ラビット・プレイ   作:なすむる

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70話 戦勝祝宴

「細かいことはもう言わんで! 皆、飲んで騒いで歌って踊れぇ!」

「「「「「うぉぉおおぉぉおぉっっ!!!」」」」」

 

そして、小芝居が終わった後は速やかにホールから大広間へと場を移す。

そこに並べられているのは豪華絢爛な料理。

 

館中からテーブルと椅子を搔き集め、即席の宴会場となっているそこはどこにいても美味しい匂いが充満していた。食堂を使わない…否、使えない理由は、今もなお出番を待つ料理や食材達の保管場となっているからだ。厨房に近いが故に、そこは占領されていた。

 

既に、ベルの元には男共が酒を片手に寄ってきているがそれをティオナが威嚇し蹴散らす。後で飲ませるけど、今はまだ駄目! と遮られた男達は残念そうにしながらもベルに祝福の言葉を残し、去っていく。

 

去っていくその先では、一人また一人と酒を浴びるように飲んでいた。入口から中々進めないうちにほとんどの男性冒険者はベルへの祝いを済ませ、酒や食事に夢中になっている。現金なように思えるが、彼らがベルへの祝福を長々として独占するのは、恐ろしい保護者達を怒らせることになってしまうだろう、すごすごと大人しく諦めていくのは、自分の身を守るためでもあるのだ。

 

そして、レフィーヤはベルとは対称的に女性冒険者達からの()()()を受けていた。

いつから付き合ってたの? どっちから告白したの? なんて、そんなことばかりを言われるレフィーヤは酒を飲んでもいないのに顔を赤くして目を回していた。

 

それもそのはず、噂が噂を呼んでいる中でのレフィーヤの戦争遊戯中の発言はしっかりと人々に聞かれていた。

 

そんな噂が立っている二人の、それも女性の方からの()()()()()()()宣言。

二人が恋仲だと判断されるのも、無理はないだろう。

 

そ、それは、ち、ちがうんです。

 

呂律が回らないのか、舌が思考に追いついていないのか少しあどけなく言うレフィーヤに対して、良い年頃の女性冒険者達は可愛いものを見るような目になる。

 

「じゃあ、レフィーヤはベル君のことなんてどうでもいいんだ?」

「へぇ~、なら、可愛いし格好良かったし、私、狙っちゃおうかなぁ?」

「ちょっと、あんたそれはいくらなんでも…あんたベル君の倍も年齢行ってるくせに…」

 

あうあうと混乱し続けるレフィーヤは、僅かに残る冷静な部分で揶揄われているだけだと理解しているが、それでも混乱は収まらない。

 

そして、何やら好き勝手なことを言い出した周りの女性陣に、沸々と怒りも沸く。

 

混乱、羞恥、疲労に怒気、そして…ベルが絡むことによりリミッターが解除されたレフィーヤは、兎に角自分の意見だけは伝えておかないとこの話は泥沼になると思ってーー

 

 

 

「私は、ま、間違いなくベルのことはとっても大好きですけど、それが恋愛感情かはまだわかりません!!」

 

 

 

ーー底無し沼の墓穴を掘った。

 

 

 

ピタッと質問責めが止み、一瞬の静寂。

 

レフィーヤはその一瞬で、私は今、何を言った? と振り返るが、思考が記憶に追いつく前に…黄色い歓声が、場を支配する。

 

「何何何何この子可愛いいいいいい!」

「もおおお必死になっちゃって、そんなに取られたくないのね!」

 

キャーキャーと女性陣が盛り上がる。

その声に、レフィーヤはようやく自分が何を言ったのかに思い至る。

思い至って顔を赤くして…次には、目尻に涙を浮かべる。

 

「ち、ちが…違…うう、もうやだぁ…」

 

それを見た周囲の人は、一斉にギョッとする。

 

「…もぅ、ほっといてくださいよぅ…」

 

本気で困りきり、感情を抑えきれず涙するレフィーヤ。

それを見て、普段からレフィーヤと共にいる頻度の高いエルフ達がまず我に変える。

 

「ご、ごめんねレフィーヤ。からかいすぎちゃったね?」

「ほら、泣き止んで…もう言わないから、ね?」

「うぅぅぅぅ…」

 

立ち竦んだまま、両目からポロポロと涙を零しながら唸るレフィーヤを必死になって宥める周囲の人々は、罪悪感で胸が一杯になる。

 

いくら、好奇心をくすぐる出来事とはいえ自らの好奇心を満たすために当事者を泣かせてしまうとは…ましてや、今日の祝宴で祝われるべき当人を…と。

 

そこに、助けの手が差し伸べられる。

 

「レフィ!? どうしたんですか!?」

 

ティオナと共にゆっくりと奥の方へと歩いていたベルが、レフィーヤを掻っ攫って大広間の真ん中あたりにいたこの集団の元へ辿り着いたのだ。そうして、泣いているレフィーヤを見つけて、咄嗟に声をかけた。

 

「うぅ…ベルぅ」

「ちょ、ちょっと…何があったんですか!?」

「ごめんね、ベル君。少し揶揄いすぎちゃって…」

「一体何が…あぁ、もう、レフィ、こっちへ来てください!」

 

そうして、ベルはレフィーヤがこの場にいるのが辛いだろうことを見抜いて手を引っ張って強引に連れ出す。

 

置いていかれる形になったティオナは、不機嫌さを隠そうともせずにその場にいた面々に視線を向ける。

 

「…レフィーヤに何したのさ」

「…ベル・クラネルとの関係を少し、揶揄いすぎました」

 

普段からレフィーヤと仲の良いティオナの詰問に、大人しく答える。

ティオナは一つ、はぁ…とため息を吐くと、けろりと表情を戻す。

 

「まぁ、私も気になるし悪いとは言わないけどさー、言う場所と程度くらいは考えようよ。今日の主役泣かしちゃってどうするのさ…」

 

戦闘民族と言われるているアマゾネスで、自身も深く考えることは苦手だと公言しているティオナのその言葉は全員の心に深く突き刺さった。

ティオナには失礼だが、アマゾネスより気遣いができていないということだ。

 

後でちゃんと謝っておきなよー、そう言いながら、ティオナは離れていった2人の後を追わずに去っていく。

 

 

 

大広間から繋がる形で存在するバルコニー、そこに2人はいた。

まだ、太陽は辛うじて空を赤く染めている。夜闇と夕焼け、空には2つが混在し、見事なグラデーションを作り上げていた。正しく、黄昏時であった。

 

「…なんか、その、心配かけてごめんなさい」

「い、いえ…僕も、急に引っ張ってきちゃって…」

 

ベルに手を引かれているうちに冷静になったレフィーヤは、なぜ泣き出してしまったのかと少し恥ずかしい気持ちでいた。確かにあまり言われたり、聞かれたりしたくない言葉が多かったとはいえ泣き出すほどのことではないだろうと自分に言い聞かせる。

 

無言で考え込むレフィーヤを前に、ベルは戸惑っていた。

泣いていたのは確かだ。きっと傷付くか、困った事があったのだろう。

でも、同じファミリアの団員が傷付けるような事は言わない…はずだ。

 

では何故、理由は何、と、ベルは必死に考えるも、何も答えは見つからない。

 

「…その、本当に何でもないですから。私が少し感情的になり過ぎたと言いますか…別に、意地悪されたとかそういうわけではありませんので…」

「それは疑っていませんけど…でも何か、そこまで感情的になるような何かがあったんですよね?」

「そ、それは、そのー…ベルには言えないといいますか…ベルだからこそ言えないといいますか…その、あまり気にしないでください、いや、本当に…」

 

調子の戻ってきたレフィーヤに安堵しながらも、そのやんわりとした、しかし断固たる拒絶にベルは少しショックを受ける。

もしかして、余計なことをしてしまっただろうか、と悩む。

 

「あぁっ、あの、引っ張り出してくれたのは嬉しかったですから…その、ベル」

「な、なんですか?」

「…私の気持ちに整理が付いたら、ちゃんと教えます…いいえ、伝えますから。それまでは、そっとしておいてください」

「レフィ………はい、わかりました」

「ありがとうございます…じゃあ、戻りましょうか? 私も、あの人達に感情的になり過ぎて場の空気を悪くしたことを謝らないと…」

 

 

 

その後、戻ってきたレフィーヤに全力で謝り倒す面々と、こちらこそすいませんと謝るレフィーヤはしっかりと仲直りをする。

そこから始まるのは、祝勝会という名の女子会。

恐らく初恋に近い何か、もしくは初恋へと昇華する可能性を秘めたその感情を持て余しているだろうレフィーヤを応援する為に、女としての先達であるそれぞれが色々と教えようとあーだこーだとやれうちの男はーだのそういえばどこそこの何々がーだの、情報共有的な会話をする時間が繰り広げられた。

 

尚、その殆どが独り身であるため、情報にはかなりの偏りがあったのだがそれはご愛嬌というものだろう。

 

比較的、近場に席がある男は漏れ聞こえてくる会話に若干気不味そうにしているが酒の席の話だ。聞かないことにして、忘れるに限るとぐいぐいと酒を煽っている。

 

色々な集団に分かれて、それぞれがそれぞれらしく宴会を楽しむ。ベルとレフィーヤの祝勝会という名目はものの1時間もせずに消えて行き、そこにあるのは団長と副団長の金で酒や飯を貪る団員達の姿だけだ。

 

一方、戻ってきたベルは再度ティオナに捕獲される。

一度レフィーヤの方を見て、問題なさそうだと確認してからロキ達が待つ席へとベルを連れて行く。今日の主役の片方は、楽しげに女の子や大人の女達から様々な情報を聞いているようだ。

 

そして連れてこられたベルは、馴染みの面々に囲まれて少し気を楽にする。普通ならあり得ないような面子なのだが、そこは色んな面で幹部達に可愛がられているベルである。

 

ゆったりとした空気の中、普段にない話をしながら時を過ごす。

時折、リヴェリアやアイズがレフィーヤを気にする素振りを見せるがそれ以外は本当にまったりのんびりとした空間だ。若干、ティオナのテンションが高いくらいだがそれもベルに抱きついている程度。尚、ガレスは酒飲み達と己対他全員の飲み比べを敢行しているのでここにはいない。

 

その光景の中にいたロキは、自らを抜いた面々で家族構成を考える遊びに興じながら話を楽しんでいた。

 

ティオネには悪いけど、やっぱ父親はフィンで…母親はリヴェリア。長女はアナキティで長男はラウル、次女は…ティオネで三女にアイズたんを挟んで四女にティオナかなぁ? ま、一番下はレフィーヤとベルたんで決まりやなー、とか、そんなことを考えていた。

 

豊穣の女主人から借りてきたウエイトレスの面々も、ベルを祝福していく。ようやくひと段落したのか、シルとリューが揃ってベルの元へと来る。

 

「ベル君、おめでとうございます」

「クラネルさん、見事な勝利でした」

「お二人とも、ありがとうございます…シルさん、そう言えば今回はすいませんでした。約束を破ってしまって」

「ふふふ、気にしなくても構いませんよ? お休みの日は丁度戦争遊戯の当日でしたからいい1日になりました」

「私達が仕事をしている中、客に混じってずっと鏡に張り付いていましたからね…」

「リューだって、途中からお仕事サボってずっと見ていたじゃない…」

 

そんな2人に、ベルは改めて礼を言う。

気にかけて、わざわざ見ていてくれたのだ。それに礼を言わぬ程ベルは淡白ではない。

 

 

 

そして、それに満足げに頷いたシルが動き出す。

 

それはそれはとても高そうな一本のお酒を取り出し、ベルの前へと置いた。木製のフレームに納められた、緑色の瓶。

正面には、羽根を生やした女性が描かれている。

 

ーー祝宴は、第二ラウンドへと突入する。

 




性格というか性癖なんでしょうけど、一悶着入れないとなんか納得いかないみたいですね自分(歪んでる)

最後にシルが出したお酒ですが、現実に存在するハイランドパーク フレイヤというお酒をモチーフにしています。

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