ラビット・プレイ   作:なすむる

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28話 町娘逢引(2)

「わぁ…これ、綺麗ですね…」

 

辿り着いた宝飾店。ダンジョン由来の水晶や貴石、都市外で採掘された宝石など様々な色の石が輝いている。

そこで、色々と、安価な水晶製などの装飾具を見て回るシルから目を離し、ショーケースの中に陳列されているものを見て輝かせているのはそこにあるどんな宝石達よりも綺麗な赤いルベライトのような瞳。

 

少女のように眼をキラキラとさせて宝飾品を見る姿は、ともすれば、その辺の女の子より断然女の子していた。

 

見つめる先にあるのは、緑色の翡翠。

 

琅玕翡翠と呼ばれる、最高級品の翡翠だ。

 

どこか、そう、どこかの副団長を彷彿とさせるような色合い。

 

その後も、それが綺麗だあれが綺麗だと藍色や金色、空色など、見覚えのあるような色の石ばかりに興味を示す彼に、最初こそこの子はもう…と思っていたのが、段々とシルが毒気を抜かれる。

 

この子、分かった上で言ってるのかな?

 

極め付けに、グレーダイヤモンドの小ぶりな宝石を見て満面の笑顔で、シルさんの瞳みたいで、綺麗ですね! などと宣ってきた時には、何故か浄化されるアンデッドのような気分を味わえた気がするとはシルの言葉だ。

 

買ってしまおうかと悩んだけども、そこに置いてある値札を見て断念する。買えないことはないけど、結構大きな買い物になってしまう。

 

悩んでいる間、シルの視界の端でベルがちょこまかと動いているのを感知しながらも悩みに悩み、今日は何も買わないでおこうとベルの方に向く。

 

「シルさんは、何を買おうとしてたんですか?」

 

そのタイミングで聞いてくるベルに、悩みながらもシルは答える。

特にこれといったものはなかったのだが…男の子の買い物と女の子の買い物は違うということは理解しにくいだろうし、と。

 

「そうですね…かんざしとか、バレッタとか、仕事中にも使えそうな髪をまとめる物が欲しかったんですけど、ピンとくる物がなかったので今日は見送ろうかなと」

 

 

 

そうですか…そう呟きながら店内をくるっと見渡すベル君。

 

すいません、ちょっとお手洗いに行ってきます。

そう言いながら、その場を離れるベル君。戻ってくるまでもう少し見て回ろうと探すも、ピンと来るものはやはりない。デザインならこれかなぁと思うものも、なんとなく気に食わないし、それなら手持ちのものの方が良いと購入には至らない。

 

その後、数分程してベル君が戻ってくる。じゃあ出ましょうか、と声を掛けながら手を差し出してくる。

 

その手をしっかりと取り、店を後に。何故か、店員さんの視線が熱かった気がするが気にせずに次の店へと脚を向ける。

 

 

 

その後も、服や小物、雑貨類を見て回りたまに買ったり買わなかったりとくるくると街中を歩き回る。お昼も、露店…屋台で買った物を食べ歩きながら、なんかこう、年相応な青春的な物を感じながら楽しんだ。

 

そうしてもう日の落ち掛けている夕方。辺りが夕焼けに赤く染まる中辿り着いた、たまに来る小さな書店。このお店にはたまに来るのだ、とベル君の手を引いて入っていく。

 

「すごい…本がたくさん」

「ふふ、私もたまに来るんですよ。ベル君は、何か本を読まれるんですか?」

「えっと…英雄譚とか歴史書とか、そういうのなら」

「冒険者になったんですから、色々と迷宮に関する知識なんかも身につけなきゃダメですよ? …って、よくお客さんが話してるのを聞きますね」

「うっ…リヴェリアさんやエイナさん…ああ、僕の担当アドバイザーのギルドの方なんですけど、その人にもよく言われます…」

 

そんな風に小声で会話しながら、店内を見て回る。生憎、気になる本はなかったけれど冒険者としての知識や迷宮の冒険譚などを集めた書物の辺りをうろちょろとするベル君の姿を見つけたところで今日やりたかったことを思い出す。

 

そして、ぴこーん、と今がその時だと本能で察知する。一旦ベル君に声を掛けてお店から出て、おもむろに鞄から一冊の白い装丁の本を取り出して両手で背表紙と小口側を挟むように持ち、表紙をベル君に見せつけるように胸の前で止める。

 

「…そんなベル君に、オススメのものがあるんですけど…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が実はここにありまして」

「ええっ!?」

「今ならそうですね…ベル君になら特別に譲ってあげてもいいんですけど…」

「え、え!?」

「まぁ、私も頂いたものなのでよくわかりませんが…どうですか? 欲しいですか?」

「う、気になりますけど…でも、そんな高そうな本…」

 

確かに、見た目は真っ白とはいえ装丁自体は…というより素材自体は非常に高価そうに見える。遠慮しているのか、しかし期待に顔を綻ばせながらこちらの様子を窺っている。少し押してあげれば、遠慮しながらも遠慮なく受け取ってくれるだろう。

 

「まぁまぁ、()()()()()()()()()()()()()から。もし、気後れするならそうですね、貸してあげるという形でどうでしょうか? 何せ本ですからね、汚したり破れたりしない限りは問題ありませんから!」

「そ、そうですね…では、貸していただけますか? 大切に扱いますので…」

「ふふ、まぁ、返してもらえなくても結構ですよ? では、どうぞ」

 

そうして、本を手渡す。大事そうに鞄の中に入れるベル君を見ながら、心の中で安堵する。ミッション・コンプリート。ふふふ。

リューにばっかりいい格好をさせるわけにはいかないもの。少し大変だったけど、利害が一致して渡すことができてよかった。喜んでくれるといいなぁ。

 

「…あ、か、代わりと言ってはあれなんですけど…その、別れ際に渡そうかと思っていたんですけど…これ、受け取っていただけますか?」

 

ニヤけたような笑みを抑えきれない私に、ベル君は鞄に収めた本と入れ替わりに何か細長い箱を取り出して差し出してくる。

なんでしょうか、このタイミングで私に渡すようなもの…?

 

「…な、なんでしょう? 頂いてよろしいのですか?」

「そ、その…プレゼント、です…受け取ってもらえると…」

 

顔は今日1番の真っ赤。目線は斜め下に逸れ、彷徨っている。しかし身体はしっかりとこっちに向き、まっすぐ、両手で箱をこちらへ向ける。

 

なんだこの子、可愛い。これが弟を持つ姉…いや、子を持つ母の気持ち…!?

 

「ありがとうございます…開けてもいいですか?」

「う、は、はぃ」

 

そうして、丁寧に包装紙を開けると出てきたのは落ち着いた銀色の細いかんざし。先には、小さな、されど全体のバランスを考えると丁度良い大きさのグレーダイヤモンドが一粒、揺れるようにあしらわれている。

こ、これは、朝に見たあの石では…。

 

「べ、ベル君、これは…?」

「あの、朝、最初に行ったお店で…シルさんに似合いそうだなぁと思って…すぐに作れるって言うから、作ってもらったんです」

 

受け取ってもらえますか…? そんな風に不安げに訪ねてくるベル君の姿に、元より掴まれていた心は撃ち抜かれた気がした。

 

「ありがとうございます、大事に使います…本当に」

 

そう伝えながら、ギュッと胸にかき抱くようにするとベル君は明らかにホッとした顔を作る。おそらく、ピンと来るものが来ないと言ったからあそこのお店のものは趣味に合わないのかと不安だったのだろう。

そんな彼に、心の底から癒された気分である。

 

「…ベル君、今日は私のわがままに付き合ってくれてありがとうございます」

「そんな! ぼ、僕も楽しかったですから…あの、また、いつか機会があれば…誘っていただければ」

「ふふ、じゃあ、ベル君がお店に来るたびに誘っちゃいますよ?」

「なぁっ!?」

「冗談です、でも、そうですね…たまに、声を掛けさせて頂きます。でも、ベル君も忙しいでしょうから無理にとは言いません。今回は少し強引過ぎましたから…ごめんなさい」

「い、いえ…」

 

しかしなんだか、今日はお開きのような感じになってしまったが…この好機をみすみすこんなところで終わらせるのも痛い。普段から休みは少ないし、ベル君の予定と合うなんてことは中々ないだろうし…うん、ベル君も楽しいと言ってくれているのだから今日はまだまだ遊びましょう。大丈夫、まだ太陽も見えてます。

 

「…さて、では次のところに行きましょうか?」

「えっ? あ、は、はいっ!」

 

互いの荷物の一部を交換し、先程よりも近くなった気がする距離に喜びながら引き続きこの日を楽しむことにした。一応、彼の年齢と保護者たるロキ・ファミリアの方達のことを考えて…まぁ、夜8時くらいまではとかなり自分に甘い門限を決めながら。




これが一般町娘(?)の女子力。
冒険者とは違うのだよ、冒険者とは。

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