精霊龍、ウギン。ぶらり幻想郷観光の旅   作:銅鑼銅鑼

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忠誠度能力+53:貴方は地雷を踏む

地霊殿にはもう用事は何ひとつない。

となると向かう先は再び地上になる。

そうなるのだが、地上の何処に向かうかをまだ決めていなかった。

 

さて、次は何処に行こう。

風の吹くまま気の向くままに足を運んでも良いが、それはそれで疲れるのだ。

何か目的があった方が、多少気晴らしにはなる。到着したという達成感も得られる。

目的地を作るという事は、ちょっとだけお得なのだ。

 

「ねえ、ウギン。今度は本当の地獄に行ってみない?」

 

不意に、純狐がそんな事を言い出した。

本当に急だったので、本当、マジでビビった。

遠まわしに「いっぺん死んでみる?」と言われてるのだと確信するくらいにはビビった。

私のその反応を見て何が可笑しかったのか、純狐はくすくすと笑いだした。

 

「違うわよ、賽の河原を越えて、三途の川を越えて、本当の地獄に行ってみたいのよ。

 ここは地獄にしてはちょっと、生ぬる過ぎるわ」

 

にっこりとした笑顔で純狐はそう言った。さっきと何が違うのだろう。

丁寧に「殺してあげる」と言われているようにしか感じられないのだが。

そもそも地獄という所は気軽に行けるような場所とは思えない。

賽の河原も、三途の川も、同様だ。

なんとか言ってやってくれと射命丸に助け舟を求めると。

 

「ああ、いえ。行けますよ。地獄。生きたままで」

 

突然後ろから刺されたような衝撃を受けた。

なんと、行けるのか。地獄に。生きたままで。

 

ちょっとこの幻想郷という次元自体が特殊なのか、死生観が気になった。

生前から地獄を見て回れるというのは、確かに善行を積む上で効率的なのだろうが。

そんな気軽に行ってしまって大丈夫なのだろうか。

というか死との距離が近すぎないだろうか、この幻想郷は。

少し次元自体の心配をしながらも、まあ行けるならそこに行ってみるか。という気持ちになった。

 

「今度は本当の地獄に行くんだね!」

 

「わーい!地獄にいくぞー!」

 

ワイワイと騒ぎ立てるフランとこいし。

その姿はとても子供らしく、可愛らしく、和ませる。

それに、ここが地獄というには「生ぬる過ぎる」のも事実だ。

妖怪が多いと言うだけで、旧都という里のようなものがあるだけで、

特別な地獄らしさを感じられなかったのも確かだ。

もっと殺伐としたものを想像していただけに、ちょっと拍子抜けした感は否めない。

いや、別に殺伐とした所に積極的に行きたいのかと言えば、全くそんな事はないのだが。

 

改めて目的地を決め、歩き出した私達。

後ろではさとりが軽く手を振って見送りしてくれていた。

ちょっとだけ嬉しかった。

 

 

 

【移動中……】

 

 

 

さて、地霊殿も越えたし旧都も過ぎた。

再び縦に長い洞窟に足を踏み入れた私は、ふとある事に気付く。

そう言えば、こいしの無意識を解くのを忘れていた。

私はこいしの存在を感知出来ているから問題ないが、

他の仲間達はそうはいかないだろう。何かしらの問題が発生するはずだ。

ここはひとつ、自己紹介をするべきだ。と思った。

 

「こいし、無意識を解除してくれないか?」

 

「えー?うーん?」

 

「どうした?」

 

「うんとね、解けないみたい!」

 

あっけらかんとそう言うこいしに、思わず私は絶句した。

能力を上手くコントロール出来ていないのだろうか。

 

それならば、と。

私は、完全な善意から彼女に言葉をかけてしまった。

 

「その能力、封印してやろうか?」

 

「――え」

 

瞬間、こいしの表情は、真っ青になった。

足をガタガタと震わせて、息もどこか荒い。視線も合っていないように見える。

 

「――や、やめて。お願い。それだけはやめて。

 もう嫌なの、目を開くのは嫌なの。心を読むのは嫌なの」

 

豹変したこいしのその様子に、思わず私は苦虫を食い潰したような表情になる。

やってしまった。これは彼女にとっての地雷だったのだろう。

やってはいけないことを、提案してしまったのだろう。これは失敗した。

彼女からは、今や私に対する恐怖がありありと見える。

 

「他人から嫌われるのが嫌。他人から注目されるのが嫌。期待されるのが嫌。

 比較されるのが嫌。恐怖されるのが嫌。避けられるのが嫌」

 

ぶつぶつと独り言を呟くように。錯乱状態になるこいし。

可哀想だ。これでは、あまりにも可哀想だ。

顔を覆って私を見ないようにする姿は、あまりにも痛々しい。

 

「すまない、今のは失言だった。許してくれ」

 

私は、深く深く頭を下げた。なんなら地面に擦り付けた。

じゃり。という音が頭に響いた。

 

突然の事に、私の仲間達は唖然として私を見ているが。

威厳などは知るものか。

そんなもの、子供の曇り顔を晴らすのに必要ならば投げ捨ててやる。

 

「もう、そんなこと言わない?」

 

「誓おう」

 

「もう、誰かに私の姿を見せようとしない?」

 

「勿論だ」

 

「もう――私を独りぼっちにしない?」

 

「当然だ、私を誰だと思っている。

 精霊龍、ウギン。私はウギンだぞ?」

 

いくつかの問答を経て、ようやくこいしの雰囲気が変わった。

先程のような恐怖の感情は感じられない。

明るい声で、前と同じような感情で、彼女は言った。

 

「――じゃあ許してあげる!!」

 

先程の言葉に嘘はない。

MTGのストーリーや設定におけるウギンは全くと言って良いほど知らないが。

少なくとも、私の中の「精霊龍、ウギン」は子供に嘘を吐いて良しとはしない。

誰かが嫌がるような事は決してしない。約束を破ったりはしない。

それが、私の中の「精霊龍、ウギン」だ。

 

ストーリーや設定と違う?知るものか。

私の中の「精霊龍、ウギン」は誇り高きプレインズウォーカーだ。

たまに私のせいでミスをする事はあっても、決して格好悪い所は見せない。

卑怯な真似など、するものか。仲間を見捨てることなどあるものか。

 

……いや無限にカードを使えるのは若干卑怯かも知れないな。

と、私は不意に思って笑ってしまった。

 

「顔を上げて。ウギン!」

 

こいしに言われるがままに顔をあげて。

トテトテとこいしが私の顔の頬のすぐ横までやってきた。

そして

 

 

ちゅ。

 

 

なにか、微かな柔らかな感覚を頬に感じて。

思わず私はこいしの方を向いてしまう。

 

「えへへ!これで仲直り!」

 

凄く、凄くどうでも良い事なのだが。

古明地さとりは妹にどういう教育をしたのだろうか。

不意に、凄く気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【地底のある場所にて】

 

「ひぇぇ。帰ってきた所に罠を張ろうと思ってたけど。

 やっぱり怖いよぉ……ヤマメ。やっぱり止めにしない?」

 

「そうだねぇ。ちょっと無理だねぇ……。

 龍を罠にかけたら凄いと思ってたけど、ちょっと無理そうかも。糸が持たないよ」

 

「じゃ、じゃあ一緒に帰ろ?ね?」

 

「まあそうだね。今回は大人しく帰ろうか」

 

なんて、会話が聞こえたとか。なんとか。

 




こいしの能力制御の云々に関しては完全に独自設定。
実際どうなんでしょう。無意識に悩んでいる描写も見られるので、
無意識をコントロール出来ないのでしょうか。
謎です。

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