ラビット・プレイ   作:なすむる

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8話 胸中待望

落ち着いたベルが、レフィーヤと共に館へ帰ったところ。

先に戻っていたロキはリヴェリアからの説教を受けていた。

悪戯に問題を増やそうとするんじゃない、といつになく真面目な顔で説教をされていたロキだが懲りる様子もなく笑っている。

 

説教の内容を聞くにつれ、ベルの中でロキに対しての罪悪感に加え自分自身が怒られているかのように感じて意気消沈としていく。

 

「わ、悪いのは僕なんです! どうしてもじっとしていられなくて…」

 

そして、説教に割り込む。む、と一言呟いたリヴェリアはベルと、隣にいるレフィーヤの姿を横目に見てため息をつく。

説教を続けたいところではあるが、ロキには効かない上にベルに効いてしまうだろうし、止めざるを得ないかと思いながら。

 

「…おかえり、ベル、レフィーヤ」

「おかえり~、聞いたでー二人とも。なんやデートしてたんやって?」

「「してません!」」

 

神の一言により、ベルの雰囲気が戻る。わたわたと顔を真っ赤にして否定する。

レフィーヤさんとデート…デート? と頭に浮かべたところで今日のことを思い返す。

カフェで女の子と二人、食事をするのは立派なデートなのでは…と思いつつ、その後の自爆による羞恥心がこみ上げてきてますます顔を真っ赤にする。

レフィーヤは全く…と呟きながらため息一つで顔色を戻すが、横にいるベルの様子がおかしい。耳まで真っ赤にして、落ち着きなくもじもじとしている。

 

「ははーん…一体何があったんや?」

 

にやにやと寄り付いてくるロキに、なんでもありません! と叫んで逃げ出す。ドアを開けようとドアノブを掴むその瞬間、ドアノブが手から離れていった。

え、と思う間もなく開いたドアから人が入ってくる。

 

「…見つけられなかっ…ベル?」

 

それは、ベルのことを見つけられずに諦めて帰ってきた『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインその人で。

Lv5冒険者の力であれば避けることもできただろうが、避ければつんのめった様子のベルが頭をドアか廊下に強かにぶつけてしまうだろう。

そこまで、このわずかな時間で考えたのか考えることもなくその手段を取ったのかはわからないが、彼女は彼を受け止めた。

 

転びそうになり、頭の位置が下がっている彼を全身で受け止めたのである。具体的には、今日、固いところに叩きつけられた不運なおでこが柔らかいものに包まれている。

 

 

「ほぁああぁぁぁっ!?!?!?!?!?!?」

「良かった、ベル、帰ってきてたんだ…おかえり」

 

そんな彼の頭を、ぎゅっと抱きしめて撫でまわす。

 

「!?!?!?」

 

顔面を胸元に完全に抱え込まれた彼は、脱出の糸口を探す。段々、ギリギリと締め付けられる頭に痛みが増すにつれて焦りだすも、アイズの腕が解かれることはない。

 

ロキは爆笑、リヴェリアは頭痛を感じたのか頭を押さえ、レフィーヤはどちらを怒るべきか悩んでいた。

 

「ベル!? 何をおとなしくしているんですか! そんなに胸がいいんですか!?」

 

結局、憧れの先輩に怒気を向けるわけにもいかず、哀れ捕らえられた兎へと怒りが向かう。若干、怒り方はそれでいいのかと思わなくもないが。

 

「!、!?!?」

「でももだってもありません!! いいから早く離れなさい!!!」

「なんで伝わってるんやあれ」

「私にもわからん」

「!?、!!……きゅう」

「…え? あ、アイズさん、締まってます! 呼吸できないのは流石にダメです!」

「…あ、つい」

 

今日もまた、自らの意識の及ばぬところで眠りにつくことになったベルの姿がそこにあった。

 

意識のないうちに、もしかしたら途中で目が覚めるかもというアイズによって食堂へと背負われていった彼には男性陣からの嫉妬が飛び交い、膝枕で寝かせられている様子には殺気が飛んだ。

結局、その日目を覚ますことはなく、また、知らぬ間に朝を迎えることになった。

 

次の日の話、とやらは結局まともに聞くことができなかった彼を待ち受けていたのは、地獄のような日々の始まりであった。

リヴェリアからは今までの倍近い授業が。レフィーヤからは理不尽ともいえる程の魔法に関する訓練と教育が。アイズからはもしやサンドバッグだと思われているのかと疑うほど苛烈な組手が。

メキメキとステータスこそ伸びていったものの、毎日ぼろ雑巾のようになっている彼に他団員は深く同情した。

これを乗り越えれば迷宮に入れるという熱い思いを胸に、なんとか毎日を乗り切る。

 

そんな時間が二週間ほど過ぎ、ようやく迷宮入りを解禁された。それは奇しくも、ファミリアを挙げての遠征を行う日であった。




ちなみに時系列(ベル目線)
1日目 オラリオ到着、ファミリア探しに奔走。
    エイナさんはこの時点で心配していたが、中小ファミリア(探索・生産系含む)の一覧を渡した後来なかったことからどこかに入団できたんだと安心する
16日目 レフィーヤに拾われる、ロキファミリア入団
17日目 レフィーヤに伴われて冒険者登録に、エイナ、キレる
23日目 ダンジョンに初めて入る
24日目 勝手に一人でダンジョンへと入る、死にかける
31日目 再度、勝手にダンジョンへ一人で入る(プロローグ)
32日目 シルと出会う、レフィーヤとデート(本編)
33日目 地獄の始まり
~   地獄の中、なお、膝枕は実装されている模様
48日目 ダンジョン解禁、なおステータスは軒並みE~

まあ、正史より一年前ですし。問題は特に起きていない状態
代わりに、正史と違い魔導書は手に入らず、リリとの出会い、ぴょん吉との出会いがなかった

ここまで冒険者登録からおよそ一か月

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