ラビット・プレイ   作:なすむる

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今回、突拍子もない方向性でベルとレフィーヤが成長します。
フィンはこんなことしないやろ! と思いながらも指が勝手に動きました。では


56話 新技解禁

「…行きますっ!」

 

新たな防具を身につけての初戦は、本来の装備をしたフィンさん。勿論、手加減はしてくれているが今の僕から見れば遥か雲の上の実力の持ち主。

 

「セァァあぁアぁっ!」

 

僕の本気を一度見ておきたいと言うフィンさんからの誘いで、広い中庭で行われていた。周りには、暇だったのか僕達の戦いを見物している人達がいる。

 

「…僕を相手にして、思い切りの良い踏み込みだけど…まだ遅いっ!」

「ぅぐぅっ!?」

 

初撃は飛び出した僕、得物は槍。フィンさんの構える槍先から遠い、右からの攻め。しかしそれは、絡めとるように滑る槍捌きで相殺される。

 

それに、力を込めて弾き、反動で後ろに下がる。ぞわりとした悪寒を信じて、左に倒れ込みながら駆け抜ける。ちらっと後ろを確認すると、僕がいた場所に槍が叩き込まれている。

 

「良い反応だ…だけど、避け方がなっていない…ねっ!」

「ほぁあ!?」

 

体勢を崩しながら避けた僕に、見えていないはずの位置なのに的確に槍を上から下に振り下ろしながら身体を反転させてくる。

それを必死になって槍を両手で持って受ける、が、上からの力を込められたそれを抑え切れるわけもなく押し切られる。

 

「受ける時は、絶対に押し負けない気持ちで受けることだ、そんな甘い合わせ方じゃ…こうなるっ!」

「が、っぎぃっ!」

 

押し切られた勢いそのまま、強かに柄の部分で右肩を叩かれる。

あ、危ない、フィンさんの懐に少しでも入りながら受けて良かった。もう少し後ろで受けていたら、肩に刃が当たっていた。

 

「ふっ、く…ハァァァァァアっ!!」

 

だがしかし、僕はそれを好機と見た。自らの槍を一度手放し、フィンさんの槍を右手で掴む。そうして、その槍の柄を起点に無理やり体勢を変えながら左手で腰からダガーを抜き放ち、斬りかかる。フィンさんの槍は力任せに体勢を変えた僕によって、横へ流れている。

一撃、入れられる。そう判断した僕の耳に風切音が届く。

 

「判断は早い、だけど…そんな子供騙しの破れかぶれは、格上には通用しないよっ!」

 

フィンさんが素早く槍の握りを逆手に持ち替えて手元に引くと、僕の後ろから急速に引き戻された槍先が脇腹へと迫る。

僕はそれを避けきれないと判断して、フィンさんに対して半身になりながら槍へと自分から飛び込む。

それにより、脇腹に向かってきていた凶刃の当たるタイミングをずらし、背中に痛打を受ける。

 

「〜〜っ、くっ、そぉぉ!」

「! 尚、向かってくるか!」

 

その痛みに怯むことなく、僕は勢いそのままにフィンさんへと突っ込む。左手に持つダガーを、小さく振りかぶる。

 

嫌な予感を感じ、伸ばした右手で太腿のホルスターからもダガーを抜き取り…抜き取った動きのまま眼前に伸びてきた槍の石突きに合わせて上に叩き上げるように弾く。

活路が、開けた。今度こそ…

 

「もら…っ」

「…っ、まさか、ここまでとはね…だが、まだまだァ!」

「う、ぁあ!?」

 

槍が、目の前で急に回る。柄の中心部分を起点に回されたそれによって、僕が突き出したダガーは上に弾かれる。

泳ぐ身体、脇が開き、腰は浮いている。今攻められればひとたまりもないが…フィンさんは僕を試すかのような視線を送るだけで攻めては来ない。

 

だが、まだだ。崩れた僕の体勢。ピタリと槍を止め、構え直すフィンさん。あちらからは無理攻めはして来ない、僕も体勢を整えるように二歩程かけて地面を踏み締める。そして、踏み出すと同時、右手に持ったダガーを走り込む勢いと、手首のスナップだけで下から放る。ティオネさんから教わった投剣術だ。

 

「…っしっ!」

「ふっ!」

 

しかし、慣れていないそれは簡単に叩き落とされる。だが、その一瞬は間違いなく僕への対応はできない。

 

「こんっ、ど、こそぉ!」

「随分な小細工を…っ」

 

三度、ダガーを振るう…が、()()()()

 

槍で僕のダガーを撃ち落とした後のフィンさんの動きを見て…逆手に持ったそのダガーを、フィンさんの遥か前で振り、手放す。放たれたそれは、僕に向かって左上から振り始めたフィンさんの槍に当たり、虚しく金属音を響かせて、落ちる。そして僕は、槍の穂先から反対方向に離れつつ、フィンさんとの間合いを詰める。

槍に込められていた力の向かう先がなくなり、ほんの一瞬、フィンさんが槍を泳がせる。

 

唖然とした顔のフィンさんの腰辺りに、僕は今までより早い動きで

 

()()()()()()()()()()()()()()()を、叩き込んだ。

 

それは、僕のステータスではフィンさんになんらダメージを与えることはできなかったけど、間違いのない一撃だった。

ただ、それに喜色を出す前に反撃を恐れて構え直す。

 

周りは、騒めいていた。

 

「…ふぅ、ここまでにしようか。驚いた、まさか一撃…入れられてしまうとはね」

 

槍を握り直したフィンさんが、立ち止まってそう言う。それを聞いて、僕も構えを解く。

 

「あはは…騙し討ちみたいなものですけど…」

「それでも、僕が対応しきれなかったのは事実さ。まさか、武器を全て手放すなんてことは流石に思っていなかった。それに、いつベートに教わったんだい? あの一撃は、ベートの技だろう」

「実は、先週から…夜にこっそりと」

「…あのベートがね。最後だけ速度が上がったのは、それも作戦の内かな? うん、君の今の実力はよくわかった。ただ…僕を相手にするのにほとんど槍を使ってもらえなかったのは少し悲しいね」

「うっ、そ、それは…ごめんなさい。槍じゃまだまだ相手にならないと思って…」

 

苦笑するフィンさんに、僕も苦笑を返す。

だがしかし、汗一つかいていないフィンさんに比べて、僕はこの短い戦闘で全てを出し尽くしたかのように汗が噴き出ている。

まだまだ、遠い。まぁ、Lv4のアナキティさんやラウルさんにすら軽くあしらわれるんだから、それも当たり前なんだけど。

 

「…油断し過ぎ…いや。手加減し過ぎたか、ここまで伸びているとはね。よし、ベル。まだまだ経験も知識も足りないかもしれないが…君が行きたいと言うのなら、遠征に連れて行こう。最も、まだサポーターとして、後方担当になるけど…どうかな?」

「え、遠征ですか!? そ、それは…連れて行ってもらえるなら、是非!」

「うん、わかった。次回…か、その次から君にも参加してもらう。それまでに、もっと腕を磨いてもらうよ。一段、鍛錬の難易度を引き上げよう」

「えっ」

 

今でも限界スレッスレを行ってるのに、一段引き上げる? ほ、本気?

冗談だよね? あ、あれ? どうして僕達を囲んでいた皆、離れていくの? なんで僕を拝んでいくの? どうして、あのいつもフィンさんにべったりなティオネさんまで逃げるように去っていくの?

あ、ベートさんがこっちを見て何か…何々、あ、き、ら、め、ろ?

諦めろ!? あぁ、待って! 行かないで!

レ、レフィなら、レフィなら助けてくれる…あれ、そういえばどこにいるんだろう…って、あ、なんかあっちでリヴェリアさんとなんかやってる、あ、吹き飛んだ。ポーションをかけられて、癒されて…叩き起こされて、また魔力を練って…あ、次は杖で吹っ飛ばされてる。

うん、あっちも地獄っぽい。見なかったことにしよう。

 

「大丈夫だよベル」

 

今までにないほど高速で頭を回す僕の耳に、優しい穏やかなフィンさんの声が届く。あ、良かった、冗談だったのかな?

 

「あ、ああ、やっぱり冗談ーー」

「死なない限りは、ポーションで癒せるからね」

「ーーはい」

 

これは、本気だ。

 

「そうだ、僕の鍛錬以外も全て一段引き上げるように皆に言っておこうか、大丈夫、代わりにファミリアの資金からハイポーションやエリクサーを沢山用意しておくから。いやぁ、ここまで明確に叩けば伸びると言うのは素晴らしいね」

 

湯水のようにポーションを使って構わないよ、それだけ、君は強くなれる。

 

そんなことを言うフィンさんを前に、僕は

 

「…ハイ」

 

大人しく、頷く他なかった。

 

アナキティからも、いい鍛錬方法を聞いたからね。それを皆でやろうか、ニコニコと笑いながら言うフィンさんの笑顔は、悪魔のソレに見えた。

 

 

 

とは言え、流石に肉体が成長しきっていないことも考慮されアミッドさんに相談の上に鍛錬の計画は作り上げられた。恐ろしいのは、アミッドさんは僕の本当に壊れるギリギリ限界で見積もって来るんじゃないかと言う恐怖。あの人ならできそうで怖い。

 

い、いや、医療に精通している人なんだからきっと無理のない範囲に調整してあるに決まっている…と思いたい。

 

 

 

…この後、僕と、ついでにレフィもみっっっちり2週間、地獄のような鍛錬を行った。朝起きて朝食を食べて鍛錬、昼食を食べて鍛錬、夕食を食べて鍛錬、風呂に入って寝る。そんな生活を丸々2週間。

 

3日に1日は迷宮に潜ってモンスター討伐も行ったけどそれがまた地獄だった。16階層の正規ルート外で、僕とレフィの2人のいるルームにLv3以上の団員10人掛の『怪物進呈(パス・パレード)』。

フロア内の至る所から集められてきたモンスターが、ひっきりなしに僕らを襲い、その戦闘音を聞きつけたモンスターが更に寄ってくる。

一度死にかけたそれに近い状況に、僕は最初こそ腰が引けていたが、そんな感情はどこかへ吹っ切れた。魔法、スキル、技術、持てる全てを使って、レフィを護りながら身近に迫るモンスターを屠る。唯一少し休めるのはレフィの魔法か僕の魔法でモンスターが一掃された瞬間のみ。

ほんの少し経てば、誰かしらがモンスターを連れてくる。

 

僕が因縁だとかなんとか言っていたミノタウロスも大量に連れられてきて、もう今ではなんの感慨もなく倒すターゲットにしか見えなくなってきた。

 

一応、近くでリヴェリアさんが結界の中から魔法を待機状態にしてすぐ助けられるようにしてくれてはいるけど、気が気ではない時間が続く。

狂ったようにして戦う僕、時に僕が撃ち漏らしたモンスターを相手取りながら必死に詠唱するレフィ。

 

途中で、猪人の筋骨隆々な冒険者と一度出会ったけど、なんだかとても可哀想なものを見る目で僕のことを見ていたのが凄く気になる。あの人、とても強いと思うんだけど、なんで僕のことをあんな目で見ていたのだろうか。

 

何はともあれ、それだけ頑張った甲斐があってかレフィも魔力がほとんど上限近くまで伸びたらしい。僕のステータスも、この前の2週間の比ではないペースでメキメキと伸びて行った。

 

…唯一の癒しは、シルさんと約束した買い物に付き合う日だった、あの日ばかりは仕方ないと休みを貰えたのだ。そして、疲れ切っている僕を見て1日ゆっくりと休ませてくれたシルさんはきっと女神に違いない。




【悲報】予想を上回る力を見せてしまったベル君、フィンに気に入られて(?)ウルトラスーパーハイパースパルタコース突入。

【朗報】ウルトラスーパーハイパースパルタコースにより、レフィーヤの魔力が原作を上回ること数ヶ月の勢いでLv3のほぼ上限に到達。

【朗報】オッタルに同情されるベル君爆誕。

勢いで書いていたら作者も訳の分からないうちにこんな展開に…
やっぱもう(頭)ダメみたいですね

まぁ、強制的に中層をウロウロさせられる原作と安全マージンを一応取っているこの作品だと…この作品の方がマシ…なのかなぁ…。

明日からは仕事再開のため、更新ペースを落とします、ご理解を

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