感無量でございます…!!
それと、誤字脱字報告…!!
これホントありがとうございます!助かります!!
それとコチラ、参座の身体に入っている墨です。
【挿絵表示】
今回の話を、より楽しめると思うので、気になった方はぜひご覧ください。
ようやく。
ようやく蝶屋敷へたどり着いた。
時刻は丑三つ時。
参座は、カナエの顔を早く見たかった。
それは、背中の重みが抜けた、あの玄関口から。
振り向いて、一緒に来ないか?と言い出したかった。
それでも、こうして自分の足を前へと進めるのは。
しのぶや、みんなからもらい受けた刃を背負っていたからだ。
そうして、がむしゃらに走って。
沙代を肩に担いでも、寝ずに見張りをし。
限界ぎりぎりで何日も走り続けた。
鬼殺隊最強、人知を超えた能力の参座といえど、さすがに疲れが溜まる。
玄関の錠を開けるために持った鍵も、心なしか重く感じる。
「…おおい、帰った。誰かおらぬかー…」
蝶屋敷玄関で疲れ果てた声で小さく呼ぶと、屋敷の廊下は真っ暗。
人の気配はない。
「まあ、それもそうかの…」
今日帰るという連絡もしていなかったし、仕方ないかと観念した参座。
そのまま、とぼとぼ歩いて居間に向かう。
するとどういうことだろう。
襖の間から、光が漏れているではないか。
さては、しのぶかアオイが仕事したまま寝落ちてしまったのかと襖を開けた。
しかし、そこにいたのはカナエだった。
食卓机に突っ伏して眠っていた。
カナヲがその横でカナエを背もたれにして眠っている。
ああ、何と愛しいか。
なんと心が休まるか。
参座はそのままの勢いで抱き着いてしまいそうだった。
「…風邪をひいてしまうの」
参座は客間から毛布を二枚持ってきて、二人にかけた。
それから、一人で風呂を焚き、数日分の疲れを癒す。
一つだけ灯篭を持ち出し、上の窓枠に置く。
薄暗い中、湯船につかって天井を見ると、沙代と行冥が笑っている顔が浮かんだ。
「おお…さすがに疲れたでな。しみるのう…」
さて、身体の汚れを落とそうかと湯船から上がり、風呂椅子に座ったとき。
「お背中、お流し致しましょうか?」
後ろから声がした。
…カナエだ。
ここ数日、一瞬たりとも忘れなかった声が、今後ろから聞こえた。
「…頼もうかの」
「…参座くんの墨。身体のは初めて見たかな」
「そうだのう。ワシのはひけらかすものではないからのう、人に見せようとはあまり思うておらぬ」
参座の背中には特大の雛菊が、煌びやかに咲いていた。
「花言葉は、純潔と美人、それと…平和、希望。だったかな?」
「カナエは博識だのう」
参座が背負うものは…。
そして、鏡で参座の正面が見える。
「それと、胸。阿吽がいるのね」
「左様。阿吽とは、万物の始まりと終わりを示す」
カナエは参座の後ろから胸に手をまわし、その阿吽に手を乗せる。
「右腕の龍と、左腕の涙を流した鬼は?」
「…神よりの使い、龍で首を取り。左の鬼で、斬られた者の罪を引き受けるという願掛けであった」
「この身体一つに…たくさん背負ってるんだね…」
カナエは参座の背に頬をつけ、身を預ける。
「嫁を鬼にされた、彫師より賜った。そして、この心の臓の真上。この梵字は、バンという。大日如来の梵字であり、それが意味する言葉とは…大いなる日輪」
様々な意味が、参座の身体に刻まれている。
この大きな背中で咲き誇る雛菊は。
何よりも強いその龍は。
涙を流す優しいその鬼は。
始まりと終わりを望む阿吽は。
参座を動かす心臓は。
大いなる日輪により、照らされている。
「あったかいなぁ…参座くん」
「この心で燃える炎は、ワシの愛する者たちによって薪をくべてもらっておるのだ。そして、カナエ。ヌシが送ってくれる風は、この炎をより大きくしてくれるでな」
その時、カナエの顔が参座の肩に乗せられる。
二人は、頬をくっつけ目を瞑った。
「カナエ…ワシと出会うてくれて…ありがとう」
「参座くん、生きていてくれて、ありがとう」
そして、カナエが身を少し乗り出して。
その唇が、重なると思えたその時。
かこんっと、脱衣所から音がした。
二人は恐ろしい速さでそちらに目をやった。
なんとそこには。
カナヲがいた。
「あ、あら!お、起きちゃったのねカナヲ!」
「さ、さぁて!ワシはか、身体でもあらおうかのう!」
カナヲはただ黙って二人を見つめる。
だがその背中に、龍を見た。
カナヲは着々と上の姉妹が持つ女の迫力を身に着けているのだな…と、参座は戦慄した。
そんなカナヲをカナエが抱きかかえて行った。
しん、とした風呂場で。
参座は己の身体を一人寂しく洗った。
水滴のせいか、左腕の鬼がいつもより泣いている気がした。
その頃、カナヲを攫ったカナエは蝶屋敷の自室に敷いてある布団に入り、カナヲを呼んでいた。
「か、カナヲ?さ、いつもみたいに一緒に寝ましょ?ほら!お、おいで?」
布団をめくり、カナヲを呼ぶ。
しかし、依然カナヲはものすごい瞳でコチラを見続ける。
そして、何も言わずに部屋を出た。
すぐ隣の部屋の襖が開く音がしたので、しのぶの部屋へ行ったのであろう。
「もっもう!カナヲまで!もうしらないもん!ふーんだ!みんな知らない!そうやって私を悪者にするんでしょ!いいもん!」
カナエは心労で幼児退行した。
そこへ風呂を上がった参座が客間から拝借した布団をもって部屋に来た。
「…そういじけるでないカナエ。あれはワシらが悪かろうて。明日、一緒にあやまるでな」
「…わかった」
時々、大変子供っぽくなると参座は苦笑いしながら布団を敷こうとした。
「え?何してるの参座くん」
「…なにって。寝床を作っておるのだが?」
「おいで?」
カナエはカナヲにするように自分の布団をめくった。
「いや、しかし…」
「お・い・で?」
圧がすごい。
「今日だけだからの…」
観念した参座は、初めて一つの布団でカナエと眠った。
心臓が自分のものではないようだった。
カナエが後ろから腰に手をまわしてくるものだから、なおのこと強く脈打つ。
「…ねえ…なにもしないの?」
疲れているというのに、まったくどうしたことか。
眠気など当に宇宙の彼方。
「やめい…心臓に悪くて敵わん…」
「もう、意気地なし…」
カナエは、参座が手を出してくるとは思えなかったが、あんまりいい雰囲気なのに手を出してこないので小さな文句を投げた。
すると参座がくるりとこちらを向く。
そして、今度こそ。
カナエに唇を重ねた。
「おやすみ、カナエ」
そういうが早いか、参座すっと向こうに身体を翻した。
呆気にとられたカナエだったが、参座の背中を強く強く抱きしめた。
愛しいもののにおいに包まれ、カナエはそれはそれは心地よくまどろみに落ちた。
しかし参座は、カナエの胸の感触を背中に感じ、まったく眠れなかった。
ーーー
産屋敷より、任務終了後の翌日は非番にしてもいいといわれていたのもあり、参座は太陽が真上に上がるまで、カナエの布団で眠りこけていた。
その心臓を落ち着かせるのに、アオイとしのぶが仕事の為に起きた足音が聞こえたところまでは記憶があった。
そして、正午の日光がとうとうその眠りを妨げた。
「…全く寝た気がせんの…」
半目で天井を見上げる。
隣にカナエの姿はなかった。
しかし。
何やら膨らみがある。
子供一人分くらいの。
「カナヲ…ヌシ、なにをしとるでな…」
カナヲだった。
参座の着流しの背を硬く握っていた。
「…カナエ姉さんが…独り占めするから…」
「そうカナエを邪険にするでない…。ああ見えてワシもかなり苦労を掛けているでな…ワシからの願いじゃ。優しくしてやってくれぬかの?」
カナヲは黙って考えた。
「…参座さんの…頼みなら…。不本意だけど…」
「不本意とは…。しかしカナヲ、ヌシはとんと姉に似てきたのお」
「姉妹…だから…」
堪らず参座の口は弧を描く。
「そうだのう。優しい姉達だの」
参座は起き上がり、布団を畳む。
しかし、その間もカナヲは参座の着流しから手を離さなかった。
下の階から、昼餉のいい匂いがした。
もうそんな時間かと、参座は下へ降りる。
そして居間へ向かうと、空気が凍っていた。
「…アオイ、これはどういうことだの?」
「いま、子供達が三日ほど前から喧嘩中でして…」
朝。
カナエが起きぬけに、参座が帰ってきたから昼餉は多めに作ってくれとアオイは頼まれた。
参座が無事帰ってきたのは大変喜ばしかった。
それに、これでやっとカナエの機嫌が最高潮を迎え、しのぶとも仲直りしてくれると高をくくっていた。
しかし、現実は非情かな。
全くそうはならなかった。
「…察するでな、アオイ」
「参座さん、鶴の一声…お願いします」
アオイの気苦労を察した参座は、まさか起きて一番最初が喧嘩の仲裁だなんて思ってもいなかった。
「…なにがあったか知らんがの。二人ともいい大人じゃろうて。いい加減、気を持ち直さぬか。カナエ、ヌシは姉じゃろうて。妹の粗相など多めにみてやれい。しのぶ、ヌシももうこの蝶屋敷を預かる身。そう癇癪を起していては、皆困ってしまうでの」
「「…だって、しのぶ(姉さん)が…」」
「ええい、だってもへちまもないわい。ほれ、手を貸せい」
お互いを指さして、不満そうに参座を見る二人。
その手を、参座が無理やり掴む。
そして二人の身体を近くまで引っ張って。
「よいか、こうして…。ほれ、お互い手を握れ。うむ、そうじゃそれでよい。ヌシら姉妹は時々目も当てられぬほど素直じゃない時があるの。なれば、本当は何が言いたいのか。ここで伝えればよいて」
こうまでされて、さすがに観念したのか、カナエが口を開く。
「…私は、今とっても幸せなの。参座くんが生きているから。だから姉さんは、しのぶにも幸せになってほしいの…。でも意地悪しちゃったわ、しのぶがあんまり可愛いんだもの…。大人げないことして、ごめんなさい」
「…私は、大丈夫だから。姉さんは、姉さんの幸せを追いかけてほしい。鬼殺隊でいつ死ぬかもわからないのに、ずっと私のことばかり気にかけてくれてきたんだもの。もう、私は大丈夫よ…カナエ姉さん…」
やっと当たり前の日々を手に入れた二人だから。
親を亡くしてから、ずっとお互いのことを思いやってきた二人だから。
本当に、よく似ている。
ぎゅうと。
参座の着流しを握るカナヲの手に力が入る。
「…ヌシの姉は本当に優しいの。カナヲもそう思うでの?」
そして、カナヲは参座の着流しから手を放し、カナエとしのぶの元へ寄る。
小さな両の手を伸ばし、二人の着物を掴んだ。
「「カナヲ…」」
三姉妹は、しゃがんみこんで、抱き合った。
参座は尊いものを見て、笑顔になる。
アオイは、最初から素直に言えばいいのにと文句を言っていたが、その表情からは喜びがひしひしと伝わる。
「オイ、誰もいねェのかよ…って、なんだァ?なんかの儀式かァ?」
玄関で呼んでもだれも来ないからずかずかと上がってきた実弥が、たまたまその光景を見て、つい口に出した。
参座は実弥と談笑している。
だが、三姉妹は固く、硬く。
しばらくの間、抱き合っていた。
今回もご愛読、ありがとうございます!
少し短めでしたが、お楽しみいただけたでしょうか…?
仕事がバタバタと入って数日忙しくなるので、更新が遅れてしまいますがご容赦ください…!
感想、心待ちにしております!