ラビット・プレイ   作:なすむる

55 / 101
引き続きアイズのターン。
ここぞと言わんばかりに原作類似イベントを注ぎ込んでいく。
これくらいしないと、イベントチャンスがないので!


52話 宴会終幕

「すぅ…すぅ…」

 

ベルが、宴会が始まってから30分程で眠りについてしまってから既に1時間以上が経過した。

 

「本当に気持ち良さそうに眠ってますね、ベル」

「ほっぺたぷにぷにだねぇ、いやぁ、お肉またついてきて良かった良かった」

「ティオナ、そんなにいじって…せっかく気持ちよさそうにしてるのに、起きたらどうするのよ」

「…大丈夫、ベルは一度寝たら触っても中々起きない…」

 

あの後、十数分程で騒ぎは沈静化した。最初こそ、アイズの見せる優しい表情とベルの格好に囃立てるような声や嘆く声などが飛び交ったが、今日の宴の主役であり、先程までの喜劇の主役でもあるベルが寝てしまったが故だ。

 

もしベルが起きていれば男性団員による手荒な歓待が行われていたであろう。もっとも、それをベルの周りの少女達が許すかは別として。

 

このファミリアではフィンとガレスを除けば、全体的に女性の方が冒険者としても立場としても強いのである。最高幹部達はこんな下らない争いに手は出さないだろうし、唯一抗えるであろうベートも潰されているし、ラウルではアナキティを止められない。他の面々では、Lv5の3人を止められる人材がいない。手を出すことは事実上出来なかった。

 

そこからは、ベルの祝いという建前は何処へやら、ベルのことは保護者達に任せて呑んで騒いでのどんちゃん騒ぎへと場は移り変わる。

 

そんな中、奥まった一画の角の席で、アイズにもたれるようにして寝るベルの姿があった。

 

「…ふふ、可愛い寝顔」

「元々童顔ですけど、寝てる時は余計に幼く見えますね」

「まぁまだ13歳だし、これからキリッとしていくんじゃない?」

「うーん、あんまり男臭くはならないで欲しいけど…どうかなぁ」

 

そんな彼を囲む、4人の姿。ややもすればベルを独占しているようなその姿、男の団員からすればベル()綺麗所を独占しているその姿に、されど文句を言う人はいなかった。

 

男達も普段ならばどう出るか分からないが今日はベルのお祝いの場であるし、酒と肉があれば女よりそっちを取る冒険者(馬鹿)らしい男ばかりだ。唯一、アイズがいることで突貫しかねないベートは既に完全に酔い潰されている。あの様子だと明日まで間違いなく響くだろう。

 

先程も言ったようにこの状況で口を出す猛者はいない。

 

ベルの顔や成長について好き勝手言う女性陣も、アナキティを除いて酒は飲んでいないが場の雰囲気に酔っている。レフィーヤがベルを拾ってきた日から1ヶ月かけてたくさん食べさせ、先月の引き篭もりの際にまた少し窶れた身体に更に1ヶ月かけてようやく年相応に肉が付いてきた。

 

まだ、贅肉と言えるほどの肉は付いていないものの薄くだがしっかりと筋肉の上に脂肪も乗っている。ある意味で、健康的と言えるギリギリ目一杯の体型だ。それは、冒険者らしくないとも言えるが、年頃の少女としては筋骨隆々の男臭い身体よりベルのような華奢な身体の方が好ましいと思う者も勿論いる。種族柄、レフィーヤなどはそれが顕著だ。

 

そんなベルの身体を触りながら肉料理を楽しむティオナと、エルフとしてそんなはしたない真似はできないと、しかし目ではチラチラとその様子を見ながらサラダに手をつけるレフィーヤ。

アナキティも、そう言えば見た目よりは結構しっかりとした体付きだったなぁと添い寝した時のことを思い出しながら、ベルの頰を突っつきつつ酒をゆるりと呑む。

 

アイズは、ただひたすらにベルの頭を撫でていた。

 

 

 

そうして、宴もそろそろ終わりを迎えると言う頃。ひたすらに酒を飲んでいた面々が潰れ始め、話しながら料理に舌鼓を打っていた者達も腹が満ちてきた頃になってベルがようやく目を覚ます。

 

「…はぇ…?」

「…あ、ベル、起きた…?」

 

頭がボヤッとしてる中、柔らかな感触を頰に感じる。

頭の上から、声が落ちてきた。なにやら、さらりとした金色のものが見える。視線の先には、アナキティが管を巻きながら机に突っ伏している姿とそれを介抱するレフィーヤの姿。鼻には、何やら良い匂いとお肉の良い香りが漂ってくる。

 

「…んん…」

「…眠いなら、寝ててもいいよ?」

 

身体を起こそうとするも、言うことを聞かない様子。目蓋も薄らと開くだけですぐに重力に負けるように閉じられる。

 

「…ん、んん」

「…ふふ、ベル、ちょっとくすぐったいよ?」

 

身動ぎするベルが、胸元に顔を埋めてもアイズは気にしない。それは羞恥心が足りていないのか、はたまたベルなら構わないと思っているのか、それとも目覚めた母性によるものかは分からない。

 

「んー…はふ」

「…起きた?」

 

そして、伸びをするように一度身体に力を入れたかと思うとようやく身体を起こす。ベルは、チラッとアイズの顔を見て、ぶんぶんと首を振って、目をパチパチと瞬かせて…口をパクパクと開き、顔を真っ赤に染める。

 

「…だぁぁぁぁ!?」

 

気が付いたのだ、先程まで顔を埋めていた()()()()()()が何か。

そうして、急に身体をのけ反らしたベルは背後の壁に身体をぶつける。その反動で、後ろへと下がったベルの身体はその勢いをそのままに前へと押し出される。酒が回った身体では咄嗟に力を込めて身体を止めることもできず、そのまま前へと倒れる。

 

そして、ぽふん、と。アイズの胸に軟着陸を果たす。

硬い胸当ても何もない、布を隔てただけの柔らかな双丘にベルの顔は吸い込まれた。

 

「…ベル、いきなり動いたら危ないよ?」

「あ、ベル、起きたの? お肉食べる?」

 

パッと離れ、今度は後ろにぶつからないよう、しかしギリギリまで距離を取るベル。尚も一切動じず、責めてもこないアイズにベルは内心申し訳ないやら恥ずかしいやらなんやらで頭を混乱させる。思春期の少年にはとんでもない経験である。

 

あうあうと、情けなく顔を染め上げる少年をよそにアイズは甲斐甲斐しくベルへと水を差し出す。それを受け取り、飲んだベルは少し気が落ち着いた。ティオナが大皿に乗った肉料理を差し出してくるが、それにはそっと手を前に出して苦笑しながら断りを入れる。食べたい気持ちはあるが、少々重すぎる…と。

大人しく引き下がったティオナは、ベルがいらないんなら食べちゃおー、とそれを豪快に食した。

 

「そ、その、ごめんなさいアイズさん…」

「…ベルが謝るようなことは何もしてないよ? 私がしたかったからしてただけ」

「はうっ」

 

そうしてベルはアイズに謝るが、それをなんでもなかったことかのように、更には自分がやりたかったからだと言うアイズにきゅーん、とベルの胸が撃ち抜かれる。天然の誘惑は、この少年には効果が強すぎたようだ。以前、アイズと打ち解けた際の膝枕をしたかったと言う発言に加えての累積ダメージも、未だ回っている酒の力も大いにあるが。

 

「…それより、ほとんど食べれてないよね? 何か食べる?」

 

店は、既に宴会終わりのムードが漂っているがそれでもまだ営業時間中である。酔い潰れて付き添われながら帰る者。まだまだ足りぬと二次会に赴く者。夜の街へと消えて行く者。それぞれ動き出してはいるがそれでもいくらかの人数は残っている。

 

その筆頭がエルフ達であり、リヴェリアと話をしている者が半数。何故か引き込まれているリューと話をしている比較的年若いエルフ達が半数。リューは、これ以上なく居心地悪そうにしている。

 

序盤に酔い潰れてしまったベルは、ほとんどお腹に物を入れられてない。そのため、かなりお腹が空いているのは事実だ。

そこでベルは、いくらかの注文をすることにした。

 

「あ、じゃあ…何かおすすめとかあれば…その、軽いもので」

 

アイズは、ベルの質問に対して揚げた芋料理は…重いよね、と考え込む。しかしいいメニューは思いつかない。

すると、その言葉を待ち構えていたかのようにタイミングよくシルが訪れ、おすすめ料理をベルに教えていく。アイズはそれを少し気落ちしながら黙って聞いていた。

 

「ふふ、ベル君。ようやく起きられたんですね? 軽いものであれば、こちらとか、この辺りがおすすめですよ?」

「シルさん、アハハ、なんとか…お酒って凄いですね。じゃあ、これとこれをお願いできますか?」

「うふふ、酒は飲んでも飲まれるな、ですよ? 気を付けないと危ないですからね? それでは、少々お待ちください」

 

そうして待つこと暫し、持ってこられたメニューをゆっくりと食べながら、アイズとティオナと雑談を交わす。途中から、完全に潰れて寝てしまったアナキティを他の団員に任せたレフィーヤも加わり、仕事がほとんどなくなったシルもそこに加わって和やかな時間を過ごした。

 

もっとも、それはベルがいるところで下手に険悪感を出すわけにもいかないと言う乙女達の互いの配慮があって成り立つものであったが。

 

時々、恨めしそうにこちらを見るリューについてはベルも助けてあげたいと思っていたがそれはシルによって引き留められた。そのままの方が面白そうだし、リューも同胞の人と打ち解けた方がいいだろうからと笑うシルの顔はなんだか意地悪く見えたが、シルさんがそう言うなら…とベルは引き下がる。それを遠目に見たリューは明らかにショックを受けた顔をしていたが。

 

 

 

その晩、二次会に行った団員達や夜の街へと消えた団員達から、ベルとその周りの少女達の話が一部面白おかしく誇張されて話されることとなる。

 

各々がこの程度なら言ってもいいだろうと判断して話してしまった内容はその日、話好きの神々によって持ち寄られその集積によって一本の話が作られる。尾鰭どころか胸鰭背鰭、なんなら頭が一個増えたくらいの摩訶不思議な変化を持ってそれは都市中に広められた。

 

曰く、エルフを虜にする少年である。

曰く、美の神をも魅了する少年である。

曰く、10股している少年である。

曰く、剣姫の隠し子の少年である。

曰く、ハイエルフの隠し子の少年である。

曰く、冒険者になってたった2ヶ月半でランクアップした少年である。

曰く、曰く、曰く。色々な根も葉もない話や、根くらいはある話が面白おかしく誇張されてばらまかれていった。

 

ほとんどが眉唾物の中、一部事実が交えられているのが非常に質が悪くそれは彼の噂として広く知れ渡ることになり、数多の冒険者の嫉妬と羨望を買うことになる。

 

そんなことになるとは全く持って知らぬ彼は、ただただ今のこの平和な時を楽しんでいた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。