ランプの魔人と騙され転生者   作:ククク...

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ボイスレコーダーを持っていた人物が誰かの答え合わせの時間です。

次回から3巻に入る予定です。


幕間 全部まるっとお見通しです

 7月中旬頃

 

 魔人の魔法によって俺は退院まで残りわずかとなるまで回復した。

 

 俺が入院していた間、かなりの人数が見舞いに来てくれた。椎名、王は勿論来てくれたが平田と櫛田、軽井沢グループが来たのはとても意外だった。まあ、軽井沢グループは平田の付き添いか何かだろうが。実際病院をうるさいからという理由で追い出されていたからな。

 

 そして、佐倉は毎日来てくれた。来てくれるのはいいのだが……軽井沢グループが来た日は途轍もなく不機嫌になっていて落ち着かせるのにとても時間がかかったりしたが、前世でこんなに自分のことを心配してくれた人はいなかったから嬉しくはあった。……それ以上に胃が痛かったが。

 

 魔人からの呪いと佐倉のことに加えて俺に更なる面倒事が舞い込んできたのは、とある人物が俺の病室に来たことが原因だ。俺の行動が全部バレているなんて予想もしていなかっただけにとても驚いた。

 

 まさか、坂柳が来るとは……そして、例のボイスレコーダーを持っていたとは本当に予想していなかった。

 

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 俺が意識を取り戻して、佐倉と茶柱が病室に来た日から数日後……

 

 俺の病室には俺含めた4人の人間がいた。

 

 1人はテニス部所属の金髪チャラ男。原作において最も世渡りが上手そうな男、橋本。

 

 1人は紫色の髪に高校1年にしてはスタイルのいい女。そして、万引きGメンとかに出てきそうなくらい万引きしてるらしい少女、神室。

 

 そして最後の1人は言わずと知れた銀髪Sロリ。高円寺にリトルガールと呼ばれていて、龍園の次くらいに危険な人物、坂柳。

 

 いわゆる坂柳の派閥が俺の病室に来ていた。なお、何故か鬼頭は来てなかった。

 

 急にこんなメンツが来たもんだから、オデノココロハボドボドダ! 

 

「貝沼君……でしたか……。今、よろしいでしょうか」

 

 坂柳がこう言ってきた。

 

 本当は嫌だね。さっさと帰ってくれと言いたいが何で来たのかぐらいの説明くらい欲しいからな。出来れば、理事長の娘だということからの事務的な挨拶で終わって欲しかった。実力的な意味で目を付けられたくなかったからだ。

 

「ああ、いいぞ。それでお前らは誰だ? 最低でも知り合いでもないってことはお互いに分かっているはずだが……」

 

 知り合いどころか一回も会った事がない俺がこいつらの名前を知っているのはどう考えてもおかしいから、あいつらから自己紹介をさせることにした。

 

「……? あなたは私たちのことをすでに知っていると思いましたが……」

 

 ……坂柳は何を言っているんだ? この頃、坂柳たちの名前なんてDクラスに広まっていないから、俺だけが知っていると断言できるとは思えない。まあ、明らかな不安要素だ。胃が限界を迎える前にとっとと帰ってもらおう。

 

「そうか。何故俺の病室に入ってきたのかは分からないが、用が無いなら帰ってくれないか? 今日は見舞いに来てくれた友達への対応で疲れていてとっても眠いんだ。それとも病室を間違えたか? それならある程度なら分かるからその場所の紹介ぐらいはできるが?」

 

 俺がこう言うと、坂柳の顔が嗜虐性のあるものになった気がして俺はとても嫌な予感がした。

 

「いえ、私は最初から貝沼君に用があってきたのですよ。この学校で傷害事件が起こってしまったことに関して理事長からもあなたに謝罪があったと思いますが、娘である私からも謝罪をと思いまして」

 

 なんだ……俺の気のせいだったか……? なら、早く帰ってもらおう。魔人にかけられた新しい呪いのせいで相当動かなければならなくなったからな。どうにかしてバレないように動きたいから原作知識と照らし合わせて何か策を練っておきたい。

 

「いや、構わないよ。謝罪なんてもう飽きるほど理事長から貰っているからな。それにこのことがきっかけで学校内が安全になるんだからそんなに気にしなくてもいい」

 

 俺は早く帰るように促したが、むしろ坂柳はこの展開を待ち望んでいたのかこう言ってきた。

 

「謝罪は無しですね、分かりました。では、ここからが本題です。貝沼君、あなたにAクラスの葛城君が率いる葛城派を潰して欲しくてここに来ました」

 

 ひょっとしてそれはネタで言っているのか? どう考えても頼む相手間違ってると思うよ坂柳さん。

 

「何を言っているのか全然分からないんだが? 葛城派? なんだそれは?」

 

 原作で知っている身からすれば葛城派を潰す理由は分かるが、何故俺なんだ? 何故坂柳はわざわざ俺に頼みに来た? 俺はこの時、坂柳の考えを理解することは出来なかったが、確かに何か自分にとって不都合が起きているという事実だけは理解することが出来た。

 

「……いい加減に認めたらどうですか、貝沼君? 私はあなたがこれまでにしてきたことを全て知っているのですから……」

 

 えっ……何それは? 怖い、怖い、怖い。

 

 坂柳に今までやってきたことがバレてるって? ハッタリであって欲しいな。もし、本当に知っているならば俺の計画にだいぶ支障が出る。

 

「おいおい、俺はどこの学校にもいる模範的な一般生徒だぜ? そんなに注目されるような特別なことは何もしていないぞ?」

 

 この言葉を最後に俺のバレずにポイントを貯めるという計画は跡形もなく消し飛ぶ羽目になった。坂柳は俺のことをチェックメイトすることに成功したようだ。

 

「じゃあ、何故あの時暴力事件の現場にいたのですか? しかも、2週間前から張り込みなんてして」

 

 血の気が引いた。俺が一番バレて欲しくない所がバレていた。というよりも何故坂柳は2週間ずっと張り込みをしていたことを知っているんだ? 誰かに監視させるにしても1日だけで十分だろうに……

 

 そんな考えお見通しだったのだろうか? 坂柳は続いてこう言ってきた。

 

「何故そのことを知っているのか気になっているのですか? 顔から汗が噴き出してますよ」

 

 俺はこの瞬間に対する心の準備はしていたはずだった。だが、汗が噴き出す! いくらなんでも存在が露呈するのが速すぎる。俺が完全に覚悟を決める時間すらこの女は与えてくれなかった。

 

「あなたのその反応を見ていると、心を痛めながらも神室さんにあなたを監視させた甲斐がありました。あと、ついでに龍園君の弱みも握れましたし、一石二鳥でしたね」

 

 いや、心を痛めたというのは絶対に嘘だろ。神室の坂柳を見る目がいつもよりも鋭い気がした。やっぱり、万引きの現場見られていて反抗出来ないんだろうな……かわいそうに。

 

 俺は同情の目を向けたが、神室からは睨まれた。まあ、2週間ずっと坂柳の命令で俺を監視してたってことは神室もあのすごく暑い特別棟にいたってことだからな……睨まれたとしても仕方ないとは思った。

 

「他にもテストの点数によってポイントを貰えるようにしたり、将棋部で賭け事をしてポイントを大量に稼いでいるのがあなただということも知っていますよ」

 

 最悪将棋部での賭け事は知られていてもおかしくはないと思っていたが……まさかテストの事まで知っているとは……

 

「……なるほど、俺はお前たちのことを知っている。認めよう。だが、まずは1つ確認させろ。俺のボイスレコーダーはお前が持っているのか、坂柳?」

 

「はい、私が持っていますよ。神室さんから貰いました」

 

 神室……お前かよボイスレコーダー取ったの……

 

「それで、その音声データはどうした?」

 

 これが一番重要だ。後で取り戻すにしてもその肝心のデータがなければ意味がないからな。もしデータが無いのに取り戻したら徒労で終わるからな。無駄な努力はしたくない。

 

「特に何もしてませんよ。最初から最後まで一切編集や削除もしていません」

 

 取り合えずは安心した。あれは龍園を退学に追い込める切り札だからな。俺ごときが分かっていて、天才である坂柳が分からないはずがない。

 

「なら、返してくれ。そのボイスレコーダーは元々俺のだ」

 

 期待はしていないが言ってみたら返してくれるかもしれない。僅かな希望に縋ってみた。

 

「貝沼君には言わなくても理解できるとは思いますが渡すつもりはありませんよ」

 

 まあ、でしょうね。今どこからも最も危険視されている龍園にけん制できるものがあると知ったら誰でも欲しいだろうからな。だが、それで納得してやるわけにはいかない。

 

 恐らく坂柳はこの証拠を使う事は無いだろう。彼女が求めるのは強き者、賢い者との戦いだ。彼女からすれば龍園に退学されると面白くないのだろう。この学校のこの学年において龍園ほどの実力があるのは高円寺と綾小路ぐらいしかいないだろう。あとはホワイトルームにいた疑惑がある神崎が可能性があるぐらいか。ともかく安定を求める俺とは大違いの考え方だ。当然意見が対立するのは目に見えている。原作の葛城と同じようにだ。

 

「だったら、次のバカンスと銘打って生徒を油断させた状態で始まる意地の悪い試験で葛城派を没落させる。その成功報酬ならどうだ?」

 

 彼女に口論で勝てるなんて全く思っていない俺は契約を結ばせることでボイスレコーダーを回収することにした。要するに彼女はこのボイスレコーダーを複製でもなんでもしてから龍園に俺がやったということを伝えることが出来るからだろうな。つまり、俺が脅せる人材でそこそこ使えそうだったから頼んでみて実力を図りたいといった所か。

 

「あなたは次の試験がある時期を予想出来ていたのですか? それとも最初から知っていたのでしょうか?」

 

 鋭いな……俺は今原作知識があるからこそ対応できているが、もし無かったら一切太刀打ちできないことは容易に想像できるほど、彼女の推理力は素晴らしかった。俺が未来を知っているのではないか……そう疑われただけで心臓の鼓動が激しくなった。それほど、ヘマをすれば彼女に俺がどういう存在かがバレそうで怖かった。

 

「まあ、この学校は特殊ですからいくらでも予想は出来たでしょうしその考えについては同感なので何も言いませんが、報酬は本当にこれでいいのですか? あなたにとってはポイントの方がいいのではないでしょうか? 2000万プライベートポイントでAクラスにあがるつもりなんですよね?」

 

 わざとらしいな。確かにAクラスから龍園がやったように継続的にポイントを受け取る事が出来るのは理想的だ。だが、ボイスレコーダーを手元に置けないことが一番不味いし、最悪龍園本人に売りつければ膨大なポイントに化けるだろう。まあ、そんなことをした暁には表舞台に引っ張りだされそうで嫌だがな。

 

「確かに俺はポイントを払ってAクラスに行くつもりだ。だが、俺が学校で平穏に暮らすためには必要なものだからな、ポイントよりも優先するさ。当然この証拠はオンリーワンだからこそ価値があるものだ。複製したものがある場合はそれも差し出してもらうぞ」

 

 念には念を入れる。例え俺が成功報酬で貰ったとしても複製があれば、龍園に売りつけようとした場合に坂柳に先に売られて邪魔される可能性がある。結局無人島試験は俺だけのアドバンテージを取り戻すための戦いになりそうだ。

 

 坂柳も少し悩んでいるようだ。ポイントを毎月払わなくても良くなったとはいえ、対価がこのボイスレコーダーだからだろうか? 彼女にとっては別に無いなら無いでいい品物のはずだが……

 

「……いいですよ。ただし、使い方はこちらで決めさせてもらいます」

 

「駄目だ。成功報酬で貰った場合こちらに主導権があるはずだ。利用方法は俺が決める」

 

 絶対に俺が龍園を退学させるのを防ぐために言っただろ、この幼女。油断も隙も無い。

 

「交渉は決裂のようですね。私はせめて利用方法を私が決めたとおりにしてくれなければこれをあげるつもりはありませんよ」

 

 ちっ、こちらが妥協するしかないか……最優先は音声データを手に入れることだからな。

 

「そうか、それを認めて欲しいならポイントを払えよ。お前たちの派閥からこの証拠を俺が持っている限り毎月各自5千ずつだ」

 

 Aクラスにとっては毎月5千ポイントなんて痛くも痒くもないだろうからな。さてと、問題は坂柳派に一体何人いるかという話だ。それなりに人数がいれば1人5千ポイントだとしてもかなりの収入になるからな。

 

「私の派閥の人数は17人ですから……毎月合計で8万5千ポイントですか。その程度でしたら全然構いませんよ」

 

 やっぱり、Aクラスは毎月ポイントが安定して貰えているのが素晴らしいよな。そこんところは羨ましい。ただ、坂柳と葛城の派閥争いで普段がギクシャクしてそうなのが少しな……

 

「いいだろう、契約の内容の細かい所は後日決めることにしよう。今日はもう遅い。お前たちも帰らなければならないだろう?」

 

 外を見てみると既に夕方ではなく、夜と言っていい時間帯だった。一旦こいつらを帰らせるにはいい口実だろう。坂柳と契約を結ぶのは石崎たちと結んだ時とはわけが違う。最大限の覚悟と集中力が必要なのは間違いない。だからこそ、休憩が必要だった。疲れている今の俺では簡単に騙されてしまうだろう。契約において見逃しは重罪だ。原作の葛城と龍園のような関係になるわけには絶対にいかない。

 

 俺が悪魔との契約を結ぶことに覚悟を決めていると坂柳から返答が返ってきた。

 

「そうですね。今日のところはこれで失礼します。あと、貝沼君。良ければ今度私とチェスをしませんか? 将棋しかできないなら将棋でもいいですよ」

 

 ……嫌だね! 断る! お前とのボードゲームとか何が起こるか全く予想が出来んわ。ただ言えるのは、間違いなく賭け事に発展していくに違いない。坂柳との賭け事とか命がいくらあっても足りねえから。

 

「やってもいいが……賭け事は無しだ。それが守れないなら応じるつもりはないからそのつもりでな」

 

 俺がそう言うと坂柳は驚いた顔をしていた。自分が考えていたことを当てられたからだろうか? だが、すぐに冷静になってこう言ってきた。

 

「貝沼君には私が悪女に見えるのですか? 酷い人ですね。私はただあなたと交流を深めたかったからゲームを提案しただけなのですが……」

 

 物は言いようだな。お前の場合、交流を深めたい(弱みを握りたい)とかそんなんだろ。坂柳の明らかに俺の良心に付け込んでくるような言葉に俺は一応こう答えた。

 

「まあ、それならいいが。あと、将棋の方が得意だが一応チェスも出来るからどちらでも構わない」

 

 そう言うと彼女は嬉しそうな顔でこう言ってきた。

 

「そうですか! なら今度、チェスで勝負しましょう。この学校のチェス部の人たちは弱い人ばかりで退屈でしたから。貝沼君がそれなりに足掻いてくれることに期待していますよ」

 

 いい笑顔で何言ってんだこいつ!? 坂柳は本当に俺に何を求めているのかが全く分からなくなった。俺がそう考えているといつの間にか坂柳たちは病室からいなくなっていた。俺はこのやり取りに不安を感じながらもこれからの動き方について考えながら就寝するのだった。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 後日、坂柳と契約を結んだ。

 

 契約証書  

 

 Dクラス貝沼努(以下【甲】という)とAクラス坂柳有栖(以下【乙】という)は、

 

 別紙記載の条項通り契約を締結する。

 

 この契約を結ぶ甲、乙の生徒は本契約に合意したものとみなす。

 

 

 

 甲:高度育成高等学校1年Dクラス

 

 代表 貝沼努

 

 乙:高度育成高等学校1年Aクラス

 

 代表 坂柳有栖

 

 

 甲と乙で結ばれた契約内容①

 

(1)旅行中に行われる試験にて葛城派を没落させることに成功した場合、とある音声データを含んだボイスレコーダーを手渡すこと。また、使い方は乙が決めた方法でしか使えないものとする。

 

(2)乙は甲がそのボイスレコーダーを持っている場合、毎月8万5千ポイントを支払うこと。また、複製した音声を甲に渡さずにそのまま持っていたことが分かった場合、罰金として乙は1000万プライベートポイントを支払うこと。

 

(3)この2週間の旅行において、試験中Aクラスの橋本、神室は俺の指示通りに動くことを約束させること

 

 

 

 甲と乙で結ばれた契約内容②

 

(1)甲が目的を達成出来なかった場合、乙の言う事を何でも必ず1つ聞くこと。

 

(2)甲が目的を達成出来なかった場合、乙が所属する派閥に入ること。

 

(3)乙が聞きたいことがある場合、甲はこの旅行の間はその質問にきちんと答えること。

 

 これらの条件を満たさなかった場合、契約違反として後述する条件を飲むこと。

 

 絶対命令権をそれぞれ5回分、契約違反をした方は相手に許可する

 

 

 

 自分でもいいのか悪いのかよく分からない契約を結んだ。坂柳が俺に対して求めた契約内容はほとんどが葛城派を没落させることに失敗しなければ意味のないものばかりだ。

 

 しかし、1つだけ……(3)の契約内容。これだけが気掛かりだった。質問に答えるという行為自体が嫌だった俺は最初はこの契約では結びたくはなかった。だが、坂柳にこれを認めなければ契約を結ぶ気は無いと言われたから仕方なく結んでしまったのだが……

 

 精々この契約が地雷にならないことを祈るしかないか……

 

 そう思いながら、病院から旅行に行く日ギリギリで退院できた俺は旅行の準備を進めたのだった。

 

 




神室と本格的に関わるのは3巻ですね。

坂柳にロックオンされてしまった主人公はどうなってしまうのか…

あと、今回の契約は主人公が入院していたことから保証人無しの生徒間管理の契約を結んでます。

次回もご期待いただけると嬉しいです。

ヒロイン誰がいいか

  • 佐倉 
  • 櫛田 
  • 椎名
  • 神室
  • 誰でもいい

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