妹がいつの間にか人気Vtuberになってて、挙句に俺のお嫁探しを始めた   作:はしびろこう

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六話『頑張ろうと思う』

 そこからトントン拍子で話は進んでいった。

 私はまだ、お兄ちゃんにVtuberになったと言える覚悟がない。

 なので、最初にお姉さんに相談した。お姉さんはお兄ちゃんがいない時に家の掃除をしていたらしく、リビングで掃除をしていた。

 

 最初はお姉さんも私が部屋から出てきたことに驚いていたが、すぐに状況を飲み込んでくれたようで、何も言わずに私にお茶を出してくれた。

 

 そして──。

 

「で、なんか私に用事でもあんだろ? 言ってみ」

 

 私の顔を見て判断したのだろうか、何か相談事があると察してくれた。

 意を決してお姉さんに相談してみる。

 

「あの……その……私、Vtuberのオーディションに……合格して……」

 

 お姉さんが飲んでたお茶を唐突に吹き出した。

 大丈夫だろうか、かなりむせているようだけど……。

 

「へ、へえ…………そ、そんなオーディションにねぇ……で、どこ……?」

「えっ……と、トライアングルっていう」

 

 トライアングルの名前を出した瞬間、お姉さんが椅子から転げ落ちた。

 だ、大丈夫だろうか……さっきから何か変だよ……。

 

「ふ、はは……わ、私が速攻で落ちた場所……」

 

 倒れながら小声で何かをぶつぶつ言っている。

 もしかして、私が変な所へ所属しようとしているから動揺しているのだろうか? Vtuberも人気コンテンツではあるが、一般人であるお姉さんから見たらどう思うのだろうか……。想像するのはそう難しくないことだった。

 もしかして、やめろって言われるのかな……。

 

 そう思っていたのだが、お姉さんは随分とあっさりに認めてくれた。

 郵送で送られてきた、事務所からの書類にサインしていくお姉さん。何故か半泣きで書いてるけど……。

 

「く、くそぉ……私だっていつかは……」

 

 少しぶつぶつ言ってるお姉さんを見るのは怖かった。

 でも、お姉さんは急に書く手を止める。

 そして真剣な表情で私にこう言ってきた。

 

「なあ、純には話したのか?」

「えっ、そ、それは……まだ……」

「なんでだ?」

 

 それからお姉さんに今の私の心境を話した。

 簡単に言うと、お兄ちゃんと同じくらいのステージに立ちたいということ。今の私はまだ何もできていないニートだ。

 だから、私は成果を出したい。成果を出して、ようやくお兄ちゃんの横にいられる。今はまだおんぶに抱っこの状態だけど、ここから頑張って行きたい。だからお兄ちゃんにはまだ内緒にしていて欲しいと話した。

 

「内緒にして欲しいねぇ……だったら給料の受け渡しはどうする? お前の通帳使ったら純にバレるぞ」

「うっ…………そうだよね……どうしよう……」

「…………仕方ねぇ……当分の間は私と共有するか」

 

 こうやって、どんどんお姉さんとお兄ちゃんに内緒にするための作戦が練られていく。

 ちなみにお姉さんは「お前の金なんざぜってぇ使わねぇ! 妹に呪われそうだ!」何て言っていた。

 お母さんは昔から怒らせると怖かったので、呪われるっていう言葉が何故かしっくり来てしまった。

 

 そして、事務所に作成した書類を送って、デビューの日を決める段階に入った。

 マネージャーさんも付くらしく、私のマネージャーには美人のお姉さん、大岩さんがついたらしい。

 テレビ電話で顔を出しながら話していって、キャラの方向性をどんどん決めていく。

 ここでも私はどもりながらだったが、なんとか喋っていた。

 

「え、えっと、私的には、ホラーゲームも好きで……」

「なるほど、ホラーゲームも好き……と……ふむ、ホラーゲームで驚いたりとかは?」

「そ、それはあんまりないです……逆に笑っちゃうかもしれません……」

「ふむ、畏まりました、でしたら強キャラムーブで固めていきましょう。ロールプレイには自信はおありで?」

「えっと……ドラ○エなら……」

「……ロールプレイというのは、演じるという意味で……すみません」

「えっ!? ご、ごめんなさいぃ……!?」

 

 私が恥ずかしい勘違いなんかもしちゃったりしたけど、どんどんと秋風幽香というキャラが出来上がっていくのが面白かった。

 次々と案が飛び出してきたりして、人生でこれだけ喋ったのは初めてかもしれない。

 

 そして、次はデビューするメンバーとの通話。

 大岩さんに顔は出さなくていいので、落ち着いてと言われた。

 顔を出さなくていいのならなんとかなるかもしれない。私はドキドキしながら、グループ通話に入る。

 

「こ、こんにちは」

「おっ! 秋風幽香さんかな?」

「はい……」

「うちは常夏燕や! よろしゅう!」

 

 何かテンションの高い人がいる。絶対陽の側の人だ。何故か知らないけど、声を聞くだけでコミュ力が高いのが手にとるようにわかるもん。

 ど、どうしよう……。そう悩んでいた時だった。

 

「こんにちは、私は冬花旭です」

 

 衝撃を受けた。

 綺麗な声、すごく、すごく耳触りが良い。この声なら何時間でも聴いていられる。そんな事を思ってしまうような声。

 急に不安になってくる。本当に私なんかがこのメンバーの中にいても良いのだろうかと。

 

 片や陽キャの人の常夏燕さん。声を聞いていて元気が出てくるような人で、初配信のトップバッターを務めてくれるそう。このコミュ力は絶対に人気になるだろうなって思った。

 

 そして、冬花旭さん。the清楚っていう感じで、本当に心地いい声をしている。配信ってなると何時間も同じ人の声を聞くわけだから、旭さんの配信は人気が出る、そう確信した。

 

「あ、ああ……」

 

 どうしよう、私には何もない。

 綺麗な声も元気が出るような声も出せない。急に自信がなくなってきて泣きたくなってくる。

 本当にこれからやっていけるのだろうか、そう思った時だった。

 

「幽香ちゃん……すっごく可愛い声……」

「ホンマやで……脳が溶かされそうになったわ〜」

 

 私の声を可愛いと言ってくれた二人。

 ……私の声って、そんなに可愛いのかな……? あまり自覚がないので疑心暗鬼になっている。

 

「いや〜二人ともほんまにええ声してるから、うち自信がなくてなぁ……。どないしよ……」

「え、それだったら私も……燕ちゃんと幽香ちゃんが可愛いから、自信がなくなちゃって……」

 

 二人とも口を揃えて自信がないと言った。

 そうか、私だけじゃなかったんだ。私は出ていた涙を思いっきり拭い、二人に言う。

 

「わ、私も自信がなくって……怖くなっちゃったけど、でも、二人はすっごく綺麗な声してるから、もっと! 自信を持って!」

 

 二人は絶対にこれから人気になるはずだ。私はそう確信している。

 だから、つい反射的に少し大きな声で興奮気味で二人を鼓舞してしまった。

 急に顔が熱くなってくる。変なこと言っちゃったかな……。

 

「……ぷっ! あはは! なんや、考えてることは皆同じって訳か!」

「……そうだね、幽香ちゃんの言う通り。好きでこの仕事をやるんだから、自信を持たなくちゃ!」

「うん、うん!」

「じゃあ、配信トップバッターはうちに任せとき!」

 

 こうして、初めての通話も終わり、残すはデビュー配信だけとなった。

 そこで私は、きっかけとなったあの人の配信を見に行く。少しでも勇気を分けてもらう為に。

 黒鞠コロンというチャンネルを探して、出てきたページをクリックする。

 どうやら、配信を始めたばっかりのようで、動画を開いた瞬間、嗚咽が聞こえてきた。

 

『えっぐ、えぐ……にゃんで……にゃんで……良いことなんかありゃしねぇ……』

 

 ・何があったんだってばよ……

 ・まあ元気出せよ猫野郎

 ・泣かないで

 ・元気出せおばさん

 

『誰がおばさんじゃ……ぶちとばすぞわれ……うっ…………うっ……ゲェェップ』

 

 ・うっわきったね

 ・ええ……(困惑)

 ・勘弁してくれよ……

 ・おばさんのゲップを聞かされるこっちの身にもなれ

 ・失望しました……チャンネル登録解除しました……

 

『うにゃっは──ー!? ごべんなざい! 解除しないでぇ!』

 

「あはは……」

 

 散々な盛り上がりようだった。

 でも、それから配信も時間が経つにつれ、コロンさんも徐々に元気を取り戻したのか、笑って配信をするようになった。

 そうだ、まずはこれを目指そう。みんなが笑顔になるような配信をしよう。

 

 そう思いながら、コロンさんに初めてコメントを打つ。

 

 ・これから頑張ります

 

『ん? 何を頑張るのかしんねぇけど、がんばれー、お姉さんが応援するにゃー』

 

 ・頑張れ

 ・応援しようず

 ・まあ、何を応援すればいいのか分かんないんですけどね

 ・おばさんもよう応援しとる

 

『ぢぐじょ──ー!! もう配信やめる!! お疲れ! にゃん!』

 

 唐突に配信を切ったコロンさんを見てクスリと笑い、自分の頬をぺちっと叩いた。

 

 そして、数日が過ぎて私の初配信の日がやってきた。

 心臓はバクバクですごく緊張してるけど、それと同じくらいにワクワクしている。

 

 カーソルを配信開始の所に合わして、深呼吸をした。

 そしてポツリと一言呟く。

 

「待っててねお兄ちゃん」

 

 お兄ちゃんと同じ所に立つ為に、配信開始のボタンを押して、私はハッキリとした声で、マイクに向かって喋ったのだった。

 

『はじめまして! 秋風幽香です、よろしくね!』

 


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