兄弟子のおしごと!   作:如月屋

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最近、色々ありすぎて全く手がつけれませんでした。代わりにひとまず、とある大学から合格内定を頂けました。本命ではないですがひとまず安心です。この作品を書くことがとても良い息抜きになっているのですごいローペースですがこれからも続けていきつつ勉強も頑張ります。

それでは第六十一局始め!


第六十一局 棋帝戦第一局

対局が始まって14手目。遂に生石九段が飛車を振った。思わずその瞬間に悠斗や記録係はめを見開く。なんと"新型"の四間飛車である。

 

「っ!____ほう」

 

思わずそう感嘆の声が漏れるほどだった。それは"美濃囲いを完成させ無い"と言う物だったのだ。振り飛車の王道といえば美濃囲いである。そこから高美濃囲いや銀冠などに発展させることができる振り飛車を使ったことがある人なら誰しもが一回はやるであろう手筋なのだ。

 

しかしながら生石九段はそれを未完成の状態にしたのだ。7二に玉を起き、一段下に銀。左隣に金を置いた状況。しかし美濃囲いの完成形にする為に重要な一つの駒と言える左の金は振った飛車の下に据えられたままなのだ。

 

理由に気付いて悠斗は感嘆の声を上げたのだ。彼自身、小さい頃からよくやられ、よくやってきた対美濃囲いのお決まり戦法の一つと言っても良い物。5五角と3六桂という攻撃だ。玉を逃げれる所が少なく初心者の頃は誰もがやられた道。しかし、この新型であれば玉の逃げるスペースが確保されておりこの急な攻撃にも対応していけるという物だった。

 

「....お前に言われた通りな、自分に合う研究をしてみた。AIのご機嫌取りなんかし無いで、なんと言われようと俺の物をぶつけに来た。ゴキゲンだろ?」

 

「....なるほど。生石先生、それが貴方の答えでしたか」

 

「_____________嫌いじゃないです」

 

悠斗はそう言うと居飛車穴熊の明示をする。振り飛車の相手にとって最も重厚な存在。硬く思い戦法であり、駒一枚一枚を剥がしていくのに大きな労力を割く戦法である。この勝負は持久戦に持ち込まれる....という想定だった。

 

▲▽▲▽▲

 

しかし、生石九段の新型四間飛車は強かった。初期のあの駒組は後に大きな力を発揮したのだ。

 

△9一飛車を使ったのだ。

 

「地下鉄飛車...!」

 

1番下の段を移動し、まるで地下鉄のように動くことからこの名がつけられた戦法である。

 

「そうか...そういう事だったのか.......」

 

「どうだ?」

 

「とんでもない戦法引っ張り出してきましたね」

 

生石九段はニヤリと笑い悠斗は目を輝かせる。悠斗は確信した。実力制第四代名人賞を次に獲得するのはこれだという確信に至った。

 

居飛車穴熊に対してこの地下鉄飛車と新型美農囲いの守りを使うことによって相手角の睨みを躱しつつ、自身は穴熊の中にある相手玉を飛車、香車、角、桂馬の4枚で叩くことが出来るのだ。どれだけ頑張ろうとも、恐らく悠斗の玉は穴熊から引っ張り出されてしまう。

 

そう....この戦法は急戦と穴熊という振り飛車にとって厄介な物を一度に片付けてしまった戦法なのだ。特に、振り飛車党にとって課題の一環であった居飛車穴熊という高く、硬い壁を打ち破る戦法としての力は強いだろう。

 

▲▽▲▽▲

 

「.....」

 

「..........まいりました」

 

深夜9時ごろ、一ノ瀬悠斗棋帝は負けて第一局を落とした。

 

「生石九段。凄いっすね....」

 

「いや、お前のおかげだ。変にご機嫌取りなんかせずに最初っからこんな戦法思いつけば良かったさ」

 

「いや、この戦法は優秀だ....例えばここをこうしていれば」

 

「いや、それなら________」

 

新型戦法の研究会が感想戦として開催される。その時間は軽く3時間をオーバーしており、連盟職員が声をかけても「あと10分」「あと5分」とまるで男子中学生の様な躱し方をされ、名人が呼びに行っても一緒に研究会を始めてしまう始末だった。

 

▲▽▲▽▲

 

「でっ!あの戦法はどないな物やったんどすか⁉︎」

 

「近い近い」

 

会見やらなんやらを終えて部屋に戻った訳だが...いきなり万智が悠斗を質問攻めにした。

 

「あれはな____」

 

「ほうほう」

 

「なるほどどす」

 

「だから言ったろ?あの人はAIに頼りすぎ無いんだ。だからあの人の将棋はあの人のアジがあって面白い」

 

「理解したどす」

 

「なら良し」

 

▲▽▲▽▲

 

悠斗は万智の対応も終えて風呂に入り(もちろん万智が乱入)布団に入る。

 

「で、お前がいる理由を簡潔に答えよ」

 

「悠斗はんとイチャイチャしたかったさかいどすか」

 

「......」ナデナデ

 

「〜〜〜♡」

 

「....」チュッ

 

「⁉︎⁉︎⁉︎〜〜♡♡」

 

「満足か?」

 

「もう一声」

 

「なら建前を聞かせろ。それだけじゃああんな真剣な顔で布団に潜り込んでないはずだ」

 

悠斗は先程、万智の顔が一瞬強張ったのを見逃さなかった。

 

「銀子ちゃんの事どす。もうすぐ.....決着の季節どすさかい」

 

「っ!」

 

無限地獄よりさらに深い地獄の三段リーグ。その地獄に垂らされた糸を登ることができるのはたった数名。プロになった全ての者。そこに到達した全ての者が味わう苦痛。勝っても地獄、負ければ死。この異常な世界の一節があともう少しで終わろうとしている。

 

悠斗は恐ろしいほどの焦燥感と吐き気と、不安を感じながら万智の体に顔を沈めた。

 

戦いの秋はもうすぐそこにある。

 

 

 




今回使用した戦法は耀龍四間飛車です。大橋六段が開発した戦法です。個人的には大橋先生は藤井先生と同期で個性的なスーツが印象で特にこの前のAbemaトーナメントでの赤いスーツからのスパート3倍というネットの流れは笑えました。耀龍四間飛車自体、かなり斬新な戦法でありあの升田幸三賞にも選ばれた戦法です。振り飛車党の皆さん、是非とも使ってみてください!

イトシンこと伊藤慎吾六段が耀龍四間飛車の解説をYouTube chに上げられていましたので是非ともご覧ください。

https://youtu.be/afYvxmGH4ek

それでは次回もよろしくお願いします!

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