ラビット・プレイ   作:なすむる

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89話 着替白兎(6)

「全く…皆、面白半分にも程があります。後半、準決勝までは女装ばっかりだったじゃ無いですか…いえ、確かに似合ってはいましたけど」

「あはは…段々遠慮がなくなってきましたもんね。皆」

 

最初のうちは4〜5人に1人、女装や少し過激な服が用意されていたのだが回を重ね、勝ち残り、生き残っていくうちに段々はっちゃけた女装や、明らかなほどに個人の趣味嗜好を重ねたものが増えていった。

 

清涼剤だったのは、レフィとリヴェリアさんくらいだ。アキさんも3回戦くらいでとうとう壊れたようで、いや、初っ端も初っ端からちょっとおかしかったけどそれはまだ可愛い程度だったようで。

女物の服を着せられたと思ったら唐突に目を輝かせてビリビリと破かれた時は正直冷ややかな目で見てしまった。

これで完成よ! と言うアキさんは僕の顔を見ていなかったようだ。わざわざ丁寧に破かれたタイツに視線が向いていた。

 

満足そうな表情で顔を上げ、ようやく僕の表情を見てそれに怯んだアキさんは謝りながら別の服を出してきてくれたけど。

 

意外と女装ばかり用意してきたのがリューさん。3回戦目でレフィに敗れたけど、最後は白くてフリっフリなワンピース。リューさんがしれっと男装して、僕をエスコートしてくれていた。その前のフレイヤ様を見て思い立ったらしい。うん、配役は逆だったけどね。

1回戦目は酒場の制服。2回戦目は極東の着物。元々は友人の物だとか。

 

「…こんなにもちゃんと、男の子だと言うのに…皆、ベルのことをわかっていませんね」

「そう言ってくれるのはレフィだけですよ…後はフレイヤ様もちゃんと男として扱ってくれている気がしますけど」

「フレイヤ様はやはり侮れません。流石は美と豊穣を司る女神様です………どれもベルによく似合っていましたし…

 

そして、そんなことを話しながらレフィの用意してくれた服に着替える。

 

って、え゛。

 

袋の中身を見た手に取った僕は、そのあまりの衣装に愕然とした表情で固まってしまった。

恐る恐る再確認しようと広げ、心臓は焦りからか脈動を早める。

鳴り止まぬ頭痛にくらりとしながらも、耐えて扉の向こうのレフィに確認を取る。何かの間違いだと、そう信じて。

 

「あの…レフィ? これ………中身、間違えてませんか?」

「いーえ、それで合ってますよ?」

 

そんな僕の一縷の希望は、バッサリと絶たれた。

 

「え、でも、これ…」

「早く着てください。まさかここまで来て決勝戦を不戦勝で終わらせる…なんてことは、ベルはしませんよね?」

 

も、もしかして、レフィが真っ当にここまで勝ち上がってきたのは…最後の最後、これの為に…っ!?

 

その服は、パッと見たらただのバニースーツだった。

僕もここまで色々着てきた。()()()バニースーツなら誰かさんが用意して無残に破かれ、とても危なく何かの事件のように見えた超ミニスカよりかはまだマシだろう。そう思った。

 

だけど、広げた時にようやくその全容が見えた。

 

普通なら、胴体を黒布で覆い、網タイツを履き、肩から腕を露出する。

 

でも、これは()

 

胴体が網のボンテージのようなもので覆われ、肩から腕、太腿から下をピッタリとしたボディスーツで覆う。一応、いけないところは見えないように工夫されているけど…いやこれ、まずいでしょ…?

 

「ベル、ほら、早く着替えてください」

「ちょ、ちょ、ま、待って…レフィ、お願いだからこれは…」

「大丈夫です、ちゃんとダメなところは隠れるようになっているはずですから! だから、さぁ!」

「で、で、でも、これ、これぇっ!?」

 

騒ぎ立てる僕、開くドア。

 

「ほら、もう、潔く着てください」

 

にっこりと満面の笑みで、レフィがそう言ってくる。

 

「は、入ってこないでぇ!? レ、レレ、レ、レフィの裏切り者ぉぉぉぉぉお!!?」

 

盛大に焦り、涙目になりながら逃げ回る。

 

「…ふっ、ぷ、あはは、冗談ですよ、冗談。本当はこれです」

 

そして、そんな僕を見て笑うレフィ。

ちゃんと用意していたのか、もう一つ袋を差し出してくる。

 

「よ、よかった…ってまた同じようなバニー!?」

「いえいえ、実はこれ、ちゃんとジャケットになっていて…ほら、中のベストがあるんですよ。これが、バニー服と似たような見た目になっているんです。配色は逆ですけど」

 

…本当だ。ダブルボタンで締める白いベストが入っている。

 

着てみた。確かに遠目にはバニーに見えるけど、近くで見ると割とちゃんとした格好に見える。良かった、焦った。最後の最後でこんな罠があるなんて思いもよらなかった…なんか悔しい。

 

さっきの仕返しだろうか、でも、僕もこれじゃ気が済まない…そうだ。

 

「あ、じゃあ、レフィもバニー着ましょうよ! 一緒にステージ上がりましょう!」

 

そんな提案をする、それを聞いて、レフィは顔を真っ赤にして僕から距離を取る。

 

「…な、な、な…べ、ベルは私に()()()()()を着させたいんですか!?」

 

着替え終わり、僕が手に持っている服に指を差しながらレフィが叫ぶ。それを聞いて、僕は首を傾げた。

 

そして手元を見る。気が付く。

 

「…っ、あ! いや! これじゃなくてですね!? 普通の! 普通のバニーを!?」

 

僕が手元に持っているのは先程僕が着せられそうになっていた逆バニー、それを手に持った状態でバニーを着て、なんて言えば誤解されるのも当然だ。じとーっとした目を向けられる。いや、でも、元を辿ればこんなのを用意したレフィが悪い。

 

「…うむむむむ、恥ずかしいですけど…お揃いで写真というのも…フレイヤ様はそれが目的だったようですし、私も1枚くらい…でもバニー…うぬぬぬぬぬぬ」

「あの…嫌ならいいんですよ…? そんなに悩まなくても…」

「…いえ、着ましょう。折角ですし、この空気ならなんとかいけそうです」

 

 

 

そして、満を持してバニー姿のレフィとバニー姿の僕がステージに上がる…なんかこの格好、カジノのディーラーみたいな感じだなと思ってトランプを片手に。

 

「…っ!」

「フレイヤ、無言でカメラ構えるなや…外に漏らしたらわかってるやろうな?」

「あの子のこんなにかっこかわいい姿、漏らすわけないじゃない…永久保存よ!」

「色ボケてまぁ…ちょお落ち着けやフレイヤ、魅了がだだ漏れとるで。うちの子は渡さへんぞ」

「あら嫌だわ、はしたないことをしてしまったわね…」

 

正面ではフレイヤ様とロキ様が会話している。会話しながらも凄まじい速度で魔道具が動いているけど…。

何人かの視線は僕達じゃなくて、フレイヤ様に向けられているようだ。

 

「む…」

「ん…」

 

アイズさんはその手があったか、みたいな顔をしているし、リューさんもこちらを凝視しながら何かを考えこんでいる様子。

 

そして、クロエさんはうずうずしながら僕と、僕の手にあるトランプを見ている…トランプ、好きなのかな?

 

…なんか、獲物に飛び掛かる前の猫のような目をしてる。投げてみよう。

 

…あっ、アーニャさんとアキさんも参加して空中戦になった。凄いなアレ、猫人ってみんな、あんな凄い空中機動出来るのかな。

 

レフィもレフィで、エルフの人達や女性陣から囃し立てられて顔を赤くしている。男性陣からはあまり囃し立てる声が飛んでこないのは、リヴェリアさんへの恐怖だろうか。

 

「…ベル、ちょっとお願いがあるんですけど…その、写真用にですね、あの…その」

 

ステージ下のみんなからの声に応えていると、くいくい、と服を引かれる。そちらを見ると、顔を真っ赤にしたレフィが。

 

近くまで寄ってきていた人達と話をしていたかと思った直後だ。

 

「な、なんですか?」

「えぇっと…そのぉ…」

 

もじもじとして身体を揺らしながら口籠るレフィ。紅くなっている頰と合わせて、非常に可愛らしい。僕までドキドキしてくる。

 

「…お、お姫様抱っこを…ですね、その…してもらえないかなと…はい…」

「…お、お姫様抱っこ…は、はい…わかりました」

 

その口からようやく出された希望は、可愛いもの。

とは言え、衆人環視の中でやるにはなかなかハードルの高いものでもあった。だがしかし、女の子の方から言われて断るほど、僕は腰抜けじゃない。

 

スッと片膝をついて、両腕を広げる。

 

「…どうぞ」

「は、はい…」

 

レフィが、僕の膝の上に横向きに座るようにしながら腕の間に収まり、僕の首に腕を回す。

…バニー服だと普段は服に覆われていて見えないレフィの、意外と豊かな胸部装甲と谷間が直接見えて心臓に悪い。今だけ萎んでくれないかな。以前、ロキ様の部屋で見てしまったことを思い出してしまう。

 

迷宮探索の時に忘れたつもりだったけど、全然忘れられてないじゃないか…。

 

そんなことを考えながらも、レフィの体勢が定まったようなのでレフィの背中と、膝裏に手を回す。ぎゅっ、と互いに力を込めてしっかりと身体を近付けて、ゆっくりと立ち上がる。

 

それを見て、皆は大いに盛り上がる。

 

僕もレフィも顔を真っ赤にした。

 

「うぅ…予想以上に恥ずかしいですね、これ。逃げ出せないですし…」

「いや、ここまでやって逃げられたら僕、大恥もいいところなんですけど…逃げないでくださいよ」

「…ベルも顔、真っ赤じゃないですか」

「そ、そりゃ…そうもなりますよ。それに、レフィの格好も…」

 

皆から声が掛けられる中、僕らは顔を赤く染め上げたままヒソヒソと会話をしていた。レフィは顔をあまり見せたくないのか、僕の方を向いて僕の顔の横に自らの顔を収めている。

 

レフィ…エルフの長い耳が、時たま僕の耳や頰と触れ合う。

 

そして、互いに相手の耳に届く程度の声でヒソヒソと話している。

 

僕の内心は、レフィが身体をこちらに向けたことで押し付けられている柔らかいものから意識を逸らすことでいっぱいいっぱいだったけど。

 

 

 

どうにかそのまま何事もなくステージを去り、僕達は一息付いた。

 

「…ありがとうございました、ベル、最後はアイズさんですね…」

「いえ…また着ぐるみですかね」

「それはわかりませんが…でも、私は勝ちますよ。ベルの為にも私の為にも

「僕の為…? どういうことですか?」

 

レフィの言葉に怪訝そうにする、そんな僕の言葉にレフィも僕と同じような表情になる。

 

「…あれ、ベル、聞いていないんですか?」

「何をですか…?」

「あー、聞いていなかったんですね。実はですね、優勝者にはこの着せ替え大会を実施するにあたって集められた寄附金…の一部から、なんとペア旅行券がもらえるんです」

 

ペア旅行券…えっと、つまり?

 

「つまり、ベルと優勝者が2人で旅行に行くってことですね。これは団長やロキも承諾済みで…無理矢理ですけど、迷宮や鍛錬から離れて身体を休めろという意図があるようですよ。なんでも、あの聖女様から強く言われたようで」

「アミッドさんが…? あ、いやでも僕、そんな…」

「ふぅ…あのですね、ベル。貴方が気付いていないだけで間違いなく身体はかなり疲弊しているはずなんです。その原因の一部は私にもありますけど…元々衰弱して野垂れ死にそうになっていたところからあれだけ迷宮で死にかけて、ミノタウロス戦で死にかけて、インファントドラゴンとの死闘、アキさんとラウルさんとの迷宮探索でも死にかけて、団長達の訓練では身体を酷使して、アポロン・ファミリア団長との激闘をこなして大樹の迷宮でも死にかけて…まだ冒険者になって半年程度でこれだけのことをしているんですよ? いくら神の恩恵を受けているとは言え、間違いなく疲労しているはずなんです」

 

………改めて人の口から聞くと僕、よく生きてるな。

 

「だから、ゆっくりと身体を休めるいい機会だと思ってください。この都市にいたらなんだかんだで身体を動かして、休んでいないじゃないですか、ベルは」

「うぐっ」

 

痛いところを突かれる。最近でしっかり休んだ日といえば…リヴェリアさんに甘えっ放しになった1日とここ5日間くらいだ。

それでも本を読むだけじゃ物足りずに身体を動かしたくなって1人で鍛錬はしていたけど。

…1日、6時間くらい。

 

うん、鍛錬してないと落ち着かないとも言う。

 

「…そういうことなので、私かアイズさんかどちらかと4泊5日の温泉旅行に行くことになりますからね」

「4泊5日も2人きり…!? しかも温泉!?そ、それならベートさんとかフィンさんとかラウルさんが勝ち上がってくれれば…って、あ、フレイヤ様が明らかに不正に落とされたのってそれで…!?」

 

女の子と2人きりで温泉旅行って…逆に気が休まらない気がして仕方がないんだけど。身体はまぁ、休められるかもしれないけど。

それに、フレイヤ様が明らかに落とされた原因もわかった。

そんな特典があるなら、確かに勝たせるわけにはいかないと思う。

 

「流石に、他派閥の主神様とベルを2人きりで都市外に行かせるわけにはいきませんからね…フレイヤ様も理解しておられるようでしたけど」

 

では、そう言うことなので、と言い残して去っていくレフィ。

 

ここまで来たら、どちらが勝ってくれた方が僕にとって安心安全で気楽で、楽しい旅行を送れるのか考える。

 

…レフィかなぁ。アイズさんかなぁ。難しいところだと思う。

一緒に旅行に行きたいのがどちらか、と考えても甲乙つけ難い。

 

…これならベートさんかラウルさんかフィンさん、せめてリヴェリアさんが勝ち上がってくれていれば良かったのに…。

 

男性陣と一緒にならあまり気を遣わずに済むし、リヴェリアさんとは…目一杯甘えても、うん、許してくれそうだし…少しくらい甘えてもいいんだよね、きっと。

 

お母さん…記憶には残っていないけど、もしいたら、リヴェリアさんみたいな感じなのかなぁ…。

 

 

 

そうして考え込んでいると、アイズさんが現れる。その手にはまた着ぐるみが…ない?

 

手には、袋が一つ。普通の服が入る程度の袋だ。

 

一体、何が入っているんだろうか。




遅くなりました。
新しいR-18小説の方の更新と仕事多忙につき執筆時間が取れず…

次回で着替編は終わりになります。

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