ラビット・プレイ   作:なすむる

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ダンメモで明かされた事実は凄かったですね…
執筆予定の次作ではまた改変物で絡めていきたいと思っています。

シリアスとか深い話を書いてみたいところ


74話 神問答兎

ロキはニタニタと笑みを浮かべる。

面白いことになる、と確信した愉快犯は次々と爆弾を投じる。

 

「ほっほ~ん? 甘えん坊さんやなぁベルたんは? そんならアイズたんとかはどうなん? 前にべぇったり甘えとったやろぉ?」

「アイズさんは…」

 

その後も、ティオナは、ティオネは、アナキティは、シルは、リューは、エイナは、エトセトラ、エトセトラ。絡みのある女性のことごとくについて聞き出された兎は途中で悪い神様によって追加された燃料()によって辺り一帯を焼き尽くすかのように熱意を持ち、途中からは聞かれてもいない、絶対にこの少年が素面では言えないようなことをぺらぺらと喋り出す。

 

ベル自身の言葉で好ましく思っていることを聞けて、嬉しそうに顔を緩ませるアイズ、褒め言葉を受けて満更でもなさそうなティオナにティオネ、少し恥ずかしい内容もあったが尻尾をピンと立てて、くねくねぴこぴこと動かしているアナキティ、内心ではああもう本当にベル君は可愛いなぁ! を連呼しながらしかし少女らしく微笑んでいるシル、この時ばかりは自分がエルフで良かったと顔を赤くしているリューと、それぞれに好意的に受け取っていた。

 

話の途中からはリヴェリアへ抱き着いていた格好こそやめたものの、それでもそのハイエルフのすぐ隣にストンと座り直していた。どうやら、離れる気はないようだ。リヴェリアの反対側にはしれっとアイズが座る。

 

フィンもリヴェリアの斜め向こうに座り、後ろや隣、近場の席をずらしてシル達ウエイトレス組やティオナ達が座り、集団が形成されていた。

 

「うんうん、ベルたんはみんなのことがほんまに好きなんやなぁ…んで、レフィーヤはどうなんや?」

 

そして最後に投げられたそれ。今までは少し恥ずかしそうにとはいえ、割とすんなりと答えていたベルが一度口を閉じる。

ここ最近の出来事を思えば、確かに最後を務めるのに相応しい人選だろう。だが、それは諸刃の剣でもあった。

 

盛り上がるか、お通夜になるか、はたまた。

 

「うん? どないしたんやベルたん? そんな口ごもって」

「う、そ、その…」

 

ベルの様子に、周りにいるメンバーの視線が突き刺さるように集まる。

恐らく、最も好感度を稼いでいるであろうレフィーヤに対してベルはどのような言葉を紡ぐのか。皆、興味津々であった。

 

が、しかし、そんな好奇の視線に晒されているベルは口に運ぼうとしていたグラスを両手で膝の上に持って行き、膝を突き合わせて擦り合わせるようにもじもじとしている。

その様は非常に愛らしいが、ベルはなかなか口を開かない。

 

「なんやぁ? ベルたんはレフィーヤのこと嫌いなんか?」

 

そこに、煽るようにして発言を促すロキ。それは奇しくも、レフィーヤが宴の序盤に聞かれたような質問で。

 

しかし、レフィーヤと違いベルは奥手なエルフではなく鈍感だが素直な少年で。だからこそ、ベルはそれに乗ってしまう。

 

「いえ、大好きですよ、間違いなく大好きです…けど、その、なんて言うんでしょうか…その、そうですね。レフィは僕にとって人生をくれた人で…独りだった僕の家族になってくれた人なんです。だから、何が好きとかじゃなくて…」

 

ようやくのベルの発言に、その場の空気が凍りついた。

 

「…そ、その、僕、物心つく前に両親が亡くなっていて…お爺ちゃんも、ここに来る前に事故で亡くなって…本当に独りだったんです。オラリオに来てからも、頼る相手も、拾ってくれるファミリアもなくて…あのまま、レフィが僕のことを見つけてくれていなかったら、今頃は天へと還っていたと思います…だから、その…」

 

そしてベルは、必死な顔と言うべきか、何か鬼気迫る顔で想いを吐き出す。話をそこまで深く聞いたことのなかった面々は、そのベルの過去に驚き、同情する。

とは言え、安易に比べることはできないがここにいる面々のそれぞれがそれぞれに悲惨な過去を持ってはいる。オラリオにいる冒険者としては珍しいことでもない。

だがしかし、それを差し引いてもかなり過酷な境遇にベルは居ると言えるだろう。

 

そんな、傷付くような過去を振り返らせる為に話させたわけではないし、それに加えて

 

「わ、わかった、ベルたん、もうええ! もうええから!」

「レフィのことは好きだとか、いえ、確かに1人の人としても好きですけど、でも、それだけじゃ…そんなんじゃなくて…何より大切に思ってて…何よりも大事で、何よりも守りたい。僕の命を代償にレフィのことを守れるなら、僕は躊躇なく命を捨てられるような…レフィは、そんな存在なんです」

 

予想を超える熱い()()が吐き出され始めたことで、流石にこんなことまで皆の面前で聞き出そうとしたわけやない! と焦るロキの静止の声も聞かず、ベルは感情がこれ以上なく籠っている棒読みというべきだろうか。誰かに話しかけているのに独り言を言っている、自分自身に言い聞かせるようなそんな声で訥々と言葉を紡ぎ続ける。

 

酒の力もあって幾分か過剰に言ってはいるだろう。しかしそれにしても、紡がれた意志は重く固い。

 

「ベル、少し落ち着いて…ね?」

 

ロキの質問に考え過ぎたのか、目を回しかけてながらも言葉を紡ごうとするベルをアイズが背中をポンポンと叩いて落ち着かせようとする。

 

「…少し、外に出て風を浴びた方がいいかもしれんな。ほら、ベル、私が付き添おう」

 

ベルの決意は、皆が聞いた。しかしそこに、リヴェリアは()()()()()を感じ取った。いつぞやの…昔のアイズとベクトルこそ違えど似通った()()()、誰かがしっかりと手綱を握らなければ、安易に命を落としてしまいかねないある種の()()

 

昔のアイズと違い普段は表に出していないが、ベルがその胸の内の深いところに秘めている激情をここにいた面々は今、知った。

 

それを踏まえて、リヴェリアは一度外へとベルを連れ出して落ち着かせようと考えたのだ。

 

 

 

だが、それを成す前に

 

 

 

唐突に、ベルが前のめりに倒れた。

 

 

 

「「「「「ベルゥゥぅぅぅぅぅぅぅぅうううぅっ!?」」」」」

 

 

 

器の限界を超えた酒は、その器から溢れ出した。

 

 

 

場は混沌と叫喚に包まれた。

 

 

 

「ちょっ、なんか布! ってか桶!」

「あぁもう! なんでこんないい感じの話した後にこれなの!?」

「現実は小説より奇なり…か、使い古されたようなオチだけど、ベルらしいと言えばベルらしい」

「冷静な振りして適当なこと言わないでください団長!?」

「アイズっ! めちゃめちゃ強く背中叩いてたんじゃないの!?」

「!? そ、そんなこと、してない…っ!」

「リュー! 応急セット持ってきてた!?」

「った、確か厨房の誰かが念のために!」

「ミャーが貰ってくるニャ!」

「いいから落ち着け! まずはベルを横向きに寝かせるぞ! 吐きたいだけ吐かせてやれ!」

 

リヴェリアの一喝のもと、ゆっくりと丁寧に抱き上げられたベルがソファに横向きに寝かせられる。

呼吸は浅く速くなっており、時たま吐き気を催しているのか安定しない状況で、顔色も悪くなっている。

 

 

 

懸命な看病が続けられること数十分、この場に残っていたのはベルを見ているリヴェリアと、ロキだけになっていた。

元々、宴会自体の終わりも近かった頃だ。ベートを始めとした酒に負けた男達は這いずるようにして部屋に戻り始めていたし、レフィーヤ達も途中でこちらに気が付いたようだが、レフィーヤも含めアイズ達全員にもう心配はいらないと告げて自室へと戻るように促した。

それでも、後ろ髪を引かれるようにしていたが。

 

余裕のある者は街へ繰り出して二次会と洒落込むようだし、豊穣の女主人の面々は明日以降自らの店での仕事もあるのだ。あまり遅くまで付き合わせるわけにいかないと先に帰した。

 

その為、ここにいるのは残った2人と、気を失ったままのベルだけだ。

 

「…ロキ、ベルの言葉…どう思う」

「…危なっかしいな、とは、思うなぁ」

 

そんな中でポツリと質問が飛び、ボソリと返事が飛ぶ。

 

「…少し、アイズの時を思い出すな。アイズの場合は復讐だったが…ベルの場合は依存…なのか?」

「…羨望、依存、欲求、この辺りやと思うんやけどな…あの発言を鑑みたら、ベルたんのスキル…新しいの発現しそうなんやけど、やめといた方がええかもしれんなぁ…なんか、まだその時じゃないってうちの勘が言うてるんよなぁ…」

 

自らの命よりも尚、成し遂げたい何か。

それを持っている者は確かにそれなりにいるし、フィンもその部類と言えるだろう。

 

だがしかし、命を賭せるではなく、命を捨てられると言うのは、少し重さが違うだろう。

 

リヴェリアは、明日以降ベルがこのことを覚えていないようにと祈り、ロキは変なことはもう聞かんようにしようと反省した。娯楽が好きなロキにとっては面白いことだったとは言え、子供のことを好きなロキからするとやってはいけない酷いことをしてしまったと言う感覚があるのだ。

 

予想以上のものが出てきてしまったとは言え、そもそも年頃の男の子に女の子のどんなところが好きか、ましてやその対象が近くにいる状態で聞くなんて公開処刑もいいところだろうと言う至極真っ当な事実に思い至った。その為、酷く悔やみ、自らの行いを省みたのだ。

 

容態が安定してきたベルの背中をポン、ポン、と呼吸の速度に合わせて軽く叩くリヴェリア。それを見ている神は、ベルの幼い顔を見て目を瞑った。

 

「…ベルたんの魔法…血か、育ちか、どっかで絡んどるんやろか…と言うか、ベルたんがたまに言うとるお爺ちゃんの特徴がなぁ…」

 

ロキは天界時代のことを、そして、もう10年近くにもなる昔のことを思い返していた。あり得ないと一蹴されるだろう想像を頭の中でしながら、いやいや、ないわ、と自分自身で蹴り飛ばす。

 

まさかあの大神が、ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアが台頭し、あの暗黒期を乗り越えていたときにこの少年を山奥の村でひっそりと育てていた…だなんて。あるわけないない、と、ロキは自分の妄想に突っ込みながらその考えを彼方へ消し飛ばした。

 

まさかそれが大正解であることなど、この時の神ロキは知る由もなかった。

 

 




たまにこの作品にもシリアス要素を入れようかなと思うんですけど、どうにもシリアルというか、コメディっぽくなるのはなんでなんでしょうかね?

A,シリアス書くの向いてない

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