ラビット・プレイ   作:なすむる

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6話 都市探訪

腹を満たしたベルは、また街を探索する。

なんだかんだ、この都市に来たのは最近であり余裕もなかったため、どこに何があるのか把握しているものは少ないのだ。

ふらふらと、それでいて本拠地からは離れすぎないように。人通りの少ないところは行かないように道を選ぶと、ほとんどメインストリートを歩くだけになるが、それでも新鮮さがあった。

 

北区の本拠地から、ギルドがあるためよく訪れ、歩き慣れている北西を超えて、西地区で腹を満たした。見慣れない多くの建物を見、怪しげな物を見る。それは、とてつもなく楽しい時間であった。恐らく、もう一歩踏み込めばさらに好奇心を煽るものがあるのだろうが、今の自分では危険だと思い返し、欲求を理性で封じ込める。

さて、次はどこへ行こうか…南の方にはあまり近寄るな、と言われているし、東にでも行こうかと踵を返す。

途中、屋台や露店で買い食いをし、武器屋で武器を眺めたりしながらもてくてく、てくてく、歩く。

 

さて、一方その頃、眷族達の会議は終わり、三々五々に散らばりある者は外へ、ある者は本拠地内で食事を取ろうとしていた。

そこで、レフィーヤとアイズは自室で休養しているはずのベルを昼食に誘い、先程の会議の結果と明日以降の話をしようと思い彼の部屋の前に来ていた。

 

コンコン、コン、と扉を叩き声を掛ける。

 

「ベル? もうそろそろお昼になりますから、一緒に食事に行きませんか? ついでに話したいことが…ベル?」

「…どうしたの、レフィーヤ?」

「あ、いえ、返事がなくて…まだ寝てるのかな? ベル、開けますよ?」

 

そうして、ゆっくりとドアノブを回すと鍵がかかっているでもなく抵抗なく開いていく。中を見た2人は、唖然とする。

もぬけの殻となっており、彼がダンジョンに行く際に使っている小さなポーチも無かった。もしや、考えにくいがまたダンジョンに行ったのでは…そうじゃないにしても、身体も本調子でないだろう今、付き添いもなく外に出るのは…と焦った少女達は、執務室へと飛び込む。

悪戯好きの神は、彼の目覚めも、彼が街に出掛けたことも伝えることなく自身も外へと出掛けていた。

 

「ベルがいなくなった…? フィン、何か聞いているか?」

「いや、僕の方は何も…ロキと一緒にどこか食事にでも行ったのかな?」

 

フィンもリヴェリアも何も聞いてない。その答えが返ってきた瞬間、執務室に入った時以上の速度でアイズが外へと走り出す。いくら彼でも流石にダンジョンには行っていないだろう。もし、外に行くとしたら…と当たりをつけて、彼女は西の方へと走り去って行く。レフィーヤも、そんなアイズを茫然と眺めながらも悩みつつ、当てがあるので行ってみますと東の方へ向かう。

 

「…流石に、そこまで心配いらないと思うが…過保護な姉だな。ベルも苦労するかもしれない」

「ふふ、でも、いいことじゃないか。あのアイズがこんなにも過保護になるとは思っていなかったけど…」

「まぁ、成長をありがたく思うことにしよう」

 

そんな風に話を区切るが、彼ら彼女らも十二分に過保護であることを自覚はしていない。

 

 

 

「…ここにも、いない…」

 

アイズは、北西区にあるギルド周辺の冒険者御用達の店舗を巡る。

しかし、白髪赤目の少年を見なかったか、と問うても答えは否、否、否。ギルドにも顔は出していないと、エイナから聞いた。

もしかして、バベル? そう思い、後十数M先にあったファミリアの行きつけのお店に寄ることなく、進路を変える。

重要な情報源をスルーしてしまった彼女は、その後、日がかなり傾いてくるまでバベルの近辺を捜索することになる。

 

 

 

 

「ううん、ベルのことだから散歩しているとするとこの辺りだと思うんですけど…あ、いた」

 

方や、レフィーヤはあっさりとベルを見つけていた。

南の方には近寄るな、と言われている(自分も言った)彼が街の中で行くとなると、ギルドがある北西か露店の多い東の可能性が高い。ただ、ダンジョンに行くことは考えにくいため、休日だと割り切り遊びに東へ来ているだろうと考えたのだが、ずばり当たっていたようだ。

 

「ベル」

 

そう背後から声を掛けると、ピクッと肩を揺らす。くるりと振り返ると、声をかけた私の顔を見て安心したように身体から力を抜く。なんか、警戒してますね? 何かありました?

 

「あ、レフィーヤさん。どうしたんですか?」

「それはこっちのセリフなんですが…身体はもう大丈夫なんですか?」

「はい! ロキ様からも、ダンジョンに潜るのは許可できないけど、街に気晴らしに行くくらいならって許可ももらいました!」

「そうですか…」

 

これは後で、リヴェリア様に報告ですね。そう決心しながら、ベルの頭を数回撫でる。

 

「ふぁっ!?」

「リヴェリア様とアイズさんから話は聞きました。よく頑張りましたね、ベル。それで、ちょっと話があるのですが…ベル?」

 

急にもじもじと、何やら落ち着きなく急に挙動不審になるベルに声を掛ける。一体、どうしたのだろうか。もしかして、頭を触られるのは嫌?

 

「あ、あの、なぜ頭を…?」

「…? 人族の子供を褒めるときは、こういう風にすると良いとリヴェリア様から聞いていたのですが何か問題でもありましたか?」

「……問題は…ないですけど…………子供………」

 

一瞬、頬を朱に染めたかと思うと一転して肩を落とす。

いつでも感情表現が豊かな男の子だと、エルフの中では感情を表に出す方のレフィーヤですら思う。

 

「あぁ、でも、勘違いしないでくださいよ? 私とてウィーシェの森の誇り高きエルフ。誰彼構わず触れるわけではありません。ベルだから、ですよ?」

 

そうさらに告げると、また、真っ赤になる。何か琴線に触れるような発言でもあっただろうかと思い返すも、特には思い当たらない。

 

「ぅ、ぁ、はい…」

「…まぁ、これくらいにして、話の続きですが…ベルはもう、お昼は取りましたか? もし良ければ、どこかで一緒に食べようかと思ったのですが…ついでに、先程までの会議で決まった話を伝えようかと」

「あっと、2時間くらい前に朝昼兼用で…」

 

そう言いながら、軽く腹をさする。その様を見るに、あまりお腹は空いていないようだ。

 

「仕方ありませんね、近くにお気に入りのカフェがありますのでそこに行きましょうか。育ち盛りでしょうし軽食くらいはいけますよね?」

「はい、そのくらいなら…」

「では、行きましょうか」

 

買い物をしようか悩んでいたところで声を掛けたのでレフィーヤは見ていなかったが、彼は相当な量を食べ歩き、気のいい店員達から食べさせられていた。彼は、またも腹をさする。

大丈夫とは言ってしまったがお腹壊したりしないかな、大丈夫かなぁと思いながら、前をいく少女の後を追う。


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