ランプの魔人と騙され転生者   作:ククク...

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<今回の話>
・主人公の体や精神に異常が起き始める

・平田との会話

の二つです。

主人公の思考が鈍っていたり、ちょっと精神的に不安定になっているのは今話からはっきりしだすと思います。

今回もよろしくお願いします。


地に足の着いた考え方をしなければ、それは所詮夢物語でしかない

 ……最悪の目覚めだ。俺は洞穴に戻ったあと、ビニール袋を一之瀬たちが原作でやったように膨らみが出来るようにして、腰と頭と足の部分に置いて寝た。しかし、元々の地面が岩だからかあまり意味はなく、体の節々が起きた時には痛かった。他にも舌が乾燥していて歯に当たると痛かったりと、それはもう悲惨だった。自分の体がどんどんおかしくなっていくのがよく実感出来た。

 

『ご主人様、ここに鏡があるから自分の顔をよく見て欲しいマジン』

 

 そう魔人に言われて魔人から手渡された手鏡で自分の顔を見てみると血が出ていた。おでこから血が出てきていた。微量だが血が出ていたのだ。

 

 その血が飛び出る様子を見てしまった俺は地面に膝をついてしまった。何故、血が出ているのか……原因が全く理解出来なかったからだ。俺は再び周りをよく確認した。すると、洞穴の入り口近くに血がついた岩を発見した。……まさかな。

 

 ……まさか、ここについたタイミングで俺は気絶していたのか!? それとも……眠気に耐えきれずに倒れてしまったのだろうか……。どちらにしろ、頭から岩にぶっ倒れたということだろう。その時に血が出てしまった……としか考えられない。そこまで俺は気づかない間に衰弱していたというのか? 

 

「おい、魔人。俺はもしかしなくてもあそこで気絶か何かしたのか?」

 

 俺がもし、あの場所でぶっ倒れたのなら俺が用意していた寝床に俺が寝ているのはおかしいことなのだ。そう、太陽が西から昇らないようにおかしいことなんだ。

 

『勿論、私が運んだからに決まっているマジン。おでこの怪我も直しておいたマジン。ご主人様も理解していると思うマジンが私が治療してなかったらご主人様は血を流し過ぎて死んでいたと思うから感謝して欲しいマジン』

 

 取り合えず魔人がそう言うということは、龍園にやられたわけではないようで安心した。あれだけ俺のことを気にしていた龍園があんなにあっさりと俺という存在への警戒をやめるのかと思っていたことから、心配だったが、その可能性よりは遥かに俺が想像以上に弱っていたということが事実だった方が信憑性が高い。

 

 俺はデジカメを鞄の中から取り出し、データが残っているかや壊れていないかなどを確認したが、デジカメは無事だった。取り合えずは一安心だ。あんなゴミクズ共に200万プライベートポイントなんて物を渡してしまえばDクラス内で内戦が始まるし、さらに俺の名誉を下げることになってしまう。……それ以前に我慢も出来ないような人間にそんな大金を与えてしまえば、試験などに有効利用されることはなく、篠原たちの私利私欲に使われてしまうだけだろう。血と汗の結晶をそんなくだらないことに使われて堪るかって話だ。

 

 現在の時刻を確認すると、午後12時だった。恐らく気絶していたのが午前9時ぐらいだったはずだから、3時間はその状態だったわけだ。だが、俺はまだ眠たかった。昨日は一日中起きていたのだからまだ、眠たくても仕方ないことではあるだろう。俺は二度寝することにした。

 

 ただでさえ、お腹がすいているんだ。ここで無駄にエネルギーを消費するわけにもいかない。まだ、6日目が残っているのだから……。せめて、あいつの悔しがっている顔を見ることが出来るまでは絶対にリタイヤしたくない! 

 

 俺はそう思いながらさらに睡眠を取った。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ……どこだ? ここは? 

 

 そこは不思議な空間だった。周りがガラスで覆われていてそこに俺は立っている。まるで、見世物にでもなっているかのようだ。上を見てみると何故か俺の学校から支給された端末が何かの隙間に挟まっていた。

 

 俺はその隙間から端末を引っ張り出した。その際に画面が傷つくかと思ったが、全く傷ついていなかった。端末の電源がつくかどうかを試してみたが、全然つく気配がなかった。

 

 どういうことだ? 俺には疑問しかなかった。何故、無人島試験中なのに携帯がこんなところにあるのかや、何故周りをガラスで囲まれた空間の中にいるのかなど、非現実的な光景から俺は夢だと思った。

 

 だが、夢にしては意識がはっきりしすぎている気がして、少し不安になっていると突然上の方から爆発音が聞こえてきた。この爆発音から真っ先に想像したのは魔人の爆弾だ。俺は実は軟禁されていて、その間に爆弾が爆発したのかと少し本気で思ってしまった。

 

 だが、軟禁されていたのだとしても、このガラスの意味がよく分からない。何故ガラスの展示台のようなものの中に俺が入っているのか……よく理解出来なかったが携帯が挟まっていた穴から砂が入ってきた瞬間全てを理解した。

 

 俺が思考に耽っている間に砂は膝の高さまでこの空間を埋め始めていた。移動すら困難になり、夢の中だったとしても恐怖を感じた。いや、あくまでも現実の可能性もあるのだ。念のために生き残れるように足掻かないと。そう思い必死に移動を開始したところで、上の壁が崩壊して俺を押しつぶしにきた。

 

 俺は必死にそれをよけようとした。小さい欠片を体にくらいつつも、どうにか大きな損傷を負わずに済みそうだったのだが、1つ回避できない物があり、それは左腕に当たってしまった。

 

 俺がその傷を気にしている間に砂は顔にまで差し掛かっており呼吸すら苦しくなってきた。必死に息を持たせようとしたが、その努力も虚しく息が続かずに俺は気絶した。

 

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 俺が目を覚ましたのは午後6時だった。

 

 なんという悪夢だ。やはり、死にかけた夢……それも意識がかなりはっきりとしていたからだろうか……。冷や汗をものすごくかいていたように思えた。だが、ジャージだけでなく、顔がもの凄く濡れていた。俺が寝ていた岩も濡れていた。そして、傍には水を入れていたビニール袋が雑に置いてあった。

 

『やっと起きたマジンか。急に自分の首を絞めだしていたから焦ったマジン。仕方ないから水を口に含ませてみたマジンが効果があったらしいマジンね。随分とうなされていたから無理矢理起こさせた甲斐があったマジン』

 

 魔人の言い分からさっきのはやはり夢だったのか……。現実じゃなくて安心した……。

 

 いや、それよりも魔人に説教をしてやらないとな。心配して起こしてくれたのはありがたいが、寝ている人間の口の中に水を含ませるって……どおりで最後らへんは本当に苦しかったわけだよ。

 

「起こしてくれたのはいいが、もう少し方法を考えろ……方法を」

 

『仕方ないマジン。ご主人様を呼びかけてもゆすっても起きる気配が全く無かったマジン。点呼に遅れないように起こしたマジンからある程度は感謝して欲しいマジン』

 

 ……まあ、そこは素直に感謝しよう。篠原たちにまた何か難癖をつけられたら堪ったもんじゃないしな。これ以上何かされたら本気で奴に対する怒りでどうにかなってしまいそうだ。

 

「……ありがとな。ちょっとリアルな嫌な夢を見てしまってな」

 

 俺はそう言いながらも立とうとした。しかし、立った瞬間に立ちくらみが発生してしっかりと立つことが出来なかった。体の節々も相変わらず痛い。お腹も減っている。そのせいで数十秒に一回のペースでお腹の音が鳴る。本格的にヤバくなってきたかもな。体から筋肉がみるみる減ってきている気もするし、体の脂肪から栄養素を取り出し始めたのかもしれない。せめて明日まで持つように祈っておくしかないか。

 

『ご主人様、そんなに辛いなら私が魔法でその苦痛を無くしてあげてもいいマジンよ。私としてはご主人様に呪い以外で死なれる方が困るからサービスするマジンよ』

 

 魔人がそう言ってくるが……断る! その苦痛を感じなくなったらどこで限界がきてぶっ倒れるか分かったもんじゃないし、Bクラスを騙しにくくなってしまう。ここまでやったんだ。ここまで来たなら徹底的に勝つために自分を追い込む。

 

「やめておく。ただ、何か試験に支障がでそうな怪我とかをした場合はまた頼んでいいか。ストーカーに刺された時ほどではなくていいから、その怪我の治癒を早めて欲しい」

 

 さっきの夢を見てしまい、とても不安になってしまった。あんな感じで負傷しないにしてもどこかで龍園から奇襲される可能性もある。そんなことまで想像してしまうほど、今は嫌な気分になっている。

 

 この調子では一時間でベースキャンプに辿り着くか不安だから早めに出ていくことにした。真夏だからか午後6時にも関わらず未だに日が出ている。朝よりはマシではあるとはいえ、気分が悪くなってくる。

 

 俺は移動に苦労しながらも必死にDクラスのベースキャンプに向かった。

 

 

 

 

 午後8時

 

 5日目の夜の点呼だ。Dクラスの人間の俺を見る目も独特のものになってきたな。やはり、衰弱し始めているのが、人間観察素人からでも分かるのだろうか? まあ、いい。俺の戦略の邪魔はさせない。絶対にだ。

 

「貝沼君……大丈夫かい? 体調が悪いように見えるし……どこか痩せている気もするんだけど……」

 

「平田、お前は何を言っているんだ? 俺は元気だ。お前が心配しているようなことはない」

 

「いや……でも……」

 

「うるせえな……。俺が大丈夫って言ったなら大丈夫なんだ。平田……お前俺のことを心配する暇があったらクラスの仲を戻す努力でもしたらどうだ?」

 

 案の定、平田が心配して俺に声をかけてきたが、絶対にリタイヤするわけにはいかないため、他のことに目を向かせる。あの後、男子が信じれないとか軽井沢か篠原が言ったのだろう。男子と女子のテントの場所が離れていた。平田にとってはここからが辛い所だろうな。だが、平田からの追及を避けるためにこの状況を使わせてもらう。

 

「大方あの女どもが男子のテントから女子のテントを離すようにお前あたりに言ってきて、お前はそれを了承。その結果、男子と女子の仲は最悪な状況……といった所か。ふん……馬鹿みたいだな。自分たちから破滅への道へ進んでいくとは……所詮不良品。無様なもんだ」

 

「貝沼君、彼女たちのことをそんな風に言うのはやめてくれないかな。いくら君が同じクラスだとしても今の発言を僕は許すわけにはいかない」

 

「別にお前から許しを請う必要もない。何故なら事実だからな。軽井沢と篠原は先日と今日起きた事件の全ての原因は俺にあると断定しかけているようだが、1人やる動機がある人間を怒りに身を任せたことで忘れている。そして、今の状況はそれが招いたことだ。きちんと考える脳があれば、こんなことにはなっていない。それだけのことに過ぎない」

 

 やっぱり馬鹿に権力を持たせたら駄目だわ。馬鹿に政治力を与えてしまうと、国だろうがちょっとした組合だろうが、たった40人しかいないクラスだろうが、簡単に崩壊してしまうのだ。そして、そんな奴らを甘えさせている平田……お前も邪魔だ。櫛田をこちら側に取り込むことに成功した暁には櫛田をリーダー……もしくは副リーダーの位置に当てはめる予定だ。

 

 軽井沢のカーストが高いのは平田という彼氏と付き合っている振りをしているからだ。現在のDクラスは平田というリーダーによって成り立っているからこその政治力だ。綾小路が軽井沢を駒とすることを考えると今平田を潰すのは不味いな。そう考えれば、船内試験後かね……潰すにしても。

 

「確かに篠原さんや軽井沢さんに非があるとは僕も思う。でも、無能は言い過ぎだよ。それに僕は君のことも大切なクラスメイトだと思っている。だからこそ、君には篠原さんや軽井沢さんのことを悪く言わないで欲しいんだ」

 

「ハッ! やっぱりお前は甘いよ平田。悪いことは悪いという単純な事実を俺は言っているだけだぜ? 事実俺は悪いことをした報いを受けているからな」

 

「いや、でも……君は本当はやっていないんだろう? 僕から軽井沢さんと篠原さんを説得するから君もここに戻って来てくれないかな? 今の君をほおってはおけないよ」

 

 無理だ。そして、無駄だ。平田にあいつらを説得出来るとは到底思えないし、何より俺からすれば大迷惑だ。時間の無駄だ。

 

「平田、人間という生き物についてお前はどう思う?」

 

「え……えっと……その質問にどんな意味があるというんだい、貝沼君?」

 

「答えてやろう。人間という生き物は何かを犠牲にしなければ生を謳歌出来ない獣の名だ。現にお前は利益を捨ててクラスの和を保とうとしている。だが、お前の求めている物なんてのは人間の欲や心の醜さによって簡単に壊されるものだということを忘れるなよ。断言してやる。明日にはこのクラスの薄っぺらい友情なんて物は崩れ去るだろう。お前が今までやって来たことは一度全て無に返るだろうな」

 

 俺がそう言うと平田は何か自信ある頑固そうな眼つきで俺にこう言ってきた。

 

「そんなことには絶対にさせないよ。クラスの仲だって元に戻してみせるし、君のことだって絶対に犠牲になんてさせるつもりはないよ」

 

 くだらない。何故、そこまで気に入らないであろう人間をも助けようとする心を持てるのか……。俺には到底出来ないことだ。そこんところは尊敬してやる。だがな、本当にクラスを救おうという意思があるなら、もっと努力しろよ。俺なんかよりも甘い覚悟でこのクソだらけのクラスを救おうとか思っている時点で甘い。

 

「平田、地に足のついた考え方をしなければ、それは所詮夢物語でしかないんだ。お前の考えは何かを捨てる時に覚悟も出来ない所詮臆病者の考えだ。人間という生き物が平等だと思うか? 俺は思わないな。当然、スペック差は存在する」

 

「確かにそうだね。人には得意なことや苦手なことがあったりする。でも、それの何が捨てるという言葉に結び付くんだい?」

 

「じゃあ、もし仮に学校側が無能をクラス内から1人選出してそいつを退学者とするという試験を行ったならお前はどうするんだ? お前にそいつを捨てる覚悟があるのか?」

 

「……そんなことになったとしても僕は絶対にあきらめないよ」

 

 ここの部分が平田という人間の長所であり、短所でもある。友人が目の前で自殺したことがこいつにとって、どれ程のトラウマかは知らないが、良くも悪くもこいつに影響を及ぼしている。

 

「そこで覚悟を決めて捨てることが出来ないのがお前の弱さだ、平田。この現代社会、無能なやつは切り捨てられていくのが常だ。なら、捨てられないためにも死ぬ気で足掻く必要があるんじゃないか? 特にこの学校で不良品と言われている俺たちなら尚更な。だからこそ、捨てるべきものは捨てるぐらいの覚悟はしておけ。急に覚悟を決めろと言われても想像以上に難しいものだ」

 

 事実そうだ。俺とて魔人から呪いをかけられていない状態だったなら、こんなことは絶対にしていない。覚悟を決めることなんて出来なかっただろうからな。

 

「貝沼君、だからといって、君が犠牲にならなければならない理由はないんだ。今から篠原さんと軽井沢さんと話し合って、和解しよう。今ならまだ仲直り出来るはずだよ。僕も手伝うからさ」

 

「くどいぞ、平田! 今更和解出来るなんてお前も本当は思っていないだろう。これは俺たちの問題なんだ。お前に口を出される義理はないし、俺はあいつにケジメをつけてやらなければならないんだ。俺を馬鹿にするならともかく、あいつの決めつけによって王の名誉が傷つけられているんだ。そんな奴らに謝りに行くだと……死んでもごめんだな!」

 

 何で既に俺の勝ちになる証拠があるのに謝りに行かなければならないんだ? しかも、決めつけによってクラスを混乱させただけに飽き足らず、王の名誉まで傷つけようとしたあのゴミクズ共に? こいつの正義感もここまで来ると笑えるな。

 

 俺はそう言ってすぐにDクラスのベースキャンプから出ていった。

 

「何よあいつ。せっかく平田君が気を遣ってくれたんだから素直に従えばいいのに……。まあ、いいけど。あんな変態いなくなってくれた方がいいし~」

 

「平田君、あんな奴なんかほおっておいていいじゃん。それよりもこっちに来てくれない? 手伝って欲しいことがあるんだけど」

 

 後ろからは篠原や軽井沢の俺に対する文句が聞こえてきたが、知った事か。全て事実だ。俺は正しいと思ったからやったんだ。

 

 本当に篠原辺りがこの学校に入れた理由が分からない。何かしら尖った特徴があるからこそ、須藤や池のような馬鹿でもこの学校に入ることが出来たはずなのに、少なくとも篠原にそんな特徴があるとは思えない。俺はこの学校に篠原が何故入学出来るのかと疑問に思うほど篠原には殺意を抱き始めていた。

 

 証拠はすでに掴んでいるので、今は奴の悔しがるであろう状況を想像しながら必死になってリタイヤにならないように生きている。あいつのプライドが傷つくまでは絶対にリタイヤしないという目標に必死にしがみついている。

 

 しかし、俺はこの時に気づくべきだった。腐り切った人間は約束を守らないなんてことを平気でするという事に。

 

 そのことをこの時に気付いていれば、俺もあんなことまではしなかっただろうに。

 

 




<主人公の現在の状態>
・丸二日断食、睡眠不足
・日光を浴びると気持ち悪く感じる
・佐倉からのお仕置きが確定して胃を痛める
・無能に対して怒り狂いそうになっている
・悪夢を見てしまう
・体の節々が痛む
・筋肉がどんどん減少していっている
・多少の出血

3巻編にて赤文字は必要ないと思ったか否か

  • 全然使ってもいいと思う
  • 要らなくね
  • 別に太字とかそういうの全部要らない

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