ラビット・プレイ   作:なすむる

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79話 天幕調達

「ふぉっ!?」

 

翌朝。起きた僕は何かに顔を覆われていた。

ふにふにと柔らかいそれ、そして、全身にまとわりつく暖かな感触。

 

これは、なんだか身に覚えがある。

 

そう、いつぞや、自室で行われたアキさんとの添い寝のような…。

 

「くぅ…すぅ…」

 

頭の上から聞こえてくる、アキさんの寝息。確信した、僕の顔を覆い潰しているのは間違いなくアキさんの持つ双丘で。

今、僕の腰辺りに乗せられているのはアキさんの脚で、頭を抱き抱えるようにしているのはアキさんの腕だろう。

 

へ、へたな身動きが取れない…っ!?

 

そもそも、Lv4の冒険者の無意識の力で抑えられている状態では動くこともできないけど。ギュッと抱き抱えられている頭を無理に動かせばどうなるか。

 

右腕は多分、アキさんの腰…ちょうどくびれの下を通っているようだしそれなりに動かせるけど、下手に動かすわけにはいかないし。左腕は僕の腹の上を通って反対側に回されている、アキさんの脚の下にある。

 

これはまずい。何がまずいって、アキさんより先にレフィが目覚めたら…まずい。こんな光景を見られたら昨日以上に問い詰められそうだ。

いや、アミッドさんに見られるものまずそうだけど。

 

たらり、と汗を流す。鼓動が早くなる。

ドキドキ、ドキドキ、レフィへの恐怖によるものとアキさんの行動によるもの。二つが混ざり合って、どうしようもなく僕の胸は高鳴っていく。すごい、これが吊橋効果というやつだろうか。いやきっと違うんだろうけど。しかしこれは本当にまずい。

 

「ア、アキさん、アキさぁん?」

 

僕の目と鼻は、2つの柔らかな物体に包まれているため周囲の状況は全く掴めない。今ここで鼻で呼吸しようものなら、クラクラとしてしまうだろうから僕は努めて口呼吸に徹する。そんな中で、他3人は全員寝ていると期待した上でアキさんを起こすように名前を呼ぶ。

 

「うぅん…ん」

 

そんな呼び声に反応したのか、アキさんが身動ぎして…あ、ちょ。

 

「ん、ふふ」

 

や、やばい、やばいやばいやばい、完全にのし掛かられた?

全身をすり合わせるような動きをアキさんがしながら、僕の身体にかかる重みが増していく。頭は両腕でがっしりとホールドされている。

 

これ、完全に抱き枕にされてる!?

 

あ、いや、おかげで両腕両足はフリーになった…

いやフリーになったから何!? どうすれば良いの!?

 

「……………あの、アナキティさん、ベルさん、一体何を?」

 

そしてとうとう、恐れていた事態が。

アキさんより先に、他の人が目を覚ました。

 

助けてくれ、という合図をしようと床をぺしぺしと叩く。

それを見たのかアミッドさんは一つため息を漏らすと、そろりそろりとこちらへ歩いてきてくれているようだ。その動きを察するに、レフィはまだ起きていない模様。良かった、本当に良かった。

 

「…アナキティさん、寝相が悪いのでしょうか? ええと…ほら、起きてくださいアナキティさん。ベルさんが困っていますよ?」

 

そして、アキさんの肩を揺さぶって起こそうとしてくれる…けど、その度に押し当てられている胸が形を変えて僕の顔にさらに押しつけられる。

 

「ん、んん?」

「…起きましたか?」

「ん…おはようアミッドさん…」

 

どうやらようやく、アキさんが起きたようだ。しかし、動いてくれる気配がない。

 

「はい、おはようございますアナキティさん。その、ベルさんが困っているようですが」

「んん…? あ、おはようベル、また抱き締めちゃってた」

「…おはようございます、アキさん、アミッドさん、ありがとうございました…」

 

その言葉にようやく身体を起こしたアキさんが、僕のお腹の上に座ったまま朝の挨拶をしてくる。それに返しながらアミッドさんにお礼を言う。

 

「いえ、大したことでは…やはり、テントはもう一つ用意した方が良さそうですね。ベルさんも、気が休まらないでしょう」

「あはは…そうしたいんですけど、でも、お金が足りるかどうか…そんなに持ってきていないので…」

 

確かに、こんなことが5日も続いたら精神的に疲弊してしまいそうだ。

 

「何よ…ベルは嫌なの?」

「嫌というわけじゃないですけど…その、恥ずかしいと言いますか………むしろ嫌かどうかって聞かれると嬉しいんですけど………」

 

むっ、と尻尾をピンと張ったアキさんが僕に尋ねてくる。

嫌ということはないんだけど、なんだろう、リヴェリアさんに甘える時と違ってこう…むず痒いと言うか、恥ずかしいと言うか…。

 

「まぁ、ベルさんも男の子ですからね。()()()()()()()はまだ薄いようですが…反応も、していませんでしたし。しかし、アナキティさんも過度に刺激するのは控えた方が良いかと思いますよ。お互いの為にも」

「…あ、あー…うん、なんか、ごめんねベル?」

 

何やらアミッドさんがアキさんに小声で告げると、アキさんは目をまん丸にしてこちらをチラッと見る。そして、そっと僕の上から降りて横に座りながら、心底気まずそうな表情で謝ってくる。

 

「それは何に対しての謝罪ですか…?」

「いや、気にしないで…ただ、私が悪いことをしたって思っただけだから。うーん、下に降りる前にリヴィラでテント調達して行こうか、最悪、うちの名前出せばツケでも買えると思うし…失敗したなぁ、お金、もっとちゃんと持ってくれば良かった」

 

ようやく起き上がれると、寝袋から出て立ち上がり一つ伸びをする。

そして、アキさんアミッドさんと対面するように座り直す。

 

「…んふぁ…おはようございます…」

「あ、レフィーヤも起きた?」

 

ちょうどその時、レフィも起き出す。

その後、各々身支度をして外に出て簡単な朝食の準備をしながら今後の動きの打ち合わせを始める。

 

 

 

「それで、私とベルは2人でリヴィラの街に行ってくるから、レフィーヤとアミッドさんはここの撤収をお願いできる? 空いた時間は自由にしてて良いから」

「…そうですね、街に行くのはアキさんの方がいいと思いますし」

「私も、異論はありません。時間が空くなら折角ですからあちらの林で薬草の採取をしたいのですが構いませんか?」

「ええ、私は大丈夫ですよ。この辺りの植物なら、私もそれなりにわかるのでお手伝いします!」

 

そして、街への買い出し班と野営地の撤収班に分かれた。

 

 

 

「さて、じゃあ行きましょうかベル。しかし、今日も多分、かなり注目されるわよ? 注目ついでにマケてくれるお店があれば良いんだけどなぁ…」

「あはは…あっちも商売ですからね」

「本当に、リヴィラの街の商人達は商魂逞しいわ…ベルも変な相手に引っ掛かるんじゃないわよ?」

「気を付けます…あ、アキさん、あそこのお店」

 

そして、街へと入り雑談しながら物色していた僕の目に一つのお店が溜まる。そこは、割と大きな店構えで、外から見えるだけでもいくつかのテントが置かれている。

 

「…ん、ボールスのお店じゃない。ちょうど良いわね」

 

そして、スタスタと店内に入っていくアキさんの後ろ姿を僕は追い掛ける。中へと入った僕達に掛けられた声は、途中で驚愕に彩られた。

 

「へいらっしゃい…って、貴猫に最速兎ォ!?」

「そんなに驚くことないじゃないの」

「わ…」

 

そこにいたのは、まさに冒険者という感じの男性。若干、柄が悪そうというか強面というか、片目は負傷しているようで眼帯をつけているが残った片目だけでも強い眼力があり、身体はかなり鍛えられている。

強そうだ。

 

「ベル、この人がボールス・エルダー。リヴィラの街の元締めで、Lv3の冒険者よ」

 

そして、アキさんの紹介によりその感想は強そう、から、強い、に切り替わる。

あのヒュアキントスさんと同格。恐らく、冒険者としての経験も加味すれば更に強いかもしれない。

 

「Lv3…あ、あの、ベル・クラネルです」

「自己紹介なんてしなくても、戦争遊戯であれだけの動きを見せた噂の兎の名前なんて誰でも知ってるだろうよ…ボールス・エルダーだ。一応、この街の元締めなんてものをやってる。期待の新人には、是非とも懇意にしてもらいてぇものだな」

 

うちの子を鴨にしたら切り刻むわよ、なんていうアキさんの脅しを意にも介さずニヤリとした笑みを浮かべてくるボールスさん。なんだろう、本当に逞しいというか、生き抜く強さがあるんだろう。

 

「ま、この辺で燻るようなタマじゃねえんだろ? もっともっと下に行っちまうようになれば、ここなんてただの通過点だからな。何か用事があって金を落としてくれるっつぅんなら俺達(リヴィラ)はいつでもお前(冒険者)を歓迎するぜ」

 

そう言うボールスさんの顔は、悪どい笑みが浮かべられていた。

 

 

 

その後、アキさんの交渉(と言う名の半分脅し)によって、僕用のテントを購入した。後払いで、かつ、付けられていた値札から5割ほど値引かせていた。それでも、地上の3から4倍近い値段だったけど、アキさんの交渉を受けていたボールスさんも笑っていたし、アキさんが少しお花を摘みに離れた時に聞いた話ではこのくらいの値引きは暗黙の了解だそうだ。

 

お前さんを鴨にすると、この街が焼き払われかねんからな、と笑いながら言うボールスさんは色々と教えてくれた。曰く、付けている値札から3から5割の値引き交渉はザラだとか、小さな構えの店こそ余裕がないところが多いから気を付けろとか、俺のところ以外だと信頼できる店主の店は…と何店舗か教えてくれたりとか。

だから、つい、聞いてしまう。

 

「どうしてそこまで教えてくれるんですか?」

「あぁ? まぁ、ロキ・ファミリアを相手に喧嘩を売るつもりはねえってのと…そうだな、期待の新人相手に恩を売るため、だな。贔屓にしてくれよ?」

 

先行投資って奴だ。どうせ、この街に、冒険者に慣れていくうちに知れることだからな、こんな安い情報で未来の一級冒険者様に恩を売れるなら海老で鯛を釣るようなもんだ! と豪快に笑うボールスさんに、僕はなんとなくこの人は良い人だ、と思ってしまう。

 

「だからって、必要以上に気を許すんじゃないわよ、ベル」

 

ちょうど戻ってきたアキさんに、しっかりと釘を刺されたけど。

 

 

 

「さて、じゃあレフィーヤ達のところに一度戻って、準備を終えたら下に行きましょうか」

「はいっ」

 

そうして、僕達はリヴィラの街を後にする。近くの丘へと登ると、そこには既に薬草採取を終えたのか何やらシートの上に葉っぱや茎を並べている2人の姿があった。

 

「あ、お帰りなさい、2人とも」

 

僕達が近付くと、それに気が付いたレフィが声を掛けてくる。

僕もそれにただいま戻りました、と声を掛けながら一度荷物を下ろす。

 

「ただいま、で、何してるの?」

 

アキさんの質問に、アミッドさんは黙々と動かしている手を止めずに答えを返す。

 

「薬草の仕分け、ですね。葉と茎で効能が違うものも多いので、分けて保管しておかないといけないので」

「ふぅん…これとこれ、分けてるけど何が違うの?」

 

そして、しゃがみながらシートの上に置かれている葉っぱを2つ手に取ったアキさんが更に尋ねる。それには、レフィが答える。

 

「左手に持っているものは、ポーションの原料になります。右手のものは良く似ていますけど、そちらは毒薬の原料ですね。故郷の森にも沢山生えていました」

「へぇ…」

「申し訳ありませんが、もう少し待って頂けますか? 後、そうですね、20分ほどで整理し終わると思いますので…」

「急ぐわけでもないし、今回はアミッドさんの依頼なのでそれは何も問題ないですけど…手伝えそうにはないですね」

 

僕が言葉を発すると、アキさんもうんうん、と頷く。

 

「全然見分けつかないから、下手に手を出したらぐちゃぐちゃにしちゃいそう。ベル、こっちで待ってようか。久々に手合わせでもする?」

「折角ですし、是非お願いします…今日は槍を使いますね」

 

そして、万が一にも2人を巻き込まないように距離を取って僕とアキさんは武器を構えた。アキさんとの手合わせは、結構久々かもしれない。

正統派の剣術とも言える、綺麗な戦い方をするアキさんの動きは色々と参考になることも多い。

 

 

 

丘の上に、剣と槍が衝突する甲高い金属音が響いた。




アキさん寝相悪い設定(自己解釈)
まぁ、猫人ですし多分悪いよね、と。

ベル、性的衝動はまだ薄いと言う情報を出していく。
まぁまだ13歳ですしね。

ベル、ボールスと知り合う。

ベル、アキと久々の手合わせ。

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