真面目系文学   作:白熊の人

1 / 2
真面目に、ミステリー?を書いてみました。
いつもの感じとは違いますが、ぜひ読んでみてください!!
今回のテーマは、妖です。


幻想

私は、最近夢に悩まされている。明晰夢というやつだ。時々ならいいのだが、毎日となると、何かありそうで怖い。

明晰夢とは言っても、あからさまに非日常というわけでもない。心の中で人に命令しても思い通りに動くわけでもなければ、思ったものが急に手元に出てくるわけでもない。

しかし、他の人に化けられたりと、日常ではできないことができるのも確かだ。

        *

私は目を覚まし、学校に行く準備をする。パジャマを脱いで、制服に着替え、洗濯物を持って、一階に降りる。

お母さんに、「ご飯よそっておいて!」と、声をかけながら洗面台に行き、パジャマを洗濯機の中に放り込んで、顔を洗う。

冷たい水が、布団から出たばかりで少し火照っていて、眠気が抜けていない私に朝を告げる。

その後、顔に関するの処理をしていると、お母さんが、「ご飯できたわよー!」と声をかけてくれた。

すぐに返事をし、食卓へ向かってゆく。着席し、手を合わせて、頂きますと言って食べ始める。

いつも通りの味で、特に変わった味はしなかった。食器を片づけて歯磨きをする。歯磨きが終わり口を漱いで、カバンをひっつかみ、鍵と弁当箱を持って学校に行く。 

         *

 学校では、いつもと変わらない日常がただただカセットテープで録音された音声のように、繰り返されていた。だが、今日は違った。

転校生が来るというイベントがあったのだ。その転校生を一目見た瞬間、一生付き合ってゆく人だと感じた。

やせ形で、身長は170センチくらい、イケメンで深い色の茶髪声はそこまで低くはなかった。しかし、今日は彼のほうから接触はなかった。

彼と席が遠いというのもあるが、私に勇気がなかったのだろう。彼に話しかけられなかった。私は、男子とも喋れるので、友達のグループメンバーからは、意外がられた。

彼女たちは、私がイケメンである彼にすぐにアタックすると思っていたのだろう。私自身もなんでアタックしなかったのか分からなかった。

勇気がなかったということだけで結論付けてはいけない気がしたが、過ぎてしまったことは深く考えないのが私だ。昔からそうだった。はずだ。

だが、今回は違った。最近は異例なことがありすぎて、正直処理しきれていない。

頭の中では、すべて処理しきらないといけないと分かっているのだが、未知な情報が多すぎる。

ただ分かっているのは、明晰夢を見るようになってから、歯車が狂ったことだけだ。

        *

また明晰夢だ。この夢を見ると、苛立ちを覚える。何故だかは分からないが・・・。

全く何もない世界を歩いてゆく。足元を見ると何もない空間が広がっていて、立っているのかすら分からない。

上を見る。足元を見た時と同じで、何もない。しかし、何回もこの夢を見ているせいで、段々と慣れてきている自分がいる。

すべてが無の世界に、人が生まれた。どこからともなくやってきたと言ったほうが正しいか・・・。とにかく、人間がいた。

いや違う。人間ではなくなった。しっぽが生えている。そして二足歩行をしている。段々と近づいてくるのが分かる。

私と同じ向きでしっかりと歩いてくる。真っ直ぐ、こちらの方面へ。彼のほうに走り出す。私がうけている焦燥感をどうにかしたかったからだ。

勿論、なんで焦燥感に駆られているかはわからない。ただ、怖かった。早くどうにかしたかった。

焦燥感という表現があっているか分からないほど、怖かった。だが、単純な恐怖とは明らかに異なった。

得体のしれない感情に支配されるのを防ぐために、そいつのところに走ってゆく。

 だが、届かなかった。体の力が抜けてきて、現実に叩き戻される。

         *

飛び起きた私は、全く汗をかいていなかった。悪夢にうなされていて、汗をかいていると思ったが、そんなことはなかった。

それどころか、寝返りをした形跡もなく、タオルケットはぴっしりとしていた。飛び起きたところだけが乱れていただけだった。

深く記憶に植え付けられている昨日の夢は、この後の私に大きな影響を与えていくということはなかった。

記憶にはあるが、それまでだった。朝支度を済ませ、学校に行く。朝のホームルーム前に友達から、夏祭りに一緒に行かないと誘われた。

そう言われてから、夏祭りの存在を認知した。毎年あるはずだから忘れているはずがないと思ったが、忘れていたのだ。

明らかにあの夢のせいで、日常のことを忘れさせられている。他のイベントのことを思い出そうとすると・・・

         *

授業中に寝てしまったのだろうか?またあの空間に飛ばされた。精神が憔悴しきっている。

夢はあの時の続きだが、もう彼は目の前にいた。軽くホラーだったが、安心感のほうが強かった。

「どうしてこんなことをしているのですか?」

彼が話しかけてきた。怒っている様子でも説明してほしそうにもしていない。訳が分からなかった。だから、

「訳が分からないわ。どうしちゃったの?」

と聞いた。

彼は、表情を変えずに後ろを向いて歩き出した。どうせ夢なら、彼のことは掴めないだろう。

だが、私は彼の肩を掴もうとして、掴んだ。掴めた。鎖骨の硬さと僧帽筋と三角筋の柔らかさはあまりのも生々しいものだった。

肩に触れられたことに気が付いたのか、振り向いた。

         *

起きたら、自分の部屋のベッドにいた。体を起こし、スマートフォンを見る。

そしたらなんと、夏祭りの当日だった。メモのアプリケーションを開いた。そこには、待ち合わせ場所と時間が書いてあった。

内心ほっとする。昔から、メモをする習慣が付いていたのが幸いした。昔・・・?何故だか、夢と同じような焦燥感がやってくる。

今している思考を全てシャットアウトした。これ以上は危険だ。危険・・・?何故?っと、また変なことを考えそうになった。今は、準備のことに集中しよう。

親が用意してくれた浴衣を着て、集合場所に向かう。この地区の祭りは、そこまで大きいものではなく、開始の合図に音花火が上がることはない。

だがそれでも、昔からやっている伝統ある祭りだ。最後には、祭りの参加者全員で、大きな火を囲って回りながら踊るというものがある。

それが終わったら祭りは終了だ。頭に違和感が走る。一瞬だけテレビにノイズが入るような感覚に陥る。

そのことに不快感を覚えながらも、夢のせいと簡単に結論付けた。待ち合わせ場所には誰もいなかった。

五分前行動が普通なので、誰も来ていないことは予測できていたが。またノイズが走る。

具合が悪いのかと疑ったが、多少無理してでも行くべきだろう。

待ち合わせ場所を離れようとしているときにばったり会ってしまって、どこ行くのと聞かれるのも結構気まずい。

ガンガン頭が痛くなるわけでもないし、一瞬で収まったので気にしないようにした。

ぴったりに来る者もいたが、遅れてくる者もいて、皆が集まったのは集合時間から十分経過した後だった。

しかし、このルーズさが若者における特権だと思っている。いつも何かに追われている大人には感じられない感覚だろう。

みんなで、綿菓子やりんご飴、焼きそばと定番の食べ物を食べながら、いろんな出店を見て回った。

祭りという非日常な事象なはずなのに、デジャブを感じる。全く新鮮な感じではないのだ。

この祭りには、物心ついた時から参加しているから、飽きてきてしまったのか?と思いながらもみんなと回る。

飲み物を飲みすぎたのか、催してきた。みんなに、お花摘みに行ってくる。と言って、皆から離れて、化粧室に向かう。

化粧室と表現してもも、公園の物なのでとても汚いものなのだが・・・。臭いところで用を足し、なるべく早く外にでる。

外にある蛇口をひねり手を洗った後、ウエットティッシュで手を拭く。潔癖症というわけではないが、こうしないとなんか嫌な気持ちになる。

化粧室の奥にある藪で、ガサガサという音がした。この地域には、結構動物が多い。普通に狸なんて出てくるし、それでいちいち騒ぐことはない。

しかし、これだけ野生動物が出没しているのに、怪我の一つ、いや、食害被害も全くないことに気が付く。

こんな大規模に祭りなんてやっているのだが、そっちの方向には見向きもしない。ただ、虚空を見ているだけだ。

そんなありふれた現象だったが、私の足は、そっちのほうに向いた。さっきも言ったように、珍しいとは感じていない。

ただ、何となく興味が湧いた。藪をかき分けて、近づいてゆく。急に藪が終わり、周りが気で囲まれたところに出てきた。

結構驚いて、帰ろうとした。不気味ではないが、明らかに異世界みたいな感じがしていた。

「迷い込んでしまったのですね。」

と、後ろから声をかけられる。びっくりして、飛び上がった。そして、後ろを向く。すると、そこには、彼がいた。

夢の中でも、現実世界でも見覚えのある彼だ。夢の中で、狐みたいな尻尾をみせていたので、妖怪の類ではないかと、警戒レベルを上げる。

「ここはどこなの。」

驚いたことを隠し、強い口調で質問を投げかける。すると彼は、やれやれと言わんばかりに両手を広げ、首を振りながら言った。

「貴方が一番よく知っているはずですよ。」

訳が分からなかった。だが、話を進めなければここから出られない。

「分からないから聞いているんだけど?それくらい分からないの?」

彼のことを意識していた分、強く当たってしまう。

「失礼いたしました。こちらの理解が足りず。貴方様にご不快な思いをさせてしまいました。深く反省しております。」

執事のように、おじぎをした。口調に合わせたのだろう。とても苛ついた。

「それで、今の状況を説明してくれないかしら。」

彼が、執事なら私は、お嬢様のまねごとをしよう。と思って出したセリフだ。

「はい、わたくしの麗しきご主人様。わたくしめが現状を説明して差し上げましょう。」

この言葉に、恐怖を感じた。わからない。言葉遊びを楽しんでいるだけなのに。それだけなのに、怖い。すごく怖い。

「どういたしましたか?お嬢様。御顔の色が少し優れないようですが?」

本気で心配しているような声だ。嘲笑している感じではない。

「大丈夫よ。早く説明して頂戴。」

「本当に良いのですか?」

何故、そんなことを聞くのだ!?聞いてはいけないことなのか?鼓動が早くなる。

頭の全神経を使って考え直す。幸いにも、私が返答するまで待っていてくれるみたいだ。

だが、このまま何も知らない状況で、元に戻るということはできないだろう。選択肢が与えられているようで与えられていないのだ

。深呼吸をし、いったん気持ちを落ち着かせる。深呼吸をしてから三秒くらい溜めて、答えを出そうとしたが、彼は歩いていこうとした。

答えは聞けないと思ったのだろう。だから、彼の肩に触れて、答えを出した。

          

 答えを出した瞬間、世界が一変し始めた。世界の色がすべてなくなっていって、あの状況まで戻った。

振り向いた彼の顔には、笑みが浮かんでいた。

「やっとここまで来ましたね。貴方の茶番に付き合わされるこっちの身にもなってくださいよ。」

急に訳の分からないことを言い出す。彼は私を突き飛ばした。なにするんだ!と言いかけたが、何も言えなくなった。

目の前にある衝撃が、私の言葉をかき消した。

あの人が化け狐に変わっているところを見せられた。狐の耳が出てきて、二本の太いしっぽが生えてきた。

このことに驚愕したせいだ。焦燥感が最高潮に達する。思い出したくない記憶が溢れてくる。

考えないようにしても、それを阻止するように溢れだす。頭を抱えてうずくまる。発狂しているのだろう。

自分の声が自分の耳を刺激する。彼が近づいてきて、私の頭頂部を撫で、耳をつねる。耳だけをつねった。

髪には触れていないことを感じた。この時点で少しずつ察し始めていた。おしりのほうも重くなってくる。

絶望し、泣いていると彼が声をかけてきた。

「こんにちは、ご主人様。人間のフリは楽しかったですか?」

この一言が、自分が人間ではないと自覚させられた最後の一手になった。全てが崩れていくような感覚に陥る。

だが、立ち上がり、自分のおしりを見た。信じたくなかったという気持ちが強かったからした行動だが・・・。

感覚通り、九本の尻尾が生えていた。そこで少し納得する。そして、悟ってしまう。この世界の全てを。

 

まっとうな人生を送りたいと思った。だが、世界というものは残酷だった。

ある程度の魅力がなければ、手を差し伸べてくれない。そういう世界だった。

悲しみに暮れた平和ボケを患った少女は、身を投げてしまう。

そうして妖になった少女は、自分の覚えている限りの知識を使い、自分だけの世界を作った。

あまりにも歪(いびつ)で、歪(ゆが)んでいるでいるその世界は、脆すぎた。

簡単に侵入を許し、内部から崩壊させられた。しかし、彼女は何回だって繰り返すであろう。

人間として、まっとうな人生というものを過ごす為に。必ず崩壊する世界で。

何故なら、彼女は今回の物語を作るのに、最新の記憶を使っていたからだ。

どんなに頑張ろうと、それ以上の物語を作り出すことはできない。その世界には学ぶ術がないからだ。

そんな可哀そうな九尾を救おうとしたのが、彼だ。彼のせいで、崩壊させられたと勘違いしている者もいそうだが、それは違う。

彼は終わらせてあげようとしたのだ。あまりにもむごい結末をみせないために。だが、その手を取ることはなかった。

そして、彼のせいにしてまた進もうとしている。これが、永遠に終わらないサイクルの途中経過になってゆく。




コメントしていただけると嬉しいです!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。