人柱達   作:小豆 涼

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ワシは斬ること以外は間違うてばかりだの。

炭治郎は蝶屋敷に運ばれる間、隠による猛攻を受けていた。

 

「あんた!!絶対許さないから!あんなに怒った人柱様なんて、見たことないわよ!!」

 

「柱の前ってだけで恐ろしいのに、あんなに空気がひりついたのなんてきっと鬼殺隊の歴史でも無えわ!!」

 

謝れ謝れと連呼された炭治郎は、その気迫に押され流石に一言謝った。

それから走って少し。

炭治郎を背負った隠は、蝶屋敷についていた。

 

「ごめんくださいませー」

 

「全然誰もでてこねえわ…」

 

玄関口で声を上げても、だれも出てこなかったので仕方なく隠達は庭へ回ることとした。

すると、カナヲの姿が見える。

 

「あ、人いる」

 

「あれは、ええと…」

 

「カナヲ様だ。胡蝶様の妹の」

 

隠の者たちがカナヲに屋敷に入っていいか問うと、カナヲは何も言わずに屋敷の中に入っていった。

 

「ええ…どうしたら…」

 

皆が呆気に取られていると、屋敷から一人の少女が出てきた。

 

「隠の方ですね。けが人はこちらへ運んでいただけますか?しのぶ様もすぐお見えになられるので」

 

どうやらカナヲがアオイを呼びに行っていたようだった。

それから炭治郎は薬を飲むのをごねている善逸と、喉のつぶれた伊之助に再会し安心することができた。

 

その間、アオイは善逸を静かにしろと叱ること二回。

しのぶが病室に来て、アオイをなだめるまでは声を荒げていた。

 

「それで、炭治郎くん…でしたっけ?鴉から少しだけ話は聞きましたが、柱合会議はどうでした?」

 

「はい…参座さんが、俺と禰豆子をかばってくれて。俺は本当に無力です…参座さんがいなければ、きっと俺も禰豆子もあの場で斬り捨てられていたかもしれません」

 

まあ、産屋敷としては炭治郎と禰豆子を柱に容認させる手立てがあったのだろうが、参座が丸く収めたということか。

しのぶがそう解釈すると、炭治郎はとんでもないことを口にする。

 

「参座さんが、俺たちの為に禰豆子を斬るなら自分を斬れって怒って、柱にひるまず丸腰で立ちはだかってくれて…。俺は、こんなすごい人に命をかけて守られたんだなって思うと、情けないです…」

 

この少年、今なんといった?

参座が柱と衝突したと言ったか?

しのぶは耳を疑った。

 

あの温厚で、柱をきょうだいのように慕い、慕われ。

どんな時でもその感情を激動させることのない男が。

 

「炭治郎くん、私には姉がいます。名前は胡蝶カナエ。いいですか?今日の柱合会議の話は、絶対に姉にしないでくださいね?」

 

炭治郎は察した。

その匂いなど嗅ぐこともなく、察した。

この人怒ってる…と。

 

 

 

ーーー

 

 

 

それから炭治郎たちかまぼこ隊のメンバーは、蝶屋敷で療養に入った。

その間、見舞いが数人来た。

まずは村田。

柱合会議で参考人として召喚された村田は、それはそれは恐ろしい思いをしたという。

 

そして、参座がやってきた。

 

「炭治郎、傷の具合はどうだの?」

 

「はい!もうだいぶ良くなりました!」

 

「うむ、それはよきかな」

 

「あの…柱合会議の時は、本当にありがとうございました…。俺、参座さんの前に言っていた、柱っていうのがどういう意味なのかって…全然わかってませんでした」

 

あの日感じた、己の無力。

それを思い出し、今生きているのは目の前の男のおかげだと思った炭治郎は、深く頭を下げた。

 

「ヌシは、本当に優しい子よのう。なに、気にすることないて。あれはワシが、ワシであるために必要であったのだ。それに炭治郎、ヌシがその心でワシを頼ったのだ。なれば応えぬわけにはいかんであろう?」

 

あったときに嗅いだ、優しいにおいが。

炭治郎の鼻孔をくすぐった。

 

「ヌシは、鬼舞辻無惨を斬ると豪語した。その言葉の誠意、このワシに示してくれること、楽しみにしておる」

 

ではの。

といい、参座はその場を後にした。

炭治郎は、身体が全快したら必ずこの足でお礼しに行こうと心に決めた。

 

それから数日。

身体が順調に回復した炭治郎たちは、しのぶに機能回復訓練を告げられる。

 

「善逸君はまだ手脚が治っていないので、まずは炭治郎君と伊之助君ですね。道場でアオイと特別講師の方がいますので、向かってください」

 

炭治郎と伊之助は、道場へ向かうため立ち上がる。

すると、しのぶがそうそうと何かを思い出したように炭治郎を呼び止める。

 

「特別講師の方は、水の呼吸の剣士ですのできっと炭治郎君の助けになりますよ」

 

それはありがたい。

炭治郎は気をよくして道場へと向かうが、隣の伊之助はまだ気弱になったままだった。

 

そして道場の前で襖に手をかけたとき、炭治郎は懐かしいにおいが鼻に入る。

どこかで、嗅いだことのあるにおい。

記憶をたどれば、すぐに思いついた。

 

鱗滝だ。

鱗滝に少し似通ったにおいがする。

しかし、もっと若々しくて…おそらくは女性。

 

一体誰だろうと思い、襖を開ける。

 

その先には、アオイと蝶屋敷三人娘。

そして。

 

優しい目をした、黒髪が外には向き腰に厄除の仮面を携えた女性隊士。

 

「あ、君が炭治郎?私は真菰。話は鱗滝さんから聞いてるよ。早速始めよっか」

 

名を真菰と、名乗った。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

「カナエー。帰ったぞー」

 

炭治郎が機能回復訓練をしている間。

参座はいつも通り警邏を終えて帰宅していた。

しかし。

今日の自宅は、極寒だった。

冬…というわけではない。

 

だのに、白い息が出るのではないかというほどに冷え切っていた。

 

「カ…カナエ?ど…どうした?」

 

冷気の発生源はカナエだった。

 

「参座くん、そこに座りなさい」

 

ぴしゃりと。

参座はその言葉に、本能でしたがった。

 

「私は今、怒っています。なんでかわかりますか?」

 

…心当たりがなかった。

 

「まきをさんから全部聞きました。先日の柱合会議…ひと悶着あったらしいですね?」

 

全てを悟った。

それと同時に、おのれ天元め嫁にしゃべったなと恨んだ。

 

「参座くん、私は悲しいです。参座くんの生き方は知っているし、もうそれはしかたないんだなって思ってんます」

 

「な、なれば仕方な「黙りなさい」…はい」

 

今日のカナエは、下手に触れば爆発する。

 

「私が、一番何が哀しくて、何に怒っているか。わかりますか?」

 

参座はとにかく頭をひねって考える。

これは、選択を誤れば血が流れる。

そう思わせるほどのカナエの怒気に、参座は冷静でいられなかった。

 

「…死を受け入れてもやむなしと思ったことかの」

 

「違います」

 

「えっ」

 

参座の頭には、まずいと言う言葉がよぎった。

 

「何がまずいんですか?」

 

その考えを悟られ、さらにまずいと思う。

 

「何がまずいか。言ってみてください」

 

「…どうかお慈悲を…」

 

鬼の大将かと思った。

カナエは一つ大きなため息を吐き、口を開く。

 

「いいですか、参座くん。今回のことは、仕方ないです。私も鬼と仲良くできればいいと、いつの日か参座くんと語り合った日があります。その私の想いに応えようとしてくれていたのかなとも思います。…それでも」

 

そこでカナエは、正座で座り込む参座の胸にすっと入ってくる。

 

「柱のみんなと、喧嘩したんでしょ?…痛いじゃない。苦しいじゃない…。どうして、私に言ってくれないの?あなたの哀しみや苦しみを、どうして今回は吐き出してくれないの?」

 

「…すまぬ」

 

「私は、たとえ参座くんが背負った刃たちを何もかも捨てたって、決して嫌いになったりなんかしない。だからお願い、あなたが苦しいと思ったり哀しいと泣き出しそうなときは、一緒に心を痛めましょう。一緒に枯れるまで泣きましょう?」

 

「…あの日。口づけを交わした時より。ワシは、カナエを決して悲しませまいと誓った。しかし、それは間違いだったのだな…」

 

「間違いなんかじゃない。でも、正しくもないわ…。口づけには、その数だけ誓いと意味があると思うの。私の口づけは、あなたの哀しみと苦しみを共に背負い、それでも一緒に笑うことなの」

 

「ああ…カナエ、ヌシは本当…ワシにはもったいない程の、できた女よのう…」

 

参座は涙を流し、そういって。

カナエの唇に新たな誓いを重ねた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

それから、機能回復訓練には善逸も参加し女性にドン引きされながらも勝ち星を挙げたころ。

炭治郎は自分が遅れを取っていることに焦りを感じていた。

 

しかし、善逸と伊之助がどれだけ速く身体を動かしても、真菰にはかなわない。

真菰が階級乙の隊士であるからといっても、確実に手加減している。

この訓練の間、真菰は一度も速さを変えたりはしていない。

そこにたどり着こうにも、全くたどり着けない。

 

本来であれば、アオイに勝った時点で合格。

しかし、真菰が無理言って同門の炭治郎に助力したいと名乗り出た。

そこで、産屋敷は禰豆子を守るということもありこれを承諾。

機能回復訓練とは名ばかりの、強化合宿だった。

 

そうして、善逸が諦めて現実逃避。

伊之助が負け続けたことにへそを曲げる。

道場へは炭治郎しか来なくなった。

 

「あなただけ!?信じられないあの人たち!!」

 

「あらー…ちょっとやりすぎたかな?」

 

アオイは怒髪天を衝く勢いで怒る。

真菰は少し難易度を上げすぎたかと反省した。

 

「あ、明日は連れてきますから…」

 

「いいえ!あの二人にはもう構う必要ありません!真菰さんも忙しい中せっかく協力してくれているというのに。あなたも来たくなければ来なくていいですからね。真菰さんには任務に戻ってもらいますので」

 

しかしさすが炭治郎。

己がこの訓練に打ち勝って、あの二人に効力法を教えればいいと己を奮い立たせた。

 

十日が経過した。

 

未だ真菰から一本も取れない炭治郎。

流石に気の毒に思った真菰だったが、さすが鱗滝の弟子。

何も言わない。

 

己で気が付き、ここまでくると信じて疑わなかった。

それに、自分に負けてほしくなかった。

 

そして、炭治郎がとぼとぼと廊下を歩いていると。

袖をしたから引っ張られた。

どうやら手拭いを渡しに来てくれたらしい。

 

「ありがとう!助かるよ、優しいね」

 

その言葉に気をよくした三人娘。

炭治郎は、全集中・常中のことを聞く。

 

それからは走り込み、そして呼吸を長く止める自己訓練。

少しずつでも、真菰や義勇…そして参座に近づかんと邁進する。

そして瓢箪を割るためにまた走りこみ、夜は全集中・常中をしながら瞑想。

 

ある日。

夜に蝶屋敷の屋根で瞑想していた炭治郎は、後ろから声をかけられて振り向く。

 

「炭治郎とは一度ゆっくり話してみたかったんだよね」

 

「真菰さん…でしたよね。鬼殺の任務で忙しいのに、いつもありがとうございます」

 

「ねえ、鱗滝さんは元気だった?」

 

「はい!とっても元気でしたよ!…会ってないんですか?」

 

「私はね、出来損ないなんだ。最終選別で、異形の鬼の首を斬れなかったの。だから、鱗滝さんに会う資格はないんだ」

 

自分は、藤襲山の最終選別で。

異形の鬼の首を斬れなかった。

鱗滝の弟子を好んで食うあの鬼を。

 

自分がその連鎖を斬ることはできなかった。

文はよく来る。

それに返事もする。

 

だが、顔を見せることはない。

それは何より、自分が許せないから。

 

「…錆兎が、真菰さんのことを話してました。あいつがいれば、もっと呼吸を鍛えれるけれど、それができないから、身体に刻めって言われてボコスカ殴られました」

 

錆兎。

義勇と共に最終選別へ行った兄弟子。

 

帰ってこなかったはず。

ならば、おそらく。

魂だけになっても、鱗滝を助けたいと現れた。

 

「つよいなあ、錆兎は。私はダメだね。ダメダメだよ」

 

「そんなことありません。真菰さんからは鱗滝さんみたいな、優しくて強いにおいがします。それに、鱗滝さんは時々手紙が来ると、とっても寂しそうなにおいがしてました。きっと真菰さんに会いたいんだと思いますよ」

 

「やさしいからね、鱗滝さん。私は会えないよ、柱でもないし。義勇だって会いに行ってないのに、私がのこのこいけないよ」

 

炭治郎は、この女性人をなんとか救ってあげられないかと心を痛めた。

しかし、自分がかけてあげられる言葉がなく、またも無力を痛感した。

参座なら、もっとなにか言ってあげられるのではないか。

 

「でも、炭治郎があの鬼を斬ってくれたんでしょ?…ありがとう。みんなきっとお礼を言ってるよ」

 

そういって、頭を撫でられた炭治郎。

どうしてこんなに優しい人が、苦しんでいるんだろう。

とても悲しかった。

 

「全集中・常中はどう?うまくできそう?」

 

「少しずつではありますけど、できるようになってきました!」

 

「そっか!炭治郎は筋がいいよ!私はもっともっとかかったもの!私も呼吸だけはよくカナエ様に褒められたよ」

 

「しのぶさんのお姉さんですか?」

 

「そうだよ。私は一時期カナエ様の継子として修業を受けたことがあるの。花の呼吸は水の派生だから。でも十二鬼月の首は硬くて斬れなかったの。だから継子はやめさせてもらったんだ」

 

そんな。

こんなに強い人でも、斬れないのか。

 

柱とは、どれほど強いのか。

改めて再確認した。

 

「それでも、刀を握るんですね…。真菰さん、あなたは強い人だ」

 

「ありがとう、炭治郎。さ!コツを教えるから、がんばろっか!」

 

それから真菰による呼吸の指導が始まった。

その教え上手さに、炭治郎は度肝を抜かれるのだった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

そしてついに。

炭治郎は大きな瓢箪を割り、真菰とのかけっこに勝った。

これに焦った善逸と伊之助。

ここで真菰の教え上手とその可憐さが光った。

 

できるできると励まされ、的確な教えを受けた伊之助は、そのままの勢いでうまく真菰に乗せられた。

善逸はというと、この訓練をうまくできたらデートすると約束して奮起させた。

 

それから数日して、炭治郎と伊之助の日輪刀が打ちあがった。

鋼鐵塚および鉄穴森と日輪刀についてひと悶着あったがそこは割愛。

 

全快した三人は次なる指令を受ける。

何やら、列車の乗客が次々消える事件が勃発していた。

大正にて開業した蒸気機関車。

 

炎柱、煉獄杏寿郎とかまぼこ隊が原因究明に向かう。

 

物語はいよいよ無限列車編へと向かう。

 

 

 

 

 




評価、感想心待ちにしております!
執筆の励みになります…!

そして次回からついに!
無限列車編!
煉獄さんの大活躍!!

次回もご愛読のほど、よろしくお願いいたします!!

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