ラビット・プレイ   作:なすむる

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20話 暴風一過

「な、な、ななななな…」

「む、むむー、むー!」

「あいったぁ…くぅぅ…」

 

目の前で起きてしまった現象を処理し切れないリヴェリア。

潰されており、声を出せないベル。

後頭部を木片に、腹をベルの頭にやられてダメージを受けたレフィーヤ。三者三様の反応をとっている中、館内から怒号や悲鳴が起き上がる。

 

バタバタと駆け回る足音が外から聞こえてくる。ロキは無事か!? という声が響く中、何人かがこの部屋に入ってくる。

 

それは、アリシアを筆頭にしたエルフ達であった。先程リヴェリアが魔力を感じると言って走り出した時点で、彼女らも周囲を警戒はしていたのだ。その直後のこの破壊音である。慌てるのも無理はない。

 

「リヴェリア様! 主塔が謎の攻撃を受けたようです! 犯人は不明ですが………は?」

 

そして、部屋の惨状を見る。ポッカリと(物理的に)開放感のある、かつて窓だった場所を見て、その先に臨く主塔を見る。ちょうど、今見ているところから遠距離攻撃が直撃したかのような崩れ方をしている主塔を。

床でもがいているレフィーヤとベルを見て、頭を抱えてふらふらとしているリヴェリアを見て、アリシア達も得心がいった。

 

…やりやがったな、この馬鹿。

 

それぞれ若干、罵り方や文句の付け方に個性はあったが総じてそのような気持ちを心中に浮かべていた。

 

 

 

「…本当に、申し訳ございませんでした…」

 

ロキとフィンの前で、ベルがやっていた土下座を敢行するレフィーヤ。

顔は真っ青を通り越して真っ白。唇は震えている。誇り高きエルフの一族が額を床に擦り付けるほどに謝罪の気持ちを示していると言うのは、中々見られない光景でもある。

あの後、すぐに犯人の情報は全団員に伝えられた。そのままアリシアに首根っこを引っ張られて、呆然とするロキと団長の前にレフィーヤは1人置かれた。ベルは、原因は僕にもあるので…とついてこようとしたがそれはそれ、これはこれとアリシアに言われてとどめ置かれた。勝手に動かないように、見張りまで置いて。

 

「…ほんま、危なかったわ…神生で一番ドキドキしたかもしれへん…」

 

そんな状態のレフィーヤを見ながら、笑みを浮かべようとするが、どうしても引き攣っているような顔にしかならないロキ。

 

「ンー、まずは人的被害がなかったことに感謝しよう。ただこれは…修繕にどれだけ費用がかかるか…」

 

その声に、2人には見えていないがレフィーヤの眼が揺れに揺れる。

間違いなく恐ろしい金額になるだろうとの確信がレフィーヤにはあった。なんだかんだ言って、ファミリア内で目を掛けてもらって準幹部級のような扱いを受けてはいるがLv3の冒険者。日々の出費や装備の整備にかかるお金を考えたら、懐が豊かと言うわけでない。

Lv5であるティオナですら自慢の武器のローンに悩まされているのだ。

 

「か、必ず! 必ず迷宮で稼いで一生掛けても返します!」

「そんなんええって、家族の住む家なんやからみんなで返していこう、な?」

「いや、でも…私が暴走したせいで…」

 

やりすぎたと言う気持ちはもちろんある。と言うより、主塔が犠牲になっていなければベルは今頃消し炭になっていただろう。それを思うと、内心良かったと思っている自分もいる。家と違って、人は元に戻すことなどできないのだから。

 

「…まぁ、ちょっと予定より早くリフォームするだけさ。そこまで思い詰めた顔をしなくてもいい…ただ、他の団員に示しもつかないから罰は必要だね」

「せやなぁ、ここで甘々な対応を取ったら、レフィーヤだから贔屓されてるって言われても後々面倒やしなぁ…」

「…本当に、ごめんなさい…」

 

しゅんとして、耳もへんにゃりと垂らすレフィーヤの姿に2人が苦笑する。

以前から、エルフとしては珍しく感情を露わにする方ではあったが、自分に自信がなく引っ込み思案だった彼女がここまでの大暴走を見せるとは誰も思っていなかったのだ。

アイズにも言えることだが、間違いなくきっかけとなっている彼の姿を思い浮かべながらフィンは罰の内容を考える。

 

「ンー、そうだね…じゃあ、まずはアイズ()の接触禁止。君がアイズを慕っているのは、みんな知っているからね」

「はうっ」

「それから、私は暴走して主塔を壊しました、って札を普段、首から下げてもらおう」

「ひうっ」

「せや、暴走した原因でもあるベル()の接触禁止もなー。今のレフィーヤがベルと顔合わせたら、また何するかわからんし…」

「くうっ」

「…後は、当面は迷宮探索の分前は減らさせてもらうかな。他のみんなに実害の見えるペナルティも与えないといけないからね。まぁ、レフィーヤは後衛だから出費も少ないし大丈夫だろう。もし、困った時には僕かリヴェリアに声を掛けるといい」

「…はぃ」

 

呻き声を上げながらも、罰として見れば軽すぎるそれらを聞きながらレフィーヤは顔を上げることができずにいた。今この状況で、こんな顔を見せられないと伏せていた。

 

「…そろそろ顔上げえや、レフィーヤ」

「…っ、は、い」

 

しかし、それをしっかりと理解しているロキが、不意に優しい声でレフィーヤへ呼び掛ける。

それに、反駁する余地はなかった。ゆっくりと顔を上げる。力を込めても、表情を取り繕うことはできなかった。

 

「…ん、()()()しとるやないか」

 

そう微笑んだロキの前にある少女の顔は。

申し訳なさに塗れながらも、一歩何かを進んだ、そんな顔をしていた。

 

 

 

夜も更け、団員総出での主塔の残骸掃除が一息ついた頃。

ベルは、話があるとロキに呼ばれていた。大人しくついていくとそこにいたのはフィンとリヴェリアとガレス。何度目になるか分からない、幹部揃い踏みである。

 

まずは、今回は部屋をすぐ用意できたことを伝えられ、新たな部屋の場所を教えられる。

 

その後、フィンやリヴェリアから雑談混じりに今回の件についてベルにお咎めはないことと、レフィーヤへの罰に関しての話をする。

 

「…そうそう、レフィーヤについては流石にペナルティを与えたんだ。と言っても、君に関わることは一つだけだけど」

「な、なんですか…?」

「そんなに心配そうな顔をしなくても、レフィーヤ()()君に接触することの禁止、たったそれだけだよ」

 

フィンが、不安に揺れた少年の目を見て苦笑しながら告げる。

 

()()()接触しない限りレフィーヤは君には近寄れないと言うことになっているから、もし彼女が恋しくなったら君の方から甘えに行くといいさ」

「そ、そそ、そんなことしませんよ!?」

 

甘えるなんて…僕もう子供じゃ…とモニョモニョと言うベルに、フィンは笑い、リヴェリアは苦笑し、ガレスとロキは大笑した。

 

「とまぁ、そのくらいさ。それと、君だけを呼んだのはステータス更新をするためにね。君はミノタウロスを討伐した…話によると、共闘したと言う彼はランクアップを果たしたらしい。もしかしたら君も…と思ってね」

「もし、ベルがランクアップ可能であればアイズの持つ1年という記録を大幅に抜いての最短記録だ。無論、ランクアップを保留すると言う選択肢もあるがな」

「…らんく…あっぷ…」

「ちゅーわけで、ほれ、早よ脱いだ脱いだ、さっさと終わらせるでー」

 

そのロキの言葉に、身につけていた上着を脱いでベッドに横たわる。よいせ、と背中に乗ってきたロキの手つきに身体を震わせながら、ステータスの更新を待つ。

 

「…能力値の伸びこそとんでもないけど、ランクアップは…できんな。けど………」

 

その言葉を聞いてそれぞれがそれぞれに反応する。

ダメだったかぁと落ち込むベル。

偉業と認められないほどの潜在能力があるのかと驚くフィン。

ロキの態度から魔法でも発現したのかと眼を輝かせるリヴェリア。

ミノタウロスでもランクアップできないとなると何を成せばいいのかと疑問に思うガレス。

 

「……ま、魔法が…発現しとる…」

「…へぇ」

「やはり、そうか」

「ふぅむ、まぁ不思議ではないか」

「へっ? えっ!? ええええぇぇえ!?」

 

ピラリと、ロキが共通語に書き直した紙をみんなに見せる。

 

 

 

ベル・クラネル Lv.1

 

力 : B 561→723

耐久 : A 667→881

器用 : A 595→807

敏捷 : S 721→902

魔力 : I 0

 

《魔法》

【レプス・オラシオ】

・召喚魔法(ストック式)。

・信頼している相手の魔法に限り発動可能。

・行使条件は詠唱文及び対象魔法効果の完全把握、及び事前に対象魔法をストックしていること。 (ストック数 0 / 10)

・召喚魔法、対象魔法分の精神力を消費。

・ストック数は魔力によって変動。

 

詠唱式

 

第一詠唱(ストック時)

 

我が夢に誓い祈る。山に吹く風よ、森に棲まう精霊よ。光り輝く英雄よ、屈強な戦士達よ。愚かな我が声に応じ戦場へと来れ。紡ぐ物語、誓う盟約。戦場の華となりて、嵐のように乱れ咲け。届け、この祈り。どうか、力を貸してほしい。

 

詠唱完成後、対象魔法の行使者が魔法を行使した際に魔法を発動するとストックすることができる。

 

第二詠唱(ストック魔法発動時)

 

野を駆け、森を抜け、山に吹き、空を渡れ。星々よ、神々よ。今ここに、盟約は果たされた。友の力よ、家族の力よ。我が為に振るわせてほしい━━道を妨げるものには鉄槌を、道を共に行くものには救いを。荒波を乗り越える力は、ここにあり。

 

魔法発動後、ストック内にある魔法を発動することが可能になる。

 

《スキル》

冀求未知(エルピス・ティエラ)

・早熟する

・熱意と希望を持ち続ける限り効果持続

・熱意の丈により効果向上

 

熱情昇華(スブリマシオン)

・強い感情により能力が増減する

・感情の丈により効果増減

 

 

 

これを見た全員が、固まる。

 

…これは、レフィーヤさんの…。魔法って確か、その人の想いとか、感情とかが影響することが多いって…、と言うことは…。

 

「…ベル、私が言うのもなんだが、少々レフィーヤに染められすぎではないか? いや、他のメンバーも入ってはいるが…」

「ンー、光り輝く英雄って言うのはちょっと恥ずかしいけど、僕のことかな?」

「色々要素は入っておるのう、じゃが、最も影響しておるのはレフィーヤに間違いない」

「なぁベルたん、うちはどこなん? なぁなぁ、うち、神様やで?」

「ほら、神々よって言っているじゃないか」

「すっごい範囲広いんやけど!?」

 

いじり倒されて、顔に熱が溜まっていく。これ、毎回詠唱しないと使えないんだよね…? ぜ、絶対からかわれる…っ!




レプス=ラビット
オラシオ=プレイ

直訳すると兎の祈りになります、ようやくタイトル回収。兎遊びじゃないですよ?

ちなみにレプス=ウサギ座は南天、オリオン座の下に位置します。神話的に言うとオリオンの獲物だとかオリオンの舟だとか言われてます。ネタバレというわけでもないけど、アルテミス様は私が一番好きな神様です。



あと、魔法をお披露目したわけでもないのにびっくりするくらい要素が食い込んでる酒場の方のポンコツエルフ。多分、後々魔法を披露したあとベル君の教えてください攻撃が始まり困惑、第一詠唱を聞いて動揺、第二詠唱を聞いて狼狽する予定。

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