もう11月!
はええ!
そしてお気に入りがもう少しで2000件に到達しそう…!
これも本当に読んでくれている読者様のおかげでございます。
本当にありがとうございます!!
それでは本篇どうぞ!
「とてもつらいことをお願いしてしまってすまないね…参座」
柱稽古の最中。
参座は産屋敷より呼び出しを受けていた。
「…それが、お館様の。ひいてはこの鬼殺隊におけるご意志とあれば、この天羽 参座。どんな私情も呑み込んでお受けいたしましょう」
隣に座る行冥は、ぽろぽろと涙を流す。
「小生、お館様に拾われたことこそ、この人生の宝でございまする」
「君にそんな風に言われるなんて、うれしいよ。私の方こそ、ありがとう。いつもいつも、つらい役回りをさせてごめんね」
死にゆくその覚悟。
立派という以外に、常軌を逸している。
「どうか、謝らないでくだされ。お館様は、この小生に仲間を…友を授けてくれました。どれほどつらい時でも、お館様から賜った友たちが支えてくれた故、今こうして生きておるのです」
「私は何もあげていないよ。それらは全て君が自分で掴み取ったものだからね。参座には胸を張っていきてほしいね」
「お館様…」
体調がすこぶる悪化した産屋敷の前に長居できないと、行冥と参座は用が済むと足早にその場をあとにする。
「この長く苦しい因縁の終止符は、お前の双肩にかかっていると言っても過言ではない。辛いと思うが、耐えろ参座」
「行冥殿、ワシは心配いらぬ。そんなことよりも、ワシはヌシが痣を発現させないかが心配だの…」
間違いなく死ぬ。
それを危惧した参座は、行冥に痣は使うなと釘を刺す。
だが行冥ならば時が来れば使ってしまうと、参座は心の準備をし始めていた。
「5日以内…か。お前に限っては心配ないと思うが、心残りのないようにしておけ」
参座にはカナエがいる。
もしその身に何かあった時、何もせずにいなくなってしまうのは酷というものだろう。
そういう想いから、行冥は参座にもしもの事を考えておけと忠告した。
「…御意」
その最悪を必ず阻止せんとする固い意志を、参座は持っていた。
願わくば、産屋敷にも時代の夜明けを見てほしかった。
しかし、それは叶わない。
そうして、夜明けが来る前に二人は産屋敷邸を後にした。
自宅に帰宅した参座は、朝が近いというのにカナエが居間で待っていたことに驚く。
「ひどい顔ね…何か辛いことでもあった?」
参座に気が付くなりそんなことをいう。
「…あった。とてもつらいことでの。約束を違えぬため、口にすることはできぬ…。だが…とにかくつらいのだ。崩れ落ちそうなほどに…」
思い出すのは、祖母の刀を振り回していたあの時。
斬っても斬っても、救われなかったあの日々。
救えず、救われなかった己。
そんな芯のない、ただの刃に鬼殺隊の中身をくれた恩人の顔が。
消えてしまう。
欲しい言葉をくれた。
みじめでどうしようもない自分に、心の拠り所をくれた。
沢山の大切な友をくれた。
そして、生涯愛すると誓える人をくれた。
「なにも…何もできぬのだ。まだ、なにも返しておらぬのだ…!」
一体自分は何をしてやれた。
鬼舞辻 無惨を刺し違えてでも倒し、新しい時代の夜明けを見せようとしたのではなかったのか。
刀を持てぬ産屋敷の為に、己の腕を振ると誓ったのではないのか。
ましてや、産屋敷を犠牲に鬼舞辻を討つなどと。
私情を呑み込むなどといったが、到底我慢できることではなかった。
「どうして零れ落ちる!決して失わんと決めたものが、どうしてこの手から零れ落ちていくのだ!どうしてワシには力がない!すべてを救うことはできぬとしても、これだけは護りたかったのだ!何故っ…!」
三度目。
声を張り上げたのは、これが三度目。
たったの三度。
己の生き方を貫き通したいと思った時。
カナエを手放したくないと望んだ時。
だがそれ以上に、心が軋んだ。
譲れないと思い、心を荒げるほどに救いたかった。
カナエは、これほどまでに怒気と悲壮感を含んだ参座の声を聞いたことはなかった。
どうしようもないことはあるし、自分では力不足のことは多々あっただろう。
それを二度とないように、心も体も酷使してきただろう。
だが今の参座は、それをすべて否定されたような顔をしている。
その哀しい顔を見るうち、カナエの瞳には涙が浮かぶ。
「何故…ワシを頼ってくれぬのだ…。あれほど…言って聞かせておったのに…」
カナエはたまらず参座を抱きしめた。
言葉は出ない。
当然、参座は理解していた。
産屋敷はもう寿命だということ。
最後に、鬼殺隊の党首として鬼舞辻に一矢報いたい意志も。
これが、鬼殺隊の士気を上げるための計算だということも。
だがそれでも。
「救いたかったのだ…」
ーーー
その時は唐突にやってくる。
産屋敷邸は、爆炎に包まれる。
妻娘もろとも、塵になる。
そして、珠代が己ごと無惨に吸収される間。
参座は行冥と、産屋敷が死ぬのを待っていた。
「参座さん、悲鳴嶼さん!お願いします!」
行冥は首をめがけて鎖を振るう。
参座は無惨の手足を両断して達磨にする。
「おぞましい身体だの」
参座は行冥のもとに戻ると、そうつぶやいた。
「どういうことだ?」
「心臓が七つ、脳が五つあった。そのどれもが体の中を移動しておる」
行冥は戦慄した。
首を飛ばしたが、それでもこの化け物が再生するのもうなずける。
「参座、お前に斬れるのか?」
「はっ、愚問だの。どれほどてこずろうとも斬って見せよう。ワシはよう斬れるからの」
そこへ、柱達が集結する。
皆が全く怒気を隠さずに、己の仇をめがけて全力で日輪刀を振りかざす。
「奴は首を切っても死なない!それどころか急所が複数あり移動している!」
行冥が柱たちに警告する。
一斉に攻撃を仕掛けるが、足元にはおびただしい襖。
落ちる。
皆がばらばらになり、無限城へと落ちていく。
「これで私を追い詰めたつもりか?貴様らがこれから行くのは地獄だ!!目障りな鬼狩り共!今宵皆殺しにしてやろう!」
そう吐き捨てる無惨。
それに反応して声を荒げる炭治郎。
「皆!決して死ぬな!ワシが無惨を討つまで!」
参座も声を張り上げた。
落ちていく。
深く、深く。
参座は特に深くまで落とされた。
恐らく警戒されていたのだろう。
広く深い穴をただただ落ちる。
そしてようやく見つけた降りれそうな所へ、日輪刀を突き刺して己の落下を止めた。
壁一面の戸を開け、天井をぶち破れそうであれば上がる。
やっと灯篭を見つけ明るくなってきたと安堵していると、その先に大量の鬼が待っていた。
「救ってやろう…」
醜い姿にされ、人を食らう化け物にされてしまった人たちを、参座は斬る。
急げ。
皆が待っている。
己という刀を待っている。
ーーー
参座が上へ上へと急いでいる間、行冥とはぐれた無一郎は上弦の壱 黒死牟と対峙していた。
満身創痍。
左腕が欠けている。
─霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り─
目にも止まらぬ速さで、日輪刀を返され磔にされる。
「我が末裔よ、あの方にお前を鬼として使って戴こう」
黒死牟は無惨が負けるとは思っていなかった。
そして、無一郎を上弦として迎え入れるという。
「それを聞き入れることはできん!」
一閃。
炎が舞う。
黒死牟は距離を取る。
「煉獄さん!」
無一郎の窮地を救ったのは、炎柱の煉獄 杏寿郎だった。
「よもやよもや。まさか時透少年が赤子のようにひねられるとは!」
「不甲斐なくてすみません…」
「今は一刻を争う。君には酷だが、俺一人ではこの鬼に勝てん!時間を稼ぐ、応急手当!」
「はい!」
杏寿郎は黒死牟に斬りかかる。
─炎の呼吸 壱ノ型 不知火─
最速の一太刀は、黒死牟の刀を切断する。
「この刀を…斬ったのは…貴様が二人目だ…。片目で…よく戦う…」
「それはいいことを聞いた!つまりは着実に参座殿に近づいているということ!」
煉獄は歓喜した。
あの日、少年に護られてから。
参座に止められてから。
ひたすらに鍛錬を重ねた。
来る日も来る日も。
どれほど時間がなくとも。
この心の炎を、熱く燃え上がらせた。
人質があったとはいえ、あの時参座では刀しか斬れなかったこの鬼を。
今日、斬ることができるかもしれない。
「いざ、参る!」
しかし、鬼の中で最強。
どうあがいても一人では勝てないと悟っていた。
無一郎は手負い。
どこまでやれるか。
不安を隠し切れない杏寿郎の後ろから、一陣の風が吹く。
─風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐─
「けっ。辛気臭ぇ面してんじゃねえよ煉獄」
「これは心強い!」
追い風が背中を押す。
「風の柱か…」
距離を取った黒死牟が実弥を見るなりつぶやいた。
それを聞き取ったかと思うや否や、二人は斬りかかった。
肉薄。
二人は柱稽古の甲斐もあってか、連携は完ぺきだった。
片方が正面で請け負うと、もう片方は死角から切り込む。
「加勢します!」
そこへ、応急処置を終えた無一郎が加勢に入る。
ここで、無一郎が失血および片手の欠損からか、連携にガタが出る。
「俺のことは捨てていいです!お二人で何とか!」
無一郎は自分をかばいながら戦かう二人に、切り捨てるように言う。
せっかく上弦の壱を無傷の柱二人で相手できるこの好機。
決して無駄にはできない。
「それはできん!俺はだれも犠牲になどしない!そう誓った!」
「こんな雑魚相手に人数減らして堪るかよぉ!」
断固拒否。
杏寿郎は、あの日少年に誓った。
参座は、無一郎を弟のように可愛がっている。
恩を返すなら、今しかないと実弥は奮起した。
─炎の呼吸 伍ノ型 炎虎─
─風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風─
─霞の呼吸 参ノ型 霞散の飛沫─
重なる型。
そのどれもが、お互いを生かす。
杏寿郎の大振りを、実弥が道を作る。
迫りくる刃を、無一郎が弾く。
「散!!」
杏寿郎の日輪刀が、首に届くかといったところで。
新しい声が聞こえた。
三人は、それが聞き覚えのある声だと気が付くと、一気に黒死牟から距離を取る。
次の瞬間、黒死牟の身体からは無数の枝分かれした刃が生えていた。
「助かったぜ悲鳴嶼さん」
実弥が駆け付けた行冥に感謝の意を述べる。
「時透。生きて戻れ。参座が悲しむ」
「…っ!」
行冥は短く無一郎に言う。
それだけで、無一郎は胸がいっぱいになった。
「そうだぞ時透少年!誰も欠けてはならん!」
杏寿郎も同意した。
ここにいる全員が、生きてこの鬼を倒すことを考えている。
柱が四人。
参座の次に強い行冥もいる。
やれる。
「来い…鬼狩り…」
対して、黒死牟。
握る刀は、先ほどよりも倍以上長く枝分かれしている。
足や腕からも刃を生やしている。
斬撃の数、間合いも各段に伸びている。
まず飛び出したのは実弥。
誰よりも早い斬撃を、多数繰り出す。
それを狙う攻撃は、無一郎が請け負う。
行冥の鎖を縫って杏寿郎が大振りで強力な一太刀を叩きつける。
胸をばっさりと斬ると、行冥は手斧を投擲。
瞬く間に、黒死牟の耳が斬り離される。
誰がどう見ても優勢。
そうとれる戦況だが、どうも致命的な一撃を与えられない。
持久戦になってしまえば、こちらが不利。
この戦況もひっくり返される。
そこで、その時が来てしまう。
無一郎が失血で倒れそうになる。
そこを的確に黒死牟はつつく。
命を刈り取る一撃。
胴体を両断されて絶命。
そう思ったが、切り裂かれたのは実弥の腹。
「不死川さんっ!」
「もう無理ならすっこんでろ時透ぉ」
皆が無一郎の限界を痛感していた。
むしろその小さな身体でよくここまで耐えたものだ。
「大した傷じゃあねえ」
自分が、盾にならなくては。
焦る無一郎。
尚も戦闘は続く。
そこに加わりたいが、失血で焦点が定まらない。
吐き気がする。
どうして、自分は師匠のように。
参座のようになれない。
立ち上がる。
行かなくては。
すごいだろって師匠に言って。
よくやったって、褒めてもらって。
カナエの作るご飯をまた三人で食べるんだ。
しかし、身体は限界を告げた。
ぐらりと白目をむいて倒れてしまう。
三人は安堵した。
もしここで意識を失わなければ、死ぬまで戦闘に参加しただろう。
ここで、実弥の血に酩酊した黒死牟の足元がふらつく。
「煉獄ぅ!合わせろぉ!」
「心得た!」
実弥の攻撃に合わせて杏寿郎が刀を振るう。
それを見透かしたかのような黒死牟の迎撃。
行冥は神通力か何かを疑ったが、参座を思い出す。
透き通って見える。
もしやこの鬼もその世界にいるのでは。
柱四人を相手にできるということは参座に近い戦闘力ということ。
そうなれば、おそらく同じ世界が見えているということ。
筋肉や血流の動きから、こちらの攻撃を読んでいる。
そう読んだ行冥は、意図的に体の動きを変える。
鉄球を投げる瞬間、その手をめがけて数珠を投げる。
これが功を奏した。
虚をつかれた黒死牟は困惑した。
─炎の呼吸奥義 玖ノ型 煉獄─
ここしかない。
杏寿郎は悟った。
全力の一撃。
この一撃は必ず届く。
その確信が形となる。
首に届いた。
「ぐぅアアアアアア!ぬァアアアアアアアア!!」
声を上げる黒死牟。
杏寿郎の奥義でも、首半ばまでしか刃が進まない。
「貴様はここで斬る!」
腕がちぎれても。
この一太刀で終わらせる。
無一郎は意識を失い、実弥もああいっているが重症。
このままでは、行冥が痣を発現しかねなかった。
ここ以外にもうない。
「だらぁああああ!」
杏寿郎の日輪刀に、すかさず実弥が刃を重ねる。
じりっと火花が散り、刀身が赫く染まる。
それでもまだ落ちない。
行冥が逆側から手斧を叩きつける。
そして鉄球を二人の日輪刀に的確に打ち付けた。
「「アアアアアアア!」」
杏寿郎と実弥が声をそろえて渾身の力を籠めると。
ついに、首が落ちた。
三人が安堵から脱力しようとすると、急に首の出血が止まる。
「首の弱点を克服しようとしている!一度下がれ!」
行冥が声を出すと、二人はその場を離れる。
そして、もう一度黒死牟を見ると、そこには。
見るに堪えない化け物がいた。
「グゥアアアアアアア!」
叫んでいる。
怒っているのか、びりびりと緊張が走る。
背中からは触手のようなものが伸び、身体は硬い外殻でおおわれる。
「首を狙え!何度でもだ!必ずここで倒す!」
杏寿郎が大声で鼓舞する。
そして、とびかかる。
「待て煉獄!」
行冥がそれを止めようとするが、遅い。
恐ろしい速さで化け物が動いたかと思ったら、杏寿郎の腕を食いちぎっていた。
「ぐっ…!」
堪らず膝をつく杏寿郎。
実弥が助太刀しようとするも、失血でうずくまってしまう。
「くそっ!こんな時にぃ!」
行冥は思考した。
先ほどよりも強力になってしまった化け物。
それにどう対抗するか。
無惨まで温存しておきたかったが、使うしかない。
今日死ぬとしても。
沙代に会った。
感謝を述べられた。
これ以上心満たされることがあるか?
否。
なれば、その沙代の明日を護るために命を落とすなど。
迷うこともない。
そうして、痣を発動しようとしたとき。
「すまぬ、遅れたの。行冥殿」
ついにあの男が来た。
「参座…」
「あとはワシが斬る。行冥殿は皆の手当てを」
黒死牟は気に食わなかった。
この男はまるで、縁壱の生まれ変わりのような身体をしていた。
だが、それでも全く血縁などではない。
己の血族ではない一般人の癖に。
まるで縁壱のような特別な存在に生まれてきたこの男が。
憎い。
「グゥアアア!!」
「言葉も発せぬのか。堕ちたものだの」
意識のある三人は、覚えのある感覚を味わう。
柱合会議のあの時。
参座が声を張り上げたときに感じたあの緊張感。
時が止まる。
「そうしても、届かぬところがある。身に刻め、ワシらの怒りを」
誰の目にも止まらなかった。
瞬きしたのかと疑うような速さで、参座は黒死牟の後ろに立つ。
黒死牟の身体は、バラバラに斬り刻まれていた。
再生が追い付かず、はらはらと塵になっていく。
「皆、生きておるかの?」
参座が三人に問いかける。
「はっ。正直参座さんの威圧感のほうが生きた気がしなかったぜ」
「軽口を叩けるくらいには元気なようだの実弥」
実弥は傷がひどいが命に別状はないらしい。
「参座殿!我々で首を落とせず不甲斐ない!しかしまたも救われました!」
「何を言う杏寿郎。鬼の首はヌシらで落とした。あれは、なれの果て。鬼ではない」
杏寿郎もさっさと止血を済ませていた。
「時透も意識はないが命にはかかわらなそうだ」
「そうか…。実弥と杏寿郎は無一郎を運んでくれの。行冥殿はワシと無惨の元へ行こうかの」
そうして、足早に各自が行動に移す。
参座は本当にうれしかった。
誰が死んでもおかしくない。
そんな戦いだった。
それでも、皆生きている。
そして、今まさに行冥が痣を使おうとしたとき、自分は間に合った。
長い長い廊下を、行冥と駆け抜ける。
「また、お前に救われたな」
「…違うのだ。いつもいつも、皆がワシを救ってくれる。皆が無一郎を護ってくれたから、ワシは救われた。皆が何とか生きていてくれたから、ワシは救われた」
「…ふっ。お前は変わらないな」
行冥にも笑みが浮かぶ。
先ほどの戦い。
柱四人でも勝てないと思われた相手が、なおも強力になったとしても一撃で斬り伏せた。
この男なら、本当に。
無惨を斬れる。
そんな希望を、行冥は抱いていた。
黒死牟、討伐。
次回は義勇さんのところだと思います!(何も考えてない)