兄弟子のおしごと!   作:如月屋

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中々、書き進まない回でした。次回で実家編終わりの予定....だと良いな。きっと、多分、maybe...いける。って信じてる。

と、いうわけで第五十八局行ってみましょう!


第五十八局

新幹線に乗ったものの...顔を真っ赤にして俯いている万智の姿が目に入る。

 

「うぅぅ....」

 

「はぁ。こっちが泣きたいのになんでこんなことになってんだよ」

 

心が病んでんのはこっちなのにどっちが辛そうか分かったもんじゃ無い。

 

「ほら、名古屋着くぞ」

 

名古屋到着の少し前。清洲会議で有名な清洲城を新幹線は通り過ぎる。アナウンスがかかり名古屋到着を知らせる。

 

「ううぅ...」

 

「あーもう。しゃーないな」

 

腕を引っ張って無理やり下ろす。降りそびれると次は静岡県をノンストップで横浜なのだ。絶対に降りなければ死ぬ。

 

と、言うわけで天下に名高かき鯱鉾(鉄道唱歌より)がある名古屋に到着した。名古屋から在来線に乗り換えて数十分。

 

『多治見〜多治見です。ご乗車ありがとうございました』

 

多治見市に到着した。岐阜県でもそこそこな規模を誇り、東濃地方に置いて最大規模の町だ。と、言っても京都や大阪。名古屋から比べればカスみたいなものだ。都市規模としては大阪>>>多治見だろう。まぁそんな事はどうでも良いのだ。

 

「お、兄ちゃんお帰り」

 

「お、我が弟よ。ただいま」

 

俺から眼鏡を外してそのままほんの少しばかり小さくしたのがマイブラザー。弟である。

 

「で、背負ってるのが噂の?」

 

そう、このバカ。俺が精神1番疲弊してるのにいつの間にかこいつがメンタルブレイクしていたのである。

 

「万智。供御飯万智だ。知ってると思うが女流棋士で『山城桜花』のタイトルホルダー。俺の彼女」

 

「リア充死ねー。俺も棋士になろっかなぁ...」

 

弟は18歳で俺と4つ離れている。退会が25歳と考えれば現実的では無いが...アマ竜王とかになって竜王戦6組に殴り込み、そこで6組優勝したのち、プロ編入試験を受けてプロ棋士に勝ち、10年以内にフリークラスを脱出できれば晴れてC級2組のプロ棋士の完成。フリークラスはプロ棋士だけど10年で引退になってしまうからね。

 

ね、簡単でしょ?(そんな訳ない)

 

「やめとけ。お前は無理だ」

 

「現実見させんなよ〜。にいちゃーん、可愛い子紹介してよ〜。鹿路庭さんとか月見夜坂さんとか空さんとかも知り合いなんでしょ⁉︎」

 

「あーやめとけ。全てにおいてクセの塊だから。それよりさっさと家までお願い。いい加減、俺も帰りたい」

 

「うーい」

 

「ううう....」

 

「万智?車乗るからな」

 

「......わかったどす」

 

▲▽▲▽▲

 

車で数十分。名古屋のベッドタウンとしての機能を持つ多治見の町外れ。住宅街から少し離れたところに悠斗の実家はある。

 

「ただいまー」

 

懐かしい玄関に万智を引きずって向かった。万智はほぼ直立不動のため引きずってくしか無いのだ。

 

「悠斗、お帰りなさい。正月以来かしら?」

 

「ああ、母さんただいま」

 

「それでそちらが噂の?」

 

「供御飯万智です。よろしくお願い致します」

 

こいついつ髪整えて顔直したんだ?しかも言葉も標準語で完璧だし。さっきの新幹線の中や俺の家での残念美人はどこかへご出張らしい。

 

「父さんたちは?」

 

「じいちゃんもばあちゃんも父さんも陶器作りに行ってるわ」

 

陶器を代々作っている家系。昼間は窯のある場所に行っているのだ。

 

「そう。なら先に自室行くわ」

 

「そうすると良いわ」

 

自室。その言葉に悠斗の母親は顔を強張らせる。悠斗にとって自室とは聖域なのだ。彼にとって命に等しい将棋というものに出会った場所であり...全ての将棋を見直す彼にとって神聖な場所なのだ。

 

「万智、お前も来い」

 

「わかりました」

 

入れるのは家族と.....それに等しい人。要するに八一や銀子。師匠に桂香さん。万智....名人が入りたいと言っても俺は入れないだろう。それほどの場所なのだ。当然、許可を出した万智も入るのは初めてなのだ。

 

「ここが俺の部屋だ。気をつけろよ」

 

「はーい」

 

母さんがいなくなってラフになる万智だった。

 

「これが...悠斗はんの部屋」  

 

部屋に入った万智は己の目を疑ったそこには一ノ瀬悠斗の将棋の全てが置かれていたのだ。

 

タイトル獲得時の就位状及びトロフィー。一般棋戦優勝時のトロフィーも綺麗に並べられている。しかしそれはトップ棋士の家に行けば見れるだろう光景。だからこそそれは普遍的な景色だった。

 

しかしながらそれを遥かに超える景色が目の前に広がっていたのだ。

 

「なんどすか...このファイルの量は」

 

圧倒的なファイルの量。全てに棋士の名前が書かれている。

 

「ここには俺が集められるだけの全ての棋士の棋譜がある。まぁ過去2年分は俺の家に置いてあるがそれ以外は全てここに集められている」

 

悠斗から衝撃的な言葉が飛び出す。万智はすぐにあたりを見渡す。たしかに全て棋譜だった。実力制第4代名人や歴代永世名人の棋譜はもちろん。ずっと昔にタイトルを取る事なく引退したような棋士。女流棋士に至るまで全ての棋譜がそこにあった。

 

「全て頭に入れた」

 

「え?」

 

「全ての棋譜を頭に入れた。AIを使って解析もした」

 

「....」

 

正直、万智は絶句した。悠斗の恐ろしさを改めて見たような気がしたのだ。

 

「実戦も飽きるほど積んだ。AIには勝てなかった....」

 

とんでもない数のトップ棋士の対局における実戦。過去全ての棋譜を理解する。それでも悠斗はある一種のリミッターを解除してやっと勝つ事ができる程だったのだ。正直言ってリミッターを解除すれば勝つことのできる悠斗も異常だが...全人類が。現在、もし悠斗がいなければ間違いなくレートNo. 1の名人と九頭竜八一ですらリミッターを解除させなかった。それを解除させたAIの異常性である。

 

「俺は弱いな......」

 

AIに勝ってなお弱い。弱い訳がない。間違いなく歴史上最高の棋士である。それを持ってさらに弱いとは悠斗が目指す先はなんなのか。万智は気になった。

 

「悠斗はんが.... 悠斗はんが目指してるのんはどこなんどすか?」

 

「俺が目指しているところねぇ......無いな」

 

「ない⁉︎」

 

「うん。将棋が好きで将棋で生きてるんだ。そうやって生きてきた末が今だからな」

 

「...」

 

「そうだな。なんか目標を決めても良いかも知れないな」

 

悠斗は迷った末に言った。

 

「自力でAIに勝つ。そして_______」

 

「そして?」

 

「八冠独占を実現する」




ここ書いてる時に、藤井二冠の2連勝ニュースが!いやーおめでとうございます。しかし豊島竜王も相当強いですからね。次局が楽しみです。

そして叡王戦の立会人の募集が始まりました。250万円だそうな....お金に余裕がある方、やってみてはどうでしょうか?俺は無理です!!

それでは次回もよろしくお願いします!

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