ラビット・プレイ   作:なすむる

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40話 迷宮進行

「ベル君、今日はよろしくっす!」

「よろしくね、ベル」

「よろしくお願いしますっ!」

 

翌日、迷宮に潜る前の打ち合わせと顔合わせを行う。とは言え、何度かお世話になっている相手だけど。

 

ラウルさんにアナキティさん、2人のLv4冒険者と共に迷宮に潜る。

 

ラウルさんは、人間種族で…良くも悪くも普通な人。自分自身のことを器用貧乏だと言っているが、周りからの評価で言えば器用有能。大抵の武器をそれなりに使いこなし、戦闘指揮もこなす。歴とした第二級冒険者だ。まぁ、同期のアナキティさんを筆頭にLv4にも個性の強い人達がいるから、少し影が薄く感じるけど…。二つ名は『超凡夫(ハイノービス)』。格好いいかどうかで聞かれると…ちょっと口を濁したくなるけど。でも、優しく、気が利いて、強い。

 

アナキティさんは、『貴猫(アルシャー)』の異名を持つ、物凄い綺麗な美人さんの猫人(キャットピープル)。酒場のアーニャさんやクロエさんと同種族だけど、あんまり関わりはないのかな? 髪がとっても綺麗。尻尾もすごく綺麗で、いつか触らせてくれないかなと思ってる。

指揮能力に長けているらしく、ラウルさんを補佐しながらフィンさん達を筆頭にした第一級冒険者で組まれた一軍以外の、二軍戦力の指揮なんかを受け持つことが多いらしい。後、すごく優しい。それから、貴、の一字が付けられるのも納得できる立ち居振る舞いで、中庭で稽古をしていた時の剣を振るう姿はとっても格好良かった。

 

そんな2人から、冒険者のイロハ…とりわけ、サポーターのことについて教えてもらう。これも、大規模な迷宮探索である『遠征』についていくには必須の技能らしい。

 

第一級冒険者達の負担を減らし、その上で自らの身くらいは守れるように立ち回る。第一級冒険者の戦闘要員だけではとてもじゃないけど潜れない層でも、そうやって人員を増やして安全性を高めながら探索するのが『遠征』だ。

 

その立ち回りの基礎を、今日は教えてもらう。あと、ついでに剣術も。

 

 

 

「ええっ!? ベル君もうランクアップできるんすか!?」

「えっ、嘘…だってまだ3ヶ月も経ってないわよね!?」

 

迷宮へと向かう道中、ベル君の到達階層は何階層っすか?

ラウルさんに聞かれたそれに正直に12階層だと告げる。

 

インファントドラゴンと遭遇したか、戦闘したか?

アナキティさんに問われて、強化種を倒してランクアップできるようになりましたと答える。

 

ポロリとランクアップの件について口を滑らせた僕は2人に色々と問い詰められられつつも、最終的には祝福された。

 

「とはいえ、ベル? ロキと団長達しか知らない情報ならそんなほいほい答えちゃダメよ? 隠しているんじゃないの?」

「う、はい」

 

その直後に、釘を刺される。なんだろう、僕の知り合いの女性はみんな上げて落とすのが得意というか、褒めてはくれるんだけど最後はしっかりと釘を刺していく人ばっかりだ。いや、それだけ危ないことをしているんだって自覚は流石に今ではあるけど…。

 

「こんな街中じゃ誰が聞いてるかわからないんだから。それこそ、もう5年間も破られてないアイズの記録があったのに、次に君がこんな短期間で…なーんて街中に知れ渡ったら…拐われて、秘密を探るために解剖されちゃうかもね?」

「ひぃっ!?」

 

胸をトンっと突かれ、すすすっ、と、僕の胸の辺りを縦に切り裂くように指を滑らせるアナキティさん。

か、かかかか、かい、解剖…っ!?

 

「あれ、脅かしすぎたかな…まぁ、しっかり反省したなら、よし。君はなんだか抜けているところがあるから、ちゃんと自分で意識しないとね。それに冗談抜きに、君はもっと警戒した方がいいと思うよ、色々と」

 

無防備にも程がある、これじゃああの人…いや、あの人達も安心できないわけだ、と。

そんなことを口に出すアナキティさんを、ラウルさんが宥める。

 

「ま、まあまあ、アキ。ベル君も反省してるみたいだし、その辺に…」

「男は甘くてダメね…。はぁ、まぁそうしましょうか。それより、そこまで到達してるなら中層にアタックしてもいいかもしれないわね。ベル、サラマンダー・ウールは…持ってないわよね?」

「さ、さらまんだーうーる…?」

 

なんだろうそれは、文字の通りなら…火蜥蜴の、羊毛…?

なんだ、その謎の物体は…勿論持ってない。

 

「火精霊の護布って書いてね。火の精霊の恩恵が宿った布装備で、炎に対する耐性と、防寒属性…まぁ、火と氷に強くなる便利な防寒具があるんだ。それがないと13階層からは辛いから…うーん、よし、お姉さんがプレゼントしてあげちゃおう!」

 

えっ?

 

「あ、それなら丁度良くクーポン持ってるっすよ!」

「ほんとっ?」

「え、え?」

「じゃあ、早速買いに行きましょう?」

「あ、ありがとうございます?」

 

そうして、流されるままあれよあれよとお店につき、いくつか試着させられて、そのまま買ってもらった。

 

「お会計、108,000ヴァリスになります…はい、110,000ヴァリスからのお預かりです。お後、2,000ヴァリスのお返しになります。ありがとうございましたー」

「よし、似合ってるわよ。ベル。これで中層行けるわね!」

 

予想以上の値段が耳に飛び込んできて、喉が凍った。

 

「じゅ、じゅうま…? ぼ、僕の2週間分の稼ぎ…?」

「気にしなくていいわよ? 先輩からの贈り物なんだから有り難く受け取って使い倒しなさい、どうせ必要になるんだから。それでも気にするなら…そうだなぁ、じゃあ、後でなんでもお願い事を聞いてもらおうかな?」

「そ、それくらいなら…わかりました、ありがたく使わせてもらいます!」

 

アナキティさんの提案に、二つ返事を返す僕。

すると、アナキティさんは目をパチクリとさせた後に頭を抑える。

 

「あのねベル、貴方、そういうところよ…?」

 

なんでもするなんて安易に安請け合いしないの…そう、呆れたように言うアナキティさんの顔は、なぜかとても疲れているように見えた。

 

 

 

「さて、ここからが中層、13階層…まぁ、所謂最初の死線(ファーストライン)ね」

「そんな緊張しなくても大丈夫っすよ、ベル君。俺達がついてるっすから!」

「ベルの戦い振りも見せてもらおうかしら? と、その前にここに出るモンスターの情報ね。この辺りに出るのは主に2種類。ヘルハウンド…大きな犬ね。その攻撃方法から付けられた異名が『放火魔(パスカヴィル)』、ここまでようやく来た冒険者達の死因ナンバーワン。火炎を吐き出してくるから、サラマンダーウールはその対策に必須…あ、後、アルミラージっていうゴブリンやコボルドの上位互換のような敵も出るわね…その、あー、二足歩行の兎みたいな外見よ」

 

ほうほう、と、モンスターの情報を書いていく。一応、リヴェリアさんからも習ってはいるけど、実際にここで聞くとさらに良く頭に入る気がする。そうか、それでこの護布が必要だったのか。

しかし、それより、気にするべきはそう。

 

「う、兎…」

「…その、ベルが戦いにくかったら私達が相手するから…」

「ベル君、兎みたいっすからね… 」

 

気まずい表情のアナキティさんと、苦笑いを浮かべるラウルさんがそう言ってくる。うーん、前から気になってたけど僕ってそんなに…?

 

「う…今更ですけど、僕、そんなに兎っぽいですか…?」

「「うん」」

 

一瞬も間を置かずに、揃って返ってきた短い返事に僕は撃沈した。

確かに髪は白いし目は赤いけど、逆に言えばそれくらいだと思うんだけどなぁ。亜人でもないから、耳や尻尾があるわけでもないし…。

 

「…と、来たわね。さて、ベル。まずは私達が対処法を教えるわ。ちゃんと見ていてね?」

 

そんな風に話をしていると、今いるルームから伸びる道の方から足音が聞こえる…複数、の、獣?

じっとそちらを見ていると、唸り声を上げながら数体の犬の姿をしたモンスターが入り込んでくる。口を開け、何か、そう、火の粉のようなものが見えた気がした。あ、あれがヘルハウンド…!

 

「さて、ベル。ヘルハウンドの一番いい対処法はね」

「はいっ!」

 

獲物を前にしたアナキティさんが、長剣を構える。

闘気を放ちながら、僕に対処法を教えてくれる。

聞き逃すまいとアナキティさんの声に集中した僕の耳に、あまり信じられない言葉が舞い込んできた。

 

炎を放たれる前に狩る(ヤラレルマエニヤル)、よ」

「え?」

 

僕はその、言い放たれたおすすめの対処法の意味は瞬時に理解できなかったが、兎に角、その動きを身に付けよう、目に焼き付けようと真剣にアナキティさんのことを見詰めていた。しかし次の瞬間、アナキティさんの姿が僕の目には全く追えなくなった。

悲鳴のように情けなく鳴くヘルハウンド達の声に気が付きそちらを見ると、戦闘は、既にほとんど終わっていた。

 

5体ほどいたヘルハウンドは、既に3体が両断され、1体は虫の息。最後の1体も、もう腰が引けている。そして、それに容赦なく剣を振り下ろすアナキティさん。

 

あ、あれ…僕の思っていたアナキティさんと、なんか全然違う…。

と、時に冷酷な指揮をすることもある、とかは噂で聞いてたけど…。

僕が思い描いていたのはもっとこう、スマートに…というか…いや、そうか、相手がたかだかLv2のモンスターだから技術とか本気を出さなくても力技だけで押し切れるということかな?

 

「…とまぁ、炎さえ吐かれなければあまり強いモンスターではないから、こういう感じで」

 

ごめんなさい、どういう感じですか?

 

「…ベル君、何か夢見ていたのかもしんないっすけど、うちの女性陣に変な夢は見ない方がいいっすよ…」

 

ラウルさんが、心底同情するような顔で肩をポンと叩いてきたのが、なんだか、とてつもなく、僕を脱力させた。




アナキティのキャラが既になんか…いえ、良いところを見せようとしただけなんです。

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