ラビット・プレイ   作:なすむる

81 / 101
5章 兎は森に、聖女と進む
76話 指名依頼


「僕と一緒にダンジョンに潜りたい…ですか?」

「はい、貴方の戦い方を一度この目で確認したいのと…丁度良い理由もありまして」

 

リヴェリアさんに甘えきりになってしまった1日が過ぎ、翌日、僕はアミッドさんの元へと来ていた。戦争遊戯での怪我は軽いものだったとは言え、鍛錬明けから身体を休める暇があまりない中でのことだったので念のために検診に来たのだ。

その際、勝利を祝う言葉を貰った後に相談されたのが、僕とアミッドさんで迷宮探索を行わないか、という話。勿論二人きりではなく、誰かほかの高位の冒険者も共に、できれば中層の深いところまで潜りたい、とのこと。なんでも欲しい薬草があるんだとか。

 

「…僕だけの話なら構いませんけど、その、ファミリアの人達がなんて言うか…それに、護衛代わりならわざわざ僕じゃなくてもいいんじゃないですか? 」

「ロキ・ファミリアはディアンケヒト・ファミリアにとって金銭的な繋がりが大きいとは言え良きパートナーです。そのファミリアの期待の新人が私を懇意にしてくださっているのですから、こちらからも付き合いというものを考えてもおかしくないでしょう? 数日、共に迷宮に潜れば何度言葉を交わすよりも深く人となりを把握できますから」

「そ、それは…そんなに気にしてもらわなくて…というより、僕の方こそお礼を言うべきというか…わざわざアミッドさんに直接診てもらっているのに」

 

アミッドさんの意思は固そうだけど、そんなことのために僕に付き合わせるのもなんだか…というより、今、アミッドさんなんて言っていただろうか。

 

「…あの、今、数日って言いました?」

「? はい、出来れば数日程は戦い方や身体の動かし方を観察させて頂きたいと思っていますが」

 

疑問に思い、確認のために聞き返すと肯定が返ってくる。数日、数日か。数日ともなると鍛錬にも影響が出るし、まずはやっぱりフィンさん達に相談しないと、と悩んでいると、アミッドさんが更に言葉を投げ掛けてくる。

 

「勿論、受けてくださるのであれば勇者を始めとした面々への説得と交渉は私が行います。貴方にそれほど負担はかけません。どうでしょうか?」

 

それでも尚、悩んでいる僕。条件を並べてくるアミッドさん。

 

「勿論、ロキ・ファミリアの総意として否と言われれば諦めます。無理強いをするつもりはありません」

 

そんなやりとりの中で、僕は

 

「えっと……………じゃあ、とりあえず聞いてみます……」

 

最終判断を他者(保護者)に委ねることにした。

 

 

 

そして今、僕はアミッドさんとレフィとアキさんの3人と臨時のパーティを組んで迷宮へと向かっている。

フィンさんには快諾され、リヴェリアさんからも学ぶことも多いだろうしいい機会だから、と即席のパーティが構築された。

 

何だか、()()()()()()探索を目的に迷宮に来るのは凄く久々な気がする。

 

前衛兼中衛に僕とアキさん、後衛にレフィとアミッドさん。4人だけの少人数パーティとは言え、Lv4を筆頭に3が1人、2が2人とそれなりの戦力だと思う。もっとも、アキさんは監督役兼緊急時の護衛代わりで、基本的には僕が前衛でレフィが後衛、アミッドさんが治癒士の3人パーティみたいなものだけど。

 

そして、今回は僕の到達階層の更新も目的だという。

目標階層は25階層…『水の迷都』というところだそうだ。そこは、中層を抜け、冒険者達に下層と呼ばれているところ。

 

迷宮の孤王(モンスターレックス)と呼ばれる強力な敵は27階層にいるようで、そこまでは進まないみたいだけど。

中層で薬草を採取して帰りたいというアミッドさんの希望…わざわざ僕向けに出された護衛及び収集依頼にも応じる形で、25階層まで一度進んで、地上へ戻りながら薬草収集をする予定だ。

 

まぁ、アミッドさん自身は22階層くらいまで行ければ良かったみたいだけど、折角だからと僕達の用事にも付き合ってもらう形になった。これで今回は怪我をしても安心だ、と笑うフィンさんはなんだか悪い大人の顔をしていたような気がする。

 

 

 

ちなみに、17階層にいるらしいゴライアスという迷宮の孤王(モンスターレックス)はアイズさんが一昨日ソロで討伐したようで、今はいないとフィンさんから聞いているから安心して進むことができる。

 

 

 

「えっと…じゃあ、行きましょうか。アミッドさん、短い間ですが、お願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。しかし、御二方が付いてきてくださるとは…これは、御礼を弾まなければなりませんね。私の個人的な我儘のために、ありがとうございます」

「い、いえ! 私達もいつもお世話になっていますから!」

「それに、ベル一人だと貴女の護衛には少し心許ないし…正式に依頼されたからには、任せてください」

 

一応、今回は()()出された依頼ということもあってパーティリーダーは僕という形になっている。荷が重たいけど…まぁ、気心の知れた仲だからなんとか…朝、集合場所に集まった僕達は簡単に雑談を交えた打ち合わせを行った後、早速と言わんばかりに迷宮へと向かったのだ。

 

 

 

「…なるほど、間近で見ると物凄い速さですね、同じLv2とは思えない…年齢を考えると、恩恵が無ければ筋肉という筋肉、腱という腱が一度で破断し、全身の骨が耐え切れず砕けているような動きです」

「怖いこと言うのやめてもらえませんか!?」

「…うわ、想像しちゃった、筋肉とか腱が千切れる音って凄いんだよね」

 

4人で話しながら迷宮を進み、しかし敵を見つけたら駆け出して討伐する僕の動きを見たアミッドさんの感想だ。

 

いや確かに、13歳の身体でこんな動きなんて冒険者でなければ考えられないことなんだけど…そう考えると恩恵って本当に凄い。

 

でも、英雄時代の英雄達は恩恵なんてなしにモンスターと戦ってたんだよな…憧れる。やっぱり技術を磨く以外にも筋トレとかした方がいいのかな、前に見た猪人の冒険者の人は見た目からして強いっ! って感じだったし…。

 

「…やっぱり、筋肉付けた方がいいんですかね」

 

そんな僕の呟きに、微妙な間が空いた後に答えが返ってくる。

 

「それは…一概には言えませんが、年齢を考えてもあまりお勧めしません。成長を阻害する可能性もありますから」

「ベルには似合わないと思うけどなぁ、戦闘スタイル的にも見た目的にも」

「そうですね。戦闘の方はわかりませんが、見た目的には似合うとは思えません」

 

アミッドさんの言う成長を阻害、というのも気になるがそれはさておき、どうやら不評なようだ。しかし、レフィにそう言われるのはなんだかもやもやする。

 

「…僕、もうレフィよりも大きいのに…」

 

そんな呟きは、しっかりばっちりと聞こえていたようでアナキティさんのまだ後ろにいたレフィが飛び込むように距離を詰めてくる。

その顔は、必死さを感じさせた。

 

「ああああっ!? い、言いましたね!?」

 

気にしてたのに! 最初は私の方が大きかったのに! そうやってすぐ大きくなるんですから、これだから男の子ってやつはぁ!

なんて、吠えるように肩を揺さぶられながら言われた僕は困り顔で残り二人の方を見る。助けてください、という気持ちを込めて。

 

「なんか微笑ましいなあ…」

「…………そうですね」

 

だが、僕の目に映ったのはほっこりした表情をしているアキさんとなんだか普段の無表情がさらに無表情になったようなアミッドさん。しまった、身長の話はタブーだったのだろうか。アミッドさん、その、失礼だけど小さいし…後、アキさんは何故にそんな表情を?

 

「ちょっと、聞いているんですか!? そもそもベルはーー」

「わ、わかっ、わかりましたから! 離してくださいぃ!」

 

なんとか離してはくれたけど、その後も迷宮探索の道中、ずっと僕はレフィから愚痴を言われ続けた。

 

あの、伸びないのは僕のせいじゃないし…

それに、()()()のはレフィのせいじゃないかな…

あ、いえ、なんでもないです、はい…

 

苦笑しているアキさんと、可哀想なものを見るアミッドさんの目が、なんだかとても胸に来た。これからは、レフィの前で…いや、女の子の前で身長とか体重の話をするのはやめておこう。僕は、この時にそう学んだ。

 

 

 

「…中層は慣れているのですね。私含め、知り合いのLv2冒険者の誰よりも迅速かつ的確な判断をしていると思います。しかし、上の層に比べても慣れているように思えますが…?

「この辺りのモンスターは、もう意識しなくても倒せる気がしますからね…」

「私も、この階層に限れば並行詠唱も簡単にできる気がします…」

「…あぁ、あの鍛錬メニュー、ここで行われていたのですね」

 

16階層をサクサクと進んでいく僕とレフィ、ここはもう庭みたいなもの…いや、下手したらあまり馴染みのない本拠の庭より知り尽くしているかもしれない。そこで、アミッドさんから疑問が飛んでくる。

 

それに、答えらしい答えを返すのではなくしみじみと思ったことを呟いた僕達の言いたいことをアミッドさんは汲み取ったのか、気の毒そうな目を向けながら思い出したかのように鍛錬という言葉を口にする。

 

いや、そんな目を向けられても…

 

「…フィンさんと鍛錬メニューを組むのがアミッドさんだと聞いた時の希望は、一瞬で木っ端微塵にされました…いえ、恨んではいませんけど」

 

ちょっぴり見えていた希望は、アミッドさんの本当に僕の壊れる限界ギリギリを見極めてきたような難易度の鍛錬を受けて、すぐに消え去った。

 

しかも、アミッドさんの手による大量のポーションが納品されてきたと言う、まさにアミッドさん全面協力によってあの鍛錬は形作られたのだ。

 

そんな、僕の言葉に何かを感じ取ったのか

 

「…私は、助言をしただけですので…それに、勇者が持ってきた当初案に対して私が助言をしていなければ今頃貴方はこの世に…あ、いえ、なんでもありません」

 

気不味そうにしながらも、自分は関係が薄いと否定するアミッドさん。その後、顔を逸らしながらボソッと呟いた一言はしっかりと僕の耳に届く。

 

「…あぁ、アミッドさんが監修してたって話でしたね。ベルの鍛錬」

「いやちょっと待ってください。今かなり不穏な単語が聞こえたんですけど、あの、アミッドさん? 僕はこの世に…なんですか? 一体何が行われようとしていたんですか?」

 

フィンさん、最初はどんな鍛錬を行う予定だったんだろう?

 

その後もアミッドさんは何度尋ねても、何度顔を合わせようとしても顔を逸らして頑なに教えてくれなかった。曰く、貴方が持つ勇者へのイメージを壊しかねないので、勝手に教えることはできない、とのこと。

 

いえ、その言葉の時点で、もう手遅れな程壊れています。

 

僕の中では、そう結論が出た。

 

 

 

というより、それなら、やっぱりアミッドさんは女神か天使か何かだったのかもしれない。今の失礼な言葉の分も含めて今度何かお礼をしよう。僕は心に誓った。




初投稿から2ヶ月の節目でした。
いつも閲覧、感想等々ありがとうございます。
今話からはオリジナルストーリーや日常編をマシマシで行く予定です。よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。