良い声をしていらっしゃいますね」

「はは、そうですかね」

「はい、コメントの方でも『お兄さん、良い声してるじゃん』なんて言われてましたよ」

 

 配信に声が乗って以来、チラホラとコメントに『イケボ』などと書かれていたのを見たことがある。まあ、からかわれているのだろうと思うのだが、美人の人に言われると嫌な気はしない。

 

「ふふ、取り敢えず中に入りましょうか。幽香さんは収録の準備を進めるのでこちらへいらしてください」

「お兄ちゃんちょっと待っててね」

「おう、行ってらっしゃい」

「お兄様はそちらへお掛けになってお待ち下さい」

 

 そういうと大岩さんは萌香を連れて奥の方へ行ってしまった。

 俺は指定された席へ座り、妹の帰りを待つ。

 しかし、しっかりとした会社みたいで少し安心した。もしかしたらお姉さんが騙されて……などと考えてもいたが、それは杞憂だったようだ。

 これなら、妹の活動も応援できるな……。

 

 それから数分が経ち、事務員さんがコーヒーを持ってきてくれたり、雑談などをして思いの外、退屈せずに過ごせた。

 しかし、妹は上手くやれているだろうか? 今頃、お兄ちゃん助けてなどと言っていないだろうか……。

 

「お兄ちゃん助けてぇ〜〜〜〜!」

 

 聞こえちゃった……。

 遠くの方から聞こえたので、今は収録中なのだろうか? 助けを求められたがどうも上手く動くことが出来ん……。

 取り敢えず、何が起こっているか分からんが妹よ、それは恐らく試練だ……頑張れ。

 

 ───

 

 コーヒーを飲みすぎたのか、少し尿意を催したので、トイレの場所を聞き、済ませた後の事だった。

 先ほどの場所に戻るべく、曲がり角を通ろうとしていた時の事だ、ドンと勢い良く女性の方とぶつかってしまった。

 

「あっ! す、すみません! 急いでたもので!」

「いえ、大丈夫ですがお怪我は?」

「大丈夫です! どこも痛く……あれ? 足首が……」

 

 金髪のポニーテールの派手な女の子が少し表情を曇らせ、足首を抱え出す。

 もしや捻挫してしまったのだろうか。

 俺はあたりを見渡して、自動販売機の近くに椅子があることを確認した。女の子を座らせて、足首を少し持つ。

 

「失礼、触りますよ」

「だ、大丈夫です……」

「……ああ、赤くなどはなっていないので、少し捻ってしまったみたいですね。ちょっと待っててください」

 

 自販機で冷たい水を買い、それを足首に当てる。こうする事で少しは違うだろう。

 

「どうでしょうか?」

「あっ、少し楽になりました」

「それは良かった、それと急ぎだったようなのですが大丈夫ですか?」

「あ! 早く収録に戻らなくちゃ!」

「おっと! 立ち上がらないで!」

「う、ごめんなさい……」

 

 見た目は派手ではあるが、口調などはちゃんとしているので良い子なんだろうなという印象を持った。

 収録と言っていたが、この子もVtuberなのだろうか? だったら妹の同僚という事だ、ここは一肌脱いでやろう。

 

「もしよかったら肩を貸しましょうか? その足では思うように動かないでしょう」

「えっ、良いんですか?」

「勿論」

 

 そう言って俺は手を差し伸べる。

 女の子は恐る恐るではあるが、俺の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

 

「じゃあ、行きましょうか。案内してください」

「は、はい……」

 

 顔を赤らめて女の子が返事をする。

 しまった、男に触られるのが苦手なのだろうか。これは悪いことをしてしまったな。

 そう思いながら、案内されながら、収録所へゆっくりと進む。途中で女の子がチラチラと見てきたが、なんなのだろうか。出来ればあまり見ないで欲しいです……気恥ずかしいので……。

 

 ───

 

「旭さん! 大丈夫ですか!?」

 

 収録所まで行くと、大岩さんが心配している表情で女の子に駆け寄った。

 どうやら俺はここまで連れてきた彼女は冬花旭らしい。一期生の清楚担当とも言われている彼女ではある。道理で言葉使いが丁寧だと思った。

 

「すみません、ありがとうございます」

「いえ、当然の事をしただけです。では自分はこれで」

 

 大岩さんに頭を下げ、その場を去ろうとした瞬間体に衝撃が走った。

 

「お兄ちゃん助けて!!」

 

 収録所から勢い良く飛び出してきたのは我が妹。

 涙目で俺に勢い良く抱きついてきたので頭が鳩尾にもろに入り悶絶する。

 

「があああああ!?!?」

「わー! お兄さんモロに入っとるで! 大丈夫でっか!?」

 

 後ろから汗を少しかいた黒髪をおさげにしている元気そうな女の子も出てくる。

 少し咽せながら、妹の頭を撫で顔を上げる。

 

「……ええ、大丈夫です。慣れているので」

「嫌な慣れやな……って、うっわ! ごっつイケメンやないか幽香のお兄ちゃん!?」

 

 俺の顔を見た瞬間、急に顔を硬らせて、イケメンだとかいう。

 一応会社で見た目は大事だと思って気を使っているが、面と向かってイケメンなどと言われたのは、はじめてだった。

 そういや、最初の彼女も「顔はカッコいいよね」と言っていたが……顔だけなのか俺は……。

 

 そして恐らく彼女は常夏燕だろう。特徴的な関西弁なので覚えていた。

 

「はは、で、なんで妹はこんな事に……?」

「いえ……燕さんが暴走しまして……」

「は、ははは〜、いやあ、幽香がこないにかわええ女の子やとは思わんくってなぁ、ようさん構ったらこうなってもうた……ホンマすんません」

 

 ああ……なんとなく光景が思い浮かぶ。

 まあ、萌香は可愛いからな! もみくちゃにされてしまうのも仕方がないだろう! 

 しかし節度をもって接して欲しい。萌香は繊細なんだ……。

 その事を伝えたらペコペコと頭を下げられたので、まあ大丈夫だろう。

 

「お兄ちゃん……」

「妹よ、もうちょっと頑張ってみないか? 今日は大好物を作ってやるから」

「え、ボルシチ?」

「作ったこともないし、食べた事ないだろ」

 

 そうやって、二人で漫才を繰り広げてるとその場にいたみんなが笑い始める。

 萌香も釣られて笑い出したので、もう大丈夫だろう。

 

 そして収録を終え萌香が帰ってきた。

 その日に収録された物はかなりの出来になっているらしく、俺も見るのが今から楽しみになっている。

 

 帰りに、何故かしょんぼりしていた萌香が手を離してくれなかったが、無問題。むしろご褒美です。

 帰ってからも幸せを噛み締めていた矢先に、収録されたものが公式チャンネルにアップロードされていた。

 

 取り敢えず、妹の面白い部分を見てやろうと再生ボタンを押したのだった。

 

 

『お兄ちゃん助けて──ー!』

『うえっへっへっへ……ええやないか……ええやないか……』

『ちょっと燕ちゃん! ゆうゆう怯えてるよ!』

 

 

 ・助けを呼ぶなwwwww

 ・help me お兄ちゃん

 ・まーた、ゆうゆうがキャラ崩壊してて草

 ・燕ちゃん自重wwww

 

 テロップ 『お兄ちゃんが助けに来たのでお待ち下さい』

 

 ・本当に来たのかwwwww

 ・呼んですぐに来る兄の鏡

 ・ブラコンにシスコンにこれもう分かんねぇな

 ・そういやお兄ちゃん、すげぇイケボだったよな、好き

 ・↑俺も好き

 ・↑いいや、俺の方が好きだね

 

 おいコメ欄、お前ら全員男だろうが。

 案の定、もみくちゃにされていたようで、2Dの秋風幽香のアバターがかなり荒ぶっている。

 何をされているかは分からないが、まあ、そこは想像しておくとしよう。

 




えっ…何この増えっぷり…ヤバイですね…。
一応Twitterの方の反応も見かけまして、誠にありがとうございます。

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