人柱達   作:小豆 涼

15 / 27
お待たせしました…!!
今回は短めです…!

次回はたっぷり文字数書くつもりなので、お許しくだされ…!



ワシはそう毎日斬るわけではない。

「…それで?なにか言い残すことはありますか?」

 

「参座さん…助けてください!」

 

「炭治郎…ワシは強いが、勝てぬ者がおってな…今、目の前におる」

 

煉獄邸から蝶屋敷へ帰ってきた炭治郎達を待つものとは。

鬼のような恐ろしさ、刃のような鋭さ!

ひとたびその顔に青筋を浮かべれば、どんな男も敵わない!

鬼だとしても、すべてをかなぐり捨てて逃げ惑う!

大正の世に、阿鼻叫喚を巻き起こす女医!

 

その名も!胡蝶し「言いすぎですよ?死にます?」…すみません。

 

蝶屋敷に帰ってきた二人は、それはそれは叱られた。

参座はいいとして、炭治郎は重体。

安静にしなければ、入院が伸びてしまうと。

 

それでも炭治郎は杏寿郎に会っておきたかった。

会って、感謝を伝えたかった。

その意を汲んだ参座によって、炭治郎は蝶屋敷を抜け出した。

 

しかし想定外だった。

まさかここまでしのぶが怒るとは…。

参座は炭治郎に悪いことをしたなと思うと、しのぶにずいぶん余裕だなとさらにまくしたててくる。

当然その後で二人揃って、アオイにも叱られた。

 

そうしてようやっと説教から解放された炭治郎は、外の空気を吸うために蝶屋敷を出た。

 

「鋼鐵塚さん!?」

 

おどろおどろしい形相の鋼鐵塚が、マキリを手に炭治郎に迫る。

 

「刀を失くすとはどういう料簡だ貴様ァアアア!」

 

その鬼ごっこは夜明け近くまで続いたという。

 

そして、その翌日。

騒がしかった周りが、それぞれの仕事に戻っていった。

炭治郎は絶対安静ということで暇を持て余していたので、庭へ出て鯉に餌をやっていた。

 

「煉獄さんはすごいな…まだ柱を続けるつもりみたいだし。きっとすぐに片目での戦い方を掴むんだろうな」

 

それに引き換え自分は。

何も護れなかった。

守られる側だった。

禰豆子の時も、守られていた。

 

「…泣いてるの?」

 

気が付くと、カナヲが立っていた。

 

「君は…カナヲ、だっけ?泣いてないけれど…?」

 

「哀しい顔…」

 

炭治郎の頭には、あの少年の最期が鮮明に焼き付いていた。

 

「…そうだね、哀しい。俺は、本当に無力だ。いつも護られてばかりなんだ…。禰豆子の為に刀を握ったけど、護れたことなんて無いんだ…」

 

カナヲは、その姿を参座と重ねた。

実弥が柱になる時。

カナエが上弦の弐に襲われた時。

そして、皆で夕餉を共にしたあの日。

 

その時の参座と似通った炭治郎の姿を見て、カナヲは何とかしてあげたいと思えた。

 

「辛い…よね。どうでも良かったら…いいのに。でも…どうでもいいことなんて…ない…と思えた」

 

カナヲは、ずっと。

ずぅっと、蝶屋敷の皆を見てきた。

どうでもいいと思っていたことも、後になるとそこがきっかけだったりする。

参座が涙を流してくれたこと。

その時は、どうでも良かった。

泣いてもいいと言われて、何故か泣けた。

その理由は、どうでも良かった。

 

だが、思い出すとやはりあの時だった。

あの時泣けたから、今の自分がいる。

哀しみすら感じられなかった己の心が、少しずつ溶け始めたのはあの時からだ。

 

「できないと…思ってたことが。できるようになる…と思うの…。だから、炭治郎も…負けないで」

 

「…カナヲ」

 

カナヲと言葉を交わすのは、初めての事だった。

少し変わった子だと思っていたが、とても強い子だ。

それに、優しい匂いがする。

参座や、しのぶと同じ匂いがする。

 

「私は…とっても救われた…から。…私も、救えるようになりたい」

 

そう言って、カナヲは炭治郎を抱きしめた。

自分がいつもされてるように、頭を優しく撫でた。

 

「優しい人ほど…傷つく…。だから…私が治してあげたい…」

 

「カナヲは…とってもいい匂いがするね。なんだか落ち着くよ」

 

炭治郎はずっと頑張った。

無力の状態から、ずっとだ。

手の皮が擦り切れるまで、刀を振り。

適わなくとも、鬼に立ち向かった。

それに柱にだって啖呵をきった。

 

妹のため。

家族のため。

苦しむ人々と、哀しき鬼のため。

 

その心をすり減らしてきた。

 

「休憩…しよう?頑張ったよね…炭治郎」

 

優しい声色に、炭治郎の目尻には涙が溜まる。

 

「…俺!…おれっ!禰豆子のためにっ!みんなのために!頑張ったけど!!足りないんだ!何かをできるようになったら、またすぐ出来ないことが見えて…!何度も、何度も心が折れたんだっ!」

 

「…うん」

 

「でも皆が!俺よりも頑張ってるからっ!俺は…!もっとがんばらなくちゃって!!」

 

「…疲れ…ちゃうよね。…少しだけ、休も?」

 

「うっ…うわぁぁぁっ」

 

張り詰めた糸が、緩んだ。

炭治郎は、カナヲの腕の中で声を上げて泣き崩れた。

 

カナヲは、カナエの妹だ。

人のために、心を痛めることの出来る人間だ。

だから、炭治郎の心が張り裂けそうなのを、見ていられなかった。

力なになりたいと思った。

心のままに、炭治郎を想い動いた。

 

「炭治郎は、すごいね…。強いね…優しいね」

 

長男で、下の子の面倒を今まで見てきた炭治郎は、人に甘えるという経験があまり無かった。

自分に姉がいたら、きっとこんな感じなんだな。

そう思って、カナヲの腕の中で少しの休息を味わった。

 

「…あらあら」

 

その姿を横目に見たしのぶは、とても晴れやかな気持ちになる。

ついでにアオイまでその姿を見ると、後でどんな心境なのか根掘り葉掘り聞こうと決めた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「うん、かなり良くなったね炭治郎。この調子で頑張るんだよ?」

 

「はい!忙しい中ありがとうございます真菰さん!」

 

それから炭治郎たちかまぼこ隊の面々は、蝶屋敷を拠点として任務に励んでいた。

杏寿郎の時間があるときは、煉獄邸で指導を受け。

真菰の時間があるときは、蝶屋敷で鍛錬に励んだ。

 

自分たちより格上の隊士との鍛錬は、本当に為になった。

真菰による呼吸の指南。

そして、杏寿郎との打ち込み稽古。

これは確実に実力として蓄積されて行った。

それは四か月の間続いた。

そして片目での戦闘でも以前のように戦えるようになった杏寿郎が、炎柱へと復帰した。

 

そして、ある日。

 

天元が、蝶屋敷を騒がせていた。

 

「放してください!私はっ!カナヲはっ!!」

 

小脇にカナヲを抱え、肩にはアオイを抱える天元の姿があった。

その時は運悪く、しのぶが買い出しに出かけていた。

なほ達三人娘が、離してくれと泣きながら天元を呼び止める。

 

「うるせぇな黙っとけ」

 

天元は焦っていた。

嫁からの定期連絡が途絶え、その身が危険にさらされている。

だから、アオイはともかくカナヲまで隊士だと勘違いしていた。

 

「女の子に何してるんだ!手を放せ!」

 

炭治郎は、天元に頭突きを振りかぶる。

 

「俺は元忍の宇随天元様だぞ。その界隈では派手に名を馳せた男」

 

そんな頭突きを食らうかと吐き捨てる。

しかしそんな天元にひるむことなく騒ぎ立てる。

 

「てめーらコラ!誰に向かって口利いてんだコラ!!俺は上官!柱だぞこの野郎!!」

 

血圧が上がるほど叫び倒す天元。

炭治郎が、柱とは認めないと断言し、カナヲは隊士ではないというと、天元はカナヲを投げる。

蝶屋敷の門のうえから投げられたカナヲは、ゾッとした。

自分は訓練なんか受けていない。

なほ達は小さいので、受け止められない。

 

落ちる。

恐怖した。

このまま、その硬い地面に自分は叩きつけられてしまう。

しかし、そうはならなかった。

重力に従ったその身体が、もう一度ふわりと持ち上がる。

 

「大丈夫か?カナヲ。怖かったよね…遅れてごめんよ」

 

炭治郎が受け止めた。

そして、優しい顔でカナヲに声をかけた。

 

「おい!カナヲにひどいことしたら、俺が許さないぞ!」

 

「…そりゃあ悪いことをした。だがそれとこれとは話が別だ!!もう一人の方は隊員だろうが!使えそうもねえが、連れてくぞ!」

 

「ア、アオイは!…ここが戦う場所だから…やめてください…」

 

カナヲも天元に異を唱える。

まさかカナヲがこんな風に自分の意見を目上に向かって言えるようになっていたことに、アオイは驚いた。

 

「人には人の事情があるんだから、無神経に色々つつきまわさないでいただきたい!!アオイさんを返せ!」

 

炭治郎もカナヲを助けるべく声を荒げた。

すると、天元の表情が少し変わる。

 

「ぬるい。ぬるいねぇ。このようなザマで地味にぐだぐだしているから鬼殺隊は弱くなってゆくんだろうな」

 

「アオイさんの代わりに、俺たちが行く!!」

 

炭治郎は負けじと叫ぶ。

それに呼応するように、善逸と伊之助が天元を挟む。

二人も口上は違うが同じ気持ちだった。

 

それに対し、天元は威圧を放った。

本来であれば、女性の隊員が欲しかった天元だが、彼らの心意気に何か思うところがあったのだろう。

この気迫に問題なく耐えられるのであれば、あるいは…。

そう思ったのだろう。

 

三人は、しっかりと腰を据えた。

 

「…あっそォ。じゃあ一緒に来ていただこうかね。ただし、絶対俺にさからうなよ、お前ら」

 

伊之助が何処へ行くのか尋ねる。

そして、天元は行き先を告げる。

 

「日本一、色と欲に塗れたド派手な場所」

 

三人には見当もつかなかった。

天元は、にやり…と笑う。

 

「鬼の棲む…遊郭だよ」

 

そうして、天元はかまぼこ隊を率いて、吉原遊郭へと向かうのであった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

ここは遊郭。

煌びやかな和装に身を包む、女の世界。

花魁になれば、すべてをものにできうる場所。

 

さて、今宵。

天元の三人の嫁が連絡を絶った。

 

そこに待つのは、鬼。

花魁に扮した、誰よりも美しい鬼。

 

鬼になっても忘れぬ、兄妹の絆。

これは、優しい兄の物語なのでもあろう。

しかし。

斬らねばならぬ。

斬ってやらねば、浮かばれぬ。

斬ってやらねば、救われぬ。

 

その手に掲げるは、日輪刀。

大いなる日輪の意志。

 

次回、遊郭の美しき鬼。

 

 




と、いうわけで!
次回は宇随さん大活躍です!!!

こうご期待!!

今回もご愛読ありがとうございます!!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。